牙狼-紫月の救済-   作:ドンじゃらほい

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遅くなりました。理由などはまた後書きにて。

タイトルはザルバなのにメインは如月、すまないザルバ
今回は短めなのもすまないザルバ


輪-Zaruba

【輪-Zaruba】

 

「町長が……ホラー……!?」

 

流牙と莉杏の言葉に、如月は驚くしか出来なかった。

なにせ、さっき聞いたホラーの話を鑑みれば、ホラーになるのは邪な陰我を持つ人だけのはず。それがこの街の長であるような人が陰我を持つなど、如月には想像もつかなかった。

 

「権力争いってね、如月ちゃんが思う以上に黒く、暗く、深い闇を持ってるものなのよ……」

 

「それに、俺達は前の街--ボルシティで同じような状況を経験してる。ボルシティとアスピナシティは、かなり似てるしね」

 

流牙達が以前居た街--ボルシティと、今居る街--アスピナシティは、独立都市、警備組織が長の直下の部隊であることの他にも、税が低い、福祉が良いと言った点も似通っている。

それらは即ち、人をこの地に留めておくための、策。

そう考えれば、町長がホラーだと言うのも、可能性の一つとして、考えることができる。

 

「そうだとしたら、もしかして『イェルネ』は……」

 

「多分な。『ザルバ』の探知にも引っかからない理由にもなる」

 

流牙と莉杏は更に話を進めるが、そこに聞き覚えの無い単語が二つ。

 

「『イェルネ』?『ザルバ』?」

 

如月の疑問に、莉杏が答える。

 

「『イェルネ』……今私達が追っているホラーのことよ。あ、ちょうどいいからザルバからイェルネのこと聞いたらいいんじゃないかしら」

 

莉杏の提案に、如月は戸惑う。

 

「え……でも、ザルバさん?ってどこに……」

 

『ここだぜ、お嬢ちゃん』

 

突如どこからか渋く、格好良い声が聞こえ、如月はビクッ、と身体を震わせた後、部屋中をきょろきょろと見回した。必死になって探す様子に、流牙は笑いを必死に堪え、でも我慢し切れずに口を右手で覆い横を向いて笑ってるのを誤魔化そうとしながら、如月に向かって左手を差し出す。

その中指に嵌められている髑髏の指輪、いつもファッションでつけているのだと思っていたその指輪をじっと見つめると--

 

『おいおい、そんなにジロジロ見るんじゃない』

 

「きゃあっ!?」

 

突如指輪が動き、カチカチ言いながら話し始めたではないか。

これには如月も可愛い悲鳴をあげる他なかった。

 

「ゆ、ゆゆゆゆゆ、指輪が喋った!?」

 

『喋っちゃ悪いか?』

 

「普通の指輪は喋らないよ、ザルバ」

 

『俺様はただの指輪じゃない。魔導輪だ』

 

「……魔導輪?」

 

恐る恐る、莉杏がザルバ、と呼んだ指輪に人差し指を近付けながら如月が聞く。

ちなみにその人差し指はザルバが口を開くと物凄い勢いで離れていった。

 

「魔導輪ってのは、簡単に言えばソウルメタルの入れ物に入れられたホラー、って感じかな」

 

「……ホラーなんですか!?」

 

聞こえてきた単語に驚きを隠しきれない。

ホラーであるならば、人を喰らい、人を見下す存在だと聞いたのに、ザルバがホラーであるならばその理論が間違ってしまうことになる。

 

「まぁホラーと言っても、人との共存を考えてたり、単純に人を捕食対象に見てなかったり、とにかく色々あって俺達に協力してくれるホラーなんだよ」

 

そう。ホラーはそのほとんどが人を喰らう存在だが、中には人間と共存を図ろう、人界と魔界のバランスを取ろうというホラーも居るには居る。

そういったホラーは魔戒法師の手によって、意識だけをソウルメタル製の装身具に移すのである。

 

そうして生まれるものが、魔導輪である。

 

「魔導輪はホラーの気配を探ったりホラーの情報を教えてくれたりする。大事な仲間だ」

 

「ホラーが……大事な仲間……」

 

『そんなに俺様をホラーホラー言うな』

 

「あ……ごめんなさい」

 

如月は一応謝る。だが何か納得できていないのは3人の目から見ても明らかだった。

それが何故なのか、"如月の世界"を完全に理解しているわけでは無い3人には、わからなかったが。

 

『で、イェルネだったな』

 

落ち着いたところでザルバがイェルネについて語りだす。

 

『イェルネは戦闘力自体は低いが、とかく人界の知識が豊富だ。その知識を利用して、この街を作り上げたんだろうな』

 

「……この街を作り上げた?イェルネってそんなに昔から居るんですか!?」

 

驚愕の事実に如月は再度驚くことになる。

だが流牙や莉杏は驚く素振りを全く見せないでいた。

 

「流石にここまではちょっと珍しいけど、かなりの昔からこっちにいるホラーもいないわけじゃ無いからね」

 

「イェルネは特に自分から姿を現わすことはほとんど無いの。だから余計に発見が遅れるのよ……言い訳にしか過ぎないのだけども、ね」

 

『腹立たしいが、気配を隠すのがうまいからな、奴は』

 

ザルバが憎らしげに呟く。

少しの会話で結構性格が掴めてきたが、その能力は確かなのだろう。そのザルバが気配を察知できないというのであれば、それは相手のが上手ということになる。

 

「それでもここまで来た。奴の居所も予想出来たし、とりあえず話はこんなところで良いかな」

 

そう言うと、流牙と莉杏は立ち上がり、荷物を纏め始めた。

 

「如月ちゃんも、必要なもの持っていってね」

 

「え、あの、これは一体」

 

状況を飲み込めない如月が聞くと、流牙は当然とばかりに答える。

 

「ここを出るんだよ?奴らにここと、俺達のことがバレた今、これ以上ここに留まってても良いこと無いし」

 

「あ、如月ちゃんの……艤装、だったかしら。それはもう仕舞ってあるからそれ以外でお願いね」

 

「あ、は、はい!」

 

莉杏に言われて、慌てて荷物を纏めようとこの数日使っていた寝室に向かうが、思えば荷物など艤装以外はあの時着ていた制服と、流牙から貰った髪飾り、後は厳選したシャンプーなどの日用品だけしかなかったことを思い出す。

 

(……私物を持つほど、ここに居なかったものね)

 

内心ひとりごちながら、結局は未だボロボロの制服と幾つかの日用品だけを纏める。

5分もかけずに荷を纏め、部屋を出る。

流牙と莉杏は既に準備を終えており、テーブルの上に紙と金--恐らく部屋を借りてたことに関するものだろう--を置く。

そして如月の準備が完了したのを確認して、静かにその部屋を出るのであった。

 

 

 

「でも、思ったより落ち着いてるわね」

 

「え?」

 

部屋を出てすぐ、人通りの少ない裏路地を歩いていると莉杏が如月に言った。

声をかけられた如月は振り向き、莉杏の顔を見る。

 

「だっていきなりこの世界にはホラーって化け物がいて、それが人になりすましてるなんて言われたら、普通はそんなに落ち着いていられないと思うわよ?」

 

『そうだな。信じないか、こいつらもホラーじゃないかと騒ぐか、狂うかだと思ってたぜ』

 

「あはは……確かに、普通だったらそうだと思います」

 

でも、と苦笑しながら続ける。

 

「私はこれでも戦場にいましたから。見た目よりも、心は強いですよ?」

 

そう言って、今度は苦笑ではなくしっかりとした笑みを向けてくる如月に、流牙はそうかと思いながらも、何か引っかかりを感じていた。

その引っかかりが何か、流牙は気付いていない。

 

 

 

(……そう。心を強く、不安を表に出さないように、しなくちゃ)

 

表情はそのままに、心の中だけで、そう思う。

 

悟られてはいけない。違和感を。

 

そして、不安と、不安を呼び起こす仮定とを。

 

 

 

 

 

深海棲艦とホラー、そして艦娘は、その本質が同じであろうということを。




住みやすき街は、自らを排し苛む街へ。

優しき人は、自らを怯え拒む人へ。

悲しき現実は、彼らをそこに歩ませる。

次回、守-wall

立ち塞がるは、昏き恐怖の壁




前回更新の際に気胸になったと言いましたが、あの後1週間で悪化して7月終わり間近まで入院しておりました。
その後なんやかんやで今日まで延びてしまいました。申し訳ありません。
自然治癒なのでこの先再発する可能性も高いですので、またなった時は活動報告の方でお知らせします。

なんか思ってた以上に早く進み過ぎてしまいそうになってます。いくらなんでも早くし過ぎたかなと反省。

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