遂に現実まで進行してきた英雄王の「うっかり」
.........大丈夫かなこの小説?
新たに出現したサーヴァント。
その黒い影のような異形の姿に全てのサーヴァントたちの注意が惹きつけられる。
全身から発せられる「負」の気配。間違いなくバーサーカーだろう。
「なぁ征服王。あいつには誘いをかけんのか?」
バーサーカーを警戒しながらもランサーはライダーに向かって軽い口調で尋ねる。
「誘おうにもなぁ。ありゃあ、のっけから交渉の余地がなさそうだわい。........それにあの黒いのはすでに誘う相手を決めておるようだしな。」
ライダーの言う通り、黒いバーサーカーはこの場に現界した瞬間から倉庫の上に座っている英雄王ギルガメッシュにのみ視線を向けていた。
これはギルガメッシュも無視することができずにライダーに向けていた宝具をバーサーカーに向け直した。
しかし、バーサーカーを警戒しながらもギルガメッシュは思考に耽っていた。
.......おっかしいな。
いや、確かにうっかり忘れてたのは謝るけど俺はアサシンを撃退したわけではないから時臣のサーヴァントってことばれてないはずなんだけど.............うーん、消去法かな?
◇◇◇◇◇◇
「はは、はははは」
間桐雁夜は使い魔からの視界を通して戦況を観察していたが倉庫の上に突如現れたサーヴァントを見て掠れた喉で歓喜の笑いを漏らした。
間違いない。あのサーヴァントこそ真昼間から私服でどこぞに出かけていた時臣のサーヴァント!
「殺せ.......」
あのサーヴァントに特に恨みはなかったが、余裕たっぷりな仕草を見て時臣を思い出したので四肢をもいでたっぷりと苦しめてから殺すことにした。
「殺せ!殺すんだバーサーカー!あのサーヴァントの四肢をもいで踏みつぶせ!」
ギルガメッシュが時臣のサーヴァントということに気づいた理由は簡単。
......ギルガメッシュの不注意というか、うっかりである。
◇◇◇◇◇◇
ボコッ
それはバーサーカーの踏み込みで地面が陥没した音であった。
ギルガメッシュへと真っ直ぐに突っ込んで行くバーサーカー
その単純な突撃に対し、ギルガメッシュもまた展開していた宝具を片手の振り下ろしを合図として射出した。
迫りくる宝具の群れに対し、バーサーカーは回避行動をとることもなく最初に飛来した槍を掴みとると同時にその槍を長年の自分の相棒のように回転させながら振るい、次々と襲いかかって来る宝具を捌いていく。
これにはその場に集う全てのサーヴァントたちが驚いていた。重さも形も何もかも知らないであろう槍をあたかも自分の武器であるかのように使ってみせるとは.......
さらに驚愕はまだ終わらない。バーサーカーは一瞬で使い物にならなくなった槍を何の躊躇もなく捨てると飛来した別の剣と斧を掴み取り、これまた巧みに操りながら武器を叩き落していった。
やがて宝具の射出が若干収まった瞬間を狙い、倉庫の上のギルガメッシュに向かって剣を投擲した。
しかし、ここでまたサーヴァントたちは驚くことになる。
なんとギルガメッシュもまた飛来した剣を素手で掴み取ると倉庫の上から跳躍し、バーサーカーに向かって接近戦を仕掛けにいったのだ。
「さて、人の形をした敵は久しぶりだな。楽しませてくれよ?」
アーチャーとバーサーカーによる接近戦という聖杯戦争の常識を覆すような勝負が開始された。
先手はバーサーカー。その豪腕でもって斧をギルガメッシュに向かって叩きつける。しかし、ギルガメッシュはこれを読んでいたかのように身体を半身に捻ってこれを躱した。バーサーカーの放った一撃は地面に大きな亀裂を走らせるのみにとどまった。
次はギルガメッシュのターン。ギルガメッシュは躱した勢いもそのままに身体を回転させながらバーサーカーの首を狙う。
斧は今使えまい。そう踏んでの一撃だったが何時の間にかバーサーカーの空いた手に握られていた槍によって阻まれた。
どうやら先ほどのランサーのように地面に落としてあった槍を蹴り上げて使用したようだ。
再びバーサーカーのターン。ギルガメッシュの首を落とそうと斧を横なぎに振るう。しかし、これまた何時の間にか握られていた新たな剣によって防がれた。
どうやらまたあの謎の空間から武器を呼び出したようだとバーサーカーは理性なき頭で理解した。
斧と槍、剣と剣による四つの武器による命のやり取りは暫くの間続いたが、やがてギルガメッシュの左手の剣が弾かれた、しかしギルガメッシュは焦らず剣を両手で構えると力任せの大振りを放ち、バーサーカーが少しひるんだ隙をついて大きく後方へと下がると剣から片手を離し、虚空に突き出した。
すると先ほどのように空間が揺らぎ、数多の武器が射出された。
それらを再び巧みに捌きながらバーサーカーは機会を伺っていた。
ギルガメッシュの弱点をつける隙を。
◇◇◇◇◇◇
征服王イスカンダルはギルガメッシュとバーサーカーの決闘をその優れた観察眼でもって眺めていた。
........より正確に言うと英雄王ギルガメッシュを。
数多の宝具をまるで石ころのように射出できる凄まじい宝具。
それだけではなく、自ら打って出ることもできる技量の高さ。
実際にバーサーカーと渡り合っているのだから恐ろしい。
さらにアーチャーというからにはあの「弓」も所持している可能性もある。
近・中・遠、全てこなせる万能型サーヴァント。さらに知名度を考えればきっとステータスも凄まじいだろう。
さらにあの余裕の態度を見るに、何かとんでもないものを隠している可能性もある。
隙のない難敵だ。
......しかし、決して弱点がないわけではない。どうやらあのバーサーカーも気づいているようだ。
"できればあのバーサーカーには是非ともギルガメッシュの本気を引き出してもらいたいものだ”
とイスカンダルは内心で呟いた。
◇◇◇◇◇◇
バーサーカーは遂に状況を動かすことにした。
まず、渾身の力で槍を投擲した。当然剣で弾くギルガメッシュ。
その隙を逃さず一気に距離を詰めるバーサーカー、そしてそのままの勢いで先ほど手に入れた剣を右手で振り下ろした。
右手に持った剣で受け止めるギルガメッシュ。
しかし、それこそがバーサーカーの狙いであった。
バーサーカーは空いた左手でギルガメッシュの剣を掴んだ。その瞬間バーサーカーの魔力によって侵食されていくギルガメッシュの剣。
これに驚いた顔をしつつもギルガメッシュは空いた左手に剣を呼び出し、バーサーカーに振るった。
しかし、それを受け止めるバーサーカーの右手の剣。
今の状況はバーサーカーが左手でギルガメッシュの右手の剣を、右手でギルガメッシュの剣を押さえている。
これこそがバーサーカーの望んだ状況であった。
ーーバーサーカーはギルガメッシュと戦ううちに、ぼんやりとその弱点を把握していた。
まず、バーサーカーのほうがギルガメッシュよりもパワーは上であるということ。
そして、あの武器を射出できる宝具を使えるのは≪片手が自由である時≫のみであるということ。
ギルガメッシュは武器を射出する時は必ず片手を空けていた。あの一番最初の攻撃の時然り、距離を取る時然り、そしてつい先ほども。
つまり、武器を呼び出す時は片手でコントロールする必要があるということだ。
ならばその両手とも封じ込めれたのならばこちらの勝ちということだ。
パワーはこちらが上。この状況ならばその首を落とせる!
「いや、お前の負けだ。」
そしてバーサーカーは周りに出現した数多の宝具に串刺しにされた。
なぜ!?
その疑問が真っ先に浮かんだのはバーサーカーではなくライダーだった。
彼もてっきりギルガメッシュの弱点は片手だと思っていたのだ。
しかし、ギルガメッシュの顔に浮かんでいる笑みを見てすぐさま状況を悟った。
全てはギルガメッシュの作戦だった。バーサーカー相手に少しパワーで劣っているように見せたのも、武器を呼ぶ宝具が片手が空いている時でないと使えないようにみせたのも、そしてバーサーカーがその罠に引っかかるのも全てはギルガメッシュの思惑通りだったのだ。
「さて、止めを.......ん?」
ギルガメッシュが止めを刺そうとした瞬間、バーサーカーの姿が掻き消えた。
霊体化という線はない。バーサーカーを貫いた宝具の中に霊体をこの世に縛り付けておく宝具を紛れ込ませておいたのだから。
「ということは......令呪か。」
ならば仕方ない。ギルガメッシュは武器を仕舞うと観戦していたサーヴァントたちの方へと向き直った。
「今宵はもう興ざめだ。またいずれ存分に剣を交えようぞ、英雄たち。」
ギルガメッシュは霊体化して去っていった。
後に残されたのはあっけにとられたセイバーとランサーにそのマスターたちと何やら楽しそうな顔をしているライダーと白目を向いたそのマスターだった。
お約束のバーサーカーとアーチャーによる正面衝突の回。
今作のギルガメッシュの戦い方は少しせこいというか格上との戦いが多かったのでこうなったというか、なんかもうエミヤというか、そんな感じです。