私の幼なじみはルーピー   作:アレルヤ

7 / 10
私の幼なじみと覚悟

 諸葛孔明と龐士元。

 

 孔明先生って言えば歴史創作モノやら、マリオや某聖杯で大戦争なあれやら、ともかく引っ張りだこな大有名人である。実際蜀の建国を支え、劉備の大望を受け継ぎ、あの化け物である司馬懿仲達をして『天才』と言わしめた偉人。また鳳雛は序盤で消えてしまったものの、それに並ぶ知恵者であったと称される大物だ。

 

 少なくとも私の中では孔明と鳳雛は、「はわわ」とか「あわわ」とか言わない。マジカルイメクラコスチュームは着ない。というか当たり前ではあるが、クリクリお目々の幼女ではない。

 

 ましてや私は他人に対して、「孔明と鳳雛ってドジっ子で可愛くて幼女だよなッ!」とか、「『はわわ、ご主人様敵が来ちゃいましたッ!』とか言っちゃうんだよなッ!」とか言ったことはもちろん無い。あってたまるか。

 そんな阿呆なことをぬかしやがったら、一般人からは黄色い救急車を呼ばれるだろうし、三国志が好きな人間からは殴られても文句は言えないと私は考える。

 

 「はわわッ!ご主人様、作戦通り山賊の人達が来たようですッ!」

 

 「え、ええと。その、今です。……ふぇぇ」

 

 つまり私はこいつらを黄色い救急車で轢いて殴っても文句は無いはずだ。

 

 「あ、あぁ。そうだな。ところで徐庶さん、その……大丈夫か?顔が苦虫を噛み潰して反芻してるってレベルなんだけど」

 

 「幼女に『ご主人様』と呼ばせる特殊性癖の方はちょっと黙っていてください」

 

 人間社会とはえてして理不尽と決まっているが、こんな理不尽はいろいろとベクトルを間違っていると思う。

 最近、この世界は神様がドラック吸いながらケツで酒飲んで作った世界のように思えてならない。

 多分、神様はゲイで頭がイカれているから、私のような一般思考の善良市民が損する世界になってしまったのだろう。

 

 何やらぶつぶつと「俺だって何回も止めてくれって言ったけど、やめてくれないんだよなぁ……」と、落ち込んでいる変態の尻を蹴飛ばして目の前の賊退治に集中させる。戦場で気を抜くな変態。

 

 それにそんなことを言ったら私は何回も「呼吸を止めてくれませんか」ってルーピーに言っているのだ。

 なのにあいつときたらすぐに許可してないのに息を吸い始めて、赤ら顔でこれ以上は無理だよぉとか照れてのたまって周囲の村の男共から歓声を浴びるのである。もうなんていうか爆発すればいいのに。

 

 ちなみに私がやっても、普通に「そうか」と言われて終わった。その男子は前歯が二本ほど消えたのだが、ルーピーの使用済み箸でこの件は闇に消えている。

 私の幼少期のお小遣いはあいつの使用品で賄われていたことから、私の中ではルーピーは本人よりも使用品が役に立つという公式を発見している。

 この発見はりんごが木から落ちることを発見した、息子がダメな物理学者も大賞賛だろう。きっと喜んでルーピーをりんごの木に吊るしてくれるはずだ。

 

 「その、徐庶さんはこれからどのように私達が動くべきだと考えますか」

 

 賊討伐後の夜、全員が集まって作戦会議の中。幼女一号、別名孔明が私に尋ねてきた。

 見た目はペドフィリア大歓喜だが、中身は素晴らしく優秀だ。天才以上に頭もよく、ルーピーと同じく道徳的正義感に燃えている。吐き気がする。

 

 「え、私ですか?」

 

 「はい、桃香様から信用が厚く、また広い視野をもっているとみなさんから伺っています」

 

 「うぅ……。実際、管理能力の高さは私達も、その、経験がない私たちは参考にすることが多くて」

 

 「私達ではまだまだ解らない、気が付かないことが多いと実感してるんです。だから是非、徐庶さんの考えを聞かせて頂きたいのですが……」

 

 数週間前に賊退治中、孔明と鳳雛という二人の幼女を拾ったのだがもう私がいらないレベルですごい。

 

 というか、もう全部こいつ一人でいいと思う。おまけに幼女二号もいるし、なんで私はここにいるんだろう。私がここにいる意味はなんだろう。気分は極めて優秀で弁が立つ新人が入ってきた上司のそれだ。死にたい。

 

 なにやら緊張した面持ちでゴクリと唾を飲み込む幼女二人。周りに男がいればペドでなくとも、その可愛らしい仕草に頬を緩めて微笑んでしまうだろう。

 生まれて一度もこの方男共にちやほやされてない私に喧嘩売っているのだろうかこいつら。

 

 「これ以上、人助けしていても無意味でしょうね」

 

 戸惑いの視線を浴びるが、そもそもこいつらの第一目標は国家建立だ。

 

 いくら人助けしても、キャリアや金、人や物が手に入るシステムを作らなければただそれだけで終わる。

 NPOから金儲け組織に転向するのはなるべく早い段階が好ましい。そうでないと面倒くさい考え持った人間に囲まれて、ただの慈善活動で終わる。人生をムダにするようなものだ。

 

 というわけで、そろそろただの慈善団体集団から組織へと変貌するべきなのだろうが……。

 

 「まあ、極めて難しいでしょう」

 

 悪いなのび太。ここは超コネ&経歴&学派社会なのである。金もコネもねぇ貧乏人は帰って欲しい。

 いや、マジでそうなのだから仕方がない。こいつらの冒険は此処で終わりである。

 

 ステップアップするとすればコネ作りであり、地盤を手に入れるために誰かに取り入るのが常道。

 しかし早い話が、ルーピーが有望な人材揃えすぎて取り入る先がほぼないのだ。

 

 誰だって欲しいのは自分の下でずっと働いてくれる有能な人間であって、間違っても「みんなが笑って暮らせる国を創りたい」とか余計な事をぬかす独立願望満々な人間ではない。踏み台とかいい度胸だなって話である。

 

 優秀なブレインも引き連れたルーピー達は魅力的だが、それ以上に爆弾である。一度爆発したらヒロインの好感度が軒並み大下落するどころか、ゲーム機自体がぶっ飛びかねないレベルだ。早い話が国も人も金も、全て持って行かれかねない。

 

 こんな明らかに見え見えというか、埋まる気がこれっぽっちもない地雷。愚鈍で馬鹿な連中であっても自分のところに招き入れようなんてしないだろう。いるとすればとんでも馬鹿か、相当なお人好しぐらいである。

 

 と、言う旨を全員に伝えるとお通夜状態になった。わっほい、内心笑いが止まらねぇ。

 騙すという選択を取れれば話が違うのだが、関羽やら張飛やらはそういう手段を好かない。ルーピーも立場は基本的に反対の方に回る。

 

 というわけで、ルーピーは自らの魅力チートでその生涯に終止符を打ったのである。

 孔明鳳雛も有名な私塾出てるからツテはあるだろうが、付属品というルーピーは明らかにいらない。中央で頑張ってる盧植先生は、そんな隙を見せたら十常侍にやられる。八方ふさがりだ。

 

 長い茶番であった。多分これほど人生を無駄にした時間は無かっただろう、とほっと一息。

 

 「どうにかならないかな、徐庶さん」

 

 「北郷さん、天の御遣いお疲れ様でした。次の就職先、見つかるといいですね。ほら、料理の腕前は素晴らしいとタダ食いやらかした店の店長さんも褒めてましたし、料理人になられては?」

 

 「お兄ちゃんのご飯は美味しいから、鈴々もそれは賛成なのだッ!」

 

 張飛ちゃんすごく嬉しそうですね、でも気がついてますか。あなたの言っているそのお兄さん、めっちゃ複雑な顔してますよ。

 

 全員をあきらめムードに誘導した中、ルーピーだけは頑張ってカニ味噌詰まってる頭を捻らせてるが無理だろう。そのカニ味噌は既に腐ってる、食べられない。

 

 「というわけでして、私は幽州に帰りたく――――」

 

 お前らと違って私はコネがたくさんあるのだ。伊達にあそこでナンバー2で頑張ってお金稼いでいたわけじゃないのだ。

 さらばだ貧乏人共。あれだ、小銭ぐらいなら地面に放おってやるから拾えと内心で大笑いしつつ、帰るべく腰を上げる。

 

 「それだッ!」

 

 突然ルーピーが叫びやがったので、思わずひっくり返ってしまった。頭をぶつけて涙目な私の手を取り、ルーピーが無駄に輝いた顔を付き合わせてきた。

 止めろ、吐き気を催す。

 

 「徐庶ちゃん、私も白蓮ちゃんのところで頑張ればいいんだよッ!」

 

 よし、こいつを殴ろう。

 

 おい北郷、私を止めるな。そんな青い顔で首を振るな。

 ほら、もうなんていうか、一回ぐらいいいだろう。一回良いということは、二三発、ひいては数十発は許されるということだ。

 

 そんな私と北郷の競り合いを余所に、ルーピーはやたらキラキラした目で口を開く。

 

 「私や徐庶ちゃんと友達だし、それに徐庶ちゃんが働いていたところだもの。きっと私達を助けてくれると思うのッ!」

 

 何を抜かしてやがるんだ、と呆れてため息を吐き出した。

 白蓮さんは確かにお人好しで、抜けていて、身内に甘くて、頭の方もお世辞にもいいとも言えず、後先を考えない展望の甘さを見せることはあるが……。

 

 うん、駄目だ。完全にアウトである。

 『義理1』こと松永久秀もこれには大爆笑。お前、あの話の流れからよくもまぁ白蓮さんの名前出したなおい。

 

 「えー、ルーピー」

 

 「ん、どうしたの徐庶ちゃん?」

 

 「それって、要するに友人を踏み台にしてません?」

 

 「徐庶ちゃん。白蓮ちゃんのところには人が足りないんだよね?」

 

 そうだな、お前のせいで私が引きぬかれて数は入っただろうが、それでもとびきり有能な連中はまずいないだろう。そんな余裕は国にはない。

 

 「だから私達でお手伝いしてあげるの。愛紗と鈴々ちゃんは大陸でも有数の武の持ち主だって、本物だって徐庶ちゃんは初めてあった時に言っていたよね?」

 

 なにを余計なことを言ってんの私。

 

 「あのお店で情報を集めている時に聞いたけれど、水鏡先生の私塾ってすごい有名なんだってッ!そこを出てる朱里ちゃんと雛里ちゃんはやっぱり頭がすごく良いし、身も保証されているから大丈夫だよねッ!白蓮ちゃんも喜ぶと思うッ!」

 

 そうだな、血の涙を流して羨ましがるだろうね。

 

 「白蓮ちゃんに会うのも、かつて働いていた徐庶ちゃんがいれば大丈夫。そして徐庶ちゃんが私のところに来てくれたってことは、きっと今でも私の知っている白蓮ちゃんなんだと思う。そしてきっとみんなは白蓮ちゃんの役に立つ、そして私達も大きく動いていけるッ!」

 

 物は言いようだなぁと感心した。あと胃が痛くなった。お前、私の最後のユートピアをデストピアに変えるつもりか。やらせはせん、やらせはせんぞ……ッ!

 

 「しかし、それでも白蓮さんは大迷惑です。彼女の友の一人としてそんな事は認められませんッ!」

 

 どうせ白蓮さんは袁紹に滅ぼされるからまぁ仕方がない。グッバイ白蓮。

 しかしそれは別として私の唯一の安寧の場であり、私腹を肥せる理想郷(アヴァロン)に踏み入るなど冗談ではない。

 幽州の平和は私が守ってみせるッ!

 

 そう意気込む私に、ルーピーは決意を秘めた瞳で向き直る。え、なにこいつ。スゴイ凄みがあるんだけど。

 

 「ありがとう、徐庶ちゃん」

 

 へ?

 

 「徐庶ちゃん……。白蓮ちゃんはそれでも現状、人手が足りなくて困っている。そうでしょ?」

 

 「うぐッ!?し、しかし……」

 

 「どんな方法にも、必ず損は存在する。しかしそれ以上に大きな得る物があるなら、それは充分な交渉としての余地があると思うの」

 

 ね、と笑う顔はいつも通り変わらない。が、なにか纏っている空気が違うというか……誰だお前。

 

 「そしてそれに魅力を感じ、相手が認めたらそれは『取り引き』になる。そう、これは『取り引き』なんだよ。物事の片方の面だけを見たら、確かにこれは徐庶ちゃんの言うとおりかも知れない。でも、私はこれを『取り引き』だと思うし、そうであると信じる。そして白蓮ちゃんもこれを取り引きであると、そう解ってくれると信じている」

 

 いともたやすく説明されるエゲツナイ行為に、お前はどこの大統領だとツッコミたくなって思いだした。

 あ、そういや私が子供の頃にこいつに付き合わされ、遊んでいた時にTRPGモドキをやっていて、それで――――

 

 『我が心と行動に一点の曇りなし……!全てが「正義」だ』

 

 ――――そういや、あいつをモデルにしたボスがいたなぁと思いだした。子供の頃の私をぶん殴りたい。はっはっは、胃が痛いわくそったれ。

 

 「物事の片方の面だけを見てはいけない、これ、徐庶ちゃんが昔私に教えてくれたことだよ」

 

 そんな感動した顔で見るな、胃液が胃で猛威を振るっていてそれどころじゃない。

 

 「私、すごいと思った。その言葉の意味は解らない、でも、子供の頃に私はこの言葉には大きな『覚悟』を感じていた」

 

 それ、漆黒色してない?

 

 「今、私は解る。言葉ではなくて心で理解したの。徐庶ちゃんがまた私に教えてくれた。確かにこれは白蓮ちゃんを踏み台にすることかもしれない。大切な友人を困らせることになるかもしれない」

 

 なんか頭が痛くなってきた。

 

 「でもその可能性を、恐怖を、迷いを私は認める。私はそれでも白蓮ちゃんを助けたいし、それでも私はより多くの人達が笑い合える世にするために大きな存在になりたい。そのために、私は覚悟を、今この場で決めたのッ!」

 

 決めなくていいから肥溜めにでも頭を突っ込んで冷した方がいいと思うな。

 

 「……ありがとう、徐庶ちゃん。そこのことを教えてくれて。徐庶ちゃんがいなかったら、きっと私はその覚悟を決められなかった、いや、気がつくことさえ無かったと思うの」

 

 お前に感謝される度に意識が飛びそうになるのだが。その度に私の第二の幼なじみが鎌を片手に手を振ってるのだが。

 

 「私は、幽州の白蓮ちゃんのところに行くッ!」

 

 その言葉に私は泡吹いて卒倒した。私の理想郷(アヴァロン)終了のお知らせ。袁紹来襲まで保たないとかクソゲーである。

 かと言って、他に行くところも金もないので私の人生地獄へダストシュート。もうなんていうかヤダ。

 

 翌日には幽州へ出発。

 こいつら全員賊の慰め者にでもならないかなと思っていたが、普通に賊達は関羽と張飛になで斬りにされ、無事に白蓮さんのところへ到達したのであった。

 

 「あら、徐庶様。お久しぶりでございます。……ええと、体調がどこか優れないのですか?」

 

 「おう、徐庶ちゃん!随分と顔を見なかったが……。その、顔色悪いが大丈夫かい?」

 

 「ぐふふ、これはこれは徐庶様。もうこちらへお戻りになられるとは。また前のように便宜を図っていただければ……。その、この漢方は如何ですか?ええと、御代は結構です、はい」

 

 「げへへ、徐庶のお嬢様じゃないですかい。また頼んでくれりゃ、いつものように話を聞かねぇ連中に話をつけて……。だ、大丈夫か?早く寝たほうが良いんじゃないか?」

 

 「わぁ、流石は徐庶ちゃんッ!人気者だねッ!」

 

 そうだろそうだろ、多分お前が来たから全部壊れる光景だぞこれ。

 魅力チートがこの声援を全て無意識にかっさらっていく光景が、まるで目に浮かぶようだこんちくしょう。

 

 「いや、その、桃香さん。最後辺りの人達は絶対にまともな人達じゃ……。徐庶さん、解ったから睨まないでください」

 

 「北郷さん。彼らは欲望にちょっと忠実なだけで、実に話がわかる良い人達です。そんな人達の悪口を言うもんじゃありません」

 

 お金を持っている連中は良い奴で、使い勝手が良く扱いやすい連中も良い奴である。

 つまり全くそうではないルーピー達は産業廃棄物である。

 

 「そうだよご主人様、見た目で人を判断したらいけないよ?」

 

 「……ご、ごめん。あとお願いだからご主人様は止めてくれないかな?その、町の人からの視線が強いというか、殺気がこもっているというか」

 

 「ふむ、確かに不思議ですねご主人様」

 

 「愛紗さん、俺の話聞いてた?」

 

 頬を引きつらせて、顔に若干の怯えを見せる北郷。

 そりゃ見た目は最上級な女共にご主人様呼ばわりされてる男がいたら、世の男共が妬み羨ましがり呪うのは当たり前である。

 

 「え?ご主人様はご主人様だよね」

 

 「……はい」

 

 煤けた顔を見せる北郷に同情を禁じ得ない。こいつに関わったのが運の尽きだ。

 私も同じ穴のムジナであるが、それでもまだ諦めない。諦めた瞬間に、人は生きていても本当の死を迎えるのだ。

 

 旅の途中で解ったことが一つ。北郷のおかげで、ルーピーの注意はこいつに向くことが多くなった。

 ルーピーの今一番の感心は、イケメンな天の御遣いだ。旅の最中における私との割合は六対四ほど。おかげでここ最近は気絶していない。胃は相も変わらず悲鳴をあげているが。

 

 ここでルーピーとの接触機会を徐々に減らしていき、最終的には北郷に完全な身代わりになってもらう。私の安寧の為に犠牲になってくれ北郷。安心しろ、体と見掛けだけならこいつら一級品だから。

 

 そんな事を考えつつ、兵達に話を通して白蓮さんとの面会の機会を取り付ける。

 

 久しぶりにあった白蓮さんは驚きと、旧友に会った喜びに溢れていた。そしてすぐにルーピーの受け入れを了承。お人好しな白蓮さん、ルーピーと歓談してる姿に、もうなんていうか涙を禁じ得ない。

 

 「でも本当に桃香はスゴイよな、こんな連中を引き連れてくるなんて。いや、本音を言えばありがたいよ。盧植先生からの助けがあったとはいえ、やっぱり上に立てる人間はまだまだ足りないからな」

 

 「もちろん、沢山働くからよろしくねッ!」

 

 「花琳もよろしくお願いするよ。やっぱり一番勝手が解るのはお前だからな、桃香達にいろいろと教えてやってくれ」

 

 ふと涙を拭って顔をあげると、何やら戸惑いの気配を感じた。

 白蓮が不思議そうにしているのだが、何かあったのだろうか。

 

 「……その、白蓮ちゃん。今呼んだ人って、誰のことなのかな?」

 

 「え、いや、徐庶の『真名』だろ?」

 

 何やら陶器にヒビが入ったような幻聴が聞こえた。

 気まずげに自分に視線を向けてくるルーピー以外の連中に、私は首を傾げる。揃いも揃ってなんだ、新手のいじめかと眉をしかめる。

 

 と、ルーピーの肩がプルプル震えているのが目に入った。どうしたルーピー、故障でもしたのか。関羽と張飛は全力で斜め四十五度叩き込んでやれよ。私が喜ぶ。

 

 途端、ルーピーが私に向かって全力で駆け寄ってきた。胸へと飛び込もうとするその姿に、迷いなく回避を選択。石畳に顔をダイブするルーピーに思わずガッツポーズ。

 

 「な、何で避けたのッ!?」

 

 「いや、そりゃ避けますよ」

 

 鼻血と唾が飛んできて汚ねぇ。仕方がなく、ルーピー専用と化した例の鼻水付きハンカチで顔を拭ってやる。

 素直に顔を拭かれるルーピーは、何故かほにゃらとした表情。お前私を煽ってんのか。

 

 「ありがとう徐庶ちゃん」

 

 「いいですよ、これ、あなた専用みたいなものですから」

 

 「えへへ、そうなんだぁ……。じゃ、なくてぇーッ!?」

 

 何だ騒がしい。情緒不安定で……あれか、生理か。

 

 「徐庶ちゃん、私の名前はッ!?」

 

 「ルーピー」

 

 「そうだけどそうじゃないッ!?」

 

 「お、おいおい。花琳、お前桃香に何かしたのか?」

 

 「失礼な。白蓮さん、どうして自ら毒沼で沐浴しなくちゃいけないんですか」

 

 「そう、それッ!それなんだよ徐庶ちゃんッ!」

 

 「お前は何を言ってるんだ」

 

 あまりの取り乱しっぷりに周囲は唖然としている。関羽なんか口全開だぞ。

 いったいどうしたのだろうか。確かに変に真面目なお前はお前ではないが、かと言ってそんなキャラでもないだろう。気味が悪いなおい。あと唾を飛ばすな。

 

 この日以降、何故か北郷と私に対する絡み具合が一対九になった。やっぱりこいつ碌なもんじゃねぇ。




劉備「『覚悟』が、道を、切り開くッ!」

徐庶「誰だこいつ(引き気味)」

劉備「アイエエエエ!?ナンデ!?」

徐庶「誰だこいつ(引き気味)」

気がついたら一年の半分が終わる、やべぇ、何か湧き上がるこの暗い気持ち。

※誤字報告してくれる方、ありがとうございます。いや、本当に嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。