オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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ようやく最終決戦ステージ


そして舞台の幕があがる

横やりが入ってなぁなぁになったものの、少しばかり落ち着いたのかクロメも先ほどより調子を戻した。

真面目な戦いが一転して、少し和やかになった・・・そのせいか、レオーネやタツミたちはウェイブと話している。

 

お互いに敵同士とはいえ、今回は姉妹同士の決闘・・・という体裁だ。

他の帝国軍も革命軍もいない。それに何故か彼らからは敵対心が削がれていた。そう、異様なほどに。

 

その中でもシュラだけはアンに近寄って耳打ちをした。

 

「お前、あいつのヤク抜きのほかに何したんだよ」

「・・・あら?分かるの?」

 

アンの言葉に、シュラは少し溜息を吐いて言葉を続ける。

 

「当たり前だろ。ヤク抜いたぐらいであんなに気が抜けるかっての。お前のことだから何かしたんだろ」

「そういう察しのいいところ、ほんと父親に似たわよね~」

 

彼の言葉を肯定したアンはシュラに分かるようにこっそり耳打ちする。

 

「今日のお弁当、デザートあったでしょ?警戒心を薄れさせる料理なの。他にも色々仕込んだわよ、食べ合わせで発揮するものとか」

「・・・・・・えっげつねぇよなぁ」

 

幼馴染でいつもはおちゃらけて生きているような人間に見えても、やはり彼も帝具所有者、帝都宮殿の厨房を一任されている料理長。

そして何より、あのオネスト大臣が処刑することなく生かしている現皇帝陛下以外の唯一の皇族。

 

この悪鬼外道が蔓延る帝都宮殿内部において生き残っているだけはある。

 

「あら?ナイトレイドを相手に敵陣に飛び込むようなものよ?これぐらいは定石中の定石よ」

「・・・ってことはなんだよ、まだ何かあるのかよ」

 

「ふふ、手の内は全部明かさないものよ?」

「あぁん?いいだろ別に」

 

「仕方ないわね。じゃあベッドの中でいくらでも教えるわ」

「二度と聞かねぇ、教えてもらわなくて結構だ」

 

そんな会話もつゆ知らず、姉妹同士・・・そしてナイトレイドとイェーガーズの垣根を越えて雑談を交わしていた。

そんな光景を眺めつつ、アンは懐かしそうに微笑んだ。

 

「昔はこういう景色、いくらでもあったんだけれどね」

「・・・んだよ、今度は昔語りか」

 

「いいじゃない別に。昔を懐かしむことぐらい」

「ガキの頃のことなんざ思い出してどうなるってんだよ」

 

「・・・そうねぇ、言われてしまったらそれまでだけどね」

 

 

 

さてさて。

今回、アカメ側が勝利した。つまりは・・・

 

「そういうわけで、ウェイブちゃんとクロメちゃんは温泉旅行よ」

「・・・料理長」

「でも、エスデス隊長が・・・」

 

「後は任せなさい。こっちで後始末しとくから」

 

クロメとウェイブの背を押して、胸元から小さなメモ帳を取り出した。

それをウェイブに手渡して、アンは「持っていきなさい」と一言付け加える。どうやら何かの料理のメモ帳らしいが・・・

 

「それ、薬膳料理とかのレシピ。薬抜きするなら役立つわよ」

 

「・・・アンタ、帝国の料理人にしてはまともな奴だな」

 

レオーネの言葉にタツミとラバックの二人も頷いたが・・・アンは少し苦笑いをしている。

自分がどうあるかは何も言わないまま、彼は二人を見送った。

 

「・・・さーてと、タツミとラバックは無事なのはボスに報告しないとな」

「あぁ」

 

「お前らマジで帰るのかよ」

 

シュラの言葉にレオーネとアカメは二人で顔を見合わせて頷いた。

 

「あったりまえじゃん。卑怯な真似は外道相手にやるもんだし」

「私はそういうつもりで約束した。ここで約束を反故にすればタツミとラバックの身が危ない」

 

「・・・」

 

シュラがズボンの後ろに入れてあるシャンバラに手を伸ばしかけたが、その前にアンが彼の臀部へとがっつり手を食い込ませてシャンバラをとらせなかった。

 

「!?!?」

「はーい、それじゃあおやすみなさいね~」

 

「うっわ・・・」

「こわ・・・俺も気をつけよ・・・」

 

タツミとラバックは明日は我が身と震えながら、その光景を間近で見ていた。

無論それはレオーネとアカメにも分かったが、レオーネは笑いながら帰っていき、アカメは小さく感謝の言葉だけ伝えて静かに去っていく。

 

「おっ、おまっ、お前エエエエエ!!!!触るんじゃねぇよ!」

「だってシャンバラで移動しようとしたでしょ?確かにアカメちゃんは帝国でもマークしてるから予想は・・・」

 

「それもだけど!!!揉むな!!!ここぞとばかりに触っただろ気持ち悪いからやめろ殺すぞ!!!!」

「どうせスタイリッシュにも揉ませてたんでしょ!!この浮気者!!」

 

「うるせぇよしてねぇしやめろ!!!何もさせてねぇからな!?勘違いするなよ!?」

 

シュラのその言葉に、アンは真顔になった。

そして・・・

 

 

「え、じゃあアンタ処女なの?」

 

「ほんとお前殺すぞ」

 

 

閑話休題

 

 

こうして彼らは宮殿へと戻り、タツミたちは明日の仕事もあるため就寝することとなった。

・・・ただ一人、アンだけはエスデスのところへとやってきた。

 

「・・・深夜にどうした?」

「ちょっとね。エスデスちゃんの部下のこと。厨房に飛び込んだことぐらい、噂で流れたでしょ?」

 

「・・・・・・」

「想定通りよ。帝国にとっては痛手だし、いくらなんでもエスデスちゃんの部下を二人も欠員させたんだからツケはちゃんととるわよ」

 

エスデスの私室の前でアンは答える。

その言葉にエスデスは彼を部屋の中に通して、少し笑みを浮かべた。

 

「なるほど、帝具使いとして戦うということか」

「ほんともうやんなっちゃうけど、ね?こういうところでツケを支払うのがトップの仕事ってものよ」

 

「・・・意地でもナイトレイドの引き渡しはしないのか」

「そりゃあね。代わりに帝具を抑えてるから大臣は許してるのよ」

 

そんな会話をしていると、小さく扉がノックされる。

アンとエスデスは少し身構えるものの、入ってきたのは・・・皇帝陛下であった。

 

「・・・その、すまない。料理長に話があって・・・」

「・・・陛下、このような時間帯にどうして」

「そうですよ~?アタシが魅力的だからって夜のお誘いにはまだ・・・」

 

 

「料理長は、皇族、なのか?」

 

 

その言葉に、アンの表情が凍った




臆病者は、勝つと分かっている戦いしかできない。だがどうか、負けると知りつつも戦える勇気を。時に、勝利よりも価値ある敗北というのもあるのだから。

________________ジョージ・エリオット

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