新・ギルガメッシュ叙事詩   作:赤坂緑

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遅れてしまい、申し訳ありません。
このところ体調が優れなかったもので....
皆さんも季節の移り変わりには十分に注意して下さいね!


王の宴≪後編≫

 

 

「さて......最後は貴様だぞ、征服王。」

 

騎士王と英雄王の問答以降暫くの間会話が途絶えていた王の宴だが、

無意識のうちに酒を口に運び続ける自分に気付き、愕然とした英雄王ギルガメッシュが早く終わらせなければならないという義務感に駆られ、

なにやら考え込んでいる様子の征服王イスカンダルを催促したことによって再開された。

 

「うん?お、おぉ~!そうであったわい!ではゴホンッ......余の王道は単純明快だ。欲しいものを力ずくで奪い、犯し、征服する覇者の道だ。まさしく余の異名通りよな!」

 

フハハハハハ!と喉を震わせ笑う征服王。

 

そんな征服王の姿にセイバーは思わずその秀麗な眉を顰め、ギルガメッシュは酒瓶へと勝手に伸びていく自身の右手を左手で押さえていた。

 

 

“沈まれ、俺の右手......!”

 

 

「な、なるほど、自身の我欲のためだけに動く王か。セイバーとは面白いくらいに正反対だな。」

 

取り敢えずは場を繋げようとギルガメッシュは震える右手を押さえながら思ったことをそのまま口に出した。

 

 

だがその場しのぎとは言えギルガメッシュの指摘は実に的を射ていた。

 

大男と小柄な少女、燃えるような赤を基調とした衣装に対し清廉な青の衣装。豊かな国の王と貧しい滅びかけの国の王、そして自身の欲に従って生きた王に対し名も知らぬ他人のために生きる少女。

容姿も含め、ありとあらゆる部分で対になっている二人の王を揃えた聖杯の采配に対してギルガメッシュは苦笑を禁じえなかった。

 

“全く粋なことをしてくれる”と

 

 

「そうさな......確かにこれまでの問答を聞く限りでは余と騎士王が相容れることはないであろうな。」

 

セイバーへと一瞬だけ視線を向けて呟く征服王。

 

「......私も貴公のような人に理解を求めてはいない。それに貴公の願いがどんなものかは知らないが、おおよそ私が受け入れられるようなものでないことだけは分かる。」

 

征服王の視線を敏感に感じ取り、すぐさま言い返すセイバー。そして始まる無益な言葉の応酬。

 

無欲な王なぞ飾り物にも劣るわい!云々...

 

まるで子供の喧嘩だな、とギルガメッシュは思う。

まぁ、この二人が仲良くできないことは最初から分かっていたことだ。

 

「貴様の王道はよく分かった。で、覇王たる貴様が聖杯に託す願いは一体何なのだ?」

 

しかし、このままでは宴が終わらない。

ギルガメッシュは多少強引にではあるが二人の口喧嘩を遮ってイスカンダルへと質問を振った。

 

「ふむ。願い、か......」

 

征服王イスカンダルはらしくもなく物思いにふけりながら杯を呷り、それからはっきりと答えた。

 

「受肉だ。」

 

これまでその器の大きさと我の強さを示してきた征服王が明かしたその願いの意外さに一部を除いて皆が動揺する中、

イスカンダルは拳をグッと握り込み、語り始めた。

 

「余はずっと見果てぬ夢を追い続けてきた。東へと立ち止まらずに進み続ければいつかはたどり着けると信じてな。」

 

常は爛々と輝いているその赤い瞳は

なにやら遠い昔を思い出してか小さな光を灯しながら伏せられていた。

 

「しかし、余には叶えたい夢はあってもそこに至るまでの明確な道が、その果てが見えなかった。」

 

つまり、と征服王はこれまでの道のりを振り返りながら空を仰いで続ける。

 

「余には絶対に倒すべき敵がおらんかった。......無論、これまで倒してきた敵が倒すべき敵ではなかったとかそういう訳ではない。ただ、彼らは余が進み続ける中で立ちはだかったからなぎ倒しただけのこと。余の辿り着く場所で待ち受けるわが生涯の宿敵ではない。」

 

“東方遠征”

 

人類の歴史の針を大きく動かしたこの偉業について王の真意は未だに明らかになっていない。

一説にはペルシア戦争の復讐、領土拡大の野心、古代の英雄達に憧れたが故の行動であった、等々様々な見解があるが残念なことに定説は存在しない。

 

此処におられる本人に尋ねてみれば、

“オケアノスが見たかったのだ!”

というふざけた答えを返され、歴史家たちに白目をむかせること間違いなしだろうが.....

 

しかし、本当はイスカンダル自身にもなんで遠征を始めたのかという明確な理由は分からないのかもしれない。

 

「結局余は最期までオケアノスまでの道筋が見えぬまま生涯を終えた。宿敵に出会うことがないままな......」

 

征服王イスカンダルの宿敵は誰か?と問われ場合、真っ先に思い浮かぶ人物はダレイオス三世であろう。

幾度となくイスカンダルの前に立ちはだかり、激闘を繰り広げて見せたアケメネス朝ペルシア最後の王。

 

彼こそまさにイスカンダルの“宿敵”

 

 

......いや、違う。違うのだ。

 

彼は“好敵手”であって“宿敵”ではない。

イスカンダルは彼を殺しても欲しいものを手に入れることはできない。

 

 

 

ーーだからこそ、イスカンダルはこの出会いに心より感謝する。

 

 

 

 

 

「だが!余は、遂に!宿敵を見つけた!」

 

征服王イスカンダルは椅子から立ち上がり、己が激情の全てを内包した苛烈な眼差しで目の前の黄金の王を真っ直ぐに見据えた。

 

「原初にして最果ての王、大帝王エルマドゥスが父、英雄の祖たる王、ギルガメッシュよ、余はここに宣言する。」

 

イスカンダルは常に自分の身を嘆いていた。

オケアノスへの狂おしいまでの渇望だけが先走り、肉体が追いつけない我が身を

 

イスカンダルは常に恨んでいた。

自分を偉大なる英雄たちと同じ時代に産み落とさなかった天を

 

 

「.......必ずや貴様を殺し、余は今度こそオケアノスへと至る。」

 

 

 

戦を愛し、

 

敵もまた愛す。

 

嘗ては敵であった益荒男たちを従え、ただ東に進み続けた男イスカンダルは、英雄王ギルガメッシュの“世界を背負う”その覚悟聞いた瞬間に、己の負けを認めたのだ。

 

そして歓喜し、決意した。

 

“この男は絶対に殺さなければならない”と。

 

「貴様こそが我が宿()()だ。英雄王ギルガメッシュよ」

 

 

 

 

「......是非もあるまい。それが貴様の願いというのであればな。しかし、惜しいな。」

 

殺し合いもまた楽しむべきだという価値観の持ち主である征服王の笑いなどの感情を一切廃した絶対に殺すという宣戦布告に対し、

ギルガメッシュはニヤリと冷たく鋭利な笑みを浮かべた。

 

「今の貴様ではこの俺にすら決して届かんよ。()()のいない貴様にはな......」

 

“臣下のいない征服王など恐れるに足らず。”

 

英雄王ギルガメッシュはそう言い切った。

 

「..........」

 

このギルガメッシュの挑発に対し、

暫く黙って考えていたイスカンダルであったがすぐさま面を上げた。

 

「確かに軍勢を持たぬ征服王では貴様の相手は務まらんだろうな。英雄王よ。」

 

一見負けを認めたかのようにギルガメッシュの言葉を肯定しながらもイスカンダルの口元に浮かぶのは獰猛な笑みだった。

 

「だが......死んでなお、夢を諦めきれぬ大馬鹿者が余一人だとは思わんことだ。」

 

 

ーー突如旋風が巻き起こった。

 

 

「うおぉぉぉ!?」

 

身体には熱風を、目には砂の攻撃を喰らい思わずうずくまったウェイバーだったがすぐさま状況を確認しようと顔を庇いながら上げた。

 

「っ!ライダー!?」

 

 

その目線の先に立つのは紅いマントを翻し、

仁王立ちで二人の王を見据えた戦装束の征服王だった。

 

“まさか、あいつ......!?”

 

その姿と突如吹き荒れ始めた風にウェイバーは己のサーヴァントがやろうとしていることに気が付いた。

 

「集えよ我が同胞たち!今こそ我らの雄姿を、夢への渇望を、時の彼方の王達に見せる時だ!!」

 

しかし、マスターたる彼は気が付くのが遅すぎた。

すでに王の号令が掛かり、

勇猛果敢なる戦士たちが時空を超え、

現代に集って来たのだから。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

迸る熱風

 

肌をザラザラと撫でる大粒の砂

 

蒼穹が如く澄み渡った青空

 

照りつける日の光

 

そしてこの場に不釣合いなテーブルと椅子

 

 

「こ、此処は......?」

 

あっけにとられたセイバーが思わず立ち上がり呟いた。

それも無理からぬことだろう。なにせつい先程まで月光に照らされたアインベルン城の中庭にいたはずがいきなり砂漠に移動させられたのだから。

しかし、魔術に疎いセイバーは知りえぬことだがこの見渡す限り砂しか存在しない砂漠の世界こそ征服王イスカンダルが持つ最強の宝具である大魔術()()()()

 

「ここはかつて、我が軍勢が駆け抜けた大地、すなわち我らが戦場だ。余と同じ夢を見、共に戦う中で心に焼き付けた景色だ。」

 

ふと、セイバーは自分たちの周りが蜃気楼のような影に囲まれていることに気が付いた。

皆が凝視する中、それらは徐々に明確な人としての形を持ち始め、存在感を増し始めた。

 

「先ほど余に臣下がおらんと言ったな?」

 

ザッ...ザッ...ザッ...ザ

 

足音が聞こえる。

力強く、荒々しい。

しかし、それでいて調和のとれている足音が

 

「故に恐れるに足らんとも」

 

一人、また一人とセイバーたちを包囲するように筋肉の引き締まった屈強な体躯と日の光を浴びて輝く華やかな具足の数々を実体化させ、

 

「この軍勢を見てもまだそんなことが言えるのか?」

 

此処に遥か彼方においてその名を轟かせた伝説の軍勢をここに復活させた。

 

「肉体は滅び、夢は潰えた......しかし!それでもなお、余に付き従う誉も高き伝説の勇者たちが、今!此処に!時空を超えて我が召喚の声に応えたのだ!おぉ....なんたる喜び、なんたる絆か!我らを前にしてはたとえどんな敵が道を阻もうとも、雷鳴がごとき素早さで蹂躙するに違いない!」

 

両腕を広げ、この世界の片隅にまで届けんとばかりに大音声で吠える征服王イスカンダル。

 

「もう一度言うぞ。余は英雄王、貴様を殺す。余の王道と仲間たちの絆で形度られる征服王たる証『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』でもって!」

 

ウオォォォォォォ!!

 

 

然り!然り!然り!

 

 

イスカンダル!イスカンダル!イスカンダル!

 

 

征服王は幾多の困難を共に乗り越えてきた仲間たちを満足げに眺め、

未だに席に着いたままの英雄王へと宣戦布告した。

 

 

 

 

 

 

「......ふぅ、やれやれ。()()というのはそういう意味ではないのだがな....」

 

一方、宣戦布告を受けたギルガメッシュは呆れたように小さく呟くとおもむろに椅子から立ち上がった。

その瞬間、声を止め、武器を構え警戒する兵士たち。

 

しかし、ギルガメッシュは欠片も気にした様子を見せずに席から立ち上がっている征服王と騎士王に目をやっていた。

 

「ふむ......宴は仕舞いか。ならばこれはもう必要ないな。」

 

ギルガメッシュが一歩退くと同時に先程まで王達が腰かけていたテーブルと椅子の下に王の財宝が開かれ、中に収納されていった。

 

 

 

「さて......」

 

この世界に存在する全ての人がその一挙一動に注意を払う中、

英雄王ギルガメッシュはまるでこの世界の王のようにイスカンダルの兵士たちを傲岸に見渡し、フッと口元を歪ませ笑った。

 

「臣下がいないから連れてくるとはな......フフ、中々に面白いものを見せてもらった。礼を言うぞ征服王イスカンダル。

 

......そして謝罪しよう。どうやら俺はお前に勘違いをさせてしまったようだ。」

 

 

ーー突如眩い黄金の光が征服王の世界を満たした。

 

その光は太陽に照らされて輝く勇者たちの鎧や盾の間を乱反射し、出鱈目に、皆の目を焼いた。

しかし、照りつける太陽の中戦い続けてきた兵士たちは1秒と掛けずに目を回復させ、この光の光源を見た。

 

「確かに俺は先ほど臣下のいない貴様を侮っていた。

しかし、臣下を連れてきたからと言って俺と貴様の間にある差はそう簡単には埋まらぬ。」

 

光源となっていたのは英雄王ギルガメッシュだった。

涼やかな白い布地の古代衣装と紅いマントに包まれていた彼から黄金の光が放たれていたのだ。

 

「時空を超えた絆か.....正直なところ羨ましくもある。だが、その絆とやらが世界の理を、この俺をねじ伏せるに値するものかどうかはまた別の話だ。」

 

程なくして、この世界に散らばっていた光は収束していった。

自然に皆の視線は光源にして収束先でもある一人の男へと向けられる。

 

ーーそこには()()()()がいた。

 

比喩でもなんでもなく、英雄王の肢体はほぼ全てが黄金でできた甲冑に包まれていた。

丹念に磨き上げられたその黄金の甲冑は自ら眩い光を周囲に放っており、まるで()()()()()であった。

形は西洋の甲冑に近いが肩の部分が大きく盛り上がっており、戦よりも玉座でその権威を示しそうなデザインだ。

それに加えて光り輝く黄金の中に所々見事な青の意匠が施されており、手甲一つ取って見てもその洗練されたデザインに目を奪われるだろう。

腰当には青い意匠と燃えるように鮮烈な紅い腰マントが着けられており、王の威光を示すように大きく広がりながら風に揺れている。

 

総じて得られる評価は間違いなく装飾過多であろう。

戦場よりは美術館で飾っておいたほうがよっぽど人のためになりそうな鎧である。もし仮に、この鎧を着て戦場に現れるようなバカがいるのならばすぐさま首をはねられた後、鎧をただの金に戻されて売られるのがおちであろう。

 

しかし、誰もその鎧を、英雄王を笑うことはできなかった。

 

なぜならば、その鎧から迸る高密度の魔力が、確かに感じる濃い神気が、何より、装着する人を選ぶこの鎧を一部の隙もなく着こなす英雄王はもはや神と見間違えるほどの神々しさに満ちており、この世界に存在する者全てを圧倒する覇気を放っていたからだ。

 

「故に、もう一度俺も先ほどの言を繰り返そう。」

 

だが残念なことに、黄金の甲冑に驚愕している暇は彼らにはなかった。

 

 

ーー英雄王が剣を抜く

 

 

人の子らよ、天変地異に備えよ

 

原初が語られ

 

天と地が乖離する

 

理を魂に刻んだ後

 

天を仰げ

 

 

「届かんと言った」

 

 

然して讃えよ

 

 

ーー英雄王の足元に宝物庫の扉が開かれ、一本の剣がゆっくりとその刀身を現した。

 

いや、それを剣と呼ぶのは間違っているのかもしれない。

 

黒い円柱が3本連なったような刀身に紅い模様が刻まれている。

柄は黄金でできており、青い意匠も相まってどこか黄金の甲冑を思わせる。

 

しかし、黄金の甲冑からは太陽のような力強さを感じたのに対し、この剣からは魂まで凍り付きそうな冷たい力しか感じられなかった。

 

「本気は出さぬ。だが、原初の力の一端を見せよう。間違っても意識を持っていかれるなよ?つまらんからな」

 

英雄王ギルガメッシュは黄金の手甲に包まれた右手を剣の柄に乗せた。

そして円柱が回転を始める。紅い風が頬を撫で、やがてそれは暴風へと進化していく。

 

「む?いかん!総員臨戦態勢に入れぇ!でかいやつが来るぞぉぉぉ!」

 

これまで事の推移を黙って見守っていた征服王だったがギルガメッシュのやろうとしていることに気が付いたのか急いで大声で号令をかけた。

 

“対軍......いや、対城宝具か?”

 

征服王イスカンダルは英雄王の取り出した剣を、刀身から発生した暴風を相手に叩き付ける殲滅宝具ではないかと当たりを付けた。

 

しかし、その予測は大いに外れることとなる。

 

 

原初を語る

 

元素は混ざり、

 

 

ーー■■■■■、■■

 

固まり

 

万象織りなす星を生む

 

 

 

ーーそして偽りの世界は剝がされ、人は原初を知る

 

 

「こ、これは...!?」

 

焦ったように征服王は呟いた。

 

いつの間にか彼らの駆け抜けたあの大地は人の身では決して届くことのない(そら)に浸食されていた。

 

 

何処までも冷たく、生命の息吹を感じさせぬ昏い世界。所々に散りばめられた星々がこの世界を淡く照らしている。

先程まで熱く乾いた砂を踏みしめていたその足元には既に地面などという上等なものは存在せず、代わりに、星々の光を掻き集めたかのような眩い光の奔流、すなわち銀河のようなものが渦巻いていた。

もはや上下左右も分からぬこの宙に放り込まれたことで分かることがあるとすれば、彼らの住まう星の心地の良い重力とその狭さだろう。

いったい誰がこんなにも冷たい世界を望むというのか?

 

 

驚愕のあまり言葉も出ない英霊達を見渡し、英雄王は両腕を拡げて高らかに唄う

 

「人の子らよ、刮目せよ!これこそが原初の理だ!貴様らの矮小な魂では理解すること罷り成らん!どうだ?本能が軋みを上げているだろう?それこそが正しい。原初の地獄、星が生まれるその瞬間に今貴様らは立っているのだ。」

 

乖離剣は世界を切り裂くという性質上、剣と銘打たれているものの、それはあくまでも副次的なものに過ぎない。

 

その本質は語ることにある。

 

「この世界には正義も悪も、人の作りし理など存在しえない。欺瞞も罪も罰もなく、ただ真実あるのみだ。」

 

人の遺伝子、本能に刻まれているはずの始まりの記憶を

 

 

しかし、これは本来現代においては発動させるだけで自壊へと至る“権能”に相当する業だ。

いくらギルガメッシュが英霊中で最も、或は殆ど神霊に近いと言われていても世界が許すとは到底思えない。

 

「人の子らよ、努忘れるな。その恐怖を、純粋なる原初の記憶を。そしてそれでもなお、俺に挑もうという気骨が残っているのであれば、剣を取れ。」

 

だが、彼こそは英雄王ギルガメッシュ。

4年間神々と戦い、4000年間人類史を見守り続けてきた原初の観測者。

“すでに手は打ってある”英雄王は乖離剣へとその手を伸ばす。

 

「俺がその混沌とした理もろとも切り裂いてくれようーー雑種。」

 

 

ふと、セイバーはこの世界の中心で回転を続け、この空間を形成している剣を見て、まったく似ていないものの、選定の剣カリバーンを思い出していた。誰にも抜くことのできない王を選ぶ剣。

あの乖離剣も同じだ。手にしたら最期、永遠に王としての宿命に生きなければならない。

しかも、あの剣は世界を滅ぼす原初の剣だ。手にしたら最期、この星の理を背負わされることになる。人の身には余る過酷な運命。

 

“いったい誰があの剣を手にとれる?”

 

ーーカチャッ

 

英雄王ギルガメッシュは何の躊躇もなく天と地を分ける乖離剣を手に取った。

 

“そうだ、貴方しかいない。分かっていたことだ。しかし.....”

 

そして無造作に一振り。

 

 

ーー世界は滅んだ

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「こ、ここはさっきの.....?」

 

ウェイバーが呟いた通り、彼らは何時の間にか砂漠でも宇宙でもない城の中庭に帰ってきていた。

もちろんのこと兵士たちの姿はどこにもなく、先程までの光景がまるで夢のようであった。

しかし、ウェイバーはあれが夢だったとは絶対に言わない。なぜならば、魂に深々と刻み込まれたからだ。

あの恐怖を、人の理解を超えた理を

 

 

「ふぅ。ひとまず己の王道を語り、願いを口にした。今宵の宴はこれにて仕舞いとする。異論はないな?」

 

皆が黙り込む中、英雄王ギルガメッシュは乖離剣を仕舞った右手を腰に当て、気怠そうに尋ねた。

 

「う、うむ。」

「え、えぇ.....」

 

そして返ってきた気のない返事に英雄王は頷き、

月光を浴びて妖しく輝く黄金の甲冑を翻して霊体となり、黄金の粒子となって去っていった。

 

最後に一言だけ残して

 

「汝、自らを以って最強を証明せよ」

 

 

 




天の理については出鱈目理論を用意しているのでお楽しみに!(滝汗


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