新・ギルガメッシュ叙事詩   作:赤坂緑

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オリジナル設定です。
本来のフンババはもっと強いと思います。


神殺しは王の本懐<後編>

◇ギルガメッシュ◇

 

俺がライオンさん抜きの孤独な戦いを強いられてはや十数分位経った。

状況はこちらの不利に変わりない。

 

一度、森の神なんだから炎に弱いんじゃね?と安易な考えで以前武器職人に作らせたネタ装備、「炎剣」を振り回して森を火事にしてやろうとしたが、すぐに謎の瘴気によって消火された。

 

 

........というか、余計に怒らせただけだった。

 

「ふぅ、一旦休憩を........うおっ!」

 

森の木々の間に隠れても、何故かすぐに居場所を見つけて攻撃を仕掛けてくる。

 

「くそっ!動きにくいなこの鎧!」

 

前方に転がって腕を避けたもののあまりの動きにくさに文句が口から零れ出る。

 

「っち!しつこいな!」

 

木から木へと飛び移りながら腕を避けていると、「王の財宝」の空間が少し波打った気がした。

 

「まさか........ライオンさんが復活したのか!」

 

すぐさま空間を開くと中から元気一杯のライオンさんが出てきた。

とりあえずその背中にまたがって上空へと離脱する。

 

しかし、それでもなお追いすがってくる巨大な腕。

 

「しまった!」

 

エアで撃退しようとした瞬間、横から迫っていた腕とぶつかってしまい、『うっかり』エアを空中で手放してしまった。

 

ーー致命的な隙をさらしてしまったため、重い一撃を覚悟するが奴が追ったのは俺たちではなく、「エア」だった。

 

 

「そういうことか........」

 

俺は取り敢えず落下するエアの下に空間を展開して「王の財宝」に収納する。

 

今のではっきりとわかった。奴が追っていたのは「俺」ではなく、「エア」なのだと。

 

 

「やはり攻略の鍵は『エア』か........」

 

エアを見失った奴は今度こそこちらを狙って腕を振るってきた。

 

それを避けながら考え事に集中する。回避はライオンさん任せで。

 

 

--やはり弱点はあのデカい目玉か?試しに目に放った剣を嫌がっていたしな........

 

ーーあの目玉にエヌマ・エリシュを撃つか?しかし、もしもその予想が外れていた場合、死ぬのはこちらだ。本気のエアなんてそう何度も連発できないうえに放った後の隙がデカい。

 

 

そんなことを考えていると気がつけば真正面からデカい拳が迫っていた。

 

「やばい!ライオンさん!」

 

流石に避けれそうにないので、真正面に空間を開きライオンさんを再び収納。こちらはライオンさんの背中からおもいっきり跳躍してエアを手元に呼び出し、エアジェットで遥か上空まで逃れる。

 

えっ?お前も「王の財宝」の中に入ればいいじゃないかって?残念ながらそれはできない。何故ならこの空間は「俺」を起点として物を呼び寄せているからだ。よって、俺がこの空間に入ってしまうと次に出られる出口はウルクの宝物庫の前のみということになる。

 

「くそ!どんだけしつこいんだ!そんなにエアが怖いか?」

 

エアを抜いた瞬間、待ってましたとばかりに襲いかかってくる腕たち。

 

ちょっと嫌になったので少し多めに魔力を注いでエアジェットの高度を上げていく。

 

腕が追いつけなくなった辺りで上昇を止めて下を見ると........

 

 

ーーそこには果てしなく広がる雄大な森があった。思わず戦闘中なのに眺めてしまう。

 

しかし、そんな森もあのラスボスみたいな巨大怪獣とその周りを囲む紫色の瘴気のせいで台無しだ。

 

「神退治じゃなきゃゆっくり観光できたのに........ん?................分かったかも........弱点。」

 

 

 

 

 

 

ーーフンババーー

 

こざかしい「人間」が忌々しい『剣』を振るって我に挑んで来る。何度この腕で弾き飛ばそうとも諦めなど知らんとばかりに迫りくる。

 

石化の呪いも瘴気も効かない。

 

あぁ、全くもって忌まわしい。あの「人間」の諦めの悪さも、見るだけで本能が恐れを感じる恐ろしき『剣』も。

 

しかし、遥か上空まで昇っていったあの「人間」は空を駆ける神獣にまたがって地上に戻ってきた。あの『剣』はない。

 

あの『剣』がないのならばこちらのものだ!

 

腕で叩き潰そうとするが、相変わらず素早い神獣の動きにこの巨大化した鈍重な腕が追いつかない。おまけにあの神獣と「人間」は森の木々の間をすり抜けるようにして逃げているので発見も困難だ。

 

 

ふと、今まで感じていた魔力の気配を見失ってしまった。あの神獣の気配も、あの「人間」が身に纏っていた太陽神の特徴的な魔力も見当たらない。

 

まさか........逃げられたか?いや、それはあり得ない。この「森」から抜け出すことなどできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー突如、頭上の背後にあの神獣と『剣』の気配を感じた。

 

 

振り向くとそこにはあの『剣』の柄を口にくわえた神獣がいた。

なにをするつもりかは知らんが、その『剣』だけは使わせん!

 

その口にくわえてある『剣』を奪い去ろうと腕を伸ばす........

 

しかし、突然神獣の背後の空間が揺らいだかと思えば、一気に剣群が我の「眼」に向かって飛んできた。

 

ぐっ!この技はあの「人間」の技だと思っていたが、この神獣も使えたのか!

 

 

 

ーー我は気がつくと、「人間」のことなど忘れて目の前の『剣』をくわえた神獣と剣群に意識を持っていかれていた。

 

 

 

 

◇ギルガメッシュ◇

 

俺は今........全裸だ。

 

何やってんだとか「AUO」とかそういうツッコミはなしで願いたい。

これもすべては作戦のうち。奴の感知から逃れるためだ。

 

奴は今、俺が全裸になっていることなど知らずに「エア」を口にくわえて「王の財宝」を使っている........ように見えるライオンさんに集中している。ライオンさんが「エア」をくわえているのは本当だが、「王の財宝」を展開させているのは俺だ。まぁ、つまりライオンさんは「エア」をくわえて空中に浮いているだけということになる。

 

俺はというと現在、フンババから少し離れた地面にいる........全裸で

 

瘴気はイシュタル様のキスがあるから大丈夫です。

 

 

 

 

さて、実は俺は今まで正真正銘の全力でエアを使ったことはない。

理由は簡単だ。本気で使えば俺の「手」がもたない。

だからこそ最終形態前のフンババに放ったのも全力じゃないのだ。

 

 

........別に出し惜しんだとかそういうのじゃないから。慢心とかじゃないから。どうせ効かなかったろうし。

 

だがおかげで分かったことがある。

 

この「鎧」........さっきまで着ていた「鎧」の力だ。

 

この鎧は俺が全力でエアを使った際に生じる熱を吸収してくれるのだ。

思えば、原作のギルガメッシュも本気を出した「ネイキッドモード」でも鎧の手の甲だけは残していたような記憶がある。

 

いつもギリギリだったエヌマ・エリシュがなんともなかった以上、もう一つ上の段階のエヌマ・エリシュも放てるだろう。

 

そして、正真正銘の本気の一撃で狙うのは........

 

 

 

ーーおっと、そろそろかな?

 

今回の一撃で大事なのは、いかに素早く全力の一撃を放てるかだ。

 

エアを握った瞬間に全力で魔力を流し込み、一瞬でエアを起動させて最高の一撃を放つ。この時大事なのは鎧の着用も並行して行うことだ。

 

 

 

 

 

........失敗すれば死ぬのはこちらだ。

 

........外せば最後、隙だらけの身体を潰されて終了。

 

........まぁ、大丈夫さ。ずっとエアを使ってきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

........俺ならできる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーライオンの口元の空間が揺らぐ。ライオンはそこに静かにエアを入れた。

 

........フンババは気づかない。

 

 

 

ーーギルガメッシュがエアを空間から抜き、一瞬で黄金の鎧を纏う。

 

........フンババが痺れを切らし、防御を捨ててライオンに襲いかかる。

 

 

ーーギルガメッシュがエアを掲げ、全力で魔力を流し込む。かつてないほどの速度でエアが起動し、紅い暴風が辺りを蹴散らす。

 

........フンババはいつの間にか止まっていた剣群と消えたライオンにようやっと気づく。

 

 

 

『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!』

 

........フンババはその一撃が放たれるのを阻止できない。

 

 

 

ーー放たれた一撃は『世界』を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「ピギャーーーー!」

 

形容し難い声と共に森の瘴気が晴れていく。

 

「よし!やはりそうだったか!」

 

俺が上空からこいつの姿を見た時、半径5キロ程に渡って瘴気が円を描くように森の一部を覆っているのが分かった。

 

つまりこいつはその半径5キロ程に渡って自らの空間を作り上げていたのだ。

 

少し違うが、言うなれば『固有結界』みたいなものだろう。

 

ならばこの「エア」を恐れたのも分かる。壊されたくなかったのだ自分の『世界』を。

 

森の瘴気が晴れたことで千里眼をいつも通り使えるようになった。

 

さらに、いささか弱体化したように見える。今ならエヌマ・エリシュも通りそうだ。

 

しかし、残念ながらエアはただ今冷却中だ。

 

風の剣にエアジェット、さらに掛け値なしの全力を放ったので仕方ない。

 

つまり、ここから先は本気のガチンコバトルだ。

しかも時間をかけてしまえばあの固有結界もどきが復活するだろう。

 

 

「先手必勝!行くぜ!出し惜しみはなしだ!」

 

未だに動揺しているらしいフンババに「王の財宝」を展開しながら突っ込む。

 

空間から剣が槍が斧が剣をくわえたライオンが射出されていく。

 

俺もアヌ様から貰った風を呼ぶ双剣を抜く。

 

狙うは千里眼で見つけた「紫色の模様」

 

明らかに身体の模様ではないうえに、ドラゴン退治の時も見かけたやつが首の辺りにあるのだ。

 

しかし、首の辺りと言っても相手は全長何十メートルあるか見当もつかないほどの巨体の首の辺だ。

 

しかし、この身体は人類最高峰の性能を持っている。垂直な壁の走破すら楽々できてしまうのだ。

 

いざ、覚悟!

 

 

 

ーーペシッ

 

あっけなく腕に叩き落とされた........

 

先に攻撃を開始していたライオンさんが「だから俺の背中に乗れって言ったのに........」みたいな目でこちらを見てくる。

 

 

........なにくそ!剣よ、風よ!

 

やけくそに手に持つ双剣に魔力を流すと、凄まじい風が剣から溢れ出してきた。

 

これなら!俺は剣を両方とも地面に向けると、なんとか身体が宙に浮き始めた。........ぶっちゃけエアジェットよりも魔力消費が少ない........

 

落ち込むのは後だ!俺は一気に首元まで接近すると風を一旦止め、さっきまでの勢いを利用しながら身体をひねって双剣の2連撃を叩き込んだ。

 

なかなかいい一撃が入ったと思ったが、少し模様に切れ目が入っただけだった。

 

しかし、弱点らしいものがあそこしかない以上は地道に一撃を入れて行くしかない!

 

俺は双剣を操り、空中で浮かびながら方向転換を試みる。

 

すると、突然目の前に巨大な手のひらが現れた。

 

「っ!危ね!」

 

何とか避けたがさっきよりも防御が堅くなった。

 

ライオンさんには奴の注意を逸らすために目を攻撃してもらっているが、あまり効果はないようだ。

 

........だったら、

 

俺は奴の首元に「王の財宝」を多数展開する。

 

炎の炎剣に鋭利な槍。黄金に輝く斧に........「エア」

 

 

「っ!」

 

自分のすぐ近くに展開された「エア」にビビったのか驚くフンババ。

 

さらに「エア」を掴もうと模様を隠していた腕を伸ばしてしまう。

 

「貰った!」

 

おそらくこのハッタリが効くのはこの一回のみ!

絶対に逃せないチャンスだ!

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

先程の切れ目に向かって全力で突っ込む。

 

千里眼で微調整をしながら一気にたどり着き、剣を一本捨て、一本を切れ目に突き刺す!

 

そして、一気に魔力を流し込む!

 

 

ーー結果、紫色の模様は砕け、フンババは悲鳴を上げる。

 

「ピギャーーーーーーーーーーーーー!」

 

 

「ふぅ、なかなか手強かったな........」

 

華麗に着地を決めるギルガメッシュ。

 

 

 

 

ーーそして、怒り狂うように暴れだしたフンババ

 

「なんでやねん!なんで?なんでまだラスボスモード?」

 

その場を離れながらツッコむ。

 

「くそっ!エアはまだ使えねぇし........」

 

しかし、それでも動きは鈍っている様に見える。

 

「もう、そんなに怒るなって。クールに行こうぜフンババ!」

 

もう疲れたから思わず変なことを口走ってしまう。

 

「ん?................クール?」

 

........しまった。またうっかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーギルガメッシュは逃げる足を止めると無言でエアを取り出し、さらに『氷雪系』の宝具を取り出すとエアにそれを当ててエアの冷却を始めた。

ついでに魔力回復の容器を取り出すと一気に飲み干した。

 

「........天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」

 

今度こそ森の神は滅びた。

 

 

 

 

 

◇ギルガメッシュ◇

 

...............めっちゃ疲れた。

 

それにしてもなかなかの激戦だったな。黄金の鎧は所々凹み、体中が痛い。顔は泥だらけで俺の美しい顔は見る影もないだろう。「王の財宝」の中身もほとんど空だ。いずれダモスにでも回収させよう。

 

そんなことよりも今はイシュタル様への告白の返事だ。

 

イシュタル様の気持ちはとても嬉しいが、残念ながら俺にはセイバーという生まれながらに(俺が)決められた婚約者がいるからなぁ~

 

...............真面目な話、俺はイシュタル様にどのような感情を抱いているのか自分でも分からないのだ。少なくとも、近所のお姉さんに抱く感情よりは上だと思うが...............

 

 

 

 

 

ーーそんなことを考えながらウルクに戻った俺に伝えられたのは、イシュタル様がキシュ族たちに連れ去られたという報告だった。

 

 

 

 

 




主人公はふざけているように見えますが、いつだって真面目です。
それと、やはりどうしてもネタに走ってしまう作者を許して下さい。


ーー追記ーー

感想返しが楽しくて仕方ない作者。というか皆さん感想おもしろすぎ!
ということで、まだまだ感想待ってます!

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