新・ギルガメッシュ叙事詩   作:赤坂緑

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日間ランキング入りしていたことに驚きの作者。
作者がここまで続けてこれたのも全ては皆さんの感想のおかげです。
これからもよろしくお願いします!


王の悲願

英雄王ギルガメッシュは今日も今日とて街へと出掛ける。

 

「英雄王、時臣様がお呼びになっています。」

 

そんな自由奔放なサーヴァントを呼び止める女の声があった。

時臣の警護のために、遠坂邸に残ったアサシンの一人だ。

 

「ああ分かった。ご苦労だったアサ子」

 

鍛え上げられた美しく、しなやかな肢体にブラジル水着のような黒い煽情的な衣装を纏ったハサン・サッバーハの多重人格が一人女アサシンは骸骨の仮面の下で微妙な顔をしていた。

 

 

彼女が以前よりも細かく役割を分担され遠坂邸の護衛に任せられたのはつい先日のことだ。本来ならマスターの言峰綺礼のサポートに徹するはずだったのだがギルガメッシュから直々の指名を受けて遠坂邸での勤務になったのだ。

なんで指名を受けたのかというとギルガメッシュ曰はく「男に酒を注がせても面白くない」からだとか......

 

まぁ実際にギルガメッシュが敵のサーヴァントとガチンコで戦いたいと言い出したためアサシンの仕事は減ったので英雄王の酒の相手をする余裕くらいはある。

 

そしてこの女アサシンにとっても意外だったのはこの英雄王の酒の相手をするのが結構楽しかったことだ。

女のアサシンというだけあって貴族の男相手に踊りを見せたり酌をすることもあったので英雄王からの申し出もそこまで気張ってはいなかったがこの英雄王は今までアサシンが出会ってきた貴族たちと違うというか、口調こそ尊大なものの、思いやりがあるというか、アサシンは適度な緊張感を保ちながらも英雄王との会話を楽しんでいた。

 

特に世界に名高い「ギルガメッシュ叙事詩」をアサシンに音読させ、所々で止めては笑いながら訂正し、実際の話を聞かされた時は本当に面白かった。

 

そんな愉快な英雄王ではあったがどうしようもない欠点も抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..........「アサ子」ってどうよ?

 

 

英雄王にはネーミングセンスがなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「王よ、お待ちしておりました。」

 

軽く臣下の礼を取ってギルガメッシュを迎えたのはマスターの時臣だった。

 

「うむ。して、要件はなんだ?」

 

それに軽く頷いてすぐさま要件を尋ねるギルガメッシュ。

 

彼は早く遊びに行きたいのだ。

 

「実は、昨夜でこの聖杯戦争に参加する七体の英霊全てが召喚されました。」

 

「.........そうか。」

 

神妙な顔で頷くギルガメッシュが時臣には少しばかり意外だった。あれだけ戦いたいと言っていたのだからてっきりもう少し喜ぶものと思っていたのだ。

 

「今夜あたりにでも早速一騎潰しておくか。」

 

と思いきや、やっぱりノリノリの英雄王。

 

 

「俺はこれから街に出るが今夜は帰れんかもしれんな。......なにせサーヴァントの首を取りに行くのだから。」

 

本来なら喜ぶべきサーヴァントの発言なのだろうが何故か時臣は素直に喜べなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

現代の街並みを興味深そうに、あるいは懐かしそうに見て歩きながらギルガメッシュは思考に耽っていた。

 

実は、彼には悩みがあった。

 

名誉、美人な妻、美しい容姿、伝説の武具、財宝、後世まで残る伝説、

 

とおおよそ人が欲しがるであろうものをほぼ全て手に入れた彼ではあるがこの中に一つだけ入ってないものがある。それこそが彼の悩みなのだ。

 

 

 

 

 

.......ずばりそれは、「友達」である。

 

そう、彼には何気に友達がいなかった。

 

 

 

欲しいのだ「友達」が。こう胸の躍るような死闘の末に互いを認め合うような熱い青春というか、某少年漫画の主人公のようにいい友達を作りたいのだ。

 

下らないと思うかもしれないが、彼は本気である。なにせ原作のギルガメッシュですら「親友」がいるというのに彼ときたら友達ゼロである。

原作よりも性格がいいという自信がある身としては友達ゼロのままで人類の終わりを見届けるとかあり得ないのだ。

 

よって彼がこの聖杯戦争に参加した本当の理由は......友達作りだった。

 

だからと言って時臣に言ったことが嘘というわけではない。彼に語って聞かせたことも理由の一つではある。ただ、英雄たちとの死闘の末に互いを認め合って「友達」になれたらないいな~という思惑を言わなかっただけである。

 

「個人的にはライダー辺りがいい友達になってくれそうだな」

 

友達になって欲しい人ランキングをつけながら街を歩く美貌の英雄王ギルガメッシュ。

 

...........彼は少しばかり残念なイケメンだった

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて近くのカフェに立ち寄った英雄王もとい残念なイケメンは窓側に席をとり、アイスコーヒーを注文した。

 

暫くぼんやりと窓の外を眺めていたがやがてウェイトレスがコーヒーを運んできた。

 

「お待たせしました!アイスコーヒーになりま.......」

 

ギルガメッシュと目があったウェイトレスはその美貌にやられたのか職務を放棄してしまった。

しかし、思ったよりも早く立て直したウェイトレスはコーヒーをきちんとテーブルに置いた。

 

「すいません。あんまりにも綺麗なお顔だったのでつい.....今日は外国人の方でパーティーでもあるんですかね?」

 

その後半の独り言が気になったギルガメッシュはコーヒーに手をつけずにその詳細について尋ねてみた。

 

「そ、それがつい先ほども綺麗な銀髪のお姫様みたいな女の人とその付き添いのようなこれまた綺麗な金髪の少年がこのカフェを横切ったんですよ。」

 

うっとりと頬を染めて語るウェイトレス。

 

......間違いない。セイバーとアイリスフィールだろう。

 

「すまないが用事を思い出した。このコーヒーは君に譲ろう。」

 

立ち上がったギルガメッシュにウェイトレスは不思議そうに尋ねる。

 

「あの~もしかして、お知り合いでしたか?」

 

別に知り合いというわけではない。こちらが一方的に知っているだけだ。

 

 

 

「知り合いではないが、強いて言うなら.......彼女たちのファンさ。」

 

英雄王ギルガメッシュは街の人に2人の行き先を尋ねながらアイドルの追っかけのように追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

海の波と戯れる女神のように美しい銀髪の美女アイリスフィールの姿を見つめながらダークスーツに身を包んだ男装の麗人セイバーは今一度自分の願望について胸の内で見つめなおしていた。

 

「故国の救済」

 

あんな結末を認めてはならない。あんな誰も救われない結末は断じて認められない。

 

自分一人ならば構わない。この身一つで事足りるのならば喜んで差し出そう。

 

しかし、自分を信じていた民たちが、忠誠を誓ってくれていた騎士たちが無惨に何の意味もなく死んでいくあの運命だけは容認できない。

 

彼らが何をしたというのだ?ただ明日はきっといい日であるようにと願いながらその日を生き延びるために精一杯生きていただけではないか?

 

なのに運命はそんなこと知らぬとばかりに命を刈り取っていった。

 

何も知らずに希望だけを抱きながら命を落とした者たちはまだ幸せだったのかもしれない。

 

だが彼女に、アーサー王に希望はあると唆され最後には希望はないと知り、絶望の中死んでいった者たちの思いはいかほどだったのか。

 

きっと憎かったろうアーサー王が。

 

恨んだはずだアーサー王を。

 

 

彼女もまた憎かった「アーサー王」が。アルトリアという少女はアーサー王という存在を許さない。

 

だからこそ求めるのだ奇跡を。

 

今度こそ皆を救える『理想の王』になるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーそしてそれは前触れもなくセイバーたちに襲って来た。

 

 

 

「ッ!アイリスフィール!」

 

 

まるで心臓を握り潰さんとばかりに辺りを威圧する気配。

 

間違いなくサーヴァントだ。

 

「分かってるわ、セイバー行きましょう。」

 

決意を胸にセイバーの手を取ったアイリスフィールだがその手は震えていた。どうやら先ほどの尋常ではない気配に充てられてしまったようだ。

 

無理もない。実際にセイバーですらその気配に充てられかけたのだから。ともすれば宝具を解放してしまいそうになったほどに.........

 

「今日一日は私が貴方の騎士です。よって戦いの場であろうとも私がエスコートしてみせましょう。さぁ姫、少々危険なダンスパーティーの開幕ですよ?」

 

 

だがそんなことは一切顔に出さずセイバーはあえて余裕を感じさせる仕草で片手を胸に置き宣言した。

 

そんな冗談めいたセイバーに安心したのかアイリスフィールもまた余裕を感じさせる笑みを取り戻し、セイバーと共に気配を感じた方向へ悠然と歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー時折発せられる気配を辿ってセイバーとアイリスフィールがたどり着いたのは無人のプレハブ倉庫だった。

 

そう、「無人」なのだ。人はおろかサーヴァントも見当たらない。

 

 

「どういうことだ?.......」

 

てっきりこちらに誘いをかけていたと思っていたので少し肩透かしをくらったような感じだ。

 

いやもしかしたら隠れ潜んでいるのかもしれないと思い気を引き締めなおして辺りを見渡すがどこにも人影はない。

 

 

「ん?アイリスフィール、来たようです。」

 

すると向こう側の倉庫を軽々と飛び越えて一体のサーヴァントが現れた。

 

 

 

.....しかし、妙だ。あの気配ではない?

 

 

セイバーの直感によれば、たった今セイバーの前に降り立ったサーヴァントは先ほどの気配の持ち主ではないと告げている。

 

現に目の前のサーヴァントもセイバーが此処にたどり着いたばかりのころのように辺りを見渡している。

 

しかし、セイバーに目を止めると訝りながらも問いかけてきた。

 

「お前が俺を此処に呼んだ気配の持ち主か?」

 

美しい男だった。癖のある長い黒髪を後ろに撫で付け、端正な顔立ちをしている。女を捨てたセイバーにはよく分からないがさぞかし女性に人気がありそうな甘い顔立ちだった。特に目の下の黒子が特徴的だ。

 

身体もまた見事なものだった。動きやすさを重視した軽装のおかげでその豹のようなしなやかな体躯が表に出ている。

 

その両腕には奇妙なことに一本ずつ槍が握られている。

 

 

間違いなくランサーのサーヴァントだ。

 

しかし、この問いかけてから察するにランサーもまたあの気配に誘われて此処にやって来たのだろう。

 

........つまりあの気配はランサーとセイバーを戦わせて互いに消耗したところを叩くつもりか。

 

ならば、方針は決まった。目の前のランサーを速攻で打ち取り、疲弊した体を装ってのこのこ出てきた気配の主を叩く。

 

すると相手のランサーもこちらが返答をしなかったにも関わらず状況を察したのか笑みを浮かべて槍を構えた。

 

「どうやら俺たちを戦わせたいやつがいるようだな。思惑通りになるのは気に食わんがこうしてサーヴァント同士が出会ってしまった以上は戦うしかあるまい。その清澄な闘気......セイバーのサーヴァントに相違ないな?」

 

「いかにも。そういうお前はランサーか.....悪いが早々に勝負を決めたいのだ。口上もなしだが始めよう。」

 

「なるほど、お前もその結論に至ったのかセイバー。いいだろう、中々に斬りがいのある敵のようだ。いざ尋常に.....」

 

 

「「勝負!」」

 

 

 

ここに聖杯戦争第一戦の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 




感想欄の愉悦部@部長様の案でライオンさんの名前が決まりました!
正式に宝具としての名前を付けてから発表したいと思います。

......作者の嫌いなもの「ネーミングセンス」という概念

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