噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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日間ランキング20位…⁉︎
思わず叫びました。この小説を読んで下さっている皆様に最大級の感謝を…ッ!




噛ませ犬の怯えと決意

 天下一武闘会予選会場には数多の武闘家たちがひしめき合っていた。皆自分の腕に余程の自信が有るのか、今にも誰かに飛びかかりそうなほど目がギラついている。例えるなら飢えた獣…と言ったところか。

 

 さて、それでは我らが噛ませ犬。荒野のハイエナという称号(自称)を欲しいがままにしたロンリーウルフ、ヤムチャはと言うと…。

 

「(嘘だろおい、モブの奴らめちゃくちゃ強そうじゃねえか…!まじガクブルもんだぞ…!)」

 

 やたらビビっていた。

 周りには筋骨隆々のマッチョマン、老練な雰囲気を醸し出している初老の男、何かを決意しているような漢…。

 パッと見するとヤムチャなんかより断然強そうな猛者が闘争心を剥き出しにしているのだ。それにヤムチャは完全に飲み込まれていた。

 

 ヤムチャの戦績を見直してみよう。

 今の所3勝1敗、内訳はチチ、ウサギ団、悟空2回だ。

 チチと悟空はまだ子供、パッと見強そうではない。ウサギ団は武器と特殊能力を持っていたが、外見はあまり強そうな感じではない。何よりヤムチャは武器(鞘付きの刀)を持っており、なおかつ不意打ちで一気に勝利を収めたことになる。

 

 要するにヤムチャは見た目強そうな奴と戦ったことがないのだ。さらに盗賊時代ならまだしも今のヤムチャの人格は現代人のソレである。はたからみれば情けない話だがビビるのは仕方ないと言える。

 こんなところで組手の稽古をしていないツケが来るとは。

 

「(くそ…あんなに昨日啖呵を切っておいて情けねえ…!どうしたヤムチャ!お前の力なら予選なんて楽勝なはずだろ⁉︎勇気を振り絞れ!勇気リンリン!勇気とは怖さを知ることッ!恐怖を我がものとすることだッ!そうだよ。逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げーーーー)」

 

「203番、204番競技台へ上がってください!」

 

「ひゅいっ⁉︎」

 

 思わず声が上ずってしまったヤムチャ。慌てて競技台の上に駆け上がる。

 その情けない様子に周りが笑いに包まれ、ヤムチャの顔はみるみるうちに真っ赤になってゆく。

 

「ははは、あいつあがってやがる!情けねえ!」

 

「ちょっと腕っぷしに自信がある程度で勝ちあがれるほど天下一武闘会は甘くない。いい教訓になっただろう」

 

「あいつの相手はラッキーだな。くそ、羨ましいぜ」

 

 周りにボロクソ言われるがヤムチャには言い返す余裕もない。ただカッチンコッチンになって競技台に立ち尽くすだけであった。

 

 そして肝心のヤムチャの相手はと言うと…。

 

 ーーーードスン!ドスン!ドスン!ドスン!

 

「ガッハッハッハ‼︎こりゃ楽勝だな‼︎ひと捻りにしてやるぜ‼︎」

 

 体長5mを超える筋骨隆々の大男であった。足を踏み鳴らすたびに地響きが起き、ヤムチャの体を浮き上がらせる。

 

「あわ、あわわわわ……」

 

 ヤムチャに戦意は残っていなかった。ただ、目の前の大男に目を見開き、戦慄するばかり。

 先ほどまでやんややんや言っていた武闘家たちも、これにはヤムチャに同情した。

 

「(気の毒に…)それでは試合を開始します…。始め‼︎」

 

 審判からも同情されながら試合は開始する。

 ここで大男が行った攻撃は何か?

 それはただの突進であった。しかしこの場においてはそれで充分。大男の巨体から繰り出される突進はもはや凶器だ。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

 

 凄まじい雄叫びをあげながら大男はヤムチャに肉薄する。

 それに対しヤムチャは……

 

「うひゃあぁぁぁぁァァァぁぁぁぁ⁉︎」

 

 ただひたすらに叫んだ。叫び、叫び、目を瞑り、そして…、思いっきり腕を振り上げた。

 

 ーーーーバギョアッ……ドカーン

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………あ?」

 

 ヤムチャが目を開けると目の前から大男が消えており、代わりに天井にはどデカい穴が空いていた。

 武闘家たちは静まり返り、目を飛び出してヤムチャを凝視しており、ここでやっとヤムチャは何が起こったのかを理解した。

 

「204番の…勝ち…」

 

「………なんだ、見掛け倒しだったのか」

 

 審判から勝利を告げられヤムチャが競技台から降りると、周りの武闘家たちは一斉にヤムチャから距離をとる。

 そんなことには気づかず、ヤムチャは一人考えていた。

 

「(いやいや、よくよく考えたらそうだよな。元のヤムチャでも予選を通過できたんだ。今の俺が通過できないわけないもんな)」

 

 ヤムチャは一人納得した。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 よう、俺ヤムチャ。

 

 いくら見掛け倒しでも怖いものは怖い。今朝の夢と相成ってちょっと天下一武闘会に対しての不安が大きすぎたようだ。この大会で気をつけるべきは悟空・クリリンそしてジャッキー・チュンだけだからな。予選で怖がる必要はないよな。うん。

 

 あの後からは簡単なものだ。

 大抵の相手は一撃で終わりだし、試しに相手に殴る蹴るなど好きにやらせてみたが全く効かなかったし、時には降参する相手が出るほどだった。

 最後に戦った男は他に比べると中々出来る武闘家だったが、軽く一蹴できた。凄い、凄いぞヤムチャ!

 

 これは本格的に優勝を目指せるかもしれん。本戦が楽しみだぜ。

 さて、俺の本戦出場は決まったから悟空やクリリンの試合を見ようと思う。どこかな…っと。

 

「おい、あっちにめちゃくちゃ強い子供がいるぞ!見に行こうぜ!」

 

「ああ!」

 

 即発見。まあ、そりゃ目立つよな。

 ちょいと拝みに行こうか。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「悟空ー!頑張れー!」

 

 お、クリリン発見。

 ……マジで鼻が無いんだな。まあこんな世界(ドラゴンボール)だ。今更なんだけども。

 

 と、こんなことを思っている間に試合は決してしまったらしく、悟空は晴れて本戦出場となった。

 うん、知ってた。

 

 悟空と入れ替わりになるような形でクリリンがリングに上がって行く。どうやら次がクリリンの予選決勝らしい。まあ、結果は分かってるけども。

 

「よう悟空。まずは本戦出場おめでとう」

 

 取り敢えず悟空に話しかける。8カ月振りなだけあってとても懐かしいな。

 

「…?誰だおめえ?」

 

 言うと思ったよちくしょう!まあ、仕方ないっちゃ仕方ないのかな…。

 

「ほれ、狼牙風風拳!」

 

「ああ!ヤムチャ‼︎」

 

 流石だな狼牙風風拳。もはやヤムチャの代名詞だ。

 

「うわー!すげー!久しぶりだなー‼︎髪切ってたから全然分かんなかったぞ!」

 

「ブルマが西の都じゃダサいなんて言うもんだからな」

 

「ヤムチャも天下一武闘会にきたんだろ!出場できたか⁉︎」

 

「ああ。一応この大会を目標に鍛えていたからな。お前よりも早く本戦出場を決めさせてもらったよ」

 

 お前よりも早く。ここ重要な。

 

「流石、武天老師に鍛えられただけはあるな」

 

「だろ!オラもビックリしてるんだ!」

 

 悟空の成長スピードの速さをまじまじと見せつけられたよ。俺の進もうとしている道の険しさもな。

 まあ、もし本戦で当たったとしても負ける気は無いけどな。

 

「ところで、あいつは?」

 

 一応クリリンのことを悟空に聞いておく。これから仲良くなって行きたいしな。

 

「おう、クリリンって言って亀仙人のじっちゃんところでいっしょに修行してたんだ」

 

 だよな。……おっと、クリリンの試合が終わったようだ。

 

「やったー悟空ー!俺も本戦出場だー!」

 

「やったなクリリン!」

 

 悟空に抱きつき喜びを全身で表現するクリリン。こいつらホント仲良いな…。ちょっと妬いちまうぜ。

 おっと悟空にまだ教えてなかったな。

 

「そういや悟空。ブルマもウーロンもプーアルもこの会場に来てるぜ。会ってきたらどうだ?」

 

「ホントか‼︎⁉︎」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「なんでも空から大男が降ってきたらしいぞ」

 

「へぇぇ…不思議なこともあるもんだなぁ」

 

 そんな事を悟空と抽選が始まるまでの時間潰しに話している。

 空から男が降ってきても需要なんて無いだろうに。

 まあ、そんな事はどうでもいいさ。

 

 じっくりと悟空、クリリンの闘いを見たが、見れば見るほどかなり高いレベルで仕上がっているのが分かる。

 闘えば苦戦……になるかどうかは分からないが、今までのようには決していかないということだけは確かだ。

 

 ……ジャッキー・チュンの闘いも見たのだが…。底が読めなかった…。どれだけの実力を隠しているのだろうか。漫画を見るだけじゃ分からない強さと言うものが一番恐ろしい。

 

「はい、出場者のみなさーん。集合して下さーい」

 

 おっと、今からトーナメントの組み合わせ抽選が行われるみたいだが…。

 ここは果たして原作通り行くのだろうか…?本戦に上がってきたメンツは原作通りだが…。

 原作ヤムチャと俺ヤムチャは違う。些細な挙動の変化でくじの内容が変わったりしたら…。

 まあ、どっちにしろやるっきゃないけどな。

 あとどうでもいいがバクテリアンの野郎、マジクセェ…!

 

 

 その後クジはナム、ギラン、バクテリアン、俺、クリリン、悟空、ランファンの順で行われた。

 結果は…

 

 第一試合

 クリリンvsバクテリアン

 

 第二試合

 ヤムチャvsジャッキー・チュン

 

 第三試合

 ランファンvsナム

 

 第四試合

 孫 悟空vsギラン

 

 となった。

 要するに原作通り。組み合わせが変わるかもという俺の考えは取り越し苦労だったようだ。つまり俺の相手はジャッキー・チュン、恐らくこの大会最強の男…。

 

 

 早速第一試合が始まり、序盤バクテリアンがクリリンを臭いで圧倒するも、鼻が無いというトンデモ身体構造によってクリリンが勝利。

 …羨ましい、妬ましい。

 クリリンよ、何故お前は二回戦に2回も上がれたんだ?

 

 さて、第二試合が始まる。

 俺はこの瞬間が夢に出るほどどうしようもなく怖い。ここで負けたらもう噛ませ犬街道から抜け出すことができなくなりそうで。

 

 

 それがどうした?

 

 

 俺から言えることは一つだけ……相手にとって不足ない。この日のために足掻いて足掻いて、足掻きまくったんだ。現段階でやれるだけのことはした。負ける道理は無い。

 

 

 行こう。

 




ドラゴンボールの初代モブってめちゃくちゃでかいですよね。小さい悟空やクリリンと対比するためなのかもしれませんが…。

クリリン
勝ち組。原作ドラゴンボールにおける地球人最強…らしい。(ヤムチャ談)まあ、初代のころからヤムチャとはかなり差がありましたからね。その通りなんでしょう。不純な動機で鍛え始めたのにあそこまで立派になれるって凄い。
ヤムチャの事をちゃんとさん付けしてくれる優しい人。他にしてくれたのって悟飯ぐらいしかいない。

ナム
強い。独自であそこまで強くなれたのなら間違いなく天才。サタンよりは強そうですよね。

ギラン
怪獣。体からガムを生成できる。それなりに強い。

バクテリアン
臭い。初代にはこういうキャラが多いですよね。好きですよ私は。

ランファン
第21回天下一武闘会といえば?と聞かれるとこの人を思い出します。なんででしょうね?

ジャッキー・チュン
壮年の老人。多彩な技を使い分け尚且つ凄まじいスピードを誇る。あの亀仙流奥義かめはめ波を使えるらしい。
このお方が悟空、クリリン、ヤムチャを倒したってなんかドラマがありますよね。
一体、何仙人なんだ…⁉︎




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