◇ギルガメッシュ◇
宿敵エルキドゥとの戦いを終えてウルクに戻り一週間ほど経った。
この一週間は兎に角忙しかった。
具体的に言うと、蛇の攻撃&エアの暴風で破壊されたウルクの城壁の修復に、何故か誕生してしまった川の整備などで本当に忙しかった。
さらにそんな中、空気も読まずに今さら帰って来たアヌ様とシュマシュ様に俺の堪忍袋の緒が切れるのは仕方ないことだった。
「どういうおつもりですかアヌ様!このウルクに未曾有の危機が訪れたというのに肝心な時におられず、危機が去ってからのこのこ帰って来るとは......最高神が聞いて呆れますね!」
最高神に向かって怒鳴り散らす俺。
完全に不敬だ、自害だ、腹切りだ、ライオンの餌だ。でも言わずにはいられなかった。
しかし、アヌ様は難しい顔をしたまま何も言い返して来ない。
......なんか調子狂うな。
「.......ギルガメッシュよ。儂らが不在の間よくぞこのウルクを守り抜いた。そして何の力にもなれず申し訳なかった。」
神妙な顔で頭を小さく下げるアヌ様。アヌ様が人に謝っている.......
......なんか調子狂うな。
「さらに儂はこれからお前に過酷な命令を下す。すまないが心して聞いてくれ。
.............実は急進派の神々との対立が明確なものとなり、武力衝突が避けられない状況になった。儂とシュマシュの帰りが遅れたのも連中の妨害を受けていたからじゃ。」
......えっ?ということはスーパー神話対戦ラグナロク開始?
「じゃが正面からぶつかれば双方共に甚大な被害を被ることになる。さらに人間たちも巻き添えを喰らうことになるだろう。よって不意打ちの先制攻撃を仕掛ける。」
なるほど、敵の足並みが揃う前に出鼻をくじいておこうということか。
「その不意打ちの任をギルガメッシュ、お前に任せる。」
......なんか耳が狂ってきたな。
いやいや無理だって!確かに俺はエアを持った超イケメンの完璧王だけれども、神々を相手にするにはいささか力不足な気がする。
「お前には『神々を殺す弓』を渡したはず.....忘れたとか亡くしたとか言わせんぞ?」
あ.......あの弓か!?
まさかあの弓を手に入れた瞬間から俺の運命決まっちゃった感じ?
「つ、つまりあの弓でもって急進派の神々を闇討ちしろと?」
「闇討ちではない!奇襲または不意打ちと言え!」
......なんか頭痛くなってきた。
「........真面目な話、本当にお前にはすまないと思っている。お前にはこれまでも神々の衝突を避けるために、ウルクを守るために儂の代わりに戦ってもらっていた。しかし、結局は争いを避けることはできずこうなってしまった。全て儂らの責任じゃ。」
アヌ様.........
「じゃがせめてこのウルクだけは守ってみせよう。そのためには神格が高くなく、神気もそこまで濃くないお前のような中身も外見も中途半端な半神の力が必要なのだ!!」
......なんかアヌ様で弓の試し撃ちをしてみたくなった。
「引き受けてもらえるか.....ギルガメッシュ?」
まぁ、俺にだってこれがベストなことはよく分かっている。仕方ないか。
........いや自分を偽るのは止めよう。俺は奴らを殺したくて仕方ない。我が宿敵の身体を貶め、ウルクを滅ぼそうとしたその罪、万死に値する。連中はいづれアヌたちを利用してでも皆殺しにしようと思っていた。これは丁度いい機会だ。
「分かりました。神々を討ち、ウルクを守り通してみせましょう。」
「........ということなんだ。」
夜、夫婦の営みを済ませたベッドの上でイシュタルに出張が入ったいきさつを話す。勿論俺のどす黒い本心はオブラートに包んで。
「......そう。帰りは何時になるの?」
思っていたよりもあっさりと受け入れてくれたことに少し驚きつつ正直に話すことにする。
「それが.....分からないんだ。でも多分早くて1、2年。遅くて.......ごめん、分からない。」
そう、何年掛かるか分からないのだ。こればっかりは神と直接対峙しない限りは分からないだろう。
「そう........せめてこの子の出産に間に合ってくれれば嬉しかったのだけれども......」
「ああ、そうだな。俺もせめてこの子が産まれるまでには..........」
..........え?この子?
「あらごめんなさい。うっかり言うのを忘れてたわ。このお腹には貴方の赤ちゃんがいるのよ。」
........はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
エルキドゥと戦う前に言ってた話したい事ってこれぇぇぇぇぇぇぇ!?
「うふふふ、ビックリした?」
しました!!めっちゃしました!!俺に子供!?
「私としては当然貴方の子を産みたいのだけれども、貴方はどう?」
少し不安そうに尋ねてくる我妻イシュタル。
答え?決まっているじゃないか!
「産んで下さい!産みまくって下さい!」
よっしゃ!!出産までに絶対帰ってきてやるぜ!!
神様がなんぼのもんじゃい!!!!!
ーーそんな夜を過ごした次の日、シェムにも事情を説明し(何故か説教された)俺が留守の間の業務を振り分け、武器の手入れをしてからいよいよ出発の時間になった。
「ご武運を貴方。絶対帰ってきてね。私のために、この子のために。」
まだ膨らんでいないお腹に手を当てながらイシュタルが言う。いささか束縛的な言葉だが帰る理由が強制的に作らされていれば結構生き残る気力が湧いてくるものなのだと死にかけているうちに学んだ。だから絶対に帰って来る。.........出産までに!!!
「.........またあなたは騒動の中に鈍器片手に突っ込んで行くのですね。必ず無事で帰って来て下さいよ。じゃないと英雄王ギルガメッシュの武器はダサい鈍器だったと後世まで語り継がせますから。」
呆れたような顔をしながらも心配そうな目が顔を裏切っているシェムが言う。
大丈夫さ。遠距離から狙撃するだけだから無事に帰って来るさ。
......後、鈍器じゃなくて『剣』だから!!
「お前が留守の間のウルクは必ず私が守ってみせよう。安心して行って来い、我が息子よ。」
俺がいない間、ウルクに臨時で王に復帰してくれる父上が優しく俺の背中を押してくれる。隠居生活を楽しんでいたところを申し訳ない。
「ギルガメッシュ様ーー!私は貴方のことが好k
変なことを言いかけたダモスを蹴り飛ばす。
「..........コクリ。」
無言で頷くライオンさん。今回ライオンさんはウルクに残ってもらう。
思えばこれまで数々の苦難をライオンさんと一緒に乗り越えて来た。
もはやお互いに相棒とさえ呼べるだろう。
そんな相棒もいない状況で神に一人挑む俺。だがしかし、なぜか緊張はない。
それはライオンさんがいつも通りにハードボイルドだからだろうか。
.......それとも俺が胸の内に秘めている怒りのせいか。
最後にもう一度相棒と頷きあってから俺はウルクを城門から街を眺め、みんなの顔をもう一度見てから神退治へと出掛けた。
神だかなんだか知らないが、俺はまだやるべきことがたくさんあるんだ。
サクッと倒して帰宅させてもらおう。
あっ!この弓の名前思いついた。
『神々は我が裁く(ジャッジメント・オブ・ギルガメッシュ)』
......なんか中二病っぽいな
今までの度重なる嫌がらせ、自分の宿敵の身体を勝手に弄る。
『王』はお怒りです。
思わず今まで神々を敬っていなかった事実が読者の皆さんに露見するくらいに。
ーー追記ーー
何時からうちのギル君が綺麗なギル君だと錯覚していた?