◇ギルガメッシュ◇
神殿兵が使う11歳の子供が借りるには大きすぎる剣を楽々持ち上げて、少年兵たちが訓練の際に身に付ける小さな防具を身に纏う。
準備が終わって目線を上に上げると、いつの間にか目の前に立派なライオンが召喚されていた。
「おぉ~。これがイシュタル様の随獣ですか!凄くたくましいですね!」
初めて見る神獣に思わず声を挙げてしまった。
美しい毛並みにその場を圧倒する存在感。僅かに開いた口から見えた牙は恐ろしいほどに研ぎ澄まされており、思わず寒気がした。堂々と立つその気高い姿からは、イシュタル様の随獣であることを誇りに思っているように見える。
.......なんか、予想以上にかっこよかったのであの背中にまたがってしまっていいのか不安になってきた。というか、あれだけ強そうなら、ドラゴンなんて余裕なんじゃ?
まぁ、これなら負ける気がしないぜ!
.......にしても、イシュタル様(の随獣)を褒めたのに珍しく嬉しそうな顔も、どや顔もしないイシュタル様。一体どうしたのだろうか?
「ギルガメッシュ。こちらへいらっしゃい。」
そんなことを考えていたら、不安そうな顔のイシュタル様が俺を呼んだ。
不思議に思いながら近づくと、イシュタル様は片膝を立ててしゃがみ、顔を近づけてきた。
ーーそして、俺の額に接吻を..............
その瞬間、言葉では説明できない力が俺の身体を覆い身体の内側からも力が溢れてきた。
「........私は戦いを司る女神です。その加護を今、与えました。」
そうか、これが女神様の加護の力。
「ご武運を、ギルガメッシュ王子。」
.......女神様のキスまで貰ったんだ。これは負けられないな。
「ギルガメッシュ行きます!」
ライオンに飛び乗っていよいよ出陣。さぁ、英雄伝説への第一歩だ!
ーー神殿周辺の上空ーー
黒い鱗に獲物を求めて辺りを見渡す黄金色の瞳。風を切る巨大な翼。その姿はまさしく倒しただけで英雄になれるというドラゴンであった。その巨体に立ち向かっていく美しい獣とそれにまたがっている武装した小さな英雄(になりたい少年)。皆さんお久しぶりです。ナレーターです。
今回立ち向かう敵はビッ○ではなく、本物のドラゴンである。この時代にドラゴンがいるのか?とかドラゴンというのか?みたいなツッコミはなしでお願いします。
英雄になりたいがために怪物に挑む少年。だが、その戦う理由に女神様のキスとほんの少しだけ、民のためという気持ちが混じってなくもなかった。
◇ギルガメッシュ◇
やばい。やばい?やばい!なにあれ!?ドラゴンでか過ぎじゃね?刃が通らないんだけど!強すぎるんだけ「うわっ!」
........かすった!今、炎のブレスがかすったよ!?女神様の加護があったから助かったけど。
さて、刃が通らない以上、俺の武器はこの女神も虜にする美貌しかない。
........いや?もう一つあるじゃないか!
「発動! 千里眼」
ーー??????--
私はただ静かに暮らしたいだけだった。仲間も雌もいない生活だったが、森の中なら食べ物には困らなかったし、時々遠くから「人間」の暮らしを眺めているだけで十分だった。
しかし、ある日、匂い立つような「神性」の持ち主が黒いローブを身に纏って私の目の前に現れて尋ねてきたのだ。曰はく「人間が憎くないのか?」とお前を森にまで追いやった「人間」が........
私は「人間」を憎いと思ったことはなかった。それどころか懸命に生きようと知恵を絞って足掻く彼らを好ましく思っていた。
その旨を伝えると黒いローブの男は一言
「........残念だ。」とつぶやき、私に手をかざした。
ーー首にチクリと痛みを感じた途端に強烈な空腹感が私を襲った。
食いたい、クイタイ!、お腹減った、オナカヘッタ!「人間」「ニンゲン!」食わせろ!クワセロォーーーーーー!!
◇ギルガメッシュ◇
「...........頭痛い。割れそう。だから使いたくなかったんだ!くそっ
直死の魔眼かっての。見たくもないもん見せられるしよ......」
ライオンの背中で頭を抱えてうずくまるギルガメッシュ王子。しかし、頭を数回振ると、真っ直ぐに眼前の「敵」を見据えて剣を構えた。
「ともあれ、弱点らしきものはわかった。ライオンさん!あのドラゴンの首の上に回り込めますか?」
無言で頷くライオンさん。ハードボイルドだぜ!「うわっ!」
噛みついてくる大顎をすれすれで避けてクルッとターン。なんとか首の上にたどり着くことができた。
勇気を振り絞ってドラゴンの首に飛び乗る!
そこには予想通り、なんか紫色の変な模様があった。完全に皮膚と一体化している。
「........解除は無理そうだな。すまない。その命、貰うぞ。」
ーーあの黒いローブも千里眼の頭痛も今は無視だ!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
雄たけびとともに逆手に持った剣を振り下ろす!
「グギォーーーーーーーーーー」
ドラゴンの悲鳴とともに暴れだした体が宙を彷徨いながら、森の方角へと落ちていく。
◆イシュタル◆
加護を与えたものの、やはり心配で私は神殿兵たちに囲まれながら戦いを見に外へと出てきた。
空を見上げると、そこでは想像を絶する戦いが繰り広げられていた。
巨体をくねらせながらギルガメッシュに襲いかかるドラゴン。時折、口から炎を出している。
それに対し、ギルガメッシュは見事に私の随獣を操り、紙一重でドラゴンから逃れながら時折、剣で反撃を加える。鱗と剣がぶつかるたびに、激しい火花が散っている。
ハラハラしながら見守っていると、突然ギルガメッシュがドラゴンの首にまたがり、剣を突き立てた!
森の方角へと互いに落ちていくギルガメッシュとドラゴン。
「ギルガメッシュ!」
気がつけば、森へと駆け出していた。
◇ギルガメッシュ◇
いててててっ。どうやらなんとか生きていたらしい。と思ったら、俺が腰を下ろしているのはドラゴンの腹の上だった。
「........そうか、空中に投げ出された俺を助けてくれたのか。」
結局、変な模様に一撃入れて森に落ちる途中で俺は空中に投げ出されたのだ。それを助けてくれたということは........
ゆっくりとうつ伏せになったドラゴンの瞳を覗き込んでみると、そこには、柔らかな光が宿っていた。しかし、その光ももうじき消えてしまいそうだ。
「.......あんたを刺した俺が言えることじゃないけど、ありがとう。」
心から感謝をし、小さく頭を下げた。
俺のお礼に対しドラゴンもまた、小さく頷いた気がした。
ーーやがて俺の命を救ったドラゴンは、ゆっくりと前へ這っていく。
どこか帰る場所があるようだ。
........なんとなく、見届けるべきだと思った。
しばらくドラゴンに合わせてゆっくりと歩いていると、目の前の木々が一瞬視界から消えて、開けた場所にたどり着いた。
天に届かんとばかりに高く伸びた木々の間から柔らかな日光の光が降り注いでいる。ここで昼寝をしたら、さぞかし気持ちよかっただろう。辺りにはリスなどの可愛らしい動物もいる。ドラゴンがやって来たのに驚きもせずドングリを口いっぱいにほおばっている。
ここが住処だったのだろう。ドラゴンはゆっくりと体を丸めて眠りにつき始めた。
........ドラゴンの表情など今日初めて見たが、この千里眼など使わなくてもその顔が安らぎに満ちていることはなんとなくわかった。
遠くのほうからイシュタル様の声が聞こえる。とりあえず、王子の特権でこの場所は秘密にすることを堅く誓って、俺は声のする方向へと歩き出した。
ーーお互いの認識ーー
・ギルガメッシュ➡イシュタル様
「近所の美人なお姉さん」
・イシュタル➡ギルガメッシュ王子
「自分好みの人形にしようとしていた子供」➡「危なっかしいけどカッコイイ男の子」