ヤムチャはドラムが号令を発すると同時に地を駆けた。
超神水の力により増大した脚の筋肉はひと蹴りで地を滑空するが如き速さの推進力を生み出す。
魔族の一団に一瞬で肉薄したヤムチャはその脚を振るい手頃な場所にいた魔族の腹を蹴り、頬を殴り飛ばした。殴られた魔族の首はへし折れ、後続の魔族を巻き込みながら吹っ飛んでいく。
首が折れた感触…なんとも言えないそのキミ悪さに一瞬、顔を顰めるもそのような感傷に浸る暇はないと意識を切り替える。
ヤムチャは自分の急激なパワーアップにまだ慣れていないため少々体の動きに戸惑いながらも確かな手応えを感じた。
(なんだ、案外パワーアップできてるじゃないか。これならこいつらとも十分に渡り合って…おっと!)
ヤムチャに休む暇などない。
仲間を早速1匹殺され、頭にきたのか周りの魔族はヤムチャに苛烈な息をつかせぬ連続攻撃を仕掛ける。だがヤムチャは背を反らしてそれらを躱すと、うち1匹の腕を掴み強引に振り回す。
勢いそのままに振り回した魔族を武器代わりにして周りの魔族を一掃するとひとまず距離を取り、振り出しに戻る形となった。
(危ない危ない…。1度に大多数を相手にするのは危険だからな。集団戦の基本、100vs1を一回やるより1vs1を百回やる。宮本武蔵大先生の教えは今も胸の中だぜ)
大勢を相手にする際、一番恐ろしいのは袋叩きに合うことだ。それならば1匹1匹を確実に消していったほうがリスクは少ない。だから…
「ハッ!」
「ゲェェェっ!?」
ヒットアンドアウェイ戦法だ。1匹魔族を葬れば距離を置き、また再び1匹葬れば距離を置く。そうすることで遥かに安全に、そして効果的に戦える。効率的かと言われればそうではないがヤムチャの目的は時間稼ぎなのでオッケーだ。
このような感じで魔族を徐々に徐々に倒していたヤムチャだが……黙ってやられるような魔族ではない。
「奴との距離を詰めろ!四方から囲んで袋叩きにしてやれ!」
ドラムの指示によりヤムチャの戦闘力に戸惑い足を止めていた魔族たちは一気にヤムチャへと詰め寄り徐々にヤムチャの自由に動けるスペースを圧殺していく。
かなり有効な戦法だと言えるだろう。現にヤムチャはチッと舌打ちした。
ヒットアンドアウェイ戦法は十分なスペースと機動力が確保されているからこそ行うことのできる戦法であり、それらを封殺されてはどうにもならない。
だがヤムチャの万策が尽きたわけではない。このような場面も勿論想定している。
「あー…まずったな…。1vs1が作れねぇ…。なら…っ!!」
ヤムチャは両掌を重ねると気を集中させ少しの溜めモーションの後にエネルギー波を発射した。
使ったのは技名こそ叫んでいないが、言わずと知れたかめはめ波である。溜めが少ない分、威力こそMAXパワーには遠く劣るがそれでも今までのヤムチャのかめはめ波となんら遜色ない威力を生み出した。
前方にブレながら発射されたかめはめ波は前方広範囲の魔族を薙ぎ倒し、その直線上にいたピッコロ大魔王へと突き進む。
しかし…
「ふんッ!」
ピッコロ大魔王は手を少し振るだけでかめはめ波を打ち消したのだった。
あわよくば…というより威嚇のつもりで撃ち込んだかめはめ波であったが、まさかここまで軽く消されると思っていなかったヤムチャは苦笑いしか出来ない。
「いきなりキングを獲れるとは思っていなかったけど…流石にそれはショックだぜ…」
「そんなもので私に挑もうとしていたのだったらお笑いだな。魔封波はどうした男よ」
ピッコロ大魔王が一笑すると同時にヤムチャへと後方の魔族が到着。一転攻勢を強めた。
ヤムチャはそれに対し真っ向から立ち向かう。殴りと蹴りの応酬だ。
しかしいくら一対一ならば圧倒できると言っても多勢に無勢。徐々に追い詰められていき、ヤムチャのかめはめ波で怯んでいた前方左右の魔族たちもヤムチャへと迫る。
(まずはこの包囲から抜けださねぇと駄目か…!)
そう考えたヤムチャは脱出経路を探った。
前後左右は魔族に埋め尽くされている。ならば…上しかない。
「くそ…上しかねぇか…仕方ない!はっ!」
ヤムチャは空中へ跳躍すると舞空術を使い包囲網から抜け出そうとした。しかし…
「それ飛び上がったぞ!撃ち落せ!!」
ドラムの合図とともに地上の魔族たちは一斉に気功弾を発射した。総勢300匹の魔族から繰り出される気弾は容赦なくヤムチャを捉える。
そして爆発。
「くそっ…ぐあぁぁぁあぁあッ!!」
キングキャッスル上空を激しい爆発と閃光が覆った。
天津飯やTV局のクルー。そしてその中継を通してヤムチャの奮闘を見ていた全世界の人々は息を呑んだ。
閃光が治るとそこには地面に落下し、煙を上げながらピクリとも動かないヤムチャの姿があった。
「そんな…ヤムチャ…っ!!」
『あわ…わわ…。た、たった今…勇敢にもピッコロ大魔王に挑んだ一人の青年が…殺されました…』
アナウンサーの言葉により悲観に暮れる。あの魔族の軍勢相手に獅子奮迅の働きを見せた戦士が殺されたのだ。
もしかしたら…もしかすると…そんな淡い希望を抱いていた人々の心はついに折れようとしていた。
だがピッコロ大魔王は容赦しない。万が一の可能性がある。生きているとは思えないがしっかりとトドメを刺しておかなくては。
「ドラムよ、その男の心臓を抉り出せ!万に一つのこともある、完全に殺すのだ!!」
「はい大魔王様」
大魔王の命令に忠実なドラムは言葉通りヤムチャに近づくと爪を立て、ヤムチャの胸を目に捉える。
「ケケ…死ねッ!!」
そして血が噴き出した。
ただし、ドラムの腕からだ。
先ほどまで自分の体と連結していた腕がそっくりそのまま消えていたのだ。ドラムは一瞬何が起こったのか理解できずに立ち尽くしたが、やがて把握した。自分の腕はそこらの地面に転がっていた。
「っっっッッ!!?ぐあぁぁぁ!!?」
「エクスカリバー…なんつってな。いや、原理的にはカーズか…?まあいいか」
平然と立ち上がる男が一人。
その姿に中継を見ていた聴衆たちから、ワッと歓喜の声が上がった。
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よう、俺ヤムチャ。
調子に乗った結果がこれだよ。
これで三途の川を拝んだのは二回目になるな。今回は神様いなかったけど代わりに鎌を持ってる人がいたな。死神ってやつ?まあ咄嗟に口の中に仕込んであった仙豆を食べれたから良かったけど…。
ていうか空飛んだ時に飛行機が二機見えたけどさ…俺のヤムチャeyeが見間違っていなければ…天津飯いたよね?もしかして助けに来てくれないの?高みの見物か?……ま、まあそれでいいと思うけどな。ここで無理に天津飯が参戦するリスクはいらないし…うん。
それとも何か作戦でもあるのか…まあそこんところは天津飯に任せるか。
さてさて
「どどん!」
「げぇ…っ!?」
転げ回っているドラムの目にどどん波を撃ち込む。目は柔らかいからな。簡単に脳まで達したようでグッタリとして動かなくなった。
敵将討ち取ったりー…てか?
「おのれぇ…!よく分からん小賢しい小細工を弄しよって…!!早く嬲り殺せ!相手はたった一人だろうが!!」
司令官を殺られ、オロオロしていた魔族たちだったが、ピッコロ大魔王の激昂によって再び俺へと向かってくる。
ふっふっふ…俺は何度殴られても、何度蹴られても、何度身を抉られようとも!何度でも(仙豆がある限り)蘇るさ!
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ヤムチャは奮戦した。
策を何度でも弄し、それらが破られれば正面から突貫。重傷を負えばすぐに口の中に仕込んである仙豆で回復。そして口に仙豆を一粒含むと戦闘再開。
死闘を通じてヤムチャの動きはより洗練さを増してゆく。また痛みを恐れない勇猛果敢な動きもだんだんと目立っていった。
ヤムチャは確実に魔族を蹴散らしてゆく。
魔族も負けじと波状攻撃を繰り返すがヤムチャの理不尽な回復の速さについていけない。そしてその数を一人、また一人と減らしていくのだった。
その光景に人々は歓喜し、活力が湧いていく。今、聴衆は一人の英雄を目撃しているのだ。
だが、それに納得できないのはピッコロ大魔王。
ヤムチャの理不尽な回復能力に疑問を持つのは当たり前だ。しばらくじっくりとヤムチャの死闘を観察していた。
そしてヤムチャが5度目の回復を果たした時、確証を持った。ヤムチャは袋より取り出した豆で回復しているのだ。
そのような不可思議な豆など聞いたことがないがヤムチャは前回どこからともなく電子ジャーを出現させたり、魔封波が使えると豪語している。よってそれほどの呪術使いがそのような豆を持っていてもなんら不思議ではない。
ピッコロ大魔王はニヤリと微笑むと…
「ハァッ!!」
手より魔功波を発し、ヤムチャを彼にまとわりついていた魔族ごと焼き払った。
敵を潰すためとはいえ、自らの息子たちを犠牲にするピッコロ大魔王の冷酷さは計り知れない。
「くそ…。野郎、撃ってきやがった…!………っ!!仙豆が!」
大魔王の一撃はヤムチャの胴着をボロボロにし、腰に付けていた仙豆を焼き払ったのだ。仙豆だった物は灰になり、パラパラと空へ消えてゆく。
ヤムチャはタラリと一筋の汗を流すと、口の中に含んでいた最後の一粒を噛み締めた。
魔族はまだ半分ほど残っている。圧倒的ピンチだが唯一の救いはピッコロ大魔王が魔封波を警戒して自らヤムチャを潰しに来ないことぐらいか。
「年貢の納めどき…か。あとは減らせるだけ頑張ってみようかね…!」
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戦士は、ついに片膝を地につけた。
苦しそうに息を吐き出しながら前を見やる。
「はぁ…はぁ…もう、無理だって…」
ヤムチャの眼前には魔族、魔族、魔族。そう、魔族を倒し切る前にヤムチャの体力が底をついてしまったのだ。狼牙風風拳、狼牙風風脚、繰気弾、かめはめ波、どどん波……。持てる技の全ても使い切った。
しかし、それでも魔族はまだ50体ほど残っていた。
この50体はピッコロ大魔王が念のために突撃を自粛させていた集団だ。ヤムチャを囲っていた魔族の集団はヤムチャの全力かめはめ波を最後に全滅した。だが、それを見越したかのようにぞろぞろと奴らは現れたのだ。これには流石のヤムチャも戦意を失ってしまった。
「は…はは…無理かぁ…。惜しかったんだがなぁ…」
ヤムチャの戦意が消失したのを見たピッコロ大魔王はニィッと邪悪な笑みを浮かべる。
「はははははははっ!!残念だったな男よ!貴様の魔封波を見せる機会は来なかったな!!」
「あぁ?…魔封波…?く、くく……はははははははははははははははははは!!」
ピッコロ大魔王の言葉を聞いたヤムチャは突然腹を抱えて笑い出す。その様子にピッコロ大魔王は苛立ちを感じた。
「なにがおかしい!」
「は、ははは…魔封波なんか使えるわけねぇだろ、馬鹿が」
清々しい顔でヤムチャは言い切った。
「き、さっまぁぁ!!殺せ、そいつを轢き殺せ!!」
怒りが最高潮に達したのだろう。ピッコロ大魔王は息子たちに最期の指令をくだした。それに従い唸り声をあげながら魔族は突撃する。
ヤムチャは…
(死んだら蛇の道通って界王様に界王拳を習いに行けるな。楽しみだ…ってあれ?魔族に殺されたら天国にも地獄にも行けないんだっけ?参ったなこりゃ…)
なんて呑気なことを考えていた。
だが……
「気功砲ォォッ!!」
瞬間、莫大な気の奔流が50匹の魔族の集団を押し潰し、消滅させた。あとに残ったのは底の見えない巨大な穴のみ。
ヤムチャはそれを見て苦笑すると空にいる戦友に向かって言葉を放った。
「……天津飯!?」
「すまない…気のチャージと照準に手間取ってしまった」
舞空術によって上からゆっくりと降りてくる天津飯。どうやら機を見て援護をしてくれる予定だったらしい。
しかし…
「くっ…」
天津飯もまた片膝を地につけた。
気功砲とは自らの寿命を縮めるほどに莫大な気を要する、正に一撃必殺の技だ。それを使っては余裕がなくなるのも当然である。
「馬鹿野郎…出て来なかったら…お前は死なずに済んだのに…」
ヤムチャはわざわざ自分を助けるために死地に飛び込んだ天津飯に申し訳なさと悲観を感じた。
現にピッコロ大魔王は自分の計画を邪魔した天津飯にもその殺意を発している。この状況から助かるのは不可能だろう。
しかし…
「ここで戦わなくても…いつか死ぬのは同じだ。ならばお前を助けて死ぬのが筋というものだろう!」
天津飯はググッと体に力を入れて立ち上がる。
奥の手であった天津飯の魔封波は使える容器がないので使用することはできない。だが勝てる可能性が0%でないのなら諦めない。
ヤムチャの奮闘を目の当たりにして武闘家としての誇りが今、天津飯の胸の内では燃え盛っているのだ。
「…はぁ…簡単に死なせちゃくれねぇのか。ホント、嫌になるぜ!」
ヤムチャもまた立ち上がり最期の足掻きを見せようとしていた。
勝てない戦いだ。しかし、挑むことに意味がある。自分の誇りを守るが故に。
諦めずに立ち向かおうとする二人がピッコロ大魔王は心底気に入らなかったのだろう。言葉は無用。なにも言わずに超スピードで二人へと突っ込む。
ピッコロ大魔王の鎌の如き手薙が二人の首を断ち切らんとする。
「死ねいッ!!」
「っ!!」
「くっ!!」
二人は歯をくいしばった。
ヤムチャは脳裏に自分と天津飯の首が宙に舞う姿を幻視した。
(すまん…プーアル、ブルマ…約束、守れなかった…!)
ーーバギィッ
「グハッ!?」
「……ん?」
ヤムチャはいつの間にか瞑っていた目を恐る恐る開けた。
そこにはピッコロ大魔王の姿はなく、大魔王は地面に尻をつき、屈していた。
二人の目の前には小さな背中に〈亀〉の文字。紅い如意棒を携えた我らがヒーロー、孫悟空がいた。
「悟空…!」
「孫っ…!?」
「…ヤムチャ、天津飯。無事でよかった!」
1対多人数は初めて書いたんです。作者自身、経験値の少なさに絶望しました。もっと面白く書けるようにならなきゃ…。
この話のまとめは…つまり主人公はあくまで孫悟空だってことです。悟空かっこいいよ。悟空。
ドラゴンボール超の溜め撮りしたのを見てたら…なにこの急展開。てか悟空のそっくりさん何人いるねん(ブロリー歓喜)。トランクスなんで青髪になってんねん。マイ可愛いよマイ。
そして最後に…感想を見てたらですね…皆さん展開読むの凄すぎィ!?どれが正解とは言いませんが早くも伏線が危なげに…!しかし皆さまの予想を逆輸入する場合があるかもしれません。なんたって行き当たりばったりの小説ですので(^^;;大体のシナリオは組んでるんですが…。
モブ魔族
1匹1匹に楽器の名前が付いてます。オルガンとか…フルートとか…カスタネットとか。
見たらわかるかもしれませんが、こいつら知能指数が低いです。ピッコロ大魔王が大量生産のコストカットとして最低限の頭脳と残虐さしか与えなかったので。