歓迎すべき夢をありがとう   作:琥珀兎

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第一話:彼女たちと彼

 都心の一角にある小規模なビルを、傾いた夕日が照らす。

 一階に店を構える定食屋が入口にぶら提げた提灯の明かりを点けた。この時間から居酒屋としての営業も始めるという店主からの無言の知らせだ。

 『お食事処たるき亭』それがこの店の名前。

 豊富なメニューと財布に優しいリーズナブルな値段に、確かな味を持つこの店は周辺で働く人たちに重宝されている為、近所でも人気の店である。その店先に、一人の男が今まさに暖簾を潜らんとしていた。

 通い慣れた様子で引き戸を開けた男性は見知った店員に笑顔で挨拶をすると、既に他のお客が座る四人掛けの席に、相対するようにして座った。

 

「すまない、待たせたようだね」

 

 正面に座るお客とは約束があったらしく、彼は付き合いの長さが感じられる軽い調子でそう言うと身近で良く聞く声とそっくりな女性店員を手招きした。

 

「少し早すぎるかもしれないが、ビールを一本くれないか。勿論、グラスは二つで頼む」

「おいおい、これから仕事があるのか僕に聞かないのか?」

「ないからこそ付き合ってくれたんだろう」

 

 確信を持ってそう告げた彼は注文を受けて席から離れる店員の背中を見送り、改めて待ち合わせていた男性を正視する。

 

「それで善澤くん、頼んでいた件だが……どうだったかね?」

 

 あまり公にしたくないのか、彼の声はそれまでよりも一段小さくなっていた。

 善澤と呼ばれた壮年の男性は、被ったままのトレードマークのハンチング帽に手を当てた。芳しくなさそうな面持ちは、彼を一瞬だけ不安にさせた。

 

「見つかるには見つかったよ。やはり、お前が思っていた通り小さなBARを営んでいた」

「そうか、見つかったか。しかしそれなら何故、そんな顔をするんだね」

「実際に会って話をしたわけではないが、遠目に見てお前の頼みを受け入れてはくれそうにないと思ってね。……彼はきっと、会っても迎えはするが訪れはしないだろう」

 

 私見だがね、と一笑しながら先程男が注文したビールの栓を抜いた。

 グラスにビールを注ぐ善澤を眺めながら男は考える。

 これが素人の意見ならば彼も大丈夫だろうという楽観的な心持ちを懐けただろう。しかし、善澤が相手ではそうも思えない。芸能記者を生業とする彼はその職業柄、人を見る目に関しては確かだ。だからこそ、きっと言う通りなのかもしれない。だが――。

 

「だとしても、私は彼に会わなくてはならない。今の765プロには彼の力がどうしても必要なのだ」

 

 透明なグラスの中で粟立つ液体はまさに今の彼の状況そのものだ。液体という規模は増え続けるが、それよりも大切な何かが気泡となっては弾け失っていく。

 

「お前の言う通り、今や765プロもかつての弱小を脱し、所属アイドルだけではなく彼女らの為の舞台を作る側の人間も試される時期にある。

 十三人という数のアイドルを二人で回していただけでも精一杯だったのに、シアター部門のアイドルまで居る。完全に人手不足なのに、どうして今それを立ち上げた?」

 

 彼――765プロ社長の高木順二郎には耳が痛い話であった。

 善澤が言っていることは紛れも無く、反論の余地も無い正論だ。確かに今の765プロは人手不足。アイドルをプロデュースするプロデューサーが二人に事務員が一人と、かつての弱小時代のまま人員は変わっていない。しかもマネージャーも居ない為、二人のプロデューサーが送り迎えをするが、それも限界がある。手の届かないアイドルたちは各々が自分で現場まで向かう事も、もはや日常茶飯事である。

 綱渡りにしても足元の綱があまりにも頼りなさすぎるこの状況で、更に追い打ちをかけるように所属アイドルは増えた。

 運転資金の増えた765プロはそれを使って、小規模ながらも自社のライブシアターを建てた。

 少なくとも千人以上は収容可能なシアターでは、そこを拠点として活動する新人アイドルが大勢所属している。

 その数、実に三十七人。

 なのにプロデューサー兼マネージャーの業務を担当するのはたった二人。高木も手の空いている時は率先してアイドルの面倒を見てはいるが、それも時間の問題。沸騰した熱湯に水を注ぎ続けようと根本の解決にはならない。

 

「だからこそだよ。私の見立てが間違いでなければ、彼が……彼だけがシアターの娘たちを導ける。その為ならいくらでも頭を下げよう」

「覚悟はあるようだな……わかった、今夜にでも彼の店に行こう」

「助かるよ」

 

 黄金色の液体が満たされたグラスを高木の前に置き、善澤は微笑む。

 

「なに、気にするな。僕としても、彼がこの業界に戻ってくれるのは嬉しい。

さあ、辛気臭い話は終わりにして乾杯しようじゃないか」

「あぁ、そうしよう」

 

 両者共にグラスを持って掲げる。

 

「若者たちの今後を祈って――」

 

 善澤が、高木が持つグラスがぶつかり合う。

 お客の増え始めたたるき亭に、清涼な響きが小さく鳴った。

 

 

 ※

 

 

 月末の定例ライブを終えてから二日。

 765ライブシアターでは一日の休暇を経て日常が舞い戻っていた。

 

「未来ッ、そこの振り付けワンテンポ遅れてるわよ!」

「ご、ごめん静香ちゃん」

 

 ダンスレッスンを重ねている春日未来の額には玉のような汗が浮かんでは流れ続けている。時折それが目に入っては、染みるのか目を眇めて眉間に皺が出来ている。その度に、今のようにして最上静香が厳しく指摘する。

 憧れのアイドルへの第一歩を踏み出したばかりの未来は、レッスンの厳しさを痛感していた。テレビやステージの客席からでは分からない、アイドルの過酷な現実は、容赦なく彼女の身体を痛めつけるが、当の本人に疲労の色は覗えど諦めや苦痛の色は無い。

 疲労を振り払うように顔を上げた未来を満足気に見て、静香はコンポの再生スイッチを押そうとした所で一人の少女が意見を述べた。

 

「静香ー、ちょっと張り切り過ぎじゃない? ライブが終わってまだ二日なんだし、ちょっとくらいのんびりしようよ」

「のんびりなら昨日十分したでしょう。それに、休みが抜けきれないで遅刻した翼に言われたくないわ」

「えへへ~、それは途中で美味しそうなクレープが売ってたのがいけないんだよ」

 

 悪びれも無く爛漫な笑顔で答える少女、伊吹翼は未来と同じだけの量のレッスンをこなしているにも拘らず彼女よりも疲労の度合いが少ない。

 

「えー! 遅いと思ったらクレープ食べてたの!? いいなぁ、私も食べたい」

「もう翼っ、未来が真似するからやめなさい」

 

 眉を顰めて言い聞かせる静香はまるでお母さんの様だと思いながら、未来はこみ上げる笑いを抑えたが、

 

「未来、何がおかしいの?」

「あっ……でへへへ」

 

 抑えたつもりになっていただけらしい。

 

「静香って、お母さんみたいだね」

 

 翼の何気ない一言は、まさに未来が懐いたものと同一の意見だった。

 静香の眉間に縦皺が生まれたと同時に未来が噴出した。当然、これを黙って見過ごし呆れたような溜息と共に微笑む彼女ではない。

 数秒後の彼女の剣幕を見て、宥めよう仲裁に入ろう、などと考える者は少なくともこのレッスン場には居なかった。

 

 

 静香の雷が落ちてから一時間後、滞りはしたもののレッスンそのものは順調に消化し、一同は談話室兼事務所へと集まり憩いの時を各々が過ごしていた。

 中央の長テーブルの席に着く者、壁際のソファーに深く座る者、キッチンに立ち一心不乱に料理をする者や事務所の作業机付近のスペースを陣取り黙々と携帯ゲームをする者まで、さまざまな人がいる。

 男性は一人も居ない。ここに居るのは全員が女性であり、かつアイドルの者たちのみ。

 ライブシアターには合計三十七人のアイドルが所属しており、地方からやってきた者はシアター内に併設された寮で生活をしている。それ故に談話室兼事務所には冷蔵庫やキッチンが設置されており、他の場所には浴室や洗濯室などの設備も用意されている。

 寮に住む者らはここで生活し、ここのステージで仕事……つまりはライブを行ったりしている。

 アイドルと聞けば他にもラジオ番組やテレビ出演。他にも地方営業やグラビアなどその仕事は多岐に渡るが、どの仕事を重点的に積極的に請けていくかはプロデューサーの手腕も必要となってくる。

 しかし――。

 

「プロデューサーさん、今日は来れないのかな」

「言ったでしょ、今日は別件の仕事が忙しくて来れないって」

 

 長テーブルに突っ伏し溜息混じりに呟く未来を一蹴したのは、抑揚のない声から件のプロデューサーに対しての関心の無さが聞き取れそうな、腰まで伸びたブラウンの髪の少女だった。

 

「別に、今日はレッスン以外にみんなする事もないし、来ても来なくても変わらないわ」

 

 未来の隣、一番隅の席で手に持った本に視線を落としながら言い切ると、再び読書作業に戻ったのか無言のまま視線は動かない。

 

「でも、なんかプロデューサーさんが来ないと寂しくない?」

「私に同意を求めても、望んだ答えなんか返ってこないからね。私は、一人でも大丈夫だから」

「ええーでもプロデューサーさんが来てくれないと、他のお仕事の話とかも出来ないよ」

 

 現状、彼女たちはレッスンと定例ライブを繰り返し、その内の数人が時折プロデューサーが取ってくる仕事を請けるというサイクルになっている。

 765プロ本社に居る十三人のアイドルとは違い、彼女たちシアター組はアイドルとしての経験もキャリアも少ない新人だ。仕事が少ないのは当たり前で、寧ろシアターライブが月に一度定期的に行えるだけでも恵まれているのかもしれない。しかし、それでも不安は残る。

 

「そもそも、プロデューサーは私たちをプロデュースするつもりがあるのかしら。こうも放っておかれるとやる気を疑いたくなるわ」

 

 焦燥感からついそんな言葉が静香の口から零れ落ちていた。

 

「仕方ないよ、だって先輩たちだけでも十三人居るのに、劇場はその三倍は居るし。二人だけじゃ全員を見るのも大変だと思うよ」

「どうして増やさないんだろ、わたしたち担当のプロデューサーが居たら面白い仕事とか出来るかもしれないのに」

 

 未来はこのシアターに来て間もないから実感が湧かない為、静香の焦りを理解出来なかった。ただ、翼の意見には同意出来る部分がある。

 もし自分たちの担当プロデューサーが居たら、きっとここも一段と活気づくだろう。

 自然と未来の視線が部屋の隅へと移る。

 事務所としても機能するように――他に部屋が無い為――事務作業を行う為に置いてあるデスクはあまり使い込まれた形跡はなく、どこか空虚な調が聞こえてきそうだった。

 

「そうだね、もしそうなったら面白くなりそう!」

「出来たら優しい人がいいなー、キツいのは嫌だし。あと、男の人だと色々と意見が聞けて良いかも。

 ねえ、未来だったらどんな人が良い?」

「私? うーん、そうだなぁ私だったら、一人前のアイドルにしてくれるならどんな人でも良いかな。あ、でもやっぱり面倒見のいい人だと嬉しいな。その方が劇場も賑やかになると思うんだ。

 静香ちゃんは? どう思う?」

「え、わ、私っ? プロデューサーとしての腕が良いのは大前提で、頼りがいがある方が、ないよりはマシね」

「頼りがいかー、うんうんなんかイメージが浮かんできたっぽい。志保ちゃんは?」

 

 いつの間にかどんなプロデューサーが良いのかという話題に固まり、未来と翼は他のアイドルたちに質問をし始めた。

 問いを向けられた志保は手元の本から視線を上げると、一拍だけ上を向き考えるような素振りをした。

 

「私は基本的に静香の言ったような人で、過度に干渉してこなければ誰でも良いわ」

「ふーん、志保ちゃんも静香もストイックだね。もっと自分の好みとか無いの?」

「翼こそプロデューサーに何を求めているの」

 

 冷静さを見失わない志保はつまらなそうに意見する翼に反論すると、質問には答えたと言わんばかりに再び視線を手元へと落とした。

 一見すると冷たい対応をとっているように見えるが、志保に嫌悪や敵意などの感情は無い。ただひたすらに他者への関心が薄いだけで、必要最低限のコミュニケーションに留めているだけなのだ。

 そして、それを知っているからこそ翼も他の子たちも彼女の態度に言及するような事はしない。

 決して同じシアターの仲間をないがしろにしているわけではないから。

 

「みんなだったらどう? どんなプロデューサーさんが良いと思う?」

 

 未来の一声に各々が自分の中に居るプロデューサー像を描き始める。勿論、765プロには既に二人のプロデューサーが居るが、彼や彼女と顔を合わせる回数はそう多くない為、自然と二人とはかけ離れた像を脳裏に思い浮かべていた。

 談話室にはシアター組の全員が居るわけではない。現プロデューサーの取ってきた仕事でいない者や、レッスンを終えて自宅へと帰った者や寮の自室に戻った者も居る。よって、劇場のみんなの意見が集まるわけではないが、それでも大事な意見の一つである事には変わらない。

 一緒にゲームに付き合ってくれる人だと良い。自分の作った料理を沢山食べてくれる人だと良い。語っている最中に想像が飛躍し他国の王子へと変貌したり等、彼女たちの意見はまさに十人十色。

 思春期の少女という事もあって一度話が盛り上がると、話題が尽きる事は無かった。

 その日は珍しく寮に住んでいない人も時間を忘れ、遅くまで談話室に残って姦しい会話を続けていた。

 

 

 ※

 

 

 夜も深まった時間帯、都心の喧騒とは無縁の閑静とは違い簡素な響きが聞こえる街並みの、とあるビルの中二階にあるBARの看板が胡乱な明滅を繰り返している。

 木製の、相対するだけで慣れない者なら重圧さえ感じられる厚みのある扉。外界との繋がりを遮断するかのような隔たりさえ感じさせるそれは、まるで開ける者の覚悟を問うように厳格だ。

 扉の内側、店の内部は木製のカウンター席のみでその席数は七つのみ。

 見るからに小規模な店内にお客の姿は無く、店主である男性のバーテンダーが一人、他人の目が無いのを良い事に――いや、例えお客が居ようともそうしたであろう――煙草を咥えたまま紫煙を濛々と立ち昇らせていた。

 本日の入客数は今の所四人。総売り上げは約二万と、客単価的に悪くはなかった。だが、これ以上の入客が無いとなれば事情は変わる。

 新しい月が始まって二日。先日の売り上げが今日と同じ二万の為、出来る事なら今夜は四万以上の売り上げが欲しいのが店主としての正直な心情だ。しかし、こちらの都合などお客側からすれば知った事ではない。

 来ないのならば仕方ない、今夜はそう言う日なのだろうと断じて受け入れるぐらいの余裕があるらしく、天井に上っていく紫煙に不要なまでの揺らめきは無い。

 カウンターの内側、客側からは届かない死角に置いてある値段の張りそうな腕時計を横目に時間を確認する。

“このまま誰も来ないなら、今夜も早めに閉めてどこかに顔を出しに行くか”

 これから何処の店で飲もうかと思案し始めた頃――唐突に扉が開いた。

 扉の軋む音を耳にして即座に視線がそちらへと向かう。来客は二人。その顔ぶれはなんの冗談か、昔の雇用主とその友人であった。

 

「突然すまない、まだ店は営業中かね?」

「御覧の通り、客は居ないがその扉が開く限り営業中ですよ――高木さん」

 

 柔和な笑みを携えて現れた高木順二郎は店主のぶっきらぼうな返答に気を良くしたのか、一層笑みを深めると連れと一緒に並んで彼の正面、カウンターの中央に並んで席に着いた。

 席に着いたのを確認すると、彼は店主として、バーテンダーとしての仕事に切り替え即座にコースターを二人の前へと置いた。そしてそのまま流れるような動作で背後のタオルウォーマーから二本のおしぼりを取り出し、両手を使って広げ熱を逃がしながら差し出した。

 

「春に入ったとはいえまだ夜は冷えるでしょう」

「おおっ、ありがたい。日中は暖かくなってきたのに、夜は冷えたからね助かるよ。相変わらず君は目端が利くねえ」

「バーテンダーですから。善澤さんにはそれと、こちらですね」

 

 夜風で冷えた手をおしぼりで温める高木の隣に座る善澤にも手渡すと、動作を途切れさせることなく灰皿を前に置く。

 高木は煙草を吸わないが、善澤は煙草を吸う。それも常に胸ポケットに常備しているのを知っている彼ならではの事前知識あっての行動……というわけではない。彼はそれを知らなくても察する事が出来た。何故なら善澤からは既に煙草の臭いが発せられていた。それだけでなく、彼がおしぼりを差し出す直前、即ち席に着いた瞬間に懐に手を入れようとしていた。善澤の挙動は、酒をよく嗜む喫煙者に多く見られるものだった。

 一杯飲む前、もしくは乾杯を終えたらすぐに煙草を吸えるように、取り出しやすい目の前に置こうとしたのだろう。

 現に、彼が灰皿を差し出すと善澤は思い出したように再び懐へと手を伸ばし、ソフトケースの煙草を取り出した。

 

「僕が煙草を吸う事、覚えていたんだね」

「あっさり忘れるほど、時間は経っていないでしょう。それに忘れるわけありませんよ、お世話になった人の趣向を」

「若者に恩義を感じてもらうのも悪くないもんだ」

 

 善澤は愉快そうに鼻を鳴らすと煙草を咥え火を灯した。店内に二つの狼煙が上がる。

 

「煙草を吸いながらで失礼、こういったいい加減な店なものですから。ご注文はお決まりで?」

「なに構わないよ、君相手に畏まられてもこっちが困る。あ、私はバーボンをロックで頼む。銘柄は君に任せよう」

「こっちはスコッチにしよう、今夜はブレンデッドで、同じくロックで」

「かしこまりました」

 

 注文を受けて彼は二人に背を向けた。

 バックバーに並ぶ酒の品数は決して多くはない。むしろ他の店と比べると少ない方だろう。だからここには彼の好む酒と、常連が好んで飲む酒の他に、必要最低限基本の酒を数種並べているだけだ。店内の広さからしても、それが限界なのだ。

 毎日磨かれ埃一つない酒のボトルたちから、彼は今に相応しいだろう一本を選ぶ。

 逡巡の後、その手が二本のボトルを掴みとった。

 クリスタル製のグラスをカウンターに置き、中に丸く切り出された氷を静かに下ろす。すると、そのまますぐに酒を注がずに彼はバースプーンと呼ばれる両端がスプーンとフォークの二種類になっている長物を手にして、グラスへと音を立てずに差し込んだ。

 

「ほぉ……君のこういった技術は初めて見るが、随分と洗練されているね。素晴らしい」

「毎日呆れるほどの数を繰り返してますから」

 

 丸氷の表面に付着した霜が溶け出し、僅かに水を滴らせる。

 こうして温度を上げる事で、液体が注がれた際の急激な温度差で氷が割れてしまわないようにしているのだ。水に濡れ輝きが増した氷を見て、彼はグラスの底に溜まった水を落とす為、氷が落ちないようにバースプーンで抑えながらグラスの天地を逆転させる。

 水を捨て終えたグラスに残るのは、クリスタルの輝きと内包する星のような煌めきを放つ丸氷だけ。

 そのそれぞれのグラスに先程選んだ酒を注いでいく。

 

「お待たせしました」

 

 コースターの上にグラスを置く。

 

「高木さんには、こちら『オールドグランダッド80』を」

 

 そしてもう一つ。

 

「善澤さんは『ベイリー・ニコル・ジャーヴィー』というブレンデッドを」

「どうだね、君も一杯飲まないか? 勿論、支払いは私が持つ」

「ありがとうございます。では頂きます」

 

 適当な安価のウィスキーのソーダ割りを作り、既にグラスを掲げている二人に向かって傾ける。その際、グラスの淵は相手方よりも低い位置に持って行くのを忘れない。

 二人は自身が持つグラスの価値を知っているらしく、乾杯をする際に必要以上の音を立てないよう、ぶつけると言うよりも触れ合わせるように気を使っていた。十分に配慮された乾杯の音は、静謐漂う清らかなものであった。

 しばらくの間、三人は他愛ない会話を繰り返していた。店の経営状況や、自分が飲んでいる酒についての説明など、明日にはアルコールと共に抜けてしまうような会話を交わしていた。自然と、酒の勢いも増えていく。

 

「君も二十六歳か、まだあれから二年程しか経過していないのに、十年は経ったような気分だよ」

「それだけ密度が濃い日々だった、という事でしょう。あの毎日は」

 

 だが、善澤の灰皿を交換したタイミングで高木が切り出した言葉に、そんな雰囲気も霧散した。

 

「どうだね、それならもう一度――あの日々を送ってはみないか?」

 

 それまで酒を片手に談笑していたとは思えない程真剣な眼差しに、言っている事が冗談ではないという真摯な声に、彼の思考が一時停止した。

 

「突然だというのは重々承知している。虫の良い話をしているのも十二分に理解している。

 けれど、それでもどうか……君の力を貸してはくれないか」

「…………」

 

 彼は答えない。

 瞼を閉じて煙草に火を点ける。緩慢なその動作は、迷いから生じるのか……それとも呆れか。

 口を挿むべきではないと判じているのか、善澤はじりじりと燃える煙草の先を眺めたまま押し黙っている。或いはそれこそが彼の答えであるかのように。

 

「君が765プロを去って二年、あれからアイドルも増え、プロデューサーも増えた。覚えているかい彼女を、律子くんが今はアイドル兼プロデューサーとしてアイドルを支えているのだよ。

 だがそれもいずれ限界が来る」

「……それで俺に、何をしろと言うのですか?」

 

 紫煙と共に吐き出される言葉は、固く冷たい。

 高木の脳裏に、夕刻に善澤に言われた言葉が蘇る。それでも、彼は諦めるわけにはいかなかった。

 

「いま私は765ライブシアターなるライブ会場を立ち上げた。そこに所属する新人アイドル、総人数37人のプロデューサーとして働いてはくれないだろうか。

 勿論、給料その他諸々の優遇は出来る限りする」

「37人か……一つ聞いても良いですか?」

 

 高木の口から出た人数は完全に彼の想像の範囲外だった。

 どう考えても無茶すぎる。自分がいた頃より人員が増えたとはいえ、それでも完全にキャパシティをオーバーしているのは間違いない。だからこそ、聞かないわけにはいかない。

 

「どうしてそんな無謀な真似を、今やろうだなんて思ったのです。会社を盤石なものにするなら、シアターなど作らず人員を補強してからアイドルを増やすべきだった。

 アイドルを増やした所で、それを完全にサポートでき売り出す事が出来なければ共倒れです。

 それが分からない貴方ではないでしょう」

「アイドルになりたいという夢を叶える。若者がなんの憂いも無く、思うように出来るよう信じる。

 十二人のアイドル諸君とそれを支える者たちが、その形を見せてくれた今だからこそなのだ。未だ燻る少女たちの為の舞台を作らずにはいられなかったのだ」

 

 浪々と語る高木の論は彼も知っていた。それこそ初めて765プロの門をくぐった時から、彼は口癖のようにその夢を語っていた。

 悪くないと思った。思っていたのだ彼も……語るだけならば。

 

「夢物語です。それは語るには美しく、聞かせるには醜い泡沫の夢に過ぎません。」

 

 きっぱりと切り捨てるよう決然と彼は言い切った。

 

「それでは――」

「ええ、お断りします」

 

 考えるまでもない。高木の話を聞く限り、まともな人間ならば受けるわけがないのだ。

 37人のアイドルを一人で何とかしてくれなんて、そんな荒唐無稽な誘いに乗るわけがない。ましてや自分は、一度会社を去った人間。その時感じた価値観の相違を拭う事は出来ない。

 

「俺のような人間は、貴方の会社に必要ではない筈。それは過去の歴史が明確に語る事実です」

「君が自分をどう思っていようが、あの頃から私の考えは変わっていない。……変わらず、私という人間は君を信じているよ」

「何を根拠に……」

 

 一笑に付し彼はグラスを傾ける。

 だが高木の(かんばせ)は何やら確信めいた面持ちをしていた。

 

「根拠ならある。……現にいま君は、会社の為になる事を考えてアイドルの為にならないと自分を評価し拒否したではないか。

 それこそ、私が君を信じるに足る要因だ」

「……一般論を言ったまでです、他意はありません」

「何だってかまわないよ。君は私がティンと来た数少ない男なのだから、この評価を改めるつもりはない」

「……っ、くく、はははは」

 

 カラン、と氷が踊り、笑い声をあげたのはそれまで黙って静観していた善澤であった。

 肩を唸らせ止まらぬ笑いに卒倒しそうになるのを耐えるよう、上体をカウンターに預けて善澤は暫くの間笑い続けた。それはもう愉快そうに。

 

「これは勝負あったな、君の負けだよバーテンダー君……いや、元765プロの若きプロデューサー」

「……そもそも、これは勝負の類だったのでしょうか」

「違うのかい? 僕には互いが互いに己が我を通すために、押し問答をしているようにしか見えなかったよ。

 そして君は負けた。この男の最後の言葉に、反論する弁を失っただろう。君ほどではないが、これでも人を見る仕事なんでねそれぐらいの眼力はあるつもりさ」

 

 煙草を持った手でグラスを彼に向かって掲げる善澤は自信に溢れていた。

 

「まあそれでも、選べるのは他ならぬ君だけだ。今一度、考えてみてはくれないか」

「…………」

 

 言われて思案する彼の前に、高木は一冊のファイルを置いた。

 

「この中にはいま所属しているアイドルたちのプロフィールが揃っている。既に知っているだろう律子くんと水瀬くんのも、当然入っている。

 これを見て、もし思う事があったならシアターへと来てくれたまえ。場所はファイルに同封してある」

 

 分厚いファイルに彼は触れず、眺める事しかしない。

 考える時間が欲しいのだろう。そう判じたのか高木は万札を二枚置いて、すっかり重くなった腰を上げた。

 

「それじゃあ、今夜はこれぐらいで失礼しよう」

「ああ、またその内飲みに……いや、一緒に飲めることを楽しみにしているよ」

 

 二人の男が席を立ち店を後にしようとする。

 店主である彼はそれを見送ろうと視線を上げて、ふと、視界の端に映った二枚の紙幣に気がついた。

 

「お待ちくださいお客様、これでは支払いが少し多いですが」

「おお、そうだったかね。なら、こういう台詞を言うとしよう――釣りはいらないよ」

「言いたかっただけですね、それ」

「そうとも。大人として、君には不甲斐ない面ばかり見せてしまったからね。最後の足掻きというやつだよ」

 

 朗らかに言い残し、二人は夜の闇に塗りつぶされるよう去って行った。

 彼らが去った後の店内にはささやかな酒宴の名残と、一冊のファイルが残されている。

 カウンター上を掃除している間も、彼はそのファイルには一切触れなかった。頭の中で考えるのは今夜の売り上げの事。

 高木が気前よく多めに支払って行った事により本日の目標には届いた。これで今夜の憂いも無くなり気が楽になった筈だ。

 ――なのに、彼の胸中は座りが悪く落ち着きがない。

 

「最後の足掻き……か」

 

 決して自分に向けられた言葉じゃないのは分かっている。なのに彼にはまるで在りもしない泣き所を突かれたように感じてしまった。

 今も足掻き続けている高木と、足掻く事を止め安寧と怠惰に肩までつかった自分。

 かつてプロデューサーとしての肩書を持っていた過去の姿を夢想する。

 

「あの人はまた自分から毒を呑むつもりなのか?」

 

 自分の倍はあるだろう年齢の男性にあそこまで言わせたのだ、せめて見るぐらいの事をしなくては筋が通らないだろう。

 諦めたようにファイルを手に取る。

 ページを一枚一枚捲る毎に、一人一人のアイドルの顔写真とプロフィールが広がっていく。その全てに目を皿のようにして読み通す彼の瞳は、かつて芸能界で仕事をしていた頃を彷彿とさせる。

 閉店時間にはまだ早い時間だが、今夜はもう閉めよう。

 彼は店先の照明を落とすと、扉に鍵をかけて片付けを終えたカウンターへと座った。

 見落としがないよう注視しながら煙草を咥える。

 ――作業は夜が明けるまで続いた。

 

 

 ※

 

 

 都心の一角にある小規模なビルを、中天に上る太陽が照らしている。

 見慣れた街並みを眺めつつ道を歩いていると、どこからか櫻の香りが漂ってきた。

 懐かしい櫻の香りは過去を想起させる特急券だ。三年前のあの日、根拠のない全能感と自信を持って歩いた道を、再び彼は辿っている。その一年後には去った道を。

 程なくして視界に映ったのは未だに味を覚えている、お食事処たるき亭の看板だった。ということは目的地ももうすぐだ。

 店の前を通るとまだ営業時間外らしく、引き戸の扉に準備中と書かれた札が提げてあった。

 通り過ぎてすぐの角、たるき亭の入っているビルを左手に左折し路地へと入る。日の光が差さない小道は変わらず人の影が無い――と思いきや、彼がいた頃ではありえなかった出待ちのファンが数人立っていた。

 

「……変わったな」

 

 呟き、湧き出る感傷を振り払う。

 出待ちのファンの顔ぶれを横目に盗み見ながら年季が入った両開きの扉を開く。アイドル事務所という性質上、普通ならばここでファンの人間に怪しまれるだろうが、彼は前もって関係者と勘違いしてもおかしくないスーツ姿に着替えていた。

 案の定、目を眇めて睨む者も数人いたが、何とも思わぬ平静さで無視して入ると咎める者は一人も居なかった。

 目的の事務所は上階にある。エレベーターで上がろうかと思いボタンを押そうとした所で彼の動きが止まった。今まさに押そうとしていたボタンは、何の反応も感じられなかったのだ。

 

「シアターを建てる前にエレベーターを修理するのが先だろ」

 

 相変わらずどこか抜けている人だ、と嘆息し諦めて階段を上る。

 階段を上り目的の階へとたどり着くと事務所を隔てる扉の前で立ち止まった。扉に付いた磨りガラスには『芸能プロダクション765プロダクション』とプリントされている。

 扉の向こう側からはもう既に出社しているアイドルも居るのだろう、楽しげな会話をしている声が聞こえてくる。古巣とはいえ、ここは既に彼の知っている場所ではない。

“なんにせよ、始めが肝心だな”

 意識を切り替える。

 しっかりとノブを掴み、彼は二年の時を経て再び扉を開いた。

 

「失礼します」

「あら、申し訳ありませんがどちら様でしょう、アポイントメントは御座いますか?」

 

 事務所に入っての第一声に答えたのは、彼の記憶に残っている事務員の音無小鳥だった。

 彼女は覚えていないのか、彼を見て始め怪訝な表情をしたが、手首に光る高価な時計を目にして来客だと思ったのだろう、鈴の音のような声で事務的な返答をしてきた。

 

「高木社長はいらっしゃいますか? 昨晩の返答をしに来たと言えば、わかると思います」

「はぁ……ではただいま呼んできますので、こちらの席に掛けてお待ちください」

「お願いします」

 

 小鳥に案内され奥のパーテーションで仕切られた客席に通される。途中、給湯室やテレビが置かれたソファー席にはファイルで見た顔ぶれが好奇心の眼差しを向けてきたが、それら全てに彼は見向きもしなかった。

 

「あ、あの、よ、よろしければどうぞ……粗茶ですが」

「ありがとう」

 

 客席のソファーに腰を下ろし数分、怯えた様子でお茶を淹れてきた少女に礼を言い口をつける。

 茶をよく知っているのか、彼女が淹れたお茶は彼の舌に絶妙にマッチした。現職の性ゆえか、差し出された飲み物は吟味するようになっていた。

 

「良い茶葉を使っている。それに、湯の温度も適温。いい腕をしている」

「ふぇっ、え、えっと……ありがとう、ございますぅ」

 

 適切な評価を下した彼の声を聞いて、少女は赤面した顔をお盆で隠すと脱兎の如くその場を後にした。

 入れ替わるように小鳥が姿を見せた。その顔は先ほどの営業用の顔ではなく、見知った人に向ける幼さを感じさせるような苦笑いだった。

 

「お待たせしました。ごめんなさい、まさか君だったなんて……忘れちゃうなんてあたしったら駄目ね」

「いいえ、それも仕方ありません。小鳥さんが悪いわけではないので。

 改めまして、お久しぶりです」

「ええ、本当に久しぶり。もう二年になるのかしら。随分顔つきが大人になって、見違えちゃったわ」

「そうですね、丁度二年程かと」

 

 そろそろ貴女の歳も三十なのでは、という言葉は余計だろうと分かりきった考えを捨て立ち上がる。

 

「それで、高木社長は?」

「そうだったわ、ついて来て。社長室に案内するわ」

 

 肩を竦ませ微笑む小鳥の後を追い社長室へと入る。給湯室のパーテーションから隠れるように先程の少女が顔を覗かせているが、彼は気がつかないふりをした。

 

「社長、ご案内しました」

 

 社長室に入って最初に感じたのは変わらない、という感慨だった。

 奥のデスクの向こう、ブラインドの掛かった窓の前に背を向けて立つ高木の顔は、こちらからではよく見えない。

 

「ご苦労、音無くん。ではすまないが席を外してもらっても良いかね」

「わかりました、では失礼します」

 

 そう言って小鳥が部屋から退出した。

 残されたのは彼と高木の男二人だけ。この事務所内に現在いる数少ない男性が一つの部屋に集まっていた。

 なにから言うべきか、と彼が思案していると、高木がこちらに振り返って先んじた。

 

「ここに来てくれた、という事は……私は喜んでも良いのだろうか?」

「単にファイルを返しに来ただけ、とは思わないのですか?」

 

 つまらない芝居を見たかのように、高木は愉快そうに鼻を鳴らした。

 

「返しに来ただけの人間が、そんな高価な装いをしてくるかね? 見たところ、君の腕にある時計は結構な額の物だと思うのだが」

「……気づいていましたか」

 

 ふっ、と一息吐き指摘された腕時計が良く見えるよう腕を上げる。手首にはBARで時間を見る為にカウンターの中に置いていた腕時計が嵌っていた。

 

「初対面にはある程度のハッタリが必要になる。昔、そう君はよく言っていたからね」

「よく覚えておいでで」

「これでも芸能プロダクションの社長なのでね」

 

 冗談交じりに言いきって、それを合図に二人は笑い合う。悪戯の成功した悪童のように、夏の太陽の元、半袖半ズボンで駆けまわる子供のように。

 しばらく笑い合った後、高木が笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭い、経営者としての顔を上げた。

 

「ありがとう、よく戻ってきてくれた。私たちは君を歓迎しよう――プロデューサー」

「店は当分の間、閉めることになりますね。

 分かっているでしょうが、俺のやり方は反感を買いかねます。それでも良ければ、よろしくお願いします」

「言っただろう、君の力が必要だと。なに、私は君を信じている」

 

 高木社長が右手を差し出す。

 意図する意味を察して彼――プロデューサーも右手を差し出して握った。

 

「では早速ですまないが、アイドル諸君に紹介がてらの挨拶をしてもらいたいんだが、いいかね?」

「当然です、請けた以上貴方は俺の雇用主。それに逆らうだけの理由も意味もありません。

 どうせ社長の事ですから、もう準備は終えているのでしょう?」

「流石だ。その通り、アイドルとプロデューサー諸君には既に全員集まるよう通達済みだ。無論、君の事は内密にしたまま。

 まずはこの事務所に集まる十三人のアイドルと二人のプロデューサー、それともう済んだだろうが一応事務員の音無くんにも」

 

 社長室の扉を開け、先を行く高木社長の後ろについて事務所でも中央に位置するホワイトボードの前に立つ。彼と高木社長の周囲には既に小鳥から話を聞いていたのだろう、アイドルたちと男性プロデューサの姿があった。

 自己紹介に抵抗はないのだが、一つ彼には懸念事項があった。それは高木社長も知ってのことだが、あえて無視しているのだろう。これを乗り越えなければ先は無いのだと暗に言っているのかもしれない。

 約一名の敵意の眼差しを受け流しながら、隣で高木社長が合図代わりの堰をした。

 

「ゥオホン! それではプロデューサー並びにアイドル諸君。諸君らに新たな765プロの仲間となるプロデューサーを紹介しよう!

 君っ、頼むよ」

 

 賽は投げられた。これより先、自分が気を抜く事は少なくなるだろう。

 一歩前に出て全員の顔を見渡す。小鳥と律子、そしてあと一人を除いた面々の顔は総じて似たように驚愕と期待が綯交ぜになった色に満ちている。

 下腹部に心持ち力を籠めて、口を開く。張るようではなく、よく通る様にイメージして。

 

「初めまして。この度、新たに765プロに入社したプロデューサーだ。

 既に知っている者も居るが、俺は二年前までこの事務所に居た人間だ、それを隠すつもりはない。一身上の都合により一度は退社した身ではあるが、戻ってきた以上、中途半端に終わらせるつもりはない。

 ちなみに、担当はシアター部門になるので、君らとの直接的な交流は少なくなるだろうがよろしく頼む」

「……ッ!? やっぱりアンタ!」

「今この場での私語は認めない。少なくとも、プロを自負するのなら……その意味ぐらい分かるだろう」

「~~~ッ!」

 

 厳然とした姿勢で言い放ち、眦を上げる少女を封殺する。

 

「質問があれば後日受けよう、今日の所は音無さんもしくは秋月か……そこの感情制御の出来ない水瀬に訊いてくれ。以上」

 

 早々に噛みついてきた少女――水瀬伊織の剣呑な横槍によって一気に雰囲気の重くなった事務所にて、用は済んだとばかりに視線を外し入口へと向かって歩き出した。

 当惑の視線を受け、背後でフォローする社長の声を耳にしながら事務所から出て行った。

 扉を出てすぐ、上へと続く階段の途中で彼が待つこと数分。扉の軋む音と共に高木社長が出てきた。

 

「分かっていた事とはいえ、時間が掛かりそうだ」

「早まったと思ってます?」

「まさか、それほど愚かではないさ」

 

 扉の向こうから癇癪を起こす甲高い声が聞こえ、彼は呆れたように溜息を漏らした。

 

「水瀬はまだ意地を張っているのか」

「それが、彼女の長所でもある。こればかりは君にも受け入れてもらいたい」

「まあ、今はいいです。とりあえず、シアターへと向かいましょう。時間が惜しい」

「わかった、行こうか」

 

 地階へと降り、高木社長の案内で駐車場へと向かう。

 駐車場には三台の車があり、内二台は社用車。残りの一台はもう一人の男性プロデューサーの所有する車だと説明を聞きながら、彼は車の鍵を渡された。

 五人乗りの乗用車の鍵を開け、運転席に乗り込む。

 

「場所はわかるかね?」

「当然です、渡された資料は全て読みましたので」

 

 イグニッションキーを回しエンジンをかける。

 助手席に高木社長が乗り、シートベルトを締めたのを確認するとサイドブレーキを降ろして出発した。

 

 

 ※

 

 

 夜まで続いた姦しい団欒から明けて翌日、少女たちシアター組は事務所兼談話室に備え付けられた電話で小鳥からの伝言を聞き、全員がシアターの舞台へと集まっていた。

 

「こうしてステージに全員が集まると、なんだかスゴイって感じだね!」

「ホントホント、このままみんなでライブのリハでもやっちゃう?」

 

 無邪気にはしゃぐ未来に、見るからに今時の女子高生然とした少女、所恵美が同意してさらに話を大きくする。

 流行を常に見逃さない彼女の服装は、雑誌等で紹介されている服にお気に入りの香水を付けており、街を歩けば数人に声をかけられるのは必至の装いだ。

 

「でも突然なんだろう『全員シアターのステージに集合』って、何か重要な発表でもあるのかな?」

「むむ、読めましたよのり子ちゃん! ありさにはこの先の展開が見えますっ。きっとこれからアイドルちゃん達のアイドルちゃん達によるアイドルちゃん達の為の――」

「何や突拍子もへん事いってんの亜利沙。……って、ちょいちょい! 口元拭かへんって涎っ」

「ムフフ……アイドルちゃん達みんな可愛いのです……」

「あかん、完全に飛んでるやん」

 

 幸せな妄想を脳内に展開する松田亜利沙に呆れながらツッコミを入れる横山奈緒は、彼女の口元を見てこれはファンには見せられない、と慌てて指摘をした。

 のり子の疑問は亜利沙の暴走によって逸らされ奈緒には届かなかったが、少し離れた所で挑発的な服装を身に纏った女性が唸るように首を傾げていた。

 

「発表ねぇ、のり子ちゃんの言うとおりちょーっと気になるわね」

 

 今までになかった事例に百瀬莉緒もまた思案する。

 二十三歳という年齢でシアターでも年長組に位置する彼女は、少女たちの楽観的な発言に表面上は同調しつつ冷静的に考える側に居る。

 これが喜ばしい発表なら良い。確かにどんなサプライズが待っているのかと心が躍るのも湧けないだろう。しかし、現実は何も嬉しい事だけじゃないのを彼女は知っている。だからこそ、彼女はそういった可能性もあるのではないかと考える。

 とはいえ、

 

「考えた所でわかるわけないわよねっ」

 

 それが長続きするような性格ではなかった。

 全員が集まってから数分後。会話に花が咲き始めた頃に、なんの前触れもなくシアターの扉が開いた。

 両開きの一見豪奢に見えるが、実はそれほど予算のかかっていない大扉の開く音に、アイドル全員が気がつき振り返った。

 一階席の最奥、中央の開いた大扉に立っているのは二人の男性だ。

 一人は思い出そうと考えるまでもない。言うまでもなく彼女らの所属する事務所の社長なのだから。しかし、その隣に立つ男性には誰も見覚えが無かった。

 一般男性の平均身長を下回る――見たところ約百六十cm位――その男性は、黒々とした髪をオールバックにして、眠たげなのか睨んでいるのか判別のつかない眼差しでアイドルたちを注視している。遠慮のない視線は、しかしどこか嫌な気分にはならなかった。

 

「待たせたねアイドル諸君! もうみんな揃っているかね?」

「はいっ!」

 

 大仰に語る高木社長に、彼女たちは声をそろえて返事をした。条件反射の域で息の揃った反応に、隣の男性の眉根が僅かに寄ったのを、遠くに立つ彼女らは気がつかなかった。

 

「うんうん、元気そうで何よりだ」

 

 満足気に高木社長が頷き、二人は一歩一歩踏みしめるようにシアターの階段を降りてステージへと近づいて行く。

 アイドルたちはまさか社長自らが訪れるとは思ってもみなかったのか、どこか落ち着きがないが彼らにはそんな事情は関係ない。

 客席の最前列までたどり着いた二人は、そこで足を止めてステージに立つ原石たちを見上げる。

 何人かがそこで社長の元へと行く所か、見下ろしているという現状にハッとなり慌てて降りようとするが、

 

「あぁそのままそのまま、君たちはステージに立っていて構わないよ。私も、諸君らのステージに立つ姿はなるべく多く見ておきたいのでね」

 

 とやんわりとした制止に足が止まった。

 隣の男性は、相変わらず視線をアイドルたちの間を行ったり来たりさせたまま、一言も言葉を発さない。

 

「あの、それで社長。今日はどのような案件でここに?」

 

 アイドルたちの代表として一歩前に出て問いかけてきたのは、利発そうな言動とは裏腹に見た目小学生のやけに幼い少女だった。

 

「うむ、今日は君たちに良いニュースを持ってきた」

「良いニュース、ですか」

 

 “良いニュース”という単語に、アイドル全員が色めき立つ。自分の中で一番の良い事を思い浮かべては近くの仲間と予想しては発表するなど、中には社長に答えをせがむ者も居る。

 男性の表情は、見る見るうちに芳しくなくなっていく。それを知ってか知らずか、高木社長は胸を張って口を開く。

 

「喜びたまえ、とうとう諸君らにも担当のプロデューサーが付いてくれることになった!」

「プロデューサーッ!?」

 

 異口同音。彼女たちの磨かれた発声はシアター中に響き渡った。

 思った以上の反応に気を良くしたのか、高木社長はさらに声を大きくさせて続ける。

 

「ここに居る彼こそ、そのプロデューサーだ。その手腕は確かで私も太鼓判を押すこと間違いない。必ずや君たちの後を押してくれるだろう」

 

 あからさまな売り文句だが、しかし彼女たちは今まで以上に盛り上がる。若干数名が冷静に彼の為人を知ろうと観察する目もあるが、大多数が喜びを露わにしていた。

 それもそうだろう。これまでの彼女たちは、ステージに立てるとはいえ、知名度も経験値も低い新人アイドル。いつ世間の風に吹かれて消えてしまうかわからない、儚い灯に過ぎないのだ。そんな彼女らに担当のプロデューサーが付いた、この事実だけでも確かに実感できる一歩なのだから胸を躍らせるのも無理はない。

 

「では、私はこれから別件があるので失礼しよう。君、後は頼んだよ」

「現場まで送らなくても大丈夫なのですか?」

「何、ここからそう遠くはないので大丈夫。途中でタクシーでも捕まえるさ。それに、私もまだまだ現役なのでね、足腰には自信があるのだよ」

 

 腰を叩きながら笑う社長に、プロデューサーは小さく頷く。

 

「わかりました。では、後は俺の“仕事”ですね」

「ああ、くれぐれも彼女たちをよろしく頼む。これから君の仲間……あるいは家族とも呼べるような娘たちなのでね」

 

 最後の言葉には、返事をしなかった。

 調子の良いアイドルたちに軽く挨拶をして去った社長を見送ったプロデューサーは、それから三秒瞼を閉じて振り返り、改めてステージに立つ卵たちを見上げた。

 シアターに入ってから感じた今までの印象を、ファンの前では良いものにする。それがまず彼の第一の仕事だ。

 その為にまずやらなくてはならない事がある。

 両脚を肩幅程に開いて胸を張り、なるべく威圧感が感じられるよう腕を組む。意識を塗り替え、鼻で息を吸い喉の通りをよくする。

 準備の終えたプロデューサーは、全員の顔を見据えて口を開いた。

 

「――整列」

 

 決して大きな声量ではなかった。

 感情に任せた大喝でもなければ、癇癪を起こして上げる甲高い声でもない。

 それなのに、彼の声はここに居る誰よりも会場内を通り彼女らの耳に響いた。

 

「聞こえなかったのか、俺は整列と言った」

 

 次はない。そう思わせる言葉に、背筋が震える。

 一も二もなく彼女たちはレッスンの時のようにして自然と並びなれた順番に、一列の横並びになって立った。

 整列が終わったのを見計らって、彼は再び端から端まで側目した。

 

「まず始めに自己紹介をしよう。本日付で君たちの担当プロデューサーとなった者だ。これから君たちがトップアイドルとなるべくプロデュースをするのが俺の仕事となる。

 今後ともよろしく頼む」

「あの、質問しても良いですか?」

 

 手を上げたのは赤毛のストレートヘアにカチューシャを付けた清楚感の漂う少女だった。

 

「内容は?」

「プロデューサーのお名前は、なんて言うんですか?」

 

 彼女の質問はその性格と特技が理由になっていた。

 田中琴葉は記憶力に自信があり、それゆえ身近な人間の名前は出来る限り覚えようとしているのだ。よって、彼女がこう言った質問をするには正当な理由があるのだが――。

 

「断る。俺の名前を知ることはプロデュースに必要ない。記号としてプロデューサーと呼んでくれて結構。他にも呼び名に制限をするつもりはない、好きなように呼んでくれて結構。

 他には?」

「い、いえ、ありません」

 

 毅然と拒絶したプロデューサーに琴葉は言葉を失った。

 気難しい、とっつきにくい、冷たい。一連の会話を聞いていたアイドルたちは、全員がこう思った。

 暗雲が立ち込める彼女たちを見て気がついているのだろうプロデューサーだが、態度を改めるようなことはなかった。

 

「唐突ではあるが、ここに来てから十数分、君たちを見て思った事を率直に言おう」

 

 脈絡のない評価を前にして、全員の息が詰まる。

 

「“生温い”それが君たちへの今のアイドルとしての評価だ」

 

 直截的な物言いに劇場内の温度が冷え込んだのは気のせいではないだろう。

 自分らのプロデューサーに言われては一蹴するわけにもいかないが、こうもズケズケと言われて黙っているほど物分かりの良い者だけで集まっている集団ではない。

 

「それは、聞き捨てなりません」

「納得できないか?」

「当然です」

「ならどのような理由があって反論する、最上」

 

 あるのなら言ってみろ、とでも受け取れる物言いに少女は気迫を示そうとして、最後に告げられた単語に心乱される。

 

「ど、どうして私の名前をっ」

 

 名前を呼ばれた事に愕然とし、静香は声を乱して問うた。

 

「これから担当するアイドルの情報をプロデューサーが知らなくてどうする。品物を売る側が誰よりもそれについて知らずに売れるわけがないだろ。君たち全三十七名のプロフィールは全て頭に入っている。

 それで、理由はなんだ最上静香」

「くっ、私たちのステージも観ないまま、そんな風に言われて黙って居られるわけありません」

「なるほど、確かに俺は君たちのステージを見た事はない。ましてやレッスン風景すらも」

 

 見たことが無い。改めて彼の口から聞いた言葉に、静香の中で滾る熱量は温度を高めた。

 

「でしたらッ――!」

「だとしても、仮にそれらを見たところで俺は同じことを言った」

「……ッ! あなたは」

「し、静香ちゃんダメだよ!」

 

 感情のままに放言してしまう直前で止めたのは、彼女と同年代の未来だった。

 彼女は静香の感情的な様を目の当たりにして不安そうな面持ちを隠せない。気がつけば、静香の右手は彼女の両手によって繋がれていた。――否、拘束されていたと言っても過言ではなかった。

 あのまま未来に捕まれなかったら。そんなもしものその後を想像して、自分が如何に考えなしだったかを思い知った。

 

「ごめん未来、私……感情的になり過ぎたみたい、ありがとう」

「ううん、気にしない気にしない。いっつも私が助けられてるんだもん、言いっこなしだよっ」

「話しは終わったか」

 

 プロデューサーは変わらず眠たげなのか睨んでるのか判然としない眼差しで二人を見ていた。

 頭が冷えたのか、静香は未来の手をそっと離してプロデューサーと向き合った。

 

「すみませんでした、少し感情的になってしまって」

「構わない。俺がプロデューサーだと分かった以上、それらを隠す必要も理由もない」

「……? どういう意味ですか?」

 

 遠回しな彼の良いようがいまいち上手く飲み込めない静香は首を傾げる。だがそれは彼女に限った話ではなかった。他のアイドルたちもまた、彼の物言いを理解出来なかったのだから。

 プロデューサーは呆れた様子もなく、静香の問いに答えた。

 

「俺が君たちを“生温い”と言ったのは何も最上の言うような、ステージやレッスンなどについてではない。全員が例外なく、優劣なく生温いんだ」

「理由を、聞いても良いですか?」

「今後に必要な通過儀礼だ、是非もない。

 俺がここに入った瞬間、君たちは社長を前にして返事をした所までは良かった。そこに関してはよくレッスンを重ねているだけあって、ある程度の息は合っていた」

 

 思いもよらぬ切り口で褒められた一同は、それまでの態度との差異にどう反応していいのかわからず戸惑っていた。それほどまでに、彼の第一印象は最悪だったのだ。

 

「だが、そこからだ」

 

 当然、印象通り彼の立言が始まった。

 

「君たちは出だしを帳消しにする勢いでアイドルらしからぬ姿を明け透けに見せていった。仮にもステージ衣装ではないとはいえ、舞台に立っているにも拘らずだ。

 アイドルであるなら……在ろうとするならば、他者の前では常にアイドルとしての己を見せなくてどうする」

「でもここに居たのは社長とプロデューサーくんだけじゃない、それなら他人じゃなくて身内ってことにならないのかしら?」

「百瀬、君のいう事は最もだ、その反論は至極正しい。俺も身内に対しての態度にまで五月蠅く言うつもりはない」

「だったら」

「それは俺がプロデューサーだと分かった“今”だからこそ言える言葉だ。君らは皆、社長がプロデューサーであると発表するまでは赤の他人、誰とも知らぬ輩だ。しかも社長が連れてきた人間なんだ、重要な取引先という可能性も生まれてくる。

 その仮定も想像しないまま“他人”の俺を前にしてプライベートを包み隠さず見せるのは、考えが甘い。

 だからこそ、俺は言ったんだ“生温い”と。

 たった一度の油断が失敗を生む。この世界ではそのたった一度の、取るに足らない失敗が致命傷になる事もある。それほどまでに厳しい世界なんだここは」

 

 有無を言わせぬプロデューサーの厳責は続く。

 

「その覚悟も無いのなら、アイドルなど初めから目指すのは辞めろ。本日中にここを去るのならそれも良し、止めるつもりはない。

 上を目指さない者に階段を昇る資格は無い」

 

 始めから今日は社長がプロデューサーを連れてくる。そう忠告されていれば、彼もここまで厳しく言うつもりはなかった。しかし、彼はあえてそれをしないように社長と小鳥に言い含めた。

 ありのままの彼女たちの姿勢を確認することで、あえて彼は自分の存在を包み隠した。

 過去に同じような事を言おうとして、しかし先んじて封殺された一人のアイドルの事を彼は思いだした。彼女は誰ともしれぬ初対面の彼に対しても油断なく自分を作り、アイドルとしての顔を見せ続けた。だが、それはもう過去の話。

 去来した映像と感傷を遠く置き去りにして彼は前を見る。

 

「反論があるなら聞こう。百瀬、君はどうだ」

「うーん、プロデューサーくんの言い分も間違ってないし、私の意見が通った挙句に一本取られたわけだしもう何もないわ。降参よ」

 

 気楽に諸手を上げる莉緒はそのまま肩を竦めて口を閉じた。

 

「そうか」

「それに、こうも言われて逃げ出す程、私も甘ったれたつもりはないわ」

「他にあるなら聞こう。遠慮をする必要はない」

 

 だが莉緒以降、誰も意見を述べる者は居なかった。また、去る者も居ない。

 それほどまでにプロデューサーの意見が正論だったのか、それとも自分自身に今日以前で思い当たる節でもあったのかは分からない。あるいは彼の横柄な態度に反発心を持っての事かもしれない。

 緩んだ意識に一石を投じる。確実に階段を上る為に必要な事の一つを終えたプロデューサーは、改めて全員を見渡して次なる言葉を広めた。

 

「それでは最後に、一つ変更事項を通達する。これに関しては反論は一切聞かない。決定事項だ」

 

 再び威圧感溢れる声と言葉にアイドルたちは背筋に冷たい何かが奔り、佇まいを直した。

 一体何を変更するというのだろうか。これまでの彼の言動を鑑みても、誰も一切想像がつかない。

 しかし、それがどんな荒唐無稽な事であろうと、曲げるつもりがないのだけは理解出来た。

 彼女たちが固唾を呑んで待つなか、彼は一言、ある事項を全員に通達した。

 

「――これより俺が許可するまで、当シアターでの定例ライブは無期限の開催停止とする。以上」

 

 瞬刻の沈黙の後、限界まで引き伸ばされたゴムのように張りつめた糸が、瞬く間に破裂した。

 ああも厳粛に言ったにも拘らず、それでも文句の声をあげる辺り肝が据わっていると、プロデューサーは自身の中にある彼女たちへの評価を一つ改めた。

 かくして彼女たちは念願であった担当プロデューサーを得るに至ったわけだが、癖しかないような人格に幸先を不安に思う者が居るのもまた事実であった。

 ――だけど。

 

「嫌なら辞めろ、止めるつもりも責めるつもりもない。

 だが、ついてくる気があるなら――高みから見える景色を観せよう」

 

 もう少しだけ、ついて行こう。

 そう思った春の三日目であった。




 息抜きに書いていたら欲が出てしまった。ゴメンナサイ。
 更新するかは気分次第。

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