私の幼なじみはルーピー   作:アレルヤ

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私の幼なじみと先生

 季節が移り変わる中。

 私は私塾のようなところに通うこととなった。

 

 ……ルーピーと一緒に。

 

 何でも素晴らしい先生の私塾があるということで、ルーピーはそこで勉強することになった。

 当然のようにルーピーは「徐庶ちゃんも一緒にいこうねー」とか言ってほんわかしていたが、一瞬の迷いもなく私は断る。

 

 理由は簡単であった。ルーピーと一緒にいたくないのだ。

 

 何で私がお前の世話をそんなところに行ってまで、いちいちやらなければいけないんだと述べる。

 四六時中もルーピーと一緒に生活していたら、私もいずれ「ハイール劉備様!」みたいになりそうで怖い。只でさえトンでもなかった桃色ハッピーオーラが、最近成長を始めているように感じるのだ。

 

 ともかく勝手に行ってください、と伝えて一息つく。

 

 涙目になっていた。ルーピーの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。しまった言い過ぎた。こいつガキか、いやガキだったわ。

 

 慌ててハンカチを取り出して涙を拭って、鼻をちーんとさせて。仕方がなくそれっぽい言い訳を取り揃える。

 

 「一つ目、私の家は裕福ではありません。貴方のイメクラ衣装みたいな服装を着れるほど……じゃなくて、私塾に通えるほどのお金はありません。この芋臭い服装見て察してください、というか察しろ」

 

 「そうなんだ……。ところで、いめくらってどういう意味なのかな?」

 

 「気にしないでください。二つ目、私ももういい年なので家計を支えるべく、農作業や狩りなど手伝っていかなければなりません。そんな私に私塾に通う時間などありません」

 

 「……ごめんね、徐庶ちゃん。無理を言ってしまって」

 

 本当だよ。まったく家計のために働くつもりがなかったというか、親からせっつかれたとしても、この年までゴネて言い訳をし続けたというのに。これから本当に働かなければいけなくなったじゃないか。くそったれ。

 

 しかしルーピーと一緒に過ごすよりは数百倍はマシだ。

 私塾の友達と過ごす時間の中で、私のことは忘れて生きていって欲しい。

 

 そう言って私塾に落ち込みながら向かうルーピーを、私は満面の笑みでハンカチを振りながら見送ったのであった。うう、これで私の冬の時代はようやく終わりを告げたのだ。嬉し涙が出てきたので、ハンカチで拭う。

 

 ……ぬちょり、と嫌な肌触りがした。思い出した。このハンカチ、ルーピー汁が大量に付着していた……。SAN値チェック。失敗。

 あいつがいないのに、その日は一日中欝だった。

 

 その翌日。ルーピーが朝っぱらから、大声でうちの家に駆け込んできやがった。

 安眠妨害だと水をかけて追い払おうかと思ったが、見つかって水を無駄遣いするなと親に怒られた。全部ルーピーが悪い。

 

 「それでね、先生が私の知り合いだったら、お金とか気にしないで来てくれていいって!」

 

 おい、お前今なんて言った。

 

 「……はい?」

 

 「だからお金は大丈夫だよ!あ、でも徐庶ちゃんは家のお仕事をしなくちゃいけないんだよね……」

 

 なんてことをしてくれたのでしょう。いや、それどころではない。

 

 こいつ、確信犯だ。いや、天然なんだがエグいしゲスい。私の親の目の前でこんな会話しやがるとは。

 このままではまずいと思って口を開こうとすると、話を聞いていたうちの母親の声に遮られた。

 

 「気にしないでいいわ劉備ちゃん。こんな娘だけれども、良かったら連れて行ってあげてね」

 

 「本当ですかッ!?」

 

 スリザリンは嫌だスリザリンは嫌だスリザリンは嫌だ。

 

 「ええ。……お金、かからないのよね?」

 

 「はい、無料です!」

 

 「ならばよし!」

 

 グリフィンドォォォォォォォォォォル!

 

 大徳がうちの母親にクリーンヒットした。

 そりゃウダツが上がらない娘と、超絶美少女魅力チートの女の子だったら、私だって後者を選ぶけどひどくないかこれは。

 あと知ってるぞ母上、あんた最終的には無料って言葉に惹かれただろ。流石私の母親だ、どうしようもなく俗物である。

 

 放心する私と手を繋いで私塾に向かうルーピーは、本当に嬉しそうだった。見ていて吐き気がした。

 

 件の私塾に到着して意識が戻り、仕方がなく詳しく話を聞いてみる。

 

 なんでも盧植という先生が中心の寺子屋らしい。マジか。

 盧植と言えば南夷の叛乱を鎮圧し、張角を連破して首級一万余人を上げたとされるスゴイお方だ。あと一歩まで追い詰めたところで徴還されてしまったが、もし徴還されなければ張角を討伐していただろう。

 

 テンション上がってきた、これは期待できると思って扉を開ける。

 するとルーピーと同じく、ゆるふわほんわか系の眼鏡巨乳が出迎えてくれた。これでもないくらい属性を盛ってやがる。何かキャバ嬢みたいな格好をしている女性だ。これはお近づきになりたくない……嫌な予感がした。

 

 結論から言えば、このキャバ嬢が盧植だった。テンション急降下、マイナスまで落ち込んだ。なんかもう、みんな燃えればいいのに。

 

 大きな胸がコンプレックスだそうだが、だったらもっとしっかり隠せよ。何で男子の股間がセントヘレンズ大噴火する格好してんだよ。

 思わず突っ込んでしまったが、胸が大きすぎて収まる可愛い服がないらしい。どいつもこいつも出荷されればいいのに。

 

 「んー……あなたが、桃香ちゃんが言っていた徐庶ちゃん?」

 

 「はい、ご配慮を頂けるとのことで。ありがとうございます」

 

 もう勉強はいいから胸が大きくなる講義をして欲しい。そうすれば馬鹿な男共を騙して金銭を稼げるかもしれない。

 盧植は何かウンウンと唸っていたが、不思議そうな様子で口を開いた。

 

 「風鈴はね、桃香ちゃんからあなたのお話を聞いていたの。それで何とかなりませんかって相談も受けてね」

 

 「ルーピーさん……」

 

 「もう先生、内緒にしてくださいって言ったのに~……え?どうしたの徐庶ちゃん」

 

別にお前との友情フェイズとかいらない。そんなものは犬にでも食わせとけばいい。それよりも重要なことがある。

 

 「今の盧植先生が言ったのは、ご自身の真名ですか」

 

 「あぁ、ごめんね。そうだよー、風鈴は風鈴の真名なんだ」

 

 いい年して自分を自分の名前で呼ぶ女性。

 なんてことだ。ここも桃色バイオハザードに巻き込まれていたというのか。

 ルーピーに負けず劣らずの猛者ではないか。つまりそれは私の精神的安らぎはこれっぽっちも存在しないようだ。

 

 「でも、風鈴が想像していた子とはちょっと違ったなぁって……」

 

 ごめんなさい。正直貴方の想像と外れて安心しています。ゆるふわほんわかキャバ嬢スタイルのお姉さんの想像人物像がマッチしたとか、ちょっと発狂を抑えられる自信がありません。

 

 「……聞いてもいい?」

 

 「答えられることであれば」

 

 どうして貴方のお胸は小さいの、とでも聞くつもりか。泣くぞ。

 

 「……桃香に人の道を説いたあなたに聞きたいの。今後、この国は、未来はどうなるのかな?」

 

 ……はい?

 思わずぼぅっと呆けてしまった。何だこの質問は、何が聞きたいのかまったく解らない。

 え、これは察せられない私が悪いのだろうか。なんか悔しいので、解っているふりをして目を瞑る。

 

 ……ちらりと目を開けてルーピーを見たら、何か真剣な顔で私達を見ていた。え、お前そんな顔できるの。どうしたんだルーピー、道で何か拾い食いして気がおかしくなったのか?ただでさえおかしくなっていた気が、ひっくり返ってまともになったとでもいうのか?

 

 不気味に思いながら前を見ると、盧植先生も真剣なご様子。

 あ、これ中途半端なこと許されない雰囲気だ。

 

 「……どうにも、ならぬでしょう」

 

 「どういう意味?」

 

 それは私のほうが言いたいよ、だって何も考えてないんだから。何か雰囲気とノリで流されて言っているだけなんだよ。察しろよ。

 

 「ならぬものはなりません。それだけです」

 

 「……桃香ちゃんがいても?」

 

 「先生はルーピーさんに何を望んでいるのですか」

 

 「るーぴー?」

 

 そこは突っ込まないでもらいたい。あなたに人の心は無いのか。人の心があるのなら、そんなことはできないはずだ。もう何か泣きたい。

 

 「もしかして、桃香ちゃんのこと?……可愛い呼び方だね♪」

 

 そう言って笑う年齢不詳の痴女教師に、思わず憤死しそうになる。

 私の呼び方を気にするよりも、ご自身の性格と服装を見直すべきだと進言したい。おい、そこで何故か嬉しそうにしているルーピーも他人事じゃないからね?

 

 「風鈴はね、桃香ちゃんはきっとすごいことをしてのける思うんだ」

 

 まだ子供であるのにも関わらず村の男の子達の初恋を総ナメにして勘違いさせ、幼女だった私をストレス性胃腸炎にして血を吐かせているこいつが、これ以上すごいことをするというのか。悪夢以外の何物でもないじゃん。

 

 「桃香ちゃんはやれば出来る子だって、英雄にだってなれちゃうって風鈴は思ってるよ」

 

 「え、本気で言ってるんですか?」

 

 目を見開く。思わず素が出てしまった。

 

 この年中脳内春で蝶々が狂ったように飛び回っている天然ほんわかオタサーの姫に、何を期待しているのだろうかこのいい大人は。

 あれか、同類にのみ感じる何かがあるのか。じゃあ私はわからなくていいです、いや、わかりたくないんで本当に勘弁して下さい。

 

 「こんな私が血を吐いたぐらいで取り乱して、止めろって言ってんのに体を気絶するぐらい揺するやつが英雄になんてなれるわけないでしょう」

 

 「あの、徐庶ちゃん。あの時の事……まだ、実は怒っているんじゃ」

 

 当たり前だろ、十年経ってもまだ覚えていられる自信がある。絶対に忘れない。

 

 「英雄になるためには万の屍を築いていかなければならないんですよ。死んだ人間の意志を背負っていかなくちゃいけないんですよ。時には非情の選択をしなければならないんですよ。ルーピーさんにそんなのできるわけないじゃないですか」

 

 「桃香ちゃんはまだ子供、でも成長して大人になる。そうなったらわからないよ?」

 

 「無理です無理無理。多分二十歳過ぎようが、三十路過ぎようが、こいつ絶対に『天から運命の人が私を迎えに来てくれるの』と言っちゃうぐらいには、脳内ほんわかしてるでしょう」

 

 「うわぁ、それって素敵だね!」

 

 「ルーピー、お願いだから黙っていてください。あと息しないでください」

 

 命かけてもいい。こいつ三十超えても「私、女子力高いんだ♪」とか言いそうで怖い。

 

 「ルーピーはどこまで行ってもルーピーです。成長するには多くの糧が必要です。でも、彼女はそれを受け止めるどころか、そもそも耐えていける人間じゃありません」

 

 これも自信がある。

 クトゥルフやっている時、毎回NPCが死ぬ度にSAN値チェック入れてやろうかと思える程に落ち込んでいた。

 しかも終わってもそのキャラの名前呟きながら、ごめんなさいとかぐずってるし。

 

 「……そうかもしれないね。でも桃香ちゃんはとても魅力あふれる子だよ。だからきっと多くの人達が桃香ちゃんを助けてあげると思うんだ。だから私はきっと大丈夫だって思うの」

 

 え、なにそれこわい。

 

 確かにこいつは魅力値が溢れている馬鹿だ。そしてそんな馬鹿に引き寄せられていく馬鹿共。すごいな、馬鹿のデススパイラルだ。全然大丈夫じゃないぞ。

 

 そいつらがルーピーを中心に集まり、集団を形成し、なんの罪も無い人々を洗脳して馬鹿の和が広まっていくと。この世の終わりではないだろうか。中国大陸全員脳内お花畑計画とか、地獄絵図もかくやという有様だ。なんというディストピア。そうなったら私は死を選ぶぞ。

 

 「絶対に、絶対にそんなことはさせません」

 

 只でさえ村全員が既にルーピー菌に感染してしまい、バンデミックが起きているというのに、さらなるパンデミックを起こさせるわけにはいけない。くそ、中国の未来は私の肩に託されたというのか。誰かに押し付けたくて仕方がねぇ。

 

 

 

 

 

 決意を込めた一言。その一言に盧植は暖かな微笑みを浮かべた。

 そしてほっとするように、吐息を吐き出して笑った。盧植の心配は、徐庶のこの一言で消え去ったのだ。

 

 不安があった。教え子は英雄なる力を持つが、優しい少女であるがために危さを秘めていた。

 だが、彼女がいれば大丈夫だと確信する。己ですら心酔しかねない劉備の魅力に酔うこと無く、ありのままの劉備の姿を確かに捉え、そして大人である私に対しても臆すること無く堂々と言い切った。

 

 この子が劉備の親友でよかった。

 劉備が一番の親友がいる、どうか助けて欲しいと聞いた時には、彼女を利用する存在かと僅かばかり疑ってしまったのだ。大変に浅ましく、そして愚かしい話であった。

 

 このような怪しき騒乱の兆しがある時代、英雄の素質がある人間が放っておかれるほど甘くはない。例え本人にその気がなくとも、周囲によって祭り上げられていくことだろう。

 

 それでも、それでもだ。

 きっとこの徐庶は、英雄ではなく一人の友人として劉備と共にあり続けてくれるだろう。

 

 「……徐庶ちゃん、桃香ちゃんをよろしくね♪」

 

 「そのお願いされたルーピーですが、ずっと息止めてて顔色やばいことになってますね」

 

 「桃香ちゃんッ!?」

 

 ……たぶん。




劉備→徐庶
「わたしの、最高の友達」

徐庶→劉備
「ルーピー」

盧植とか恋姫に追加されてたんですね、一応と思って調べてたら驚きました。
予定が詰まってきたので、次回があるとしても先になりそうです。

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