フレームアームズ〜反逆するは漆黒の大鷲〜   作:√015

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第3話 漆黒の大鷲

 

『総員、散開っ‼︎』

 

回線からロイズ先輩の声が聞こえ、意味を頭で理解する前に体が反応して操縦桿を操作し、エリカの乗ったクファンジャルは撃破された轟雷から離れる。

 

『コッチだ!俺はここに居るぞぉぉ!』

 

ロイズのスティレットが高速機動をし、空中へと飛び上がる。それに釣られるように2機のフレズヴェルクがロイズのスティレットへ襲いかかった。

 

フレズヴェルクが構えたベリルショット・ランチャーから弾体が射出され、スティレットを襲う。その弾体をロイズは巧みにスティレットを操縦し、避けていった。

 

だが、加速していたスティレットは急に加速を停止、反転して両手のM547A5 60mmガトリングガンを向け、トリガーを引き絞った。

 

ガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!

 

だが、ベリルショット・ランチャーでの射撃を中止したフレズヴェルクは、球状に展開されたTCSによって全ての弾丸を防ぎきった。

 

再び攻撃しようとベリルショット・ランチャーを構え直したフレズヴェルクの側面で爆発が起こる。エリカの乗るクファンジャルが撃ったML-04 マルチミサイルランチャーから射出されたミサイルが直撃したのだ。

 

だが、フレズヴェルクの装甲には殆ど傷がつかなかった。しかも攻撃をしたせいでフレズヴェルク2機の攻撃対象がロイズのスティレットからエリカのクファンジャルへと変更され、フレズヴェルクは反転、急加速した。

 

「ひっ…!」

 

『この大馬鹿がっ!』

 

接近してくるフレズヴェルクを見て、エリカは小さく悲鳴をあげて目に涙を貯めていた。MG-04 ミッドマシンガンで射撃を繰り返すも、弾丸は全てフレズヴェルクのTCSに防がれて、有効打を与える事は出来なかった。

 

フレズヴェルクの背後からはロイズが乗ったスティレットがフレズヴェルクを追いながら攻撃を加えているが、フレズヴェルクはその攻撃を気にした様子も無い。

 

僅か数秒で2機のフレズヴェルクはエリカの乗るクファンジャルの前へと辿り着いた。そこにロイズが撃ったS41-B 2連式ミサイルランチャーのミサイルが1発ずつフレズヴェルクに着弾する。

 

爆発により、視界が塞がれたことでフレズヴェルクの姿が見えなくなる。だが、それはフレズヴェルクも自分のことは見えないだろうとエリカは考え、

 

(は、早く回避行動を…!)

 

操縦桿をスライド、スラスターを吹かして横っ飛びになってその場から離れようとする。ゴロゴロと地面を転がったクファンジャルは立ち上がった。そして背部のSH4000-D セイレーンmk.Ⅱ Dを始動させ、空中へと飛び上がる。

 

そこまでして、ほっと一息ついたエリカは目の前に現れたフレズヴェルクを見て

硬直した。フレズヴェルクの腕は振り上げられており、ベリルショット・ランチャーの銃床がエリカのクファンジャルに向いている。

 

「逃げっ…きゃぁぁぁっ!」

 

咄嗟に回避行動を取ったが、その一撃を避けきることができず、クファンジャルの右腕が肩部から切断された。そして、スラスターを失った事によりバランスを崩したクファンジャルにさらなる追撃。

 

今度はクファンジャルの左腕が肩部から切断された。背部のSH4000-D セイレーンmk.Ⅱ Dの推進力のみで浮かんでいるクファンジャルは、今にも墜落しそうなほど不安定だった。

 

(あっ、これは死んだかも)

 

振り上げられるベリルショット・ランチャーを見て、エリカは自分の死を覚悟した。だが、

 

『逃げろぉぉぉぉぉっ!』

 

フレズヴェルクとエリカのクファンジャルの間に突撃してきたボロボロになった白銀のスティレットにより、エリカがベリルショット・ランチャーで切断されることはなかった。

 

「えっ?」

 

白銀のスティレット……ロイズが乗るその機体は、その一撃で上半身と下半身を切断された。

 

『逃げろっ!早くここから離れるんだ!』

 

「そんなっ、無理です!先輩を置いていけません!」

 

エリカはその場を離れようとはしなかった。だが、ロイズはそれを許すことをしない。

 

『馬鹿が!隊長権限、コードZ!』

 

『了解。強制帰還モードヲ実行シマス』

 

「コードZ」それは、隊長権限の1つである隊員の乗る機体のAIの自動操縦による基地への強制帰還である。本来は命令違反をした隊員を作戦から外すためのコードだが、今回ロイズは無理やりエリカを生かして返す為に使用したのだ。

 

「そんなっ!先輩!イヤァァァァァッ‼︎」

 

高速でその場を離脱するクファンジャルのコックピット内で、エリカが最後に見たのは6機のフレズヴェルクに全身を串刺しにされ、爆散する白銀のスティレットの姿だった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ひぐっ…えぐっ…。ぐずっ…うぅ……先輩…先輩ぃ……」

 

基地になんとか帰還したエリカは、クファンジャルの中で泣きじゃくっていた。どうしても、最後に見た白銀のスティレットが爆散する光景がフラッシュバックし、涙が止まらなかった。

 

その後、倉庫でFAの修復、整備をしている整備員たちの手によってコックピットから出されるまでの1時間、エリカは泣き続けていた。

 

コックピットから出され、司令官によって招集されたエリカは、大講堂へ向かっていた。今回の緊急発進《スクランブル》で出撃したパイロットは全員が招集されていた。

 

エリカが大講堂に着くと、周りにはかなり少なくなったパイロットたちの姿があった。全員が泣いていたり、顔を歪めていたり、崩れ落ちていたりとマトモな姿の者はいない。

 

『……パイロット諸君。集まって貰い、感謝する』

 

いつの間にか、壇上にはこの基地の総司令官であるテツジ大将が立ち、マイクに話しかけていた。スピーカーからは大きくなったテツジ大将の声が響いている。

 

『今回の緊急発進(スクランブル)による戦果、及び被害の発表を始める。皆、心して聞いてくれ』

 

そうして始まった発表は、パイロットたちや基地の人間全員に否応なく非情な現実を突きつけるものとなった。

 

戦果……敵性FA『NSG-12α コボルド』、『NSG-25r シュトラウス』計226機の殲滅。

 

被害……基地のFAの実に約6割を損失。各隊の隊長格の損失。死者、586名(行方不明含む)。

 

発表が終わると、大講堂の中だけに留まらず、基地内の至る所で啜り泣く声が聞こえる。

 

『……死んだ英霊たちに黙祷を』

 

重く沈んだ総司令官の声が響き、基地は静寂に包まれる。あちこちで小さく悲しむ声が聞こえていた。

 

だが、それでも不幸は終わらない。

 

ズンッ……ドッバァァアンッ!!!!

 

激しい衝撃を受け、基地が揺れる。大講堂の天井に大穴が開き、そこからは紫のカラーリングを施された機体の姿が見える。

 

フレズヴェルクが、基地に攻撃を仕掛けてきた。基地の防衛兵器が次々と弾丸を吐き出すが、その全てはTCSの前では有効打を与える事が出来ずに破壊されていく。

 

エリカを含み、パイロットたちは悲しみを心の奥に押し込んで、急いで倉庫へと向かおうとした。

ありえない光景を見るまでは。

 

キュイィィィィィィイッ!

 

甲高い音を立てて飛んできた飛行物体が1機のフレズヴェルクに激突し、勢いよく弾き飛ばす。激突されたフレズヴェルクは、装甲をひしゃげさせながら吹き飛ばされた。

 

そして、その飛行物体は人型へと変形する。漆黒のカラーリング、紅く輝く半透明の結晶。2本の大鎌を模した大型武器。

 

それは色こそ違うものの、一時期防衛軍を壊滅まで追い込んだ敵性FA。

 

最強格のFAである、『NSG-X2 フレズヴェルク=アーテル』そのものだった。

 

「そんな…」

 

どこからか絶望とも諦めともつかない声が漏れる。それもそうだろう。フレズヴェルク=アーテルは嘗て防衛軍の全戦力を持って何とか撃退する事が出来たFAなのだ。

 

8機のフレズヴェルクたちは現れたフレズヴェルク=アーテルを囲むように展開した。それはまるで王の来訪を歓迎する騎士の様にも見えた。

 

だが、それは勘違いだったとエリカは知る。

 

8機のフレズヴェルクたちは一斉に黒いフレズヴェルク=アーテルへ攻撃を仕掛けたのだ。フレズヴェルクはベリルショット・ランチャーで全力の攻撃を繰り出す。

 

だが、黒いフレズヴェルク=アーテルはその攻撃の全てを避け、2機のフレズヴェルクへと接近。そして、手に持った紅いベリルスマッシャーで2機のフレズヴェルクを力づくで引き裂いた。

 

爆散するフレズヴェルク。残った6機のフレズヴェルクは反転、基地から即座に退散して行った。基地の上空には2本の大鎌を構える黒いフレズヴェルク=アーテルが佇んでいる。

 

黒いフレズヴェルク=アーテルは基地の外へと着地した。基地の兵やパイロットたちはすぐさま基地の外へと向かう。

 

銃を構え、警戒した兵たちの前で、黒いフレズヴェルク=アーテルは胸部のコックピットを開いた。

 

そこから、1人の少年が出てきて、発言する。

 

「ここの一番偉い奴を出せ。話がしたい」、と。

 


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