ここから先はあんまりギャグがありません。
◇ギルガメッシュ◇
さらに2年の時が過ぎ、俺は今18歳だ。城壁も何とか完成の目途が立って来た。後は城壁全体に神々の加護をかけてもらえば魔物たちも簡単には近寄れないだろう。
ーー神々で思い出した。今日はイシュタル様が来る日だったな。
王になる以前は3日に1回とか、長くても1週間に1回位のペースだったが、今では1か月に1回位である。
ーーイシュタル様は以前と同じ頻度で会いに来ようとしていたが、シェムに反対され正論を叩きつけられて涙目で帰っていき、今のペースになった。
(涙目のイシュタル様超かわいかった)
というか、女神様を涙目にして追い返すシェムっていったい........
◆イシュタル◆
今日は久しぶりのギルガメッシュ王とのお茶会だ。
彼が王になってからは以前のように気が向いた時に会うことは出来なくなってしまった。
これもすべてあのシェムとかいう女のせいだ!
確かに王としての仕事が忙しいのは分かっている。しかし、ギルガメッシュの疲れ切った顔を見るに息抜きぐらいは必要なのではないかと思う。
まぁ、最初の頃に比べるとだいぶ睡眠はとっているようだ。
あのシェムとかいう女のおかげだろう。悔しいが認めよう。
それに会う頻度が減ったことで分かるようになったこともある。
彼の成長だ。
背は大人の男のようにスラッと高くなり、筋肉も目立つようになり始めた。声も低くなり、あの可愛らしい声が聴けなくなったのは寂しいが、今の声も悪くない。というか、色気があってとてもいい!
顔立ちも端正になり、最近では忙しいためか常に厳しい目をしているため、切れ長の瞳が鋭く鋭利な印象を与えている。
........最近ではこちらがドキッとさせられることのほうが多い。
しかし、会話の内容には色気は全くない。
やれ、城壁がどうの やれ、学校の剣技指導クラスにいくと尻に悪寒が走るだの........
しかし、相変わらず私の話に耳を傾けてくれる。そして、こちらのつまらない話をよく吟味し、笑い話に変えてくれる。私がそれに笑わされ、彼もつられて笑い出す。
ーーこの時間がいつまでも続けばいいと思っていた。
「ギルガメッシュ王。アヌ様がお呼びになっています。」
ーー神官からの知らせを聞き、私は何故か私の「日常」が終わってしまうような気がした。
◇ギルガメッシュ◇
女神様との優雅なお茶会の最中に上司(アヌ様)からお呼び出しがかかった件について........
ふざけるな!と八つ当たりにエアで神殿の掃除をしてやろうかと思ったが、自重した。
........というか、俺は随分とイシュタル様とのお茶会の時間を楽しみにしていたらしい。
そんなことを考えいたらいつの間にか神々が地上に姿を顕す時に使う神殿に着いた。
そこには既に姿を顕したアヌ様が難しい顔をして待っていた。
「........よくぞ来たギルガメッシュ。今回お前を呼び出したのは重要なことを伝え、その上でお前の判断を聞くためだ。下手をすればウルクが滅びかねん程に重要なことをな........」
あのアヌ様がこんなに悩んでいるとは、よっぽどのことだろう。
「実は........森の神『フンババ』がこのウルクに迫っている。」
........はっ?フンババってあの森の超強い神様のフンババ?
嘘っだ~
「本当じゃ。」
........声に出していたらしい。というか、なんで!?あの神様は確かにそこに在るだけで人に害をもたらす傍迷惑な神様だが自分から動くというタイプではなかったはず。
「原因はわしにも分からんが、間違いなく奴は此処へ進行してきている。このままではウルクは滅びる」
そんな........いや、だがアヌ様なら撃退できるはず!
そんな俺の心境を読み取ったのかアヌ様は申し訳なさそうな顔で語り始めた。
「実は、今神々は2つに分裂しているのだ。1つはわしが率いている『穏健派』じゃ。その思想は≪人間との共存≫。人なくして神はなく、神なくして人はない。そんな考えを持つ神々の集いじゃ。........だからこそ、わしらはお前を作ったのだ。」
アヌ様はここで一旦言葉を切ると俺の顔を見てきた。なんとなく分かっていたことなので頷いて先を促す。
「もう1つは『急進派』じゃ。その思想は........≪人間の根絶≫。さらにはその果てに神々だけの国を作ろうと企てている神主義者の愚かな連中じゃ。」
アヌ様は吐き捨てるように言った。
なるほど、そんな神々もいるのか........
「今現在、おそらくは何者かが手回ししたのだろう。この2つの組織の亀裂がかつてないほどに大きなものになりつつある。よってもしこの緊迫した状況下でわしが神退治などに出かけたら、最悪神々の間で戦争が起こりかねん。」
................それなんてラグナロク?
マジか!まさかそんなに危ない状況とは知らなかった。
つまり、俺が此処に呼び出されたのは........
「ギルガメッシュよ。無理を言っているのは承知だが、どうかわしの代わりにフンババを退治してくれんだろうか?勿論今ならわしらのバックアップ付きじゃぞ!」
「................少し考えさせて下さい」
俺は逃げるように神殿から出ていった。
ーー分かっている。選択の余地がないことは。このままだとウルクは滅びる。
アヌ様は優しい。本当だったら俺に確認など取らずに命令して送り出しても何の不思議もない状況だ。
そう、俺が行くしかない。
しかし、相手は「神」だ。ドラゴンとは比べものにならない。
いくらアヌ様たちが支えてくれるといっても、俺では勝てないかもしれない。
................死ぬかもしれない。
これまで明確な「死」を経験したことがあっただろうか?
ドラゴン退治のときですら「死」を感じてはいなかった。
だが、今は感じているのだ。無意識に発動した千里眼か、それとも直感か、ドラゴン退治の時よりも鮮明に「死」を。
................冗談じゃねぇぞ。戦う前からこの様とか、絶対に無理だろ。
「ギルガメッシュ?」
ふと気がつけば目の前には心配そうな顔をしたイシュタル様がいた。
どうやら気づかないうちにお茶会の場所に戻ってきたようだ
「どうしたのです?悩み事ですか?私でよければ相談に乗ってあげてもいいですが................」
若干の上から目線で相談に乗ると言ってきたイシュタル様。普段だったらともかく、流石にこれは相談できないだろう。
「いえ、大丈夫です。申し訳ないのですが、今日はこれでお開きで構いませんか?」
「................いいえ、ダメです。」
何故か反対されてしまった。
さらにイシュタル様は昔シェムがよくやってくれたように俺を抱きしめてきた。
「何を悩んでいるのかはわかりませんが、今の貴方の顔色を見て黙って帰すことはできません。誰にも言えないような悩みならば私に相談をして下さい。私は『女神』です。『人』に相談できないような悩みでも私なら大丈夫かもしれませんよ?」
................なんだかよく分からない説得力に負けて俺は全て話していた。
ーー後にして思えば、俺は誰かに相談したかったのかもしれない。スケールのでか過ぎるこの話を受け止めてくれる誰かに........
「................なるほど、神々の対立に迫りくる森の神ですか。確かに一人で抱えるには大きな問題ですね。」
予想以上に落ち着いた様子で話を聞き終えたイシュタル様は深く考え込むように頭を捻った。しかし、ふと頭を上げると俺に問うてきた。
「しかし、幼い頃の貴方なら真っ先に突っ込んでいったでしょうに、これが成長でしょうか?」
イシュタル様はなにか勘違いしているようだ。
「あのドラゴンの時は勝算があったから突っ込んでいけたのです。」
そうドラゴン程度、千里眼があれば何とかなると思って突っ込んで行ったのだ。................結構危なかったが。
「勝算ですか.............では、今回は勝算がないから無茶をしようとしないのですか?」
何を聞いているのだろう?勝算がなければ挑まないのは当然のことだろう?
そんな俺に向かってイシュタル様は何かを思い出すように目を瞑りながら語り始めた。
「昔、ドラゴンに勝った貴方は勝てたのは私の加護と随獣のおかげだと言いましたね。その時私は思ったのです。ではもし私が加護を与えなければ貴方は勝ち目がないとして諦めていたのかと?恐らく貴方はそれでも立ち向かったでしょう。」
いや、あの時は本当に舐めてたいたというか、加護なしでも勝てると錯覚していたというか、そもそも加護もらえると思ってなかったというか.....
「その顔は加護をもらえるとは思っていなかったという顔ですね?
では、何故私が加護を与えたと思いますか?」
えっ?それは、勝つ確率を上げるためじゃ?
「それは、貴方に勝ち目がないと思ったからです。普通に考えて下さい。11歳の男の子が自分の何十倍もの巨体を持つドラゴンに挑んで行く。ねっ?どう考えても勝ち目ないでしょ?」
................確かに。今思えば、何してたんだ俺?
「正直な話、私の加護さえあればあの場にいた神殿兵たちは誰でもあのドラゴンを退治できました。」
................マジで!恥ずかし!今までどや顔で街歩いてた!
「落ち込まないで下さい。私が感動したのは貴方の『勇気』です。普通に考えたら大人に任せるような敵に自分が倒すのだと突っ込んでいきましたね?そんなあの頃の貴方に感激したのです。」
................あの頃か。つまり今はもう
「しかし、今は貴方が成長してくれて良かったです。流石にあの頃のように突っ込んでいては死んでいたでしょうから。」
予想外の言葉に驚く。てっきり失望されたと思っていた。
「貴方は『恐れ』を覚えました。それは良いことです。しかし、私からすれば11歳の子供がドラゴンに挑むのと、18歳の少年が神に挑むのとではどちらもただ勝算がない戦いにしか思えません」
................確かに、なんか字面的には一緒な気がしてきた。
「なにも私は貴方に神と戦えと言いたいのではありません。寧ろ逃げてほしいくらいです。だいたい神々の事情で人間に迷惑を掛けるわけにはいきません。いざとなれば、私も説得に加わりましょう。」
俺に逃げてほしいというイシュタル様。正直意外だった。
「ただどちらを選ぶにせよ、後悔だけはしないで下さい。今の貴方がどちらを選択するにせよ私は貴方の味方であり続けましょう。」
「........何故俺にここまでしてくれるんです?」
俺が尋ねると、イシュタル様は顔を真っ赤にさせてうつむいた後、何かを決心した瞳で俺を見つめて語りだした。
「実は、つい最近になって気づいたのですが、私はあのドラゴンに挑むと言った貴方の迷いも後悔もない瞳に魅入られたのです。最初は小さかった胸の高鳴りが今では貴方に会うだけで抑えきれないほどで、貴方との会話は楽しく最近では私の唯一の楽しみです。勇ましく剣を振るう姿も、王として君臨する姿も、全てが私の目には新鮮に魅力的に映りました。つまり................私は貴方のことが好きなのです。ですから、貴方が逃げる方を選ぶことであの瞳をもう一度見れるのならば、貴方がいつものように私とお話をしてくれるのならば、私はそれで構いません。」
................女神様の情熱的な告白は取り敢えず置いといて想像してみる。どっちが後悔しないかを。
ーー満身創痍で神に挑む俺
ーー民たちに背を向け王の責任も放棄してアヌ様にすべてを任せる俺
................なんだ、想像して見れば簡単にわかることじゃないか。
「イシュタル様。すいません。ちょっと神殺しに行ってくるので返事は帰って来てからでいいですか?」
イシュタル様はちょっとだけ不貞腐れた顔をした後、笑顔で頷いた。
その顔はなんだか俺が選択する方をわかっていたようだった。
自分が書いててなんですけど、イシュタル様のヒロイン力パネェ
次回、本来のギルガメッシュがエルキドゥと2人がかりで倒したフンババに1人で挑む無理ゲー回。