よう、俺ヤムチャ。
やらかしちまった…。
くそ、飛んできたところをかめはめ波で撃墜とか色々できただろうに…!
いや、それ以前に狼牙風風拳のフィニッシュが決まった時に観客席よりも上に飛ばさなければ………いや、流石にあの時はそれ以外の攻撃は無理か。
リング外に叩き落とすには上段から一撃を決めるか、力をセーブして攻撃を打ち込まなくてはならない。前者も後者もジャッキー・チュンに大きな隙を与えることには変わりない。
しかし、何にせよ狼牙風風拳で決めきれなかったのはかなり痛い。ジャッキー・チュンのことだ、次の狼牙風風拳は殆ど通用しまい。
手数の多さならジャッキー・チュンの方が遥かに有利。しかもこちらは数少ない手数を消費してしまった。全ては俺の油断が招いた結果だ。ちょっとこれは……厳しい戦いになりそうだな。
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ヤムチャの狼牙風風拳から逃れたジャッキー・チュンは攻めの構えを見せる。それに対しヤムチャは慌てて受けの構えを構え、油断なくジャッキー・チュンを見やる。
するとジャッキー・チュンはヤムチャへと語りかけ始めた。
「うむ、先ほどの技中々に見事じゃ。しかし詰めが甘かった。若さ故の慢心というやつかの」
「…ええ。痛いほど痛感してますよ」
的確なジャッキー・チュンの物言いにヤムチャは苦虫を噛み潰したような顔で苦笑し、自らの慢心を素直に認める。基本的にヤムチャはストイックである。
「じゃが儂を追い詰めたことも事実。そこは誇ってもよいぞ。技無き肉弾戦では恐らくお主には勝てんじゃろうな。しかしいかんせん若い。技も粗いし無駄な動きが多いの」
「…そうですか。しかし肉体的な差はでかいですよ?」
肉体の性能の差は戦力の決定的な差にならないとは偉人の言葉だ。
確かにその通り、パワーに傾倒し過ぎたトランクス……俗に言うムキンクスなんかがその例だろう。
柔無き力など見るに堪えないものだ。闘いとは力だけでは無い。技、スピード、機転、運……様々な要因が噛み合ってこそ、武の体現とは成されるのだ。
しかしその点、ヤムチャにはパワー、スピード、機転が揃っている。ヤムチャの今の闘い方は、悪く言えば身体能力にものを言わせたゴリ押し。良く言えば身体能力をうまく使ったスピーディーな試合運びと言える。
要するにヤムチャにはまだ技術が足りないが、試合を決する上で大切な要素は全て兼ね備えているのだ。
普通の相手なら…同格の相手なら、勝負を一瞬で決することが出来るかもしれない。
だが相手はジャッキー・チュン。技術の面ではヤムチャを大きく凌駕している。ただ闇雲に突っ込むだけでは勝てないことは火を見るよりも明らかである。
「そうかの。まあやってみれば分かる事じゃろう。チョッ‼︎」
ーーバチッ!
「ぐふっ⁉︎」
ジャッキー・チュンが突如繰り出した神速の掌底打ちにヤムチャは対応できず素っ転び、ダウンする。
『な、何が起こったのでしょうか…。私には皆目見当がつきません…』
それはアナウンサーだけでは無い。この会場にいる人間ほぼ全員に言える事だ。見えていたのは悟空とヤムチャだけ。クリリンを始めとした本戦出場者にも見えなかった。
「あわわ…。お、おれ、何も見えなかった…!」
「そうか?」
一方ヤムチャは…。
「くっ…なんという速さだ…。完全には見切れなかった…」
ふらつきながらも立ち上がる。しかし自分でも捉えきれないジャッキー・チュンの攻撃に戦慄しているようであった。
それに対しジャッキー・チュンは…
「分かったかの?これが無駄を完全に省いた一撃じゃ。速度自体はお主の目なら捉え切れるじゃろう。しかし無駄の無い一撃の体感速度は凄まじいもの、技術の大切さがわかるじゃろ?」
ヤムチャに問いかける。その姿はまるで弟子に教えを享受する師匠のようであった。
「…なるほど勉強になる。だが次はもう無い。さあ、かかってこい‼︎」
ヤムチャは敬語を投げ捨て、ジャッキー・チュンを挑発する。どうやら次の一撃も受けるようだ。
「ふん。若僧には捉えきれんわい。ほッ‼︎」
先ほどと同じくジャッキー・チュンの掌底打ちがヤムチャを襲う。だがヤムチャは…。
「……ッ!見えたッ‼︎」
ーーガシィ!
「なっ⁉︎」
ジャッキー・チュンの掌底打ちを腕を掴む事によって防ぐ。ジャッキー・チュンの速度を捉えたのだ。
「セイッ!」
これを好機と見たヤムチャは掴んでいる腕を自分に引き寄せ蹴りを繰り出す。しかしジャッキー・チュンは体を捻り回転する事によってこれを回避。それとともに腕も捻りヤムチャの拘束から脱出する。
「な、なんというやつじゃ…。儂の動きについてきおったわ…」
ジャッキー・チュンの驚きは大きい。ヤムチャは今この瞬間にも進化を遂げたのだ。
「へへ…目は鍛えてるんでね。それで、あんたの攻めは終わりか?なら俺から行かせてもらうぞ‼︎」
ヤムチャはまたもやジャッキー・チュンとの距離を持ち前の脚力で縮め、右、左、上、下と変幻自在のラッシュを繰り出す。その狼牙風風拳に迫る勢いで繰り出されるラッシュにジャッキー・チュンは狼狽する。
技は粗いがいかんせん速い。ジャッキー・チュンは持ち前の技術でヤムチャの攻撃を捌くが、流石にこの状況は苦しい。顔には段々と焦りが出てくる。
『凄い!凄いラッシュです!ヤムチャ選手、ジャッキー・チュン選手を押しています‼︎しかしジャッキー・チュン選手も凄い!ヤムチャ選手の攻撃をいなしているみたいです。これはもはや事実上の決勝戦と言っていいでしょう‼︎』
ーーワーワー‼︎
「いけーヤムチャー‼︎」
「いけ、ヤムチャ、そこよ‼︎」
「いでぇ!俺を殴るな!」
会場に大歓声が湧き、悟空やブルマの声援が響く。そして興奮したブルマに殴られウーロンはボロボロであった。
「せいやっ‼︎」
ーーガス!
「ぬぅ…!」
ヤムチャの一撃をジャッキー・チュンは腕をクロスして防ぎ、ジャッキー・チュンが距離をとった事で一応の近接戦は終了する。
「(ま、まずい…。このヤムチャという男、予想以上じゃ…!これは出し惜しみをしていては負ける…!)」
一方のヤムチャも実は焦っていた。
「(くそ…流石というべきか。野郎、俺の攻撃をなんとも無いように捌きやがる。流石に何度もハイラッシュを仕掛けては先にこっちの体力が無くなるぞ…!)」
そう、試合的に押しているのはヤムチャだろう。しかし最も体力を消費しているのもヤムチャなのだ。まだ息切れを起こしているわけでは無いが息は荒く、熱を持っている。
するとジャッキー・チュンはおかしなポーズをとり、その構えにヤムチャは困惑する。
「(何だ…?奴は何をする気だ?……そうか!)」
ヤムチャは結論が出るや、すぐにジャッキー・チュンへと飛びかかり構えを妨害し、構えを崩されたジャッキー・チュンは仕方なく後退する。
「お主…まさか見破ったか?」
「ああ。その技は聞いた事があるからな」
ジャッキー・チュンが繰り出そうとした技は『よいこ眠眠拳』。その独特なポーズからヤムチャはすぐに感付き、技を使わせる暇を与えなかったのだ。
「ぬぅ…まさかこの技を知っているとは…。ならばこれならどうじゃ?」
ジャッキー・チュンは再び『よいこ眠眠拳』の構えをとる。
ヤムチャは再び同じ構えをとった事に困惑しながらも、阻止するためにハイスピードの飛び蹴りを繰り出し、構えを崩さんとする。
しかしジャッキー・チュンはヤムチャが目の前に迫っても構えを崩さない。そしてヤムチャの飛び蹴りがジャッキー・チュンに突き刺さーーーー
「な、に…⁉︎」
ーーーーらなかった。ヤムチャの蹴りはジャッキー・チュンを突き抜けたのだ。これは…
「残像拳…‼︎」
「ピンポーン」
ーーバキィ‼︎
後ろに現れたジャッキー・チュンが飛び上がったままのヤムチャに蹴りを叩き込む。
吹っ飛ばされたヤムチャの着地点は……ギリギリ場外!
ヤムチャの時間がスローになってゆく。どうするべきか、何をすればよいのか?
ここでヤムチャが出した答えは…
「うおぉ‼︎」
ーーズドッ‼︎
リングに拳を打ち込み、落ちる自分を支える事であった!
「は、はは。ギリギリセーフだな」
ヤムチャはリングへと登る。
「むむ…残像拳だと分かった瞬間に体を捻らせ背後からの攻撃に備えたか。観客席まで飛ばすつもりだったんじゃがのう…」
ヤムチャの野生的な直感が生きたのだろう。
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ジャッキー・チュンは考えた。
恐らくこの男は自分の正体に気づいている。でないと構えで『よいこ眠眠拳』だと気づくはずが無い。ならば恐らくヤムチャは『酔拳』などの技にも対応してくるだろう。
ヤムチャは強い。恐らく自分や悟空達が大会に出場しなければ余裕で優勝できるほどに。一瞬はヤムチャを勝たせ、悟空達とぶつけてもいいとも考えた。しかしヤムチャもまた若僧。まだまだ色々な部分が未熟であり、優勝すれば驕り高ぶるかもしれない。
やはり何としても自分が勝つしか無いのだ。
ならばどうすればいい?何をすればヤムチャに勝てる?
使うしか無い。
亀仙流の最終奥義を。
というわけでヤムチャ善戦の回でした。
偉人の言葉
赤い彗星さんの言葉のパロディ。中の人繋がりですね。
ムキンクス
筋肉モリモリマッチョマンなトランクス。とある方面からはブロンクスなんて呼ばれてますね。本当にどうでもいい話なんですが、なんで悟空とブロリーがフュージョンしたら名前がカロリーになるんですか。普通ゴロリーでしょう!
「やあ、僕ゴロリ。ワクワクさん今日は何して(ry」
よいこ眠眠拳
催眠術。これって武闘なんでしょうか?ジャッキー・チュンといい、餃子といいそこらへんがどうも…。まあ、武闘大会なんて名ばかりなんですけどね。道具使うのはアウトとか言っておきながらクリリン、パンツ使ってましたし。
酔拳
使わずじまいの技。元ネタをそのまま引用してますね。関係無い話ですがなんでロック・リーの酔拳は一発屋で終わってしまったんでしょう…。