転生して脱ヤンデレ清姫を目指そうとしたらヤンデレに狙われた。   作:ヘタレ蛇

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危機何髪…というか手遅れ

此処、カルデアの食堂の厨房でトントングツグツと音が響いています。

やあ、僕はヒサギです。

 

「ふんふふんふふ~ん♪」

 

歓楽監獄城チェイテよりエリザベートさんのサプライズライブから(気絶して)帰ってきて、気が付いたら自室のベッドで寝ていました。起きた時、まだ少し体に疲れが残っていました。あんな拷問(赤い料理)を食べさせられて胃もたれ…レベル以上なのだけれど体の疲労だけとは。いや、死ぬ思いでしたよ、かなり。

 

それは置いといてエリザベートさんは元に戻れないという事でカルデアに住む形になった。今回の事で皆に迷惑をかけたから何か感謝の気持ちを伝えようと思い、食堂の厨房を借りて深夜にて割烹着を着てシチューを作っています。

 

前に聞いた時はレトルト食品しかないと思ったのですがカルデアには屋内栽培設備があったらしく、あのレフ・ライノールが起こした爆発によりスタッフの人員が他のところに回され、仕方なく早くて旨いレトルト食品がほぼメインになっていた。だが栽培設備は動いてない訳ではなく、そうなると野菜や穀物が出来上がる。特別に使わせて貰っている代わりに品質チェックだ。要は食べられるかどうかだ。

 

「そろそろ火が通りましたね。」

 

まぁ、ある意味マスターは毒味役みたいなっちゃうけど、あの性格だから喜んで食べてしまいそうです。

あ、蛇足ですが、ここ最近、僕の一人称が変わっているような気がします。ヤンデレを除いて清姫の真似というか、清姫に成りきろうとしてる余りに変わりつつあるのかもしれない。というか、最近は焦りすぎて素が出まくっているのが結構ひやひやしてます。気を付けないと。

 

「シチューの基を投入♪」

 

最初に作っておいたシチューのルーを野菜を似た鍋に入れます。小麦粉、バター、塩胡椒、コンソメを水で固めた物を……何か忘れてるような。

いや、学校の家庭科で材料は合ってるはず、結構美味しかった記憶はあるし、社会人生活のブランクはあったけど、大丈夫でしょう。

 

「焦げないようにかき混ぜて。」

 

コンソメで味は出てるから不味いものにはならないでしょう。

 

「料理って楽しい♪」

 

 

 

 

 

…と思う自分が懐かしく感じます。

 

気が付くと両手両膝を地面に付けてました。

 

何故…

 

「何故!鍋の中が赤いんですか!?」

 

赤いというより紅いんです。ホワイトなシチューを作っていたのに白い要素が何処にもないんです!色のついた物なんてお肉と人参しか入れてないのに!?

 

いや、もしかしてこれはフェイク。ビーフシチューみたいな感じで予想の味は微妙に違うかもしれない。小皿に少し足らして。

 

「…僕の知ってるシチューと程遠い。」

 

何で酸っぱくて辛いんだろ。昔、高校の同級生と仕事の同僚でやった〇スソースの罰ゲームをやったのを思い出す。あれよりかはこれはマシ、だけど…

 

「ない、これはない。」

 

改めて床に膝を付いた。そして絶望した。

僕はこんなに料理が下手だったか?いや、カレーは一人で作れた。というかカレーしかできなかった。

その影響だろうか?いや、それだけじゃ酸っぱ辛なシチューなんてできるはずがない。

野菜が駄目だったのか?何処からどう見ても普通の野菜です。確認のため残った人参をポリッポリッ。

 

「料理しない方が美味しい、だと!」

 

再び絶望した。もはや将棋でいう「詰み」、チェスでいう「チェックメイト」の終わりの地点である。

自分は料理ベタ、その称号が自分自身で獲ようとしている。

 

「…仕方ない、自分で作ったんだから自分で処理するか。後でスタッフの方に謝らないと、えっと何か器を…。」

 

落ち込んでも仕方がない。そう思い紅いグツグツのシチューを部屋に持っていくため器を探す。がなかなか見つからない。えっと…こっちかな…。

 

 

 

 

 

 

「漸く見つけました。さて…と?…あれ?鍋が…無い…。」

 

 

 

 

 

 

視点が変わりまして、お早う御座います。マシュ・キリエライトです。現在、朝の0600です。今日も元気に先ぱ…じゃなかった。マスターを起こしに部屋に向かいます。

 

「失礼します。マスター、お早う御…座…。」

 

どうやらマスターはテーブルで寝ていたようです。側には鍋が、夜食でも取っていたのでしょうか?

 

「マスター?そんなところで寝ては風邪を引きます…マスター?」

 

何でしょう。顔が蒼白いような…。

 

「…ぁ…マシュ…ですか…?」

 

「!どうしたんですか!?」

 

見る限り危険な状態です!

 

「わ、私…は…何も…問だ、い…ありませんよ?…か、れの…精一杯の、手料理を…頂、い、た…だけで、す、から…。」

 

精一杯の手料理?彼?

 

「と、ても、刺激的で、ウッ!!」

 

いきなり口元を抑えだしました。いったい何が起きて…

 

「ウッ…ゴハッ!?」

 

「え…。」

 

マスターの口から赤い液体が…血?

 

「アッ…。」

 

バタンッ!!

 

「!?マスター!!しっかり!しっかりして下さい!ドクター!ドクター!!」

 

 

 

 

 

「で、あの紅い劇物はお前が作ったと?」

 

「…はい。」

 

場面が変わりまして、どうもヒサギです。今クーフーリンさんの部屋で正座して今現在の後悔を相談しています。

エリザベートさんも同席しています。

正直言って訳が分からないです。昨夜少し目を離しただけで失敗作の紅いシチューの鍋が無くなり、今朝マシュの悲鳴を聞いて駆けつけると、マスターが口から紅い液体が広がり床に俯せで倒れていた。そして近くのテーブルに見覚えのある鍋が。

 

ぼ、僕の料理が殺人事件の凶器になってしまった!!!

 

その後、ドクターロマニが駆け付け、幸いあの紅いのは鍋の中身で血ではなかった。胃が耐えきれず戻しただけのそうだ。意識を失ったのは何らかのショックらしい。

吐くまで不味い物を意識を失う直前まで食べていたって、マスターはどれだけお腹が減っていたのだろう。

というか鍋が何でマスターの部屋に、誰が持っていったのだろうか。流石に誰かが来たら物音で分かりますし。

…もしや…。

 

「これはカルデアに潜む暗殺者(アサシン)の仕業!?」

 

まさかのサスペンス!夜食を食べようとした料理をすり替えてマスターを毒殺!カルデア内のマスター抹殺計画…

 

「いや、流石にねぇだろ。そもそも此処にはアサシンは召喚されてねぇし、サーヴァントだって盾の嬢ちゃん含めて俺らだけ。その前にすり替わったら気づくだろ、吐くまで食わねぇよ。」

 

ですよね。いくら何でも有り得ませんよね。

 

「それにだ、マスターに手を出そうにも盾の嬢ちゃんがいるし、マスター自身が…とてつもなくおっかねぇんだよ。人を呪い絞め殺そうとする殺気を出しやがる。久々に肌がザワザワしたぜ。」

 

…嘘だろ、サーヴァントを呪い絞め(?)殺そうとするオーラ?を出す人間自体があり得ませんよ!黒魔術師ですか、マスターは!?

 

「ん~…ていうより、仔イヌは貴女の料理だから食べてたんじゃないかしら?」

 

「は?」

 

何を言ってるんですかエリザベートさん?いくらマスターでも其処までないんじゃ。

 

「いや、其れしかねぇだろ。オルレアンの時だって結構御執心だったじゃねぇか。体の限界なんて簡単に越えそうな気がするぞ。」

 

狂ってるんですか!?あのマスターは!?

 

「まぁ食べて吐いちゃうんだから、相当な物でしょうけど。」

 

貴方には言われたくないです。ドラバカ娘。

 

「…ところでよ。」

 

「…何ですか?」

 

「さっきから気になってはいたんだが、お前の横の鍋はなんだ?」

 

そう、正座している僕の隣には蓋をしてあるステンレスの鍋がある。これは一先ず確認のため(自分が飯マズか?)作った物だ。改めてやったらもう料理は楽しくなくなった。

 

「取り合えず別の物を作ってみました。」

 

「へ、へぇ、で何を作ったんだ?」

 

「乾燥物が有ったのでそれを水に戻して作った、高野豆腐の煮豆腐です。」

 

「ふーん、名前からして随分と貧相ね。で出来映えはどうかしら?」

 

僕は鍋を自分の前に出して、蓋を持った。

鍋と蓋の隙間から煮物らしい優しい香り…ではなく胡麻独特香りや強烈な刺激臭。

蓋を取ると中は一言で赤色。少し茶色のポツポツした物や緑のネギ、高野豆腐らしい白い塊が入っているが全てが赤に汚染されていた。そして液体はドロリと

 

「って、ちょっと待てぇい!!何で別の料理が出てくる!?後、俺にその劇物を見せるな!!」

 

とクーフーリンさんが煮物?(はい、どう見てもマーボー擬きですね。御免なさい。)突然騒ぎ始め顔が引きつっています。

 

「うわー何なのよ、この赤い液体。辛い匂いがするし、見た目が最悪よ。何これ、スポンジ?あと粒状のお肉が入っているわ」

 

「いえ、これは高野豆腐といって煮物系の出汁を煮込むと味がついて美味しいのですが、あとこれは乾燥挽き肉です。」

 

「何でそんな物ができる!?どんな手順したら煮物からそんな劇物になる!!」

 

そう、確かに煮物の材料でやった筈だ。途中味付けも確認した。でも数分煮立てたら、これだ。どうしてどれもこれも赤くなるんだろう。生前はこんな才能は無かったのに。何でこんなことになってしまったんだろ。

 

「いいからそんなもの棄てろ!食ったらサーヴァント(俺ら)でも腹壊すぞ!!」

 

「大丈夫です。そんなことしたら食材が勿体無いです。部屋に持ってって食べます。」

 

「いや、止めとけって!」

 

そんな事言ったって二回連続でこんな失敗してるんですよ?その所為でマスターは倒れてしまって、料理ができない事がショックです。これを食べれば何もかも忘れるかもって、ひっひっひっ……

 

「もう何か顔がヤバイぞ、死んだ目で何かを悟ってるぞ。」

 

「ちょっと気持ち悪いわね、どんだけショック受けてるのよ。」

 

あー、二人が何かを言っている。もう分からないです。

 

「では僕は部屋に戻りますね。」

 

僕は鍋を持って立ち上がる。そして扉に向かって歩き出そうとした瞬間…

 

「うあっ!」

 

どれだけ正座していたのだろう。両足が痺れ、感覚が無くなっていました。痺れて足で踏ん張ろうとしよう力が込められず、躓いたのだ。鍋で両手が塞がり、倒れそうになる反動で鍋を空中に放り投げて、自然に倒れるのを待つばかりだった。

 

「おっと!」

 

すると地面には倒れず、再び覚えのある腹部の圧迫感を感じた。一瞬でまた誰かに抱えられたと気付く。

 

「大丈夫かよ?」

 

「大丈夫で、あ。」

 

「あ。」

 

「あ?」

 

クーフーリンさんの声が聞こえる。答える為に上を向くと、クーフーリンさんの頭上に接近する蓋が外れた逆さの鍋が。

クーフーリンさんも気付いて上を見るが、目と鍋の間がもう目の前だった。

 

べチャリ!

 

「モガッ!?…………。」

 

バタッ!

 

 

 

 

ここはマスターのマイルーム。一人の少女がベッドの側で椅子に座り、一人の少年はベッドで横たわっていた。

 

「…はっ!」

 

「マスター!大丈夫ですか?」

 

「…マシュですか。」

 

「はい、大丈夫ですか?」

 

「………大丈夫です。只…不運に会う直前、美味しい所を取られたような気がしたので。」

 

「は、はぁ。」

 

 

 


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