そんな感じ。
地面を勢いよく蹴り砕いたヤムチャは不敵な笑みを浮かべるとピッコロに向かって駆け出した。
予想以上の速さで接近するヤムチャに対しピッコロは一瞬だけ動揺したがすぐに持ち直し、迎撃する構えを見せる。
そしてタイミングを合わせヤムチャの顔面に向かって拳を放つ。しかしその一撃は空を切った。
「なっ…!?」
ヤムチャはピッコロと接触する寸前にスピードを落としわざとタイミングをズラしたのだ。
勿論、普通であればそんな小細工はピッコロには通用しない。逆に手痛い反撃を食らうのがオチだろう。
しかしヤムチャの動きはとても素早く、その瞬間的なスピードはピッコロの目を持ってしても捉えるのは困難であった。
ヤムチャは怯んだピッコロの懐に潜り込み、真下から掌底打ちで顎を打ち上げる。
あまりの強力な一撃にピッコロの体が僅かに空へと浮かぶ。しかしヤムチャの攻撃はなおも止まらなかった。
掌底打ちから体の態勢を整えるとヤムチャは無防備なピッコロの腹へ蹴りを撃ち込んだ。
その衝撃にピッコロはリング外に向かって吹き飛んでゆく。だがただやられるピッコロではない。空中にて舞空術を使い態勢を整えた。腹と顎への痛みに顔をしかめながらヤムチャの位置を確認する。
しかし…ヤムチャはリングのどこにもいなかった。
「なっ…ヤツはどこに…」
「上だよ!」
瞬間、空から落ちてきたヤムチャがピッコロの脳天に膝蹴りを叩き込んだ。
その一撃の前にリングへと陥没するピッコロ。しかし彼自身はリング中央から飛び出した。恐らく地中を掘り進んだのだろう。
その姿を捉えたヤムチャは違和感を感じた。
(む…奴が腕を地面に突っ込んだままーーーー)
その時、ヤムチャの足元からピッコロの手が飛び出しヤムチャの足首を掴む。
「捕まえたぞッ!」
そしてピッコロは腕を鞭のように振るった。
遠心力により振り回されるヤムチャは武技館の壁に激突。瓦礫に埋まってしまう。
あまりの衝撃に観客や仲間は固唾を飲んでヤムチャが埋まった瓦礫を見やった。
瞬間、
「ぬ、ぐぅおぉおおお!?」
ピッコロが自身の腕に振り回され、反対側の武技館の壁へと激突した。そして代わりに瓦礫に埋まっていたヤムチャがピッコロの腕を持ちながら立ち上がる。
「こりゃ掃除機のコードみたいだな」
「くっ、離せ!」
シュルシュルとピッコロの腕は縮む。それに伴いピッコロはヤムチャへと接敵。勢いをつけた膝蹴りを腹へかました。
ヤムチャはそれに多少怯みながらも浮いたピッコロを地面に殴りつけ、サッカーボールを蹴るように追い討ちの蹴りを放つ。
しかしピッコロはヤムチャの蹴りが放たれる前に態勢を立て直し回避。ともに一歩も譲らない応酬だ。
「どうしたピッコロさんよ…俺如きさっさと倒して悟空と戦うんだろ?そんな程度じゃ悟空の足元にも及ばないぜ?」
「けっ、今のを本気だと思っているのか?だとしたら随分とおめでたい頭を持っているな、お前は!」
ピッコロはマントを脱ぎ捨てる。
そして油断なく構えた。先ほどのような棒立ちではとてもじゃないがヤムチャに対応しきれない…と判断したのだろう。
そして二人の腕は再び交差する。
ひたすらラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。二人の拳の、蹴りの応酬にリングの石畳はめくれ上がり、凄まじい衝撃波が周りに拡散する。
あまりの迫力に一般人は目をつぶり、戦士たちはその別次元の闘いに惚けてしまう。
「ば、バカな…次元が違いすぎる…!ヤムチャも、ピッコロも…!俺は天下を取ったつもりだったが…相当甘かった!まだまだ上がいやがる!!」
「あわわ…もう二人とも何やってるか見えねぇよ!」
「…!」
天津飯とクリリン、餃子はそのレベルの違いに仰天し、ショックを受けた。それは観客席にて人間に憑依し試合を見守っていた神様も同様であった。
「(ふ、二人とも私を遥かに超えておる!ど、どうなっておるのだ…ピッコロも、ヤムチャも…!?)」
紛れも無い地球最強候補同士による力と力のぶつかり合い。それを悟空は静かに、真剣に見やる。次に対戦する最強の敵を観察するのだ。必ず勝つために、己が最強になるために。
「ずあっ!!」
「ぐッ!」
ピッコロ渾身の蹴りをヤムチャが腕を交差させガードする。しかし衝撃そのものには耐えられず、吹き飛んでしまう。
だがヤムチャは吹き飛びながらも気を練り上げ、放った。
「繰気弾ッ!!」
「はっ、なんだそのチンケな気弾は!」
ピッコロはヤムチャの放った繰気弾をリングへはたき落とすべく腕を振り下ろした。しかし繰気弾はピッコロの腕に触れる直前で腕を迂回し、顎をかちあげる。
繰気弾はなおも破裂することなくピッコロの顔へ二、三発撃ち込まれるが、顔正面への一撃を狙った際に目からの怪光線で破壊された。
「くだらん技を使うな!」
「その割には随分とキレイにヒットしたなぁ?結構余裕がないんじゃないか?ん?」
「黙れ!」
煽るヤムチャに憤慨するピッコロの図である。
ピッコロは体のバネを最大限に活かした攻撃を仕掛け、ヤムチャへ接近戦を挑んだ。接近戦はヤムチャの土俵であるがそれを考慮してもピッコロは接近戦に相当な自信を持っている…ということだ。
咄嗟の攻勢により動揺したヤムチャの隙を狙い、ピッコロはヤムチャに連打を浴びせる。
体を縮こませ、なんとかクリーンヒットを防ぐヤムチャであるがこの状況ではジリ貧だ。
一方のピッコロもチャンスであるということでなお一層熾烈に攻めかかる。しかしガードするヤムチャに対しクリーンヒットをまだ一度も取れていない。そのことがピッコロを苛立たせた。
刹那、ピッコロはヤムチャの防御に綻びを見た。
腕をクロスしガードしていた顔への一筋の穴。突破口を探っていたピッコロがコレを見逃すはずがない。
綻びへと拳を撃ち込みヤムチャの防御を破壊。その拳はヤムチャの顔を捉え……なかった。
「なにっ!?」
ヤムチャは上半身ごと体を傾け、ピッコロの拳をスレスレで躱したのだ。このような判断、先の行動がわからずしては難しいだろう。そう、ヤムチャはこの展開を読んでいた。
敢えて防御に綻びを作りピッコロを誘い出したのだ。
伸びきったピッコロの腕を掴み一本背負い。ピッコロを武技館へと投げ飛ばした。その進行方向にいた天津飯とクリリンは慌てて退散。ピッコロは武技館へと突っ込んだ。
『ま、マジュニア選手…ダウンでしょうか?』
アナウンサーが様子を確かめに行こうとするがヤムチャが咄嗟に止めにかかった。
「危ない!中に入るな!」
ヤムチャがアナウンサーを引き止めた、その瞬間。
武技館は粉々に吹き飛んだ。文字どおりその場から消失したのだ。勿論選手たちは避難している。そしてその爆心地の中心には怒りに燃えるピッコロの姿があった。
「たかが…人間風情が…!!」
ピッコロはゆっくりとリングに戻ると両手を左右に広げ、エネルギーを充填させてゆく。恐らくこの天下一武闘会会場くらいなら楽に木っ端微塵に出来るほどの規模だ。
ヤムチャはそのエネルギーの規模に冷や汗を垂らしながらも不敵に笑った。
「会場の観客を人質にとれば俺を封殺できると思ったか?ならお前の頭は目出度いってこった!」
ヤムチャは舞空術を使用し、空中へと浮かび上がるとかめはめ波の態勢をとった。ヤムチャの両手にもピッコロのソレとためを張るほどのエネルギーが重鎮されてゆく。
「お前が俺の方向以外にそのエネルギー波を撃ったら、すぐにてめぇをかめはめ波で狙い撃ちにする!待っててやるから俺の方に撃ちやがれ!」
「元からタダの人間共に興味などないわ!お望みとあらばやってやろう!」
ピッコロは照準を空中のヤムチャに合わせる。
それを見たヤムチャはニヤリと笑うとかめはめ波の発射準備に入った。
双方の気が吹き荒れ暴風が発生し、目を開けることすらままならない状況だ。
「伏せろーーーーーーッッ!!」
亀仙人が叫び、観客たちは悲鳴を上げながら壁を盾に伏せてゆく。
戦士たちは顔に腕を当て、なんとか戦闘を目撃しようとする。
「消え去れェッッ!!」
「波ァーーッ!!」
放たれた双方のエネルギー波は唸り声を上げながら凄まじいスピードでグングンと伸びていく。
そしてリング中央にて、激突。
爆裂魔波とかめはめ波は両者を結ぶ線上で激しくぶつかり合う。バチバチというスパーク音が鳴り響き、余波で会場全体に熱波が走る。
会場を凄まじい爆音と衝撃、発光が包んだ。
『い、一体どうなったのでしょうか…』
サングラスを掛けたアナウンサーが戦況を見極める。
リング中央には一つのどデカイ穴が空いておりその少し先に一つ、空中に一つ、影があった。
状態は…空中に浮いているヤムチャはやや肩で息をしているが無傷。どデカイ穴のすぐ近くにいたピッコロは全身に傷を負っていた。
つまりこの気功波対決はヤムチャが制したことになる。
「一体…何が起こったんだ…!?」
「気と気が衝突して爆発した時、ピッコロの方がその爆発に近かったんだ。だからヤムチャよりも傷を負ってる」
「な、なるほど…ってピッコロっ!?」
クリリンの問いに悟空が答える。
要するにヤムチャのかめはめ波の方がスピードがあったのだ。ヤムチャの気のコントロールが上達した証拠だろう。
「お…おのれぇ…!このオレ様に一瞬とはいえ恐怖を与えおったな…!」
爆発をモロに受けたピッコロの服はボロボロになっていた。それは頭につけていたターバンとて例外ではない。
「お、おい…あれ…」
「どっかで見たことあるような…」
「に…似ているぞ、ピッコロ大魔王に…」
「そっくりだ…」
観客たちのざわつきは大きくなってゆく。
頭から飛び出た触覚のようなもの、緑色の体色、圧倒的な破壊の力…。人々の記憶から決して消えることのない恐怖の記憶。そう、あの姿はまさしく…
「似てて当たり前だ!!このオレ様はピッコロ大魔王の生まれ変わりなのだからなッ!!」
ピッコロは体を大にして叫んだ。
瞬間、観客たちの脳裏に蘇るのはあの日の記憶。突如平穏を奪われ、悪の大魔王が降臨した日。
消える王都、血を埋め尽くす化け物、この世の悪魔。
「世界中に知らせておけ!!こいつと孫悟空の息の根を止めた後は再び貴様らの王になってやる!!ピッコロ様の天下が蘇るのだ!!」
観客はパニックになった。
我先にと逃げて行く。転んだ者を踏み付け、子供を置き去り、自分最優先で逃げて行く。しかし彼らを責めることはできない。今、自分たちの命が危機に晒されているのだから。
そのような大衆の姿を楽しそうに見やるピッコロ。
そうだ。恐れ、慄け!大魔王の名の下に!今、亡き父への弔いが始まったのだ…
「落ち着けッ!!」
会場に雷鳴の如き一喝が響いた。
大衆は動きを止めてその声の主を見やる。
その時、人々には希望が生まれた。
そうだ、自分たちには彼がいるじゃないか。何を恐れる必要があろうか。英雄は確かに、目の前に存在しているのだ。
「子供と老人、体の不自由な奴を最優先に避難させろ!しっかりゆっくり安全第一にだ!!ピッコロ大魔王は俺が倒すから、安心して避難してくれ!!いいな!?」
ヤムチャ…ヤムチャなら…!
再び、ヤムチャが希望を与えた瞬間であった。
その後の大衆は規律正しく列を作り迅速に避難していった。
その様子を見ていた神様は微笑むと憑依を解く。
「(やはり…私の判断は間違ってなかったか…)」
「ヒーロー気取りか?見てて滑稽だな。我が父を殺したのはお前ではないだろう!」
「そりゃあ…後ろめたいさ。俺が倒したわけじゃないからな。俺はちょいちょい悟空の助っ人をしただけだ」
ピッコロの言葉に苦笑するヤムチャ。
しかし彼にはしっかりとした信念がある。富や名声を望むのではない。仲間のために、人のために名を利用するのだ。
「けどなピッコロ…悪いがお前を倒すと約束しちまった。これで俺は負けるわけにはいかなくなったんだ!!」
リングを踏み鳴らし、闘志を燃やすヤムチャ。
二人の戦いは佳境へと突入する。
挿絵はカミヤマクロさんより! ありがてぇ! ありがてぇ!
ツッコミは受け付けますよ。ええ受け付けますとも。なので優しく叩いてくださいお願いします。
なお気功波のぶつかり合いで観客が無事だったのは神様がなんとかしてくれました。さすがどこぞのポタラ運搬役の無能神とは違うぜ!
さあて、無印終わらせましょうかね!