噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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ついに始まるヤムチャvsジャッキー・チュン。勝利の女神はどちらに微笑む。


噛ませ犬vsジャッキー・チュン①

 よう、俺ヤムチャ。

 

 俺は転生前、別に格闘技をしていたわけじゃない。強いて言うなら空手を二年。それだけだ。

 だから相手の気迫がどうとかそんなものを読み取れるような男では断じてない。それは今でも同じことだ。

 

 だが、何だろうか。この……俺の肌に電流を走らせる、ジャッキー・チュンから湧き上がり溢れ出す底知れないナニカは…。

 見かけはそこまで大したことはない。老練な雰囲気を漂わせてはいるが所詮は老人。

 俺が予選で戦ったあの巨人のようにでかい男とジャッキー・チュン、どちらが強そうに見える?と聞かれると百人中百人が大男…と答えるだろう。

 だが事実は違う。

 ジャッキー・チュンとあの大男が戦ったのならば百戦中百戦全て、ジャッキー・チュンに軍配があがるだろう。それも圧勝で。

 

 この世界の何も知らない人は絶対にこの事を信じないだろうが、ジャッキー・チュンの正体を聞かせたなら……誰もが納得するだろう。

 

 武天老師。

 

 現在の地球において桃白白、天津飯と肩を並べる最強の一角だ。

 子供の頃は「何でヤムチャ風圧で負けたしwww」なんてほざいていたが、当たり前だ。盗賊上がりの男が武術の神様に勝てるはずがない。

 

 だが、盗賊上がりの男でも修行すれば勝てない道理はない。

 時速230kmの豪速球を躱し続け、重力が2倍になる過酷な環境下の中トレーニングを続け、会得には数十年の修行が必要とまで言われたかめはめ波を打ち続けた挙句に強化したんだ。

 

 今の俺は原作ヤムチャでも噛ませ犬でもない…。

 ジャッキー・チュン、お前を倒すものだぜ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『さて、それではみなさま!ひきつづいて第2試合を始めます‼︎

 第2試合はジャッキー・チュン選手とヤムチャ選手の対決です‼︎ではご登場くださーい‼︎』

 

「では行ってくる」

 

「がんばれよヤムチャ!」

 

 悟空の快い声援を背に受けヤムチャは武舞台へと進む。それに続きジャッキー・チュンも同じく武舞台へと上がる。

 

「なによーー‼︎あんなのただの小汚いおじいちゃんじゃない!フレーーッフレーーッヤムチャ‼︎」

 

 一際でかい声で野次を飛ばし応援するブルマ。ヤムチャはズッコケそうになるが、今は試合前。ググッとなんとか堪える。

 

 その後、アナウンサーによるヤムチャとジャッキー・チュンの紹介が行われ準備は全て整う。

 

『では第2試合を開始します‼︎はじめっ‼︎』

 

 アナウンサーの号令とともに試合は開始し、ヤムチャは油断なく中段の構えをとる。

 それに対しジャッキー・チュンは闘争心もへったくれもないような隙だらけの構えをとった。いや、構えと言うよりはもはや棒立ちだろう。

 ヤムチャ、この展開自体は読んでいたのだが流石に自尊心を傷つけられる。ヤムチャは現在、ジャッキー・チュンにおもっくそ舐められているのだ。

 

「……仕掛けないんですか?」

 

 ヤムチャはなおも構えを崩さずジャッキー・チュンに問いかける。

 

「左様。そちらから仕掛けるといい。ワシはいっこうに構わんよ」

 

 ジャッキー・チュンも棒立ちを崩さずただぼんやりとヤムチャを眺め続ける。

 流石のヤムチャもこれには少しイラっときた。

 

「そうですか。なら俺から攻めさせてもらいますよ……。はッ‼︎」

 

 ヤムチャは10数mあったジャッキー・チュンとの間合いを一瞬で詰め、左腕を引き下げ顔面の殴打を狙う。

 これに驚いたのはジャッキー・チュン。

 ジャッキー・チュン自身、ヤムチャがかなりの達人であることは見抜いていたのだが、まさかここまでの達人とは思いもしていなかった。

 

「ぬ…‼︎」

 

 よってヤムチャに虚をつかれる形となったがジャッキー・チュンは油断していたわけではない。すぐさま腕を縦に構えヤムチャの攻撃を柔軟に逸らす。

 だがヤムチャの攻撃はこんなもので終わりではない。ヤムチャにとって初撃をいなされるのは想定済み。蹴りを放ちジャッキー・チュンの腹部を狙いつつ、同時に空いている右腕で追撃の準備を整える。

 しかし流石はジャッキー・チュン。ヤムチャの追撃の構えに気づいたようで蹴りを受けることなく後方へと飛び、距離をとる。

 距離をとられたヤムチャは追撃を中止。次なる攻撃に備えて構え直す。

 ここで一度両者は戦闘を止め、共に体勢を立て直すようだ。

 

『……え…あ…。な、何が起こったのでしょうか…。わ、私にはまったく見えませんでした…』

 

 呆然とアナウンサーが解説とも言えない解説をするがそんなこと言われずともこの場にいる殆どの人間には二人の動きは見えていない。というのも、見えていたのは悟空とクリリンだけだった。

 

「お、おい…。なんつースピードだよ…。はっきり見えなかったぞ…」

 

「ああ。ヤムチャのヤツめちゃくちゃ腕上げたなー。それにあのじっちゃんもすげーなー」

 

「のんきに言ってる場合かよー…」

 

 当の見えていた本人達もどうやらこの二人の強さに困惑しているようだ。

 

 ジャッキー・チュンはここでようやく構えをとる。ついに本気になったのだろう。目つきが違う。ヤムチャを一筋縄ではいかない相手だと認めたのだ。

 

「詫びようヤムチャとやら。お主は素晴らしい武闘家だったようじゃな」

 

 頭を下げることはないがジャッキー・チュンは舐めていたことをヤムチャに詫びる。それに対しヤムチャは…

 

「そうですか。しかし、これで打ち止めと思ってもらっては困りますよ?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、構えを攻撃の構えに変える。その構えに悟空はピクリと反応する。

 

「あ!あの構えは!」

 

 かつて自分を吹き飛ばした印象深いヤムチャの必殺技。あの構えをヤムチャはとったのだ!

 

「はぁーーー…‼︎狼牙、風風拳ッッ‼︎」

 

 ヤムチャは猛々しく叫ぶとジャッキー・チュンに猛スピードで突っ込む。

 

「む…⁉︎」

 

 真正面から突っ込んでくる敵などジャッキー・チュンからしたら普通はただのカモである。そう、普通は。

 

 しかしヤムチャのあまりの気迫にそのまま対処するのは危険と判断したジャッキー・チュンは見事な軽業でヤムチャの初撃を回避、空振りから生まれる一緒の隙をつこうとする。

 だが、ヤムチャは隙を見せるどころか攻撃を中断しなかった。ヤムチャは回避されるとすぐさま強引に直進方向を真横に変更。ジャッキー・チュンを追撃する。

 

「なにっ⁉︎向きを無理矢理変えてきおったわ!」

 

 大技の後には隙が生まれる。そう確信し、攻撃の構えをとっていたジャッキー・チュンにこの狼牙風風拳の回避は難しい。結果、

 

「ハイヤーーッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!」

 

 ーービュッビュッビュッビュッ‼︎

 

「ぬ、うう……‼︎」

 

 正面からのぶつかり合いになる。しかしこうなればヤムチャの独壇場だ。早さに勝るヤムチャが徐々にジャッキー・チュンを追い詰めて行きリング端へと追いやってゆく。

 ジャッキー・チュンはなんとかこの事態を打開しようとヤムチャの狼牙風風拳から逃れる術を模索するが、ヤムチャの狼牙風風拳は速くなるばかり。打開するどころか対応するのが困難になる。

 

 その時であった。

 ジャッキー・チュンは自分の踵が地に触れていないことに気づく。そう、リング端だ。

 

「ぬっ⁉︎しまーーーー」

 

 その一瞬…。その一瞬こそをヤムチャは狙っていた。リング端へ追い詰められ、焦りがピークに達し、ほんの僅かな隙が生まれるこの瞬間を!

 

「隙有りィィ‼︎オウ〜〜ッッ‼︎」

 

 ーードガァ!

 

 ヤムチャの隙を突いた渾身の両掌はジャッキー・チュンの胸へと突き刺さり、遥かリング外まで吹き飛ばす!

 

「し、しもうた〜‼︎」

 

 成す術なく飛んでいくジャッキー・チュン。その姿にヤムチャ、アナウンサー、ギャラリー含め、ヤムチャの勝利を確信した。

 

『き、決まりました‼︎激闘を制したのはヤムチャ選手です‼︎』

 

 ーーワーワー!

 

「やったー!ヤムチャすごーい‼︎」

 

「やりましたねヤムチャさまーー‼︎」

 

「へぇー…ヤムチャすげぇなあ…。オラなんだかワクワクしてきたぞ‼︎」

 

「ひ、ひえぇ…。あの人と次当たるの俺だぜ〜…?やべーなー」

 

 喜ぶプーアルやブルマ。ワクワクが止まらないといった感じの悟空や、先ほどの試合を見て戦慄するクリリン。

 その様子を見てヤムチャは胸が一杯になってくる。

 

「(勝った…。勝ったんだ、俺…。やった…!やったぞ!俺は…あのジャッキー・チュンを倒して、2回戦にーーーー)」

 

「ちょっと待つのじゃ。ワシまだ負けてないぞよ」

 

 その声にヤムチャは戦慄した。その声は観客席の向こう側から聞こえてくる。そして変な音と共に近づいてきていた。

 そこには…

 

 かめはめ波の逆噴射による推進力で戻ってくるジャッキー・チュンの姿があった。

 ヤムチャは唖然とし、原作知識を思い返す。そう、ジャッキー・チュンは場外に放り出されたとしてもかめはめ波を使うことによって戻ってこれるのだ。

 そのことを思い出したヤムチャは自分の痛恨の失態に頭を抱える。いくらでも手の打ちようはあっただろう。かめはめ波で狙い撃ちするという手もあった。しかし、もう遅い。

 勝利という甘い文字に踊らされ慢心したヤムチャは言葉を失い、ただ立ち尽くすだけであった。

 

 その後、ジャッキー・チュンはリングの中央に着地。構え再びヤムチャを見据える。

 

「ほっほっほ。命拾いしたわい。さて、それじゃ今度はこっちから攻めさせてもらおうかね〜」

 

 

 




慢心せずしてなにがヤムチャか…!
噛ませ犬でも頑張りたいは3000字あたりで構成していきたいので切ります。後編は次回。
えー…。作者、実は病んでまして、投稿に支障をきたすようなことはしたくありませんがもしもの事があります。もしもの時はこないとは思いますが…万が一…万が一の事はあります。ご了承くださいm(_ _)m

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