今回出てくる騎士はちゃんと原作に出てた人です。さぁ誰か予想してみてね
それは油断だった。
全てが終わったと思って、周りも見ずに動きを止めてしまった。
友の無事に安心しきって、吹いた風に髪が傷むことに気が行ってしまった。
だから……
だから私は、海に沈んで行っている。
気が付くのが遅かった。
撃墜しきれていない敵機が、最後の力を振り絞って爆弾を落とすのを。
風の音に紛れて降ってきたそれに気付いたのは、それが私の眼前に来た時で。
何も出来ないまま、私は海の底に向かっている。
私たちが戦ってきた者達の名と同じ、『
薄れゆく意識の中、私は、大事な、大好きな友の顔を思い浮かべる。
不思議と悲しいとか、そんな感情は出てこなかった。
ただ。
ただ、とても身勝手だけど。
どうか、せめて。
(ーー如月のこと、忘れないでねーー)
ただそれだけが頭の中に浮かんで。
そうして、私は目を閉じた。
最後の瞬間、今までの温かくも冷たい水に包まれる感じが、消えたことに気付くこともなく。
※※※※※
その男がそこを通ったのは、単なる偶然であった。
とある用事を済ませてからの帰り道、ほんのわずか、聞きなれない「音」が聞こえた気がした為に、わざわざ遠回りになりそうな道を選んで進んでいく。
耳に届く「音」は進めば進むほど大きく、強くなっていく。
しかし大きくなったことで、その「音」が、「波」の音と言うことに気付けた。
ここは陸地、海なんてかなり遠くに行かないと無いはずなのに。
そう思いながら、音の強くなる方へどんどん進んでいく。
ーーそうしてたどり着いたそこには。
妙なものを背負った、傷だらけの少女が倒れていた。
「大丈夫か!?」
男はすぐさま少女の近くに走り寄り、少女に声をかける。
少女からの反応は無い。だが大きく破け、下着が見えている胸元は微かに上下しており、少なくとも生きていることは判別出来た。
「……息はしているか、でもこの傷……」
そう言って改めて少女の腕の傷を見る。
裂傷のような傷ではなく、火傷や擦過傷のような傷だ。
何故こんな傷をこんな年端もいかない少女が受けているのだろうか。
「虐待か……?」
『ーーいや、虐待で出来るほどこの傷は軽くは無い。こりゃ爆風を近くで受けたような傷だぞ』
「爆風を……?」
どこからともなく聞こえた声に、しかし男は驚くことなく返し、傷を見る。
言われてみれば確かに……と思えなくも無い。
だがならば尚更何故という疑問が沸き起こる。
よくわからないものを背負っているし、右手には砲台によく似た銃もーー
「……って、銃?この子の物か?」
『状況からしてそのようだな』
「どうしてこんな子供がそんなものを……」
『とにかくわからないことだらけだ。が、お前がこれ以上関係するべきことでは無いかもしれんぞ?』
声は暗に、放っておいた方がいい、と言ってくる。
そんなのは、理屈としてはわかっている。
事実、放っておかなかったせいで苦しい思いをしたことがあるのだから、尚更だ。
それでも。
「……放ってなんかおけないよ」
少女の傷に配慮しながら、背負う物の重さに顔をしかめつつ少女を背負う。
『やれやれ、まだまだ甘ちゃんだなお前は』
「うるさいよ、ザルバ」
『それがお前らしいといえばお前らしいがな』
「で、見るなよ?」
『手の位置をどうにかしなければ無理だ。最も、俺様はこんな小娘の身体や服に興味はない』
「目を瞑ってろよ。お前が興味なくても駄目だ」
男は自分の『左手』に向かって声を投げかけながら、黒いコートを翻した。
二つの、重なり合うことは無い世界。
何の因果か、はたまた陰謀か、僅かに重なり合う時。
黄金の狼と、如の月が、邂逅する。
牙狼-
ほの暗い水底、冷たい深海。
浮かび上がるは、見知らぬ世界。
次回、「覚-awake」
少女は目覚める、この世界で。
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