え?スーパー神話対戦ラグナロク?もう終わったよ。
......作者の技量ではラグナロクは無理なんです!!(涙目
◇ギルガメッシュ◇
深く息を吸う。
標的を見据えたまま呼吸を止めて弦を引き絞る。
魔力を静かに流し、矢を生成する。
どれもここ数年で慣れた動作だ。
標的に動きはなく、こちらに気づいた様子はない。
限界まで引き絞った弦から指を離し矢を放つ。
矢は真っ直ぐに飛んで行き、標的の神核を........
撃ち抜くはずが直前で身体をひねって肩を貫くにとどまった。
「ちっ!またか!」
実はこの「神々は我が裁く(ジャッジメント・オブ・ギルガメッシュ)」
で仕留められた神はそこまで多くない。
これは俺の狙撃の腕前が悪いというよりは神々の勘がよすぎるというか、
正直な話これほどまでに神が厄介な存在とは思わなかった。
後ろに眼でもついてんのか!?みたいな察知能力で避けるのだから手に負えない。(本当に後ろに眼が付いている神もいた。)
さらに千里眼で見てみると数キロ離れた所から狙撃したはずなのにこちらの居場所を見つけ憤怒の表情で目前まで迫ってくる神の姿が.......
「仕方ない。エア!」
弓を仕舞って乖離剣エアを取り出し魔力を流す。
実は俺は今隠密のために黄金の鎧を装着していないのでエアを全力で振るえない。
しかし、今回の神相手に黄金の鎧を着込んで正面からやり合う気はない。
「ふっ!」
エアを軽く振るい、地面をめくって相手の視界を塞ぐ。
相手がこちらを見失っている間に俺はこっそりと移動。そして、
「王の財宝!」
その大部分を蛇との戦いで失ったものの宝物庫には未だに武器職人たちが剣を補充してくれているうえに、ここ数年で倒した神から奪った宝具も入っているので本数は少ないものの中身自体は結構充実している。
「ぐっ!?」
敵の神は目の前に次々と現れる宝具を捌ききれずにいる様子。
よし!今度こそ......
「神々は我が裁く(ジャッジメント・オブ・ギルガメッシュ)!」
完璧に隙をついた一撃はしかし直前で反応した神によって避けられる
「甘いな『神の追跡者(ジャッジメント・チェイサー)』」
しかし、彼方へと飛んで行くはずだった矢はその先に展開されていた空間の中に入り、宝物庫の中を通って数多の宝具と共に打ち出され、神の神核を貫いた。
......まぁ、かっこいいネーミングをしているがようは王の財宝を併用した射撃だ。
「ふぅ、やっと終わっt『グオォォォォォォォ!』」
何故か高まる神の魔力。どうやら神核に少し罅を入れただけのようだった。
「はぁ~結局こうなるのか。倒したと思ったら強くなって復活とか、いったい俺は何レンジャーなんだ?」
黄金の鎧を装着しながらぼやいてみる。
「ゴールド戦隊ギルガメッシュ参上!!.......恥ず。」
ポーズまで取って現実逃避をしていたが敵さんが迫っている以上は仕方ない。
「......行きますか。」
こうして俺はここ数年で慣れたように荒れ狂う神へと鈍器片手に突っ込んで行った。
◇イシュタル◇
あの人が神々との戦いに身を投じてはや4年。出産までに帰って来ると言っていた約束はどうしてしまったのか......
これまで約束は全て守ってきたあの人がここ最近連絡すらとれなくなっている。宝物庫の剣が減っているということは無事な証拠だと思うがそれでも心配だ。
「母上?」
ふとあの人に思いを馳せていると息子の『エルマドゥス』が心配そうな顔で私に駆け寄って来た。
息子に心配されるとは....私もまだまだね。
「ごめんなさいエルマドゥス、何でもないわ。さて!今日は何しましょうか?」
うーん.....と可愛らしいく悩む息子。というか可愛すぎ。まるであったばかりの頃のギルガメッシュだわ。
「今日は城壁に登ってみたいです!」
「今日はじゃなくて今日もでしょ?そんなにあの城壁が好き?」
「はい!だってあれは父上が作ったんですよね?」
「ええ、そうよ。......やれやれ一回も会ったことないのにどうしてこんなにお父さんっ子になったのかしら?」
「母上?」
「いえ、何でもないわ。さぁ、行きましょうか!」
◇ギルガメッシュ◇
ウルクよ.......私は帰って来た!!
ふぅ、何年ぶりだ?ここ最近は時間の間隔がおかしくなってきたからな。
.......まぁおそらく俺の子供は産まれているだろう。出産までに帰るという約束、果たせなかったな.......
ふと前を見ると金髪に紅眼の美女と同じ色の髪と眼を持つ子供が手を繋いで歩いていた。何故かそんなに離れていないのに姿はぼんやりとしか見えない。
すると美女が俺に気づいた。
暫く唖然としていたかと思うと急に顔を両手で覆って泣き始めた。
子供の方は急に泣き始めた母親にビックリしてオロオロするばかり。
やがて母を泣かせた原因が俺にあると睨んだのかこちらへと近づいて来た。
「おい!お前!母上を泣かせるとはいったい何者だ!」
ここまで来れば俺にだってこの泣いている美女と子供の正体は分かる。
というか何故ぼんやりとしか見えなかったのか分かった。
俺も泣いていたからだ。
......さて、俺の正体だったな。
「我が名は英雄王ギルガメッシュ。このウルクを統べる王である。そして........お前の父親だ。」
こうして俺はウルクに帰って来た。
ーー俺の帰還を知ったウルクはそれはもう凄かった。
民たちは英雄王の帰還を喜び3日3晩宴が続いた。
父上からもみくしゃにされながら酒を飲みまくった。
裸になったダモスを転移宝具で場外へと飛ばした。
シェムに泣きながら説教された。
息子に冒険の話をせがまれた。
そうして祭りを終え、何時の間にか賢者モードになった状態でイシュタルとベッドの上で向かいあっていた。
彼女には迷惑を掛けた。いや彼女だけではない、多くの人たちに迷惑を掛けた。そして、これからも.........
「なぁ、イシュタル。」
「うん?」
可愛らしく首をかしげて返事をするイシュタル。
彼女にこれから残酷なことを言わなければならないと思うと胸が痛いが仕方ない。
「実は........
ーー次の日、俺はイシュタルと共に神殿を訪れた。
そこではアヌ様が静かに待っていた。
「ギルガメッシュよ。此度の働き真に見事であった。神々の出鼻を挫けとは言ったがよもや壊滅にまで至らしめるとは......」
「...........」
「何を黙り込んでおる?........いやそういうことか。安心せい、お前の言いたいことは分かっておる。だからその眼で儂を見るな。」
こっそりと千里眼を発動させていたのがバレたようだ。
「......お前はこう言いたいのだろう?儂らの時代は終わったのだと。ここから先は人間の時代なのだと。.......だがお前は知っている筈だ。お前の治めている人間たちの愚かさを、醜悪さを。」
ここ数年、神々と戦い続ける中で分かったことがある。
「欲望のままにこの美しい大地を汚し、私利私欲のために同じ人間同士で傷つけあう。儂らのような神という存在がなければ奴らはまともに生きることすらできん!そうだ!!奴らには必要なのだ!儂が!神が!!」
「いいえアヌ様。貴方はもう必要ないのです。」
そう、神はもう必要ない。
「........なに?ではいったい誰が人間を『管理』するのだ!奴らを束ね、支配するこの重要な役割をいったい誰が果たすと言うのだ!!奴ら目を離すとすぐに下らん争いを始めるのだぞ!!」
『管理』ね...........
「残念ながら管理する者はいませんが『導く者』ならここにいます。」
「ほう?貴様が人間を管理するのかギルガメッシュ?」
「だから管理ではないと申し上げた筈。導くのです。........そもそも人間を管理すると言い放った時点で貴方は支配者に相応しくない。」
「何だと?」
「アヌ神よ、貴方のいう管理とは人間をこのままの状態で維持し続けることでしょう?」
「他に何がある?奴らは直ぐに下らん思い付きで自然を汚すのだぞ!!」
「それは仕方ないことでしょう。なにせそれが彼らの存在意義なのですから。おっと失礼、自然を汚すことが存在意義と言いたいのではないのです。俺が言いたいのは先ほどアヌ様がおっしゃった下らん思い付きです。」
結局のところアヌ様も急進派の神々も人間のことを人間として見ていなかったのだ。
「人間の存在意義は進み続けることです。下らない思い付きから己の考えを広げ、周りの自然や人を犠牲にしながら前に進み続ける。それこそが人間の存在意義です。だからこそ『管理』ではいけないのです。現状から停滞したまま前に進まず自己の限界に挑まないなど人間ではありません。」
人間は人間だ。神々には申し訳ないが産まれてしまった以上は人間なのだ。
「........だがそれが人間の存在意義だとしても自然を破壊していい理由にはならない。自然は儂らのものだ。」
「いいえ、この自然は神々のものではありません。」
「.......では人間のものだと?自分たちのものだから汚してもよいと?」
「いいえ、人間のものでもありませんし汚していいものでもありません。」
「ではいったい誰のものだ?」
「誰のものでもありません。この空にも大地にも所有者の名前など書かれておらず、ただそこにあるだけです。そう、そこにただ存在しているだけなのです。それを人間はやれあっちからこっちは自分のものだやれお前は大地を取り過ぎだのと確かに醜く愚かですね。そうやって自然を星を食いつぶしていくのでしょう。」
「そ、そうだ!だから儂はお前たちを管理しなくてはならないと言っておるのだ!!」
「........アヌ様、この星の寿命がいくつか分かりますか?おそらく分からないでしょう。しかし、この星の終わりまで美しい自然をぼんやりと眺めながら朽ちていくおつもりですか?そのように停滞した生に何の意味があると言うのです?」
「........」
「人間はこの星を滅ぼすでしょう。欲望の赴くままに。その過程で多くの悲劇が起こり、多くの自然が汚されるでしょう。
しかし、人間は進み続ける。それが存在意義なのだから。そしてこの星が終わりを迎えた時、彼らは新たな星を求め、旅立つでしょう。進み続けるために.......。」
「........人間はもう儂らの手の中から巣立っていると?」
「ええ、とっくの昔に。」
「........進み続けるか。..........いいだろうこの先からはお前たちだけで歩かせよう。なぁギルガメッシュ?」
..........あの顔を見るにどうやらこっそりと王の財宝からこの会話をウルク中に流していたことがばれていたようだ。
「実はな、儂も最近存在し続けることに疲れておったのだ。今回の問答をもって儂の生を終わらせるとしよう。........儂はもう行くがお前はどうする?イシュタル。」
「........私は息子の成長を見届けてからそちらへ行きます。今までありがとうございましたお父様。」
うむ。とアヌ様は頷くと両腕を大きく広げながら立ち上がり、ウルク中に響き渡るような大きな声で語り始めた。
「人の子らよ聞け!お前たちはこれから自分たちの足だけで進んでいくことになる!完全な自由だ!だがしかし、安易に喜ぶことなかれ!これからお前たちが直面するのは人間同士による絶えない悩み事や争い、さらには理性なく襲いかかる理不尽な自然だ!お前たちはもはや我々神々の加護を得ることのできぬその脆弱な身体でその全てを乗り越えなくてはならない!怖いだろう?恐ろしいだろう?だが、恐れることなかれ!お前たちの生き汚さは儂がよく知っておる。進め!進むのだ!そしてその果てにお前たちが産まれてきた意味の答えを出すのだ!.......頑張れよ。」
最高神アヌは神としてこの世を去った。
ーー2年が過ぎた。アヌ様に続いて他の神々もポツポツと現世を去るようになっていった。
俺はというと、当然忙しかった。
法整備から始まり学校の制度も自主性を重んじるものに整備した。俺の息子も学校に通わせて帝王学を学ばせている。
できちゃった川は終末裁定槍エンリルが水源となっていることが分かったので水中にエンリルを奉る立派な祭殿を作らせた。
仕事だけに忙しかったわけではない。遊びもちゃんとやった。
ウルクの技術を全て結集させ、さらにまだ現世に留まっていた太陽神シュマシュ様の力も借りてヴィマーナを完成させた。
ライオンさんに乗ったイシュタルとヴィマーナに乗った俺とで鬼ごっこをしたりもした。
地面に王の財宝から剣を大量に突き刺し、炎剣による演出を使って
「無限の剣製」のものまねをやったりもした。
王の財宝が未完成なことに最近気がついて急いで財宝をかき集めたりした。(当然間に合わなかったので未完成のまま)
本当に忙しくて楽しかった。
そして今日、目が覚めた時点で気がついた。
..........俺の命は今日終わると。
実は神々との戦いの最中、とある神から呪いの掛かった一撃を受けてしまった。
別に俺は油断も慢心もうっかりもしていなかった。ただそいつの一撃が変態的な軌道を描いて俺に直撃したのだ。
さらに運の悪いことにその呪いは数年間の間は身体の中に潜んで根を張り、攻撃を受けたことを忘れた頃くらいに命を吸い取り始めるのだ。
.......あの絶対に避けられないような軌道といい、この嫌らしい効果といい、個人的にはこの時代からあるのかどうかは知らないが抑止力的な何かが働いている気がする。俺が強くなり過ぎるのを危惧したか?まるで影の国の女王みたいだ。
まぁ、俺も精一杯解術する方法を探したりいろんな宝具を試してみたが俺の身体と一体化している以上は無理だった。
このことはイシュタルにだけ伝えてある。
伝えた時はそれはもう泣かれた。泣きまくっていた。俺もちょっと貰い泣きした。
そしてひとしきり抱き合って泣いた後、残る命を精一杯使って幸せに生きようと決めたのだ。
「.......イシュタル。悪いが今日までみたいだ。」
「.......そう。」
お互いに覚悟していたことだそこまで驚きはない。それでもやはりイシュタルは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「みんなを呼ぶ?」
いや、俺は首を横に振ると玉座までイシュタルの手を借りながら歩いていった。
最期の時をいざ迎えるとなると何をしていいか分からないものなんだと今知った。
......そうだ!せっかくだから「千里眼!」
俺のウルクが見える。そうだなまずは、「学校」を見てみるか。
ーー子供たちが剣を振っている。あれは剣技指導クラスか。
相変わらずダモスの変態剣技指導は続いているようだ。
まぁ、あの不意打ち特訓のおかげで不意打ちが得意になったのだからあのダモスにも感謝してやらんこともない。
ーー子供たちが先生の話を真剣に聞いている。あれは政治指導クラスか。
ん?あれは......エルマドゥスか!そうか、俺の息子がああやって真剣な表情で授業を受けているとは.....なんか感慨深いな。
あまり父親らしいことはしてやれなかったが頑張れよ。
さて、次は川に行くか。
ーー民たちが何かに頭を下げながら水を汲んでいる。
ん?あの特徴的な口の動かし方をする名前は
ギ..ルガ...メッシュ?
いや、なんか感謝されてもあんまり嬉しくないっていうか....
もういいや。元気でな俺の民たち。
さて、次は城門か
ーー見張りをする兵士たち。
..............驚くほど何もないな。職務ご苦労さん。
続いて街中を見てみる
ーーあれは.....父上だ!
ん?果物屋の女の子にすり寄って.....口説いてる!?
何やってんの父上!?
.......死に際にとんでもないもの見てしまった。
次は.......
ーー黒髪の美しい女性が忙しそうに指示を出している。
シェムは相変わらずご苦労さん。というか本当に今までありがとう。
........ところでシェムはいつ結婚するんだろう?
何度かお見合いを進めてみたが全て断られた。本当に美人なのに勿体ない
彼女には本当に幸せになってほしい。
そして最後にイシュタルと目を合わせた。
「なぁ、俺がいなくなってウルク大丈夫かな?」
急に不安になって来た。
「あら?私たちは信用ならないかしら?」
「.......何名か心配な人が......いやもう考えないことにしよう。そうだな、もう任せると決めたからな。後は任せる。」
さて、言うことがなくなってしまった。
......いやあったな。
「イシュタル。今までありがとう。愛している。」
短い言葉だがこれで十分な気がした。
「.....私も愛しています。」
その言葉に満足して目をゆっくりと閉じる
ーー突然目が勝手に開き千里眼が発動した。
なんだ!?なんだこれ!?
そして映し出されたのは人間の歴史。これから始まる歴史。
争いを繰り返し
悲劇が積み重なっていく
それでも前に進んでいく人間たち
発展していく街、乗り物、道具
減っていく豊かな緑
やがてこの星を自分たちで滅ぼし、宙へ..........
「何を見ているの?」
「.........未来だ。」
そして、今度こそ目を閉じ、暗闇に身を任せた。
英雄王ギルガメッシュ享年26歳。
やり残したことはあるが満足のいく人生だった。
これで「神話編」は終了です。
今まで読んで下さった読者の皆さん本当にありがとうございました。
これから先もお付き合いいただけたら幸いです。
次回からは何話か説明などを挟んでから第四次聖杯戦争編に入りたいと思います。
またもしかしたら何話か修正を加えるかもしれません。