主に騎空士家業と大学の特別講座が原因ですすみません。
いつものタイトル次回予告詐欺。
11/28 活動報告更新しました、映画艦これのネタバレあるので絶対とは言いませんが、構わないという方は見て頂きたく思います。
【守-wall】
『……続きまして速報です。昨日夜中、貸アパート『フラジール荘』及びその近隣地域にて男が刃物を振るっていたとの情報が入っております。男の名前は道外流牙、街の外より来入したもので、同行者に道外莉杏、及び女児1名を連れている模様です。なお女児は不法滞在の容疑がかかっており--』
「……なんか、ちょっと前もこうなってたよな」
「そうね。何ヶ月前だったかしら。街全体から指名手配されちゃってねえ」
「流牙さん、莉杏さん、笑えないです……」
テレビから聞こえてくる音声に軽口を叩く流牙と莉杏の呑気さに、如月は呆れてため息をこぼす。
そのまま手に持ったカップからたつ湯気を見て、どうしてこうなったのか今一度思い返していた。
襲撃を受けた後、借り部屋を出た如月たちは人に見つからないように裏路地をしばらく進んでいた。
そして空も白み始めてきた頃合いで、ザルバが唐突に声をかけてきたのだ。
曰く、この付近にホラーの気配の痕跡がある、と。
流牙はそれを確認する必要があるとして、ザルバの案内で気配の痕跡がある家に辿り着いた。
そこには誰も住んでおらず、しかし何日か前までは誰かが住んでいた痕跡がしっかり残っていたことから、ホラーに襲われ、そして喰われたのだろうと判断。
ホラーの気配の残滓から新たにホラーが現れないように邪気を祓い、少しだけ足を休めるために家を使わせてもらうことにしたのである。
そして今、すっかり朝日が昇った頃、テレビでは流牙ら3人がものの見事に指名手配されているのであった。
『しかし、懲りないなお前たちは。少し前にこうなったばかりだというのに』
「別になりたくてなってるわけじゃないっての」
「前とは違って、イェルネさえ斬ればそれでおしまいなんだし、いいじゃない別に」
「……いいんですか?」
如月の疑問に、莉杏が少し寂しそうな表情を浮かべてから答えた。
「いいのよ。私たち魔戒に連なる者……守りし者は、影に生きる存在なんだから」
「下手に色々とバレるとその人にも危険が迫るし、最悪は、死んでしまう。それなら、嫌われて、逃げられた方がいい」
そういう流牙の瞳には、後悔が見えた、そんな気がした。
きっと、そんな経験があるのかもしれない。
そう考え、如月は口を閉ざす。
「……昼に表に出て移動するのは連中に見つかる危険性がある。ここの住人は1人で、もうホラーの手にかかってるだろうから戻ってくる可能性は限りなく低い。だから、この部屋を一旦借りよう。借りて、夜まで待つ」
流牙の提案に、莉杏も如月も首を縦に振った。
少々罪悪感のようなものを部屋の主に抱くが、それはそれ、である。
一応夜まで借りたということで、多少の金を置いていくことにした。受取手が戻ってくる可能性は、限りなく低いが。
そして、日が完全に沈みきり、出歩く人もほとんどが居なくなった頃、3人は静かに借りていた部屋を出ていた。
夜闇に乗じて町長--イェルネと思われている者の住む家へ向かうためである。
元々このような遅い時間に行動することがほとんどである上、数日は徹夜しても戦えるような強靭な肉体をしている流牙や莉杏は如月がこんな時間に動けるか不安であったが、艦娘であり、夜戦や日を跨いだ遠征の経験がある如月には造作も無い事であった。
問題なさげにしている如月に関心しながら歩みを止めず進んでいって、およそ2時間程経った頃だろうか。
さすがに少し疲れを覚えはじめた時、流牙が口を開いた。
「あそこだ」
物陰に隠れて様子を伺ってみると、そこには豪勢な邸宅の二階か三階と思しき部分と、豪邸を取り囲むように建てられた黒い塀が見えた。
今流牙達がいるところから見て右側に
塀の周りに人はおらず、塀からの進入は楽そうに見える。
だがそんな如月の早計を咎めるように、ザルバが口を開いた。
『あの塀からドーム状に結界が張られているようだな。あの塀の中から全く気配が感じられないぞ』
「……人の気配も?」
『ああ。ホラーの気配だけならいざ知らず、人の気配すら全く読み取れないのは異常だぜ』
「窓からは明かりが見えるのに、か……当たりだな」
確かに流牙の言う通り、塀に遮られていない階の一部の窓からは光が漏れており、誰か居るようにみえる。
ましてや普通の人間の住む家なら結界など張られる事などあるはずが無い。確実に何かがいる、という証拠だろう。
「……でもホラーが結界を張る、って事はあるのですか?」
如月の質問に、莉杏とザルバが答えた。
「そうね、ないわけではないわね」
『特にイェルネはこの町を作るくらい以前から人界にいるんだ。幾度となく他のホラーを利用して騎士や法師達を退けたんだろう。そこから知識を得た可能性はある』
「この街には今、俺たち以外の騎士や法師はいないらしいからな。尚更ザルバの言う通りかも……」
『ともかく、あの結界はホラーの気配を隠すだけ、では無いだろうな。さて……む?』
ザルバが何かを言おうとしてすぐに言い淀む。
「どうしたザルバ」
『……ホラーの気配だ!急に現れたぞ!』
「何!?どこだザルバ!」
ホラーの気配を探知したザルバに、流牙は聞く。
しかしてザルバが答えたホラーの位置は--
『--真上だ!!』
瞬間、3人は宙に舞った。
いや、正確には舞ったのではない。
「尻尾」に、巻き取られたのだ。
「何!?」
「なっ!?」
「きゃっ!?」
3人がそれぞれ声をあげて自身を巻き上げている存在を視認するため振り返る、というより見上げる。
そこには虫のものに似た羽を生やし、その尾で三人を絡め取っている黄土色の体色をしたホラーがいた。
人でいう鎖骨のあたりから天に向かって大きな棘が生え、肘にも小さな突起がある。極めつけにその顔は右半分がグズグズに溶けているかのようになっており、より醜悪な姿になっている。
そのホラーは屋敷とは反対方向--より人通りの多い方へ向かって進路を進め始めた。
既に真夜中ではあるが、それでも活気あるこの街では、今なお幾つかの居酒屋などが開いており、どんちゃん騒ぎをしている人もいる。
もしそこに流牙達が空から降ってきたとしたら、まず間違いなく通報されるだろう。
それでなくともこのホラーに見つかった時点で、既に警察組織に連絡が行っていると考えてもいい。
そういった判断を瞬時に行った流牙は、牙狼剣を取り出した。
「莉杏!」
呼ばれた莉杏は、どうにか腕を動かして魔導筆や魔導銃を取り出そうとする動作をやめて流牙を見る。
そして流牙の考えを察知し、即座に行動に移した。
ソウルメタル。
魔戒騎士となる者にとって、切っても切れない関係にある鉱石。
ソウルメタルを加工したことで作られる剣と鎧が、魔戒剣と魔戒騎士の鎧になるのである。
その性質として、持つ者の心の在り方でその重量が変わる点にある。
魔戒騎士であれば羽毛のように軽く。
一般人や特訓の足りない者には鋼よりもなお重く。
そして、魔戒剣と加工されたソウルメタルは、ただのソウルメタルよりも気難しい物となり、女性が持つと問答無用で超重量になるのである。
では今、ホラーに掴み上げられ、空中にいる状態で、流牙が牙狼剣を手放し、それを莉杏が掴んだら、果たしてどうなるだろうか。
答えは簡単。
[ギッ!?]
「くっ!」
「きゃあぁぁぁ!?」
「く、うぅぅ!」
突如として増した重量に、ホラーが墜落する、である。
その重量はホラーの膂力を持ってしても支えるどころか維持することもできない程の重量で、剣に引っ張られるように地面に向かって落下していく。
そこまで高高度を飛んでいたわけでもないため、数秒もすれば地面だろう。
しかし尻尾から落ちるということは、ホラーが地面に激突するよりも前に流牙達が激突してしまう。
だからその数秒の間に、再び剣を流牙の手に戻し、鞘を自然に落下させる。そうやって抜き身にした刃を、地面まであと1秒となるようなタイミングで真横に来た建物に突き刺し、無理矢理制動をかけた。
その結果、剣は異常な程にしなり、しかし落下の速度が一気に減少した。
そしてその衝撃に遂にホラーはその拘束を僅かに緩めてしまったのである。
その隙を逃さず、莉杏は魔導筆を取り出すと逆手に持ち、その穂先を尻尾に突き刺すように押し付ける。
[ギシャァァァァ!!]
瞬間、穂先が白熱し、ホラーは叫び声を上げて、ついにその拘束を緩める。
そして莉杏と如月はそのまま落下していった。
「きゃ、あ!」
「はっ!」
莉杏は如月を抱きかかえて着地する。
自分の意志での落下では無いものの、せいぜいが2.3階からの落下など鍛え上げられた魔戒法師には何の問題もない。
足首を挫くこともなく綺麗に着地し、ホラーから距離をとる。
一方の流牙は、建物に剣を突き刺していた都合上、落下もしなければ尻尾の拘束からもちゃんと抜け出せていなかった。
それでも拘束が緩んだ隙に剣を抜き、右腕を自由にする事には成功する。
やがてホラーが再び拘束を強くし、今度は連れ去るのを諦めたのか締め上げ始めた。
「ぐぅぅ!--うぉぉぉぉ!」
一回は締め上げられた苦痛に声を上げるが、すぐに剣を振るい、尻尾の付け根を正確に突き刺す。
そして、そのまま力任せに剣を薙ぎ、その尻尾を斬り落とした。
[ギギャァァァァァ!?]
ホラーは絶叫し、痛みのせいか飛翔できずに落下し、無様に地面に叩きつけられた。
流牙は華麗に着地すると、すぐに剣を構える。
『ようやく落ち着いたな』
「あぁ、なんとか拘束から逃れられた」
『奴はホラー・ディビルシア、名前や見た目はそこそこ厳ついが、実際は素体ホラーに毛が生えた程度の奴だ。奇襲に失敗した今、お前なら問題なく倒せる筈だぞ』
「そうだな、この騒ぎで人が来るかもしれないし、速攻で決める!」
そう言って流牙は剣を天に突きつける。
が、なんとか起き上がり落ち着きを取り戻したディビルシアはその姿を見て、すぐに飛んだ。
「逃がすか!」
すると流牙は、天に突きつけていた剣を、円を描くように腕を振るいながらディビルシアの進行方向に投げた。
その剣先の軌跡が虚空に召喚の陣を描く。
すぐにその陣の内の空間が割れ、バラバラの金色の鎧がディビルシアに次々と直撃する。
鎧に押し返されるように落下するディビルシアをよそに、流牙は召喚した牙狼の鎧をその身に纏っていく。
そして牙狼の鎧を、牙狼の面を装着しきったところで大きく跳躍。
同時に念じる事で、牙狼剣を呼び寄せ、しっかりとその右手に握る。
1度右腕を引いて、力を溜めて。
《ダァァァァァァァァ!!》
[ギィギャァァァァァ……]
ディビルシアとすれ違う瞬間、その身を斬り裂いた。
ディビルシアはそのまま消滅し、牙狼はしばらく跳躍の影響で空を飛んでいたが、跳躍のエネルギーが無くなったことで数秒後には落下した。
そして牙狼剣を鞘に収め、鎧を返還する。
「流牙さん!」
それを見届けて、莉杏より先に如月が駆け寄ってくる。
流牙は穏和な笑みを浮かべるが、如月は気にもせず流牙の手を取り、走り出した。
「え、ちょ!?」
「今の騒ぎでもう警察が来てます!早く逃げますよ!」
「早いな!?」
『お前にやられるのを想定していたのかもな、奴さんは』
「なるほど……」
「お喋りしてないで下さい〜!?」
呑気な流牙とザルバに如月はツッコミをいれざるを得なかった。
そしてなんとか2人は莉杏とも合流し、警察の手から逃れるのであった。
罠と言うものは、一度かかれば二度は通用しない
策と言うものは、一度使われれば警戒される
次回、潜-explosion
ならやる事は、裏をかくこと
今回の話は急に突っ込んだ話なのでだいぶ展開があれです(((