FGOの第7章が案の定「バビロニア」が舞台であることにうれしい反面、設定を変えなければならないかもしれない状況にひどく動揺している作者です。
だがしかし!私はどれだけこの小説と大本家の設定がかけ離れていようとも、修正する気はありません!
だって面倒だから!
ーーそこは、黄金の宝物庫だった。
光り輝く剣、槍、斧、弓、諸々の武器が完璧な配置で飾られている。
人の命を奪う恐ろしい武具の数々が「美しい」と感じるのは、それらの武器に製作者の魂と情熱、そして長きにわたる歴史が込められているからだろう。見る者によっては、歓喜の雄叫びと共に感動を抑えられず、咽び泣きだし、またある者は、畏怖を覚え、自身の目を疑いながら、その場から逃げ出しそうな光景である。特に心構えができているのならばともかく、いきなり訳も分からずこの空間に連れてこられた日には錯乱してしまってもおかしくはないだろう。
ーーとってもきれいだけど...こわいな...
事実その「少年たち」は困惑した後、純粋な感動と恐怖を魂で感じてその
「っ!」
飛び込んだ先の部屋のあまりの明るさに思わず目を閉じてしまう少年たち。
しかし、いつまでもこのままではいけないと分かっている彼らは恐る恐る目を開いた。
「............すごい!!」
そこはまさにお伽話にのみ存在することを許される空間であった。
宙に浮く魔法の絨毯、意匠をこらした黄金の椅子とテーブルに、不思議な香りを漂わせている小さな瓶、擦れば何か出てきそうな黄金のランプ、天蓋の付いた大きなベッド...
どこまでも続く宝の山に、少年たちは先ほどまでの恐怖も忘れて...いや、忘れようとして夢中で走り回っていた。
「おい!こっちにはでっかな『ふね』があるぜ!」
「ちょっと!それはぼくがさきにみつけたの!」
「うわぁーい!このベッドふかふかだぞ!」
皆が宝に気を取られている中、その少年はさらに奥に『扉』があるのを見つけた。
ーーあれなんだろう?
それは純粋な疑問だった。どこまでも続く宝の山に反してその『扉』はどこか異質だった。何かこの宝物庫にあって致命的にずれているような...
子供というのは好奇心の塊である。特に自身というアイデンティティーの確立が成っていない不安定な精神の子供たちは特に自分という存在を確実にするために、興味があるものには自身の糧とするためなのか、後先考えず近づいてしまう。
ーーなんだかすっごくぶあつそうな扉だな...
だから親は子供から目を離し過ぎてはいけないのだ。なにせ、気が付いた時には既に手遅れになっていることの方が多いのだから...
『あら?ダメよ坊や?そこから先へ進むと貴方、帰れなくなるわよ?』
声が宝物庫に鳴り響いた。美しく、清楚でありながら妖艶、愛を囁く恋人のように、我が子を抱きしめる母のような優しさで、この宝物庫に迷い込んだ時から不安定になっていた心をほぐし、その声は少年の動きを止めた。いや、少年だけではなく、先ほどまで宝の山に夢中になっていた子供たち皆が手を止めてその声に聞き惚れており、少年たちの中で、最も年長であると思われる少年は、何故か痛くなった股関を手で押さえていた。
『あらあら、おませさんなのね?ウフフ...ん?」
そんな少年を微笑ましく思ったのか上品な笑い声をあげていた声の主はしかし、突如何を疑問に思ったのか声を控えた。
【王の財宝起動、神性領域拡大を制御、空間を限定固定、処刑執行期限設定、解放段階を調整、全承認】
「えっ!?」
突如宝物庫の中に機械的なアナウンスのようなものが響き渡った。当然動揺を隠せない子供たち。
『はぁ~あの人ったら...またあの電球を使うつもりかしら?』
しかし、どこか呆れを含ませた先ほどの声によって子供たちの動揺は簡単に収まった。やはりこの声の主は自分たちの味方なんだと子供たちは自身の直感で判断した。
『よくお聞きなさい坊やたち!もうすぐ綺麗な金髪の王さまが貴方たちをここから出してくれるわ!そして、その王さまによってここでの出来事は全て一夜の夢になる。だから坊やたちは素直に王さまについていきなさい。いいわね?』
有無を言わせないながらも確かな優しさを感じさせるその声に安心感を覚え気がつけば少年たちは頷いていた。
『いい子ね。それとからもう一つ大事な約束があるの。......王さまには絶対に私のことは話さないでね?』
悪戯っぽい声で言われた約束もまた、少年たちは頷いて律儀に守り、声の主の存在が「王さま」にばれることはなかった。
◇◇◇◇◇
「ふぅ」
キャスターとの戦闘に巻き込まれた少年達の記憶をこれまた都合よく出てきた記憶改竄宝具を使って書き換えた英雄王ギルガメッシュは取り敢えず一息ついた。
「子供らの記憶改竄は無事に終了したが...どうしたセイバー?俺の顔をじっと見つめて?」
「いえ...これといって特に目的はありませんが、敵のサーヴァントから目を離さないのはサーヴァントとして当然のことかと...」
実はキャスターを吹き飛ばした後、すぐに駆け付けたセイバーと鉢合わせになってしまったのだが、特に戦意もなさそうだったので取り敢えず「王の財宝」内に回収していた子供たちの記憶を改竄することを優先させたのだが...その作業中もセイバーはただ黙ってこちらをじっと見つめるのみで、何というか...非常に居心地が悪かったのだ。
いや、確かに俺も顔には自信があるからどんどん舐めるように見てもらって構わないけれども、しかしチラッと見たセイバーの美しい碧眼から読み取れた感情は「困惑」と恐らく『嫉妬』であると思われる。
...俺なんかやったっけ?
俺が現世に来てやったことと言えば、遊んで、時臣の酒を飲んで、セイバーVSランサーの試合を酒飲みながら観戦して、影の薄いバーサーカーを串刺しにして、蟲をバーベキューして、時臣の娘をフィィィィィィィッシュ!して、ライダーと飲み会の約束して、ちょっとムカついたからアインツベルンの森の大部分を犠牲にしてキャスターを自慢の宝具を使って吹き飛ばしたぐらいだぞ?
一体どこに怒られる要素があるんだ?優秀なサーヴァントの手本じゃないか?
「その...英雄王...?」
無駄な思考に浸っていると、セイバーがなんかもじもじと可愛らしく戸惑いながら話しかけてきた。ちなみに何気にこれが初めてのセイバーとの会話である。
「ん?どうした騎士王?」
にしても、前世?から大ファンであった彼女とこうして会話できるとは...英雄になった甲斐があったというものだ。
「子供たちを救って下さり、ありがとうございました。貴方が駆けつけなければ、多くの罪なき命が散らされていました。」
そう言ってぺこりと律儀に頭を下げるセイバーこと騎士王。
...天使だ、天使がいる。
えっ?なにこの聖人?見ず知らずの子供たちの命を偶々救った敵サーヴァントに心の底から感謝して頭を下げるとは...
千里眼使わずとも分かるぐらい綺麗な魂をしているなこれは...
というか実物のセイバーがやばい。何がやばいかってまずブロンド好きの俺にはたまらん絹糸のような金髪に、澄み切った(嫉妬はスルー)碧眼、そして白い肌に、小柄な体躯。
見た目だけでなく、中身も...いや、中身こそがこの少女の真価であろう。他人を思いやり、故国救済を願う一途な少女。
「ふっ、気にすることはない。俺は英雄王として君臨するにあたり、当然の行いをしたまでのこと。」
これは...是非お友達からお願いするぞ!
何故か「王の財宝」の空間が揺らいだ気がしたが、気のせいということにしてスルーした。
◇◇◇◇◇
何故か急遽敵サーヴァントと飲み会をすることになり、ライダーの戦車に乗ってアインツベルンの森にやって来たウェイバーであったが...
「嘘だろ?...一体何があったんだ?」
半径およそ3km程に渡って木々をはじめとする物質の全てが
「う~む...これはまた凄まじい宝具を使ったのぉ。何を相手にしたのかは知らんが、これでは肉片一つさえ残らんだろうさ。」
「一体誰がこんなことを...」
「これまた心にもないことを言うな坊主。お前さんだって誰がこんな恐ろしい宝具を持っているか見当がついているだろうに...」
「......やっぱりあいつなのかな?」
「十中八九な。騎士王の宝具は聖剣と思われる以上はどれほど威力が高くとも、剣ならば斬撃の跡が残るだろう。ランサーはディルムッド・オディナだから伝承から見てもこんな頭の悪い火力の宝具は持っておらんはずだ。バーサーカーは恐らく宝具を使えるほど回復はしておらんだろうし、アサシンは論外であろう。となれば残るは2択だが...教会から指示があったタイミングを考えるに、キャスターをあの英雄王が吹き飛ばしたというのが1番筋が通る話だわな。」
「じゃあ、キャスターはあの英雄王に討たれて追加令呪も遠坂のものか...はぁ~本当に僕たち勝てるのか?」
「な~に、案ずることはない!令呪を手に入れたのは引きこもりの魔術師であろう?ならばどうせ腹を決めかねて使う機会を逃すだろうさ。それよりも問題は英雄王がキャスターを見つけるのが異常に早いということだな。」
「なんでだよ?あの英雄王ならどうせ便利な探索宝具を持っているんだろ?」
「いや、そう決めつけるのは早計だぞ坊主。なにせキャスターの工房を襲撃したのは我らの方が先であり加えて、あの工房にキャスターの真名のてがかりはなかった。いくら英雄王といえど、姿も真名も分からぬ相手を探し出せるような宝具を持っておる可能性は非常に低い。」
「じゃあ...英雄王のマスターが偶然見つけたんじゃないか?」
「余もそう考えたいが、もう一つ可能性があるとすれば...未だに姿を見せぬアサシンとそのマスターが英雄王の陣営と同盟を組んでいるということだ。」
「えっ?」
「アサシンは諜報向きのサーヴァント。影に潜み、情報を集めるのが仕事だ。そして影に潜むためには表で目立つサーヴァントに皆の注意が引き付けられていれば、非常に潜りやすい。あの英雄王は兎に角目立つからな...さらにキャスターの工房に現れた英雄王の装いは間違いなく現世の物。会話をした感じでも随分と現世に馴染んでいることから普段からマスターを置いて勝手気ままに行動しているのだろう。では何故そんなにも簡単に出歩けるのか?恐らくマスター殺し即ちアサシンを恐れる必要がないからだ。まぁ本人が能天気なだけとも考えられるがな...」
...相変わらずこのサーヴァントは何も考えていないようでいろいろ考えているな。
ウェイバーは遠くを見据えて思考に耽るライダーの横顔を見ながら改めてキャスターの工房を襲撃する前に教えられたライダーの
英霊の座にいるライダーの兵士たちに号令を掛け、皆でその心象を分かち合うことで伝説の軍勢を
規格外の超強力宝具に、些細なことも見逃さない観察力と論理的思考力。どれ一つとってもウェイバーが敵う点はなく、寧ろお荷物になっているような気さえしてきた。
ーー僕なんかいなくたってこいつ一人でなんとかなるだろ...
そんな自暴自棄な考えさえ浮かんできたウェイバーの思考はしかし、直ぐに遮られることとなる。
「おぉーーーーい!!英雄王!!」
戦車の上でいきなり叫びだしたライダーの大声によって。
◇◇◇◇◇
「ようやっと来たか...」
2km以上離れているであろう上空から響き渡る
「あれは...ライダー!?」
相変わらず俺のことをボーっと見つめていたセイバーだったが、流石に自分たちの拠点である城に新たに敵サーヴァントがやって来たとあれば臨戦態勢にも入ろうというものだ。
「あぁ、案ずるなセイバー。奴にも戦闘の意思はない。ただ、懐のうちを語ろうというだけらしい。」
「......はぁ?」
まぁ、それが普通の反応だろうな。
「......それで、その語り合いには貴方も参加するのですか?英雄王ギルガメッシュ。」
「無論だ。後世の王と語らうというのは俺がこの現世に舞い降りた目的とも一致しているしな。言うまでもなく、貴様の話にも興味があるぞ?騎士王よ。」
「目的...もしや、貴方の目的は聖杯ではないのですか?」
「そうだ。まぁ細かい話は宴の場でするとしよう。興味があるのなら杯を取るがいい。極上の美酒を用意しているぞ。」
徐々に地上に近づいて来たライダーの戦車を見ながら話すギルガメッシュの横顔をセイバーはじっと見つめている。
「おう!遅れてしもうたわい!」
着地した戦車から豪快に飛び降りたライダーは気軽に片手を上げてこちらに歩み寄ってきた。それに「気にしていない」という意を込めて軽く片手を挙げて答える。
あれ?今のやり取り気心知れた
「では、中庭に案内します。」
内心上がったテンションは何とか微笑に変換してヒョコヒョコと動くセイバーのアホ毛を頼りに中庭に向かう。あぁ~癒されるな
「ところで英雄王よ、神代の美酒を振る舞ってくれるというのは本当なのか!?」
「無論だ。英雄王の発した言葉に二言はない。」
ピョコ!っとセイバーのアホ毛が反応した気がした。
◇◇◇◇◇
城の庭に着いた王の御一行は取り敢えず酒を振る舞ってくれるというギルガメッシュが出した指示に従ってウェイバーを除いた3人で円を描くように並んだ。
「さて...まずは席を整えるとしよう。」
パチンッ!と鳴らされた英雄王の指での合図と同時に3人の中心に黄金の波紋が現れ、中から意匠を凝らしたテーブルと椅子が出てきた。
「おぉ~見事なもんだ!本当になんでも入っておるのだな!これもお主の息子である『大帝王エルマドゥス』が父の墓に献上したとされる宝物の一つか?」
「さてな、宝物庫が完成されたときには既に人類が生み出す
王たちが着席したのを確認したギルガメッシュは掌をテーブルの上に翳し、再び宝物庫の扉を開いた。
「しかし、神が作り出した宝物もまた例外的に幾つか貯蔵されている。」
現れたのは人数分の酒器と、芳醇な香りを放つ神の酒。
全員が器に酒を注いだのを確認した英雄王ギルガメッシュは声高だかに宣言した。
「では、これより聖杯問答を開始する!」
『大帝王エルマドゥス』
人類最古の帝王にして、英雄王ギルガメッシュの息子。イスカンダルが何度も口にしているように、世界征服を成し遂げて巨大帝国を築いた。
本来ならば「征服王」という呼称が正しいのかもしれないが、神代の名残が強い時期にほんの少しだけ君臨していた人物なので、後世の歴史家たちからは史実の人物としては認められていない。
宝具は