新・ギルガメッシュ叙事詩   作:赤坂緑

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原作の「英雄王」とは英雄たちの王という意味だそうですが
この小説では英雄で王様という意味です。




英雄王ギルガメッシュ

◇ギルガメッシュ◇

 

「喰らえ『王の財宝』!」

 

結界の外に展開した空間から剣群を射出してみたがなんの効果もなかった。なにせ蛇の身体を削っても直ぐに水で補強されるうえに体内に剣が飲み込まれていくのだ。........残念ながら俺はダモスに剣を回収させるのが楽しくて回収用の宝具を見つけていないので宝具の回収はできない。

 

試しに水だったら炎で蒸発するんじゃね?という安易な考えでネタ装備「炎剣」も射出してみたが直ぐに体内で消化された。

 

........というか、気のせいでなければ余計に怒らせただけのような気がする。

 

ピシッ!

 

結界の亀裂は大きくなるばかり、水漏れまで始まっている。

 

「女神の加護(ガーデン・オブ・イシュタル)!」

 

突然亀裂の走っていた結界が修復されていく。これはイシュタルの加護の力か!

 

取り敢えず、これで時間は稼げた。状況を整理しよう。敵は水の大蛇、剣群による物理攻撃は効かない。エアなら吹き飛ばせるだろうが術者を排除しない限り、この蛇が再生し、襲って来る可能性がある。さらにエアではこの城壁の結界ごと破壊しかねない。かといって術者の排除を優先させて俺がこのウルクを出れば民たちはあの蛇に建物ごと喰われておしまいだ。さらに千里眼で術者を探ろうにも認識阻害の術でも使っているのか全く姿を捉えられない。

 

「ギルガメッシュ!」

 

状況をまとめているとイシュタルがライオンさんにまたがって戻ってきた。

 

「イシュタル、加護をありがとう。労ってあげたいところだが少し考え事に集中させてくれ。」

 

「考え事はいいのだけれどその前に民たちの不安を取り除いたほうがいいんじゃないかしら?」

 

.........確かにそうだな。亀裂の走っている結界に、難しい顔をして黙り込んでしまった王が視界に入っていては不安にもなるだろう。

 

「聞け!我が民たちよ!状況は我々に不利となっている。かつて人間を滅ぼさんと猛威を振るった『天の宝具』が何故かこのウルクに迫り、その術者もその目的も未だに不明である。」

 

取り敢えず、包み隠さず状況を伝えるところから始める。虚偽の情報を伝えたところで民たちはついてこないだろうからな。

 

「しかし!案ずることはない。恐れることはない。なぜならばここにはこの俺が、ギルガメッシュがいるからだ!

迫りくる神を殺し、蛮族どもから女神イシュタルを救い、今日までお前たちの頂点に立ち続けたこのギルガメッシュがな!」

 

取り敢えず、自分の自慢をしておく。君たちの王様はめっちゃ凄いんだぞ~ってアピールをしておく。

 

「そして、ギルガメッシュとは王の名である!

王の使命とは己の法と心に従い自らの国と宝を守護することだ!

お前たちは我が宝ぞ!宝を盗人から守るは王の使命!お前たちは必ずこのギルガメッシュが......」

 

あれ?なんか今俺凄いこと言わなかった?

 

「........なぁ、イシュタル。俺さっきなんて言った?」

 

小声でなんか陶酔したようなうっとりとした顔で俺を見つめていたイシュタルに聞いてみた。

 

「『聞け!我が民たちよ!状況は我々に.......ギルガメッシュが』と言っていたわ!」

 

.........おそらく一言も間違えずにリピートしてみせたイシュタルに少し引きつつ俺は打開策を思いついた。

 

 

 

 

 

 

◆?????◆

 

案外脆いものだな「人間」も........

 

結界が消え、ウルクへと侵入する自分の蛇を見ながらそう思った。

物事はあっけなく済むとかえって達成感を味わえないものなのだと今日初めて学んだ。

 

さらに達成感を味わえなかっただけではなく軽い失望も感じていた。

こちらの計画を悉く潰してくれたあの「ギルガメッシュ」がこの程度で終わるとは......

 

 

 

ーーそんなことをぼんやりと考えていると突然蛇の肉体が破裂した。

 

「なに!?」

 

ギルガメッシュは乖離剣を使えないとこちらは踏んでいた。確かにあの剣は恐ろしいが民を第一に考えているあの王が被害を無視して使うとは思えなかったからだ。紅い暴風がウルクから吹き出し、あっというまに城壁に張り付いていた蛇の肉体を吹き飛ばした。

 

「あれは乖離剣か..........フン!結局はあの男も自分のことしか考えていないということか。」

 

何故か胸の内に芽生えた落胆の気持ちを感じながら終末裁定槍エンリルを地面に叩き付け、宝具を発動させる。

 

「........あれでは城壁の結界は使えないだろう。行け!

 

人智滅す閉闢の蛇(エンリ・シュティム)よ!」

 

宝具を発動させ、ウルクに襲いかかる『七匹の蛇』を無表情で眺めながら私は人間の終焉を見届けることにした。

 

 

 

◇ギルガメッシュ◇

 

「宝」というものは総じてその価値が高ければ高いほど盗人に狙われるものだ。しかし、宝の所有者も狙われているからといってなにも対策を講じないわけではない。

 

ではその対策とは何か?

 

まぁ、基本的には大事に「宝箱」の中に入れておくよな?

 

「全員『王の財宝』の中に入ったな?」

 

隣にいたシェムに確認する。

 

「はい、私とギルガメッシュ王......とついでにイシュタル様以外は全員宝物庫の空間の中に入りました。」

 

「誰がついでですって!?」

 

俺の考えたことは単純だ。民たちが大事な宝なら宝物庫に入れておけばいいじゃない?

 

この若干異空間となっている王の財宝の宝物庫なら収納人数は実質無限だし、このウルクの中でも安全な場所といえるだろう。

 

まぁ、宝物庫ごと破壊されてしまえば全員この空間に閉じ込められてしまうのだけれども.......

 

兎に角、俺が全力で暴れられるというのはいいことだ!

 

「さぁ、二人とも避難を......」

 

「「.............。」」

 

空間の中に入れと言ったのに黙り込んでしまった二人。

 

やがて二人の美女はお互いに顔を見合わせるとため息を一つついてから笑顔で俺のほうに向き直った。

 

「ギルガメッシュ王。私はいつも貴方が無茶をしたことを後から人伝いに聞き、その度に寿命の縮むような思いをしてまいりました。しかし、今日は貴方の無茶を宝物庫の中からとはいえ近くから見守ることができます。不謹慎ですが私は嬉しく思っています。これで貴方に置いていかれずに済むと........。」

 

「シェム.........」

 

「気がつけばこんなに背も高くなって........」

 

「シェム.........」

 

「......どうかこの国を私たちをお救い下さい。ギルガメッシュ王。」

 

シェムは空間の中に入って行った。

 

続いてイシュタルがこちらに歩み寄って来た。

自然と目線が絡み合う。お互いに目で語り合う。

 

「.........ご武運を、ギルガメッシュ。」

 

やがてイシュタルはそれだけ言うと軽く唇を重ねてきた。

 

「帰ってきたら話したいことがたくさんあるんだから。絶対に帰ってきなさいよ!」

 

そうして最後にもう一度だけ唇を重ねてイシュタルも空間の中に入って行った。

 

「........さて、行くか。」

 

頭を切り替える。まずはあの蛇を吹き飛ばす。被害を気にしないでよくなった以上はこちらの方が有利に立った。

 

しかし、考えなしにあの蛇を全力のエアで吹き飛ばすのもまずい気がする。あの再生力を見るに全てを根こそぎ吹き飛ばさなければ直ぐに復活してくるだろう。加えて言うと敵が認識阻害に魔力を回す余裕があるということはこの蛇は本気でない可能性がある。

 

「まぁ、悩んでいても仕方ない。王の城壁(ガーデン・オブ・バビロン)解除!行くぞエア!」

 

まず城壁の結界を解除し、エアの一撃を放つ。

 

破裂する蛇の肉体。しかし、すぐさま再生する。

 

それでもウルクに張り付いていた蛇は消えた。チャンスだと思い術者を探そうとするがとんでもない悪寒が走り、千里眼で遠方を見ると、

 

「.........おいおい、嘘だろ?」

 

遠方を見れば襲い来る『七匹の大蛇』が........

 

確かにさっきまで本気じゃないんだろうな~とは思っていたが実は1/7しか力出してませんでした~なんて誰が予想する?

 

「っ!まずいな。」

 

七匹と言っても元は一匹の胴体の途中から七匹の蛇が無理やり生えて来ましたという感じか。例えるならヘラクレスが戦った蛇みたいな感じ。

 

しかし、二、三匹ならともかく七匹同時はきついかもしれない。

えっ?ヘラクレスは九匹まとめて倒したって?

 

.........サイズが違うわ!?

 

千里眼で見た感じでも俺の魔力では全ての蛇を消滅させることはできないと出ている。たとえ魔力回復用の宝具を使っても回復している間にむこうは再生を済ませて襲って来るだろう。

 

「くそっ!.......ん?」

 

ふと迫りくる蛇の一匹を千里眼で見ると王の財宝から射出した剣群が体内に残っているのが分かった。

 

「消化されていないのか。まぁ、そりゃ水の蛇だからな......」

 

ふと、妙なアイデアが頭を横切った。本当に唐突にフッと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー「王の財宝!」

 

剣群が蛇に襲いかかる。煌びやかな剣が槍が斧が。しかし、その全ては蛇の身体を少し削りその体内に吸い込まれるにとどまる。

 

だが執拗に顔の部分を狙っているので多少は怯んでいる。

 

「よし!ライオンさん!」

 

俺はイシュタルと結婚したことで夫婦共有の随獣となったライオンさんを召喚してまたがり、蛇に向かって直進する。

 

「ここら辺でいいよ。ありがとうライオンさん!」

 

ある程度近づいたところで降ろしてもらう。

 

剣群を放ちながら円盤のような浮遊宝具を発動し、空中でエアを起動させる。

 

紅い暴風が発生し、一気にこちらを向く七匹の頭。エアの風を止めようと迫りくる。

 

さて、非常に勿体ないが仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!」

 

投影宝具ではないし、技の名前も多分違うけれど、兎に角奴らの体内にとどまっている俺の宝具が爆発する。

 

「「「「「「「ピシャーーーーーーー」」」」」」」

 

破裂する蛇たちの身体。再生しようと水が元の形に戻ろうととするがそうはさせない。

 

『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!』

 

紅い暴風に蹂躙され消滅していく蛇の身体。

 

しかし、その身体はまだ残っている。

 

さて、本当に成功するのか疑問だがやる価値はあるか......

 

 

「よし、来い!」

 

俺の背後の空間が揺らぎ、王の財宝の空間からイシュタルが出てきた。

と言ってもその左手はまだ空間の中に入ったままだ。

 

「これから貴方の言う通りにウルクの皆の魔力を貴方に託すわ。頑張ってギルガメッシュ。」

 

イシュタルの右手が俺の肩に乗せられ、魔力が流し込まれてきた。

イシュタルの左手は指示通り王の財宝の中の民たちと繋がれているのだろう。

 

俺の思いついたアイデアは単純。おらに元気(魔力)を!!だ。

 

馬鹿らしく思うかもしれないがこの世界で俺ほどではないが魔力量の多い者は結構いる。攻撃の手を緩めるわけにはいかない以上はみんなの魔力を貰うしかない。

 

ーーみんなの魔力が俺に流れてくる。

 

ーー優しく穏やかな魔力。

 

ーー力強い魔力。

 

ーーやがて、願いが聞こえてくる。

 

 

ーーこのウルクを守ってくれと

 

ーーまだ生きていたいと

 

ーー俺に、英雄王ギルガメッシュに勝ってくれと

 

 

 

 

「その願い受け取った!天地乖離す開闢の星々(エヌマ・エリシュ)!」

 

しかし、俺には誤算があった。このウルクに住むみんなの魔力を貰うということがどういうことなのかきちんと理解していなかったのだ。

 

 

「...............やりすぎた。」

 

エアに注ぎこまれた膨大な魔力によってどこぞの時空で英雄王が見せた「天の理」ばりのエヌマ・エリシュが炸裂。数十キロに渡って大地に痛々しい爪跡を残していた。

 

「ん?」

 

さらに向こうから水が流れてくる。思わず身構えてしまうが水は蛇に変形するなんてことはなくただ俺が作ってしまったところを流れている。

 

「あ...ありのまま 今起こった事を話すぜ。気がつけば川を作ってしまっていた。な...何を言っているのかわからねーと思うが俺も分からない。

みんなの魔力だとか天の理だとかせんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ.......」

 

 

◆?????◆

 

それは突然だった。紅い暴風が私の元へと迫っていた。

 

「っ!」

 

思わず空中へと退避するが左腕とその手に握っていた終末裁定槍エンリルを持っていかれた。

 

パリンッ!

 

何かが割れる音を聞いたと思った瞬間、「水」がさっきまでいた場所から噴き出してきた。

 

「まさか.......終末裁定槍エンリルが壊れ、その魔力が水へと変換されたのか?」

 

地面には終末裁定槍エンリルの矛先が刺さっており、そこから水が溢れ出している。

 

水は大地の大きな爪跡を伝ってウルクへと流れて行く。

 

状況は未だによく分からないが人智滅す閉闢の蛇(エンリ・シュティム)を正面から打ち破ってみせたというところか......

 

 

 

 

「っち!」

 

ウルクのほうから飛来した魔力で生成された「矢」をギリギリで回避する。

 

地面を転がってから前方を睨むとそこには

 

 

 

黄金の英雄王ギルガメッシュがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ーー今日のうっかりーー

・調子こいてウルク中の魔力を集めた結果エア暴発。新たな川を作る。

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