牙狼-紫月の救済-   作:ドンじゃらほい

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往年の牙狼ファンなら魔戒烈伝最終話「金字塔」と牙狼-阿修羅は見るべきそうするべき

今回長めです。


戦-wolf

【戦-wolf】

 

それは、突然であった。

 

--ドンドンドン!

 

突如、ドアが激しくノックされる。

流牙と莉杏は一気に気を引き締め、流牙はドアに、莉杏は如月の手を引き、別室へ向かう。

流牙は2人が別室に入ったのを確認してからドアを開けた。

そこにはサングラスをかけ、黒いスーツを着た黒髪短髪の男を筆頭とした、10数名の男たちがいた。

 

「-……何用だ?」

 

声低く、威圧するように聞く。

流牙のドスの効いた声に何人かはビクッ!と怯えるが、筆頭の黒服の男は動じることなく流牙に話しかける。

 

「ここを借りてる道外流牙だな」

 

「そうだ」

 

「早速だがこれを見て欲しい」

 

そう言って男が懐から出したものは、写真。

写っていたのは、如月だった。

 

「この小娘が貴様らと行動を共にしていると聞いた。貴様らは2人でこの部屋を借りているはずだ、この小娘と行動を共にし、この部屋に小娘を住まわせる理由は無いはずだが」

 

「……確かにこの子と行動はしてたけど、それはこの子がここを借りた後に裏路地で倒れてるのを見つけたからだ。怪我もしてたから、その怪我がきちんと治り次第警察に預けるつもりだ」

 

「最初から警察ないし病院に連れていけばよかったのではないか?」

 

男の言うことに言葉を詰まらせる。

確かに今の台詞は正論で、普通ならそうするべきだろう。

ここで下手に言い訳してもいいことはないだろう、そう判断した流牙は論点をずらすことにした。

 

「……それに関してはあんたが正しいよ。で、こんな夜にいったい何の用だ?」

 

流牙の問いに、男は後ろにいる男たちから紙を受け取り、それを流牙に見せた。

 

「……逮捕状!?」

 

それは逮捕状。しかも逮捕される対象は流牙でも莉杏でもない。

 

「その小娘はこの街に正規の手続きをせずに住んでいる。よって不法侵入で逮捕することが決まった。ここにいるのはわかっている、差しだせ」

 

それは、如月への逮捕状。

その理由も決して変なところがない、基本は至極真っ当な逮捕状に見える。

男も当然と言わんばかりに威圧してきた。

 

「庇えば貴様らも拘束させてもらう。さっさと不法侵入者如月を差しだせ」

 

だが、流牙にそんな脅しは通用しない。

それどころか、男に対して反撃し始める。

 

「……なぁ、なんでその逮捕状にはあの子の名前がないんだ?容疑者の名前がない逮捕状なんて効力持たないと思うんだけど」

 

「何?」

 

「それなのにあんたらさっきあの子の名前を『如月』と呼んだ。逮捕状には名前が書かれていないのに。あんたはあの子の名前を知っているのに、なんでだ?」

 

背後にいる男たちが騒めく。

そう、この逮捕状には如月の名前が書かれていなかったのだ。

名称不明、不法侵入者が、本来名前を載せられるべき場所に書かれているが、そんな逮捕状があるものだろうか。

そして何より、目の前の男は名称不明であるはずの如月のことをキチンと「如月」と呼んだのだ。

 

「……」

 

男は押し黙った。

そして流牙は、決定打を決めうちに行く。

 

「とりあえずそんなサングラスしながら話しかけるのはマナー悪くないか?外せよ」

 

流牙に言われ、渋々サングラスを外す男。

サングラスを外し、再び流牙を見た時、その視界には緑色の炎が映っていた。

 

「な、なにしてやがる!?」

 

背後にいる男たちのうちの1人が声を上げる。

更に5.6人が怪訝そうに声を上げた。

 

 

 

だが、火を向けられた男は、動じなかった。

 

 

 

何故なら。

 

 

 

「……やっぱりな。匂ってたんだよ」

 

「……よもや貴様が、そうだったとはな……ならば、死ね」

 

 

 

炎を向けられた意味を、知っているから。

 

 

 

 

 

そして男の拳が、流牙に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

バキン!!と、大きな音が隣の部屋で聞こえた。

その音に如月は、隣の部屋に行こうとする。

あの部屋で誰かと応対している流牙が心配だったからだ。

 

「駄目よ如月ちゃん!あの音は何かが壊れた音……戦闘になってるはずよ!危険だわ!」

 

莉杏が如月を呼び止める。その莉杏は机から何かを取り出していた。

 

「でも、流牙さんが!」

 

「流牙なら大丈夫」

 

流牙を心配する如月に対して、莉杏は心配する素振りを見せずにいた。

その様子に、如月は疑問と怒りを感じてしまう。

 

「何故ですか!?いくら流牙さんが男性だからって、あの人数は……それに私は艦娘です!戦闘訓練も積んでますから、戦えます!」

 

「いくら貴女がきちんとした戦闘訓練を積んでいたとしても駄目。貴女が艦娘であるないの前に、貴女は女の子なんだから、腕力でねじ伏せられる可能性がある。それに……」

 

莉杏が諭すように如月に語りかけていた時、突如部屋の扉が粉砕され、男が吹き飛んでくる。

すぐに部屋の中に吹き飛んできた男の顔を見ると、全く見たことのない顔だった。

すぐに莉杏が叫ぶ。

 

「ちょっと流牙!ドア壊さないでよ!! 」

 

「そっちですか!?」

 

驚く如月だったが、ドアの残骸の向こうに見える光景に更に驚かされた。

なんと床に既に3人伸びているのだ。流牙と男達の戦闘が始まってわずか1分も経たないうちに、3人が。

そしてそれを成したのは、男達の敵である、流牙しかいない。

流牙の圧倒的強さに、如月は言葉を失っていた。

 

「ドアは後だ莉杏!」

 

流牙の怒号に莉杏は何故か懐から取り出したマッチを擦る。

灯された火は、如月がこの世界に来て初めて見せられたものと同じ、緑色の火。その火を莉杏は、どこからか取り出した筆で、男達に向かって振るった。

不思議なことに火は筆に燃え移ることは無く、しかも空中を漂ってまだ立っている男達の視界に映るまで消えなかった。

全ての起きている男達がその火を見る。

 

 

 

その内の5人と、筆頭の男。

 

 

 

 

その瞳に、謎の文字が浮かび上がった。

 

 

 

莉杏は如月の手を引き、あえて部屋を出て流牙の後ろに立つ。

そして流牙に、赤い紙を渡した。

お札のような文字の書かれた赤い紙だ。

流牙はそれを受け取ると、男達に向かって歩み寄った。

そこまで広くない部屋だ、四歩程度で男達のすぐ前に着く。

唐突に歩み寄られた男達は驚きながらも、仲間を攻撃されたことで流牙が危険だと判断し、それぞれ殴りかかる。

それをスラリスラリと回避し、何人かの額に莉杏から渡された赤い紙を貼り付けた。

すると貼り付けられた男はすぐに倒れる。

 

「な……!?」

 

「安心して、寝てるだけだから」

 

驚く男の額に笑みを浮かべながら紙を貼り付ける。

そしてその男が倒れるのと同時、首を右に倒して、後ろから振るわれた拳を回避する。

拳を振るったスーツの男は驚愕するが、流牙はそんな事御構い無しにその腕を掴み、力任せに投げ床に叩きつける。

そして一旦下がり、莉杏と如月の元に戻った。

 

「俺が隙を作る、その間に如月を連れて逃げろ。奴らの狙いは如月だ」

 

低いトーンで莉杏に告げる。

莉杏は頷くと、如月の手をしっかりと握った。

 

「おのれ……!」

 

スーツの男が立ち上がる。残った男達はドアから出られないようにドアの前に陣取っていた。

そこで如月は気付く。残っている男達の共通点に。

 

(……さっき瞳に何かが浮かんだ人達だけ……?)

 

その現象が起こったのはわずか数秒だけだったが、その数秒で見ることができた何人かは残って立っているのだ。

2人ほど如月は確認できなかったのが立っているが、恐らく同じだろう。

 

(という事はあのスーツの男も……)

 

などと考えていた瞬間。

 

「グォォォォ!」

 

突如隣の部屋から男が飛びかかってきた。

それは流牙に吹き飛ばされた男で、どうやら気を失っておらず、機をうかがっていたようだ。

流牙達が隙を見せたと判断し、飛びかかってきたのだろう。

だが。

 

「はっ!」

 

「やっ!」

 

流牙と莉杏には通用しなかった。

2人の息のあった蹴りが男に直撃し、男は再び隣の部屋に吹き飛ばされるのであった。

 

「行け、莉杏!」

 

流牙が叫ぶと同時、男達に突っ込む。

スーツの男の迎撃をいなし、逆にドア前に陣取る男達に向かって蹴り飛ばした。

男達も吹き飛ぶが、ドアの前を塞いでいる事実は変わらない。

 

「なんとかどいてもらわないと出られない……!」

 

如月は顔を顰めて言う。

が、突如体を襲った浮遊感に一瞬思考が硬直した。

 

「……え?」

 

「いい?舌噛まないように気をつけてね?」

 

さっきより近い莉杏の顔。

すぐに、莉杏に抱えられていることに気付いた。

 

「り、莉杏さん!?」

 

「行くわよ!」

 

「え、え!?」

 

そう言って莉杏は、如月を抱えたまま何故か隣の部屋に入る。

流牙と莉杏に蹴り飛ばされた男はそれに気付いて体を起こそうとするが、莉杏が部屋に入った瞬間蹴ったゴミ箱が顔面に直撃し変な声をあげて再び倒れた。

そんな様子を確認することなく、窓を開け、桟に足をかけた。

 

「ま、待って下さい莉杏さん!?そう言えばここ3階ですよ!?まさか!?」

 

「そのまさかよ?」

 

にっこり笑う莉杏。

そしてすぐに、窓から飛び降りた。

 

「きゃああああああああ!?」

 

勿論、抱えられたままの如月も一緒に。

死んだ。

如月はそう思ったが、なんと莉杏は何事もなかったかのように着地し、そのまま裏路地を駆けだす。

 

(……3階の高さから私を抱えて飛び降りて無傷どころかすぐに走り出せるって……流牙さんも何人も相手に勝っちゃうし……)

 

莉杏に抱えられてる間に少し落ち着いたのか、如月は流牙と莉杏の異常さに疑問を浮かべる余裕を持ったらしい。

 

(……この人たち、何者なのかしら……?)

 

息も切らさずに走り続ける莉杏にまた驚きながら、如月は抱え続けられるのであった。

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

正拳突きが炸裂し、男が吹き飛ぶ。

 

「ふっ!」

 

腹部に蹴りを入れられ、別の男が崩れ落ちる。

 

「おぉぉ!」

 

飛び上がり相手の首を足で挟む。

そのまま体を捻り倒すことで、更に別の男が首を明後日の方向に曲げた。

 

「おのれぇ……!おい!こいつを足止めしろ!」

 

スーツの男はそう言って部屋から出て行く。

 

「待て!」

 

流牙はそれを追いかけようとしたが、吹き飛ばされる倒されたはずの男達が流牙の前を遮った。

男達は息を荒げていたが、自らを鼓舞するかのように叫ぶ。

 

「キシャァァァァ!」

「グォォォォォォ!」

 

その叫び声は人のそれではなく、男達の口元は大きく裂け、無数の歯を見せつけるものであったが。

しかし流牙はその光景に驚くこともせずに、どこからか取り出した赤い鞘の剣を抜く。

白銀の刃を構え、そして振るう。

 

一振り目で1人を袈裟斬りにし。

 

二振り目で切り上げ。

 

三振り目で大きく回転しながら纏めて複数の胴を上下に分かれさせる。

 

たったの三振りで、そこにいた男達は全滅した。

 

「ば、ばか、な……」

 

最初に袈裟斬りにされた男が苦悶の表情を浮かべ、流牙を睨む。

そしてその赤鞘の剣を見て、今度は驚愕の表情を浮かべた。

 

「そ、その赤い鞘……まさか、お前は……」

 

その先の言葉を紡ぐことなく。

 

 

 

男達は、消滅した。

 

 

 

『流牙!』

 

突如流牙の左手から声が響く。

すぐに隣の部屋を見れば、莉杏にゴミ箱をぶつけられた男が、その姿を変えていた。

 

灰黒の肉体。

白く濁った瞳孔の無い瞳。

そびえる二本の角。

右の黒い小さな羽と、左の白い小さな羽。

 

「キシャァァァァ!!」

 

誰がどう見ても、化け物であるその姿になった男は、羽を肥大化させ、窓から空へ飛び立つ。

窓に駆け寄り外を見ると、その化け物がどこかに飛んでいくのが見えた。

 

『奴の飛ぶ先からも、「ホラー」の気配を感じるぞ!』

 

再び左手から声をかけられ、流牙もまた窓から飛ぶ。

莉杏とは違い、窓から隣の家の屋根へと、だが。

そして屋根を伝い、飛んでいく化け物を追う。

 

やがて化け物は急に降下した。

十数秒遅れてそこに辿り着くと、莉杏と如月が、化け物達に囲まれているのが見えた。

 

「待てぇ!!」

 

そして流牙は、屋根から飛び降りた。

 

 

 

 

時は少しだけ遡る。

路地を走っていた莉杏は、突如自分の前を塞ぐように立った男のせいで立ちどらざるを得なくなっていた。

横を避けようにもその後ろに2人。避けたところで捕まるだろう。

とはいえ追っ手とは違い、ただのゴロツキかもしれないと考えた莉杏は、気圧されないように声を張った。

 

「今急いでるの、どいてもらえるかしら!」

 

一般人が聞けば、それこそそこいらのチンピラですら尻込みするような、威圧感を感じる声。

しかし男達は尻込むどころか笑みを浮かべ、退くことはしなかった。

 

「莉杏さん……」

 

「降ろすわね」

 

抱えていた如月を降ろし、再びマッチを擦って男達の視線に映るように掲げる。

やはりその瞳には、何かが浮かび上がった。

 

「おい!」

 

真ん中に立つ男が声を上げると、莉杏らの後ろから更に3人、どこからともなく現れた。

手には鉄パイプを持っている。それはもはや捕まえる意思など全く無いと言ってるのと同じなように感じられた。

 

「どっちも殺すなよ。特にその小娘は、だ。魔戒法師は……死なねえ程度に痛めつけろ」

 

そう言った瞬間、後ろにいた男の1人が鉄パイプを莉杏に振り下ろす。

が、それに気付いていた莉杏はほとんど振り向くことなく男の腹部を蹴り飛ばした。

次いで懐から独自の装飾が施された拳銃を取り出す。

 

--バァン!バァン!

 

躊躇いなく引き金を引く。放たれた弾丸は的確に前にいた左右の男の頭に直撃し、2人の体は大きく揺れた。

更に後ろの男達にも弾丸をぶち込む。

銃弾を何発も食らった男達は地に倒れた。

 

そして、少し苦しみながらもすぐに立ち上がる。

 

「何が……何がどうなってるの……!?」

 

如月はこの一連の出来事に、混乱し頭がパンクする寸前になってしまっていた。

無理も無い。突如自分を追う者が現れ、流牙と莉杏の尋常では無い肉体能力を見せられ、躊躇なく信頼していた人が人を殺そうとし、しかし即死するはずの者がなぜか生きている。

 

挙げ句の果てには。

 

「ギシャアァァァァァ!」

 

「シィィィィィ!!」

 

全ての男達が、黒い化物の姿になったのだから。

 

「な、なんなの、これ……」

 

「如月ちゃん、私の後ろに隠れて!」

 

莉杏が如月の前に、如月を壁と挟むように立つ。

6体の化け物に対して怯えすくむ如月を連れた莉杏だけという図は、いくら莉杏が強いとわかっていても無謀だとしか思えなかった。

更に。

 

「よく足止めした!逃げやがって……!」

 

部屋に来たスーツの男まで追いついてくる。

ここで初めて莉杏が表情に苦いものを見せた。算段が狂ったことか、この男が別格の強さを持つからだからか。

銃と、新たに取り出した筆とを構え、迎え撃とうとする。

 

その時。

 

「--待てぇ!!」

 

怒号と同時、莉杏の前に流牙が着地する。

そのまま振り向きざまに剣を一閃、近寄ろうとしていた化け物達が引く。

流牙の登場に一瞬隙を見せた、逃げようとした方にいた化け物に銃口を向ける莉杏。

その銃口の先に筆の穂先を置いて引き金を引くと、どういうわけか銃弾は威力を増して放たれ、化け物の胸に穴を作った。

 

「ギィィィィィ」

 

胸に穴を開けられた3体は地面に倒れ、霧散した。

 

「ぐっ……貴様ぁ!!」

 

ついに堪忍袋の尾が切れたのか、スーツの男が裂帛の気合いを込めて吼える。

するとその姿は人のそれから、牛のような化け物に変わる。

頭部から生える曲がりくねった2本の角に、筋骨隆々の肉体、鋼のような光沢を得た爪の伸びた左手と、その豪快さからは想像できない甲高い声。

 

「ピシャァァァァァァ!!」

 

スーツの男だった牛の化け物が吼える。

周りの黒い化け物達も便乗して吠えた。

恐怖に怯える如月だったが、莉杏と流牙は全く怯える様子が無い。

 

『奴はホラー・アスパイン。強固な爪とパワーが面倒な奴だが、代わりに鈍いぞ』

 

「……え?」

 

突如流牙の左手から声がして、如月は流牙の左手を見る。

そこにはいつも流牙がしている髑髏を模した指輪しか無く、その時の如月に声の出処は分からずじまいだった。

 

だがそんなことは、どうでもよくなる。

 

「一気に片付ける。莉杏は如月を」

 

流牙に言われ莉杏に身体を支えられながら少し離れる。

そして、流牙は天に向かって剣を掲げた。

そこに円を描くと、その軌跡が残る。

瞬間、その円の中の空間が割れ、眩い光があたりを包んだ。

あまりの眩しさに目を瞑ってしまうが、瞼を閉じていても感じた光が収まったように感じたので、目を開いて、その姿を見る。

 

 

 

そこには、「黄金」が、いた。

 

全身を黄金に包んだ、鎧の騎士。

 

右手に持つ剣も、大きく変化している。

 

[そ、その鎧……その金色……まさか!?]

 

アスパイン、と呼ばれた牛の化け物が驚愕と、恐怖の声を上げる。

 

 

 

アスパインの目に映ったのは、黄金の狼。

 

これまた全身黄金に身を包んだ、アスパインらにとっての、最悪の存在。

 

この輝き、この金色、あの三角の紋章。

 

正面から相対する邪悪には、自らを射殺す威圧を備えた阿修羅のように。

 

背後に立ち守られる者には、自らを必ず守護すると言われるかのような安心感を。

 

 

 

その姿は。

 

 

 

[黄金……騎士!?]

 

 

 

その存在は。

 

 

 

[馬鹿な……黄金騎士は、輝きを失った、消えた筈だ!なのに何故……まさか、貴様偽物か!]

 

 

 

 

 

その名は。

 

 

 

《偽物なんかじゃ無い……俺は、この鎧は!》

 

 

 

 

 

《黄金騎士、牙狼(ガロ)だ!!》

 

 

 

 

咆哮、そして突撃。

牙狼の姿に完全に気圧された黒い化け物らはなすすべ無くその剣に斬り捨てられる。

アスパインは黒い化け物を盾にして牙狼から距離を取ろうとするが、牙狼の突き進むスピードは全く変わらず、一瞬の内にその間合いに入る。

そのまま上段からその剣を--牙狼剣を大きく振り下ろすが、アスパインはその爪で防いだ。

アスパインが腕を振るうとその圧倒的なパワーで牙狼は弾き飛ばされるが、飛ばされた勢いを利用し、空中で姿勢を直す。

そして下がっていた莉杏が筆を振るい、光の球を牙狼に向かって撃ち放った。

その光の球は光の壁に変化し、牙狼の足場となった。

 

[アイ!?]

 

《オォォォォォォォ!!》

 

足場を物凄い膂力で蹴り、アスパインへ弾丸の如く突き進む。

その早すぎる速度にアスパインは完全には追いつけなかった。

 

--ザンッ!

 

[ギシャアァァァァァ!!]

 

《チッ!》

 

超高速で突き出された牙狼剣はアスパインを捉えたかのように思えたが、僅かに反応されたために左腕を切り落とすに終わってしまった。

それでもアスパインの武器である強固な爪は無くなった。

絶好の機会だ、と莉杏がアスパインの両目に向かって銃撃をする。

莉杏の高い射撃スキルをもって放たれた弾丸は、的確にアスパインの両目に直撃した。

 

[ギャァァァァァァ!?]

 

目を押さえるアスパインの隙を、牙狼は見落とすはずがなかった。

 

《オォォォォォォォ……》

 

牙狼剣を左腕に添わせて鎧を引っ掻くように引く。

流牙の、構える時によくとるポーズだ。

張り詰めた集中力が極限に達した瞬間、前に向かって跳躍。

 

《ヤァァァァァ!!》

 

そして、今度こそ確実に、アスパインの胸部に牙狼剣を、突き刺した。

 

[ギ、ギィィィィ……!]

 

断末魔の声を上げて、アスパインは消滅する。

牙狼は剣を振り、牙狼剣を鞘に収める。

キチンと収まると同時に、牙狼の鎧が上から順に外れ、消えていった。

そして、流牙の姿に戻るのだった。

 

「如月は大丈夫か?」

 

「ええ、怪我は無いはずよ。だけど……」

 

ちら、と如月を見る。

如月は完全に混乱しきっており、地面にへたり込んでしまっていた。

だが戦いが終わったのだと悟ったのだろう、顔を上げて流牙と莉杏を見る。

 

「……あれは、いったい」

 

「……帰ってから説明するよ。今は、帰ろう」

 

流牙が務めて優しく言うと、如月は緊張が解け安心したのだろう、糸が切れたかのように眠ってしまった。

そんな如月を優しく抱き上げ、流牙と莉杏は一度借り部屋に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

「そう、ですか。アスパインらが……」

 

深くため息をつく。そして手に持っていたグラスを一度傾けた。

 

「……それにしてもまさかあの部屋を借りていた者が魔戒騎士--それも、失われたと噂された牙狼だったとは。面倒になりましたね……」

 

そう言って、思案する。

数分考えてたどり着いた答えは。

 

 

 

「……真っ向に殴り合っても勝てないでしょう。ならば。

 

 

 

 

 

『人の法』で、裁くしかありませんね」

 

 

 

そう呟いて、ニヤリ、と笑った。




その真実は、世界が知る必要は無い。

だって知ってしまったら、世界が終わってしまうから。

次回、真-horror

暴かれる真実に、彼女は耐えられるのか。




ちょいと本元のネタバレ注意


鋼牙のことを待っていたんだよ!!
カオルが冴島性でテロップ載ってるんだよ!!
ついにキチンとカオルの子が雷牙だって描写されたんだよ!!
これは金字塔と阿修羅見るしか無いよな!!(うるさい
そして初代のHDリマスターですよ。やったぜ。
この機会に牙狼を広めましょう←

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