オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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『そなたのために、たとえ世界を失うことがあっても、世界のためにそなたを失いたくない。』
バイロン



一ヶ月目の物語
ブドーは最後の戦いに挑み、ドロテアは恋に落ちる


 

______シスイカンにて

 

 

「これでっ、・・・終わりだっ!」

「舐めるなぁ!」

 

アカメとレオーネの二人がブドー大将軍に向かって戦っている。後方支援には革命軍の帝具持ち、名のある歴戦の兵士たちがシスイカンを落とすべく帝国兵と戦っていた。

本来ならば革命軍本体は帝都での決戦に向けて力を温存しておきたかったのだが・・・ともあれ、いつかはブドーは落とすべき相手だ。

 

前線で暗殺するために奇襲を仕掛けたナイトレイドに合わせ、帝国の一部の帝具持ちもブドーの力を削ぐために動いていた。

ブドーも連日におよぶ砦の襲撃や奇襲によって多少の疲労が溜まっていた。

 

この日のために近隣の盗賊たちを捕まえて捨て駒として使ってまで、だ。

 

・・・人権が無いだの酷いだの思うかもしれないが、これは戦争である。互いの戦力差があるなら埋めるための搦め手も必要だろうし、そもそも戦争自体に綺麗事を持ち込んで『正々堂々と戦うべきだ』だなんて、それこそただの理想論だ。

 

「この国を、皇帝陛下を守るために、貴様らのような賊に負けるわけにはいかん!!」

「それなら、国民が苦しんでもいいってのか!!」

 

レオーネの猛攻を裁きつつ、後方からの攻撃を躱し、アカメの奇襲を纏っている鎧で防いで弾き飛ばした。

ここまでなら帝国に名高い大将軍らしい実力だろうが・・・残念ながら彼はしばらく前線から身を引いていたツケが回ってきていた。

 

「(・・・連日に続く奇襲に実戦から遠のいていたせいか、早く決着をつけないと体がもたないな)」

 

ブドーは帝具であるアドラメレクに目をやる。残存電量はすでに2割しかない。

残った2割で一気に片をつけるしかないと彼は判断した。

 

奥の手『ソリッドシューター』である。

 

雷雲を呼び寄せて雷を落としてもキリがない。それだけ、前線で戦ってきた猛者たち揃いである。

素早い動きで避けられ続け、結果として無駄撃ちしてしまったことをブドーは内心舌打ちをした。

 

「これで終わらせてやろう・・・私は、貴様らを退けて帝都に帰らねばならない」

 

彼の脳裏に過るのは、皇帝陛下と、料理長のことだ。

こんな反乱なんて鎮圧して、大臣も失脚させて、はやく国を立て直さねばならない。それには、料理長を皇帝陛下の補佐としてなんとしてでも復帰させる必要がある。

 

・・・軍人である自分が政治に口を出すべきではない。

 

家訓にもあることだが、軍人が政治に介入すれば余計な力をつけて皇帝陛下が蔑ろにされる。平和な治世ならまだどうにでもなるが、腐った官僚がのさばっている現状でそうなれば・・・そう、皇帝陛下を打倒して軍事政権を確立させようとする強硬派も出る。

それだけは避けなければならない。

 

「大技ってわけね・・・それじゃあ、大ピンチってことかしら」

 

凛とした少女が現れた。

 

帝具「パンプキン」を携えた桃色の髪色の少女である。

 

「マイン!遅かったな!」

「他の兵士も倒してたんだもの。それに、こういったピンチじゃないと全力を発揮できないからね」

 

「・・・随分と余裕なようだが、貴様らはここで倒させてもらおう・・・!」

「ハッ、こっちだって・・・惚れた男を宮殿に待たせてんのよ。絶対に負けられないわよ」

 

ブドーはアドラメレクをかまえてソリッドシューターを発動させる準備を整える。残り2割を全て使って奥の手を発動させようとする。

 

「(2割でどこまで出来るか・・・この命を削ってでも、絶対に勝たねばならない。私の命は、陛下のためにあるのだから!!)」

 

マインもパンプキンを構えて力を貯めてソリッドシューターを打ち返す準備に入った。周りに帝具使いがいるとはいえ、アドラメレクと最強の大将軍の力は絶大だ。

危機的な状況から、パンプキンは更に力を高めている。

 

「(絶対にこいつを倒して、生きて帰らなくちゃいけない。タツミもラバックも宮殿でまだ生きてる・・・タツミに、タツミに絶対会うんだから・・・!!)」

 

互いに、大事な相手のために生きて戻らねばならない決意に満ちていた。

 

 

 

 

___________一方、帝都宮殿内部にて

 

 

今日の仕事を終えたドロテアは背伸びをして片付けを始めた。

オネスト大臣に頼まれた帝具の改修作業は順調に進んでいる。脆くなっていた部分を補強して、隠し玉として錬金術の術式を施しつつある。

 

「(しかし、このような巨大な帝具を作れた千年前なら、妾の研究している内容に沿った技術もあったかもしれんのぅ)」

 

帝国の帝具への資料にあった『ヘカトンケイル』『スサノオ』のような帝具人間の技術を応用すれば、それこそ永遠の時を生きれるのではないか。

そう思って彼女も資料を探したが・・・残念ながら千年前の技術に関する資料は残されていなかった。

 

「(やはり、技術の元になっていそうな東方の国じゃろうか・・・ん?)」

 

夜闇に包まれた宮殿の中庭に誰かがいるのを見つけた。

・・・どうやら、お酒を飲んでいる誰かがいるらしい。

 

「(こんな時間に中庭に?誰じゃろうな・・・・・・あぁ、そうえいばあの姿は料理長じゃな。最初にナイトレイドを連れ込まれた時以来じゃ)」

 

あの時は勢いに圧倒されたのだが、よく顔も見てないし噂しか聞いてない。

興味が湧いたドロテアは中庭で一人酒をしている料理長のアンに声を掛けた。

 

「ほぉ、こんなところで一人酒か?」

「・・・・・・?あぁ、アンタ、シュラのところの」

 

よくよく見ると、あの時と違って化粧はしていないらしく、服装も少しラフなものだ。

 

「お主、今日は化粧はしておらんのじゃなぁ」

「化粧し過ぎるとお肌に悪いもの。それに寝る前に月でも見ながらお酒でも飲みたかったしね」

 

「・・・化粧をしておらんほうが、イイ男じゃな」

 

ドロテアは隣に座って、アンの顔を覗き込むように眺めた。

 

「あら、貴方はお化粧が濃いみたいだけど」

「う”・・・なんのことか妾には分からんな」

 

「実年齢、そこそこ高いんでしょ?でも厚化粧はお肌に悪いわよ」

 

覗き込んでいたアンが逆にまじまじとドロテアを観察し始めるが、ドロテアも自分の素顔を晒したくない・・・というか、実年齢のことは正直癇に障っている。

 

「・・・ふん、妾にはとっておきの美容法があるからのぅ」

「?何を・・・」

 

ドロテアはそのままアンに覆いかぶさるように近づいて、彼の首元に牙を立てた。

 

「ッ・・・!」

「ん・・・・・・」

 

ごくり、と血を飲み干したところで、ドロテアの抱き着く力が弱まった。アンはゆっくりと引き剥がした。

 

「ちょっとぉ!アンタの帝具のことはシュラから聞いてたけどいきなり・・・」

「・・・」

 

「・・・ちょっと、どうしたのよ」

「・・・」

 

アンが声を掛けるが、ドロテアは「あ、う・・・」と顔を真っ赤にしてすぐに立ち上がって逃げ去っていった。

 

「・・・・・・なんなのかしら?」

 

 

 

ドロテアが飲んだアンの血の味は、今まで飲んだどんなものよりも甘く感じてた。例えるなら熟しきった糖度の高い果実と言えばいいだろうか。

青くもなく、腐っても無い、絶妙なまでの甘さである。

 

血が滾るような熱さではなく、体の芯から湧き上がってくるような

まるで麻薬のような中毒性がある。また飲みたいと思わせてくるものだ。

 

それでいて、あの場にとどまり続けると心臓が爆発したんじゃないかと思うほど、鼓動が早くなっていた。

 

「(なんじゃあれは、薬物か何か、違う、なんでこんな・・・)」

 

つけている帝具から痺れるような感覚を覚える。

 

もっと飲みたい、もっと欲しい、自分の餌(もの)にしたい

 

欲しい、欲しい、欲しい、欲しい

 

「(・・・帝具の暴走?違う、アブゾデックにそんなものは・・・いや、どうでもいい、またあれを飲みたい。妾の手元に置きたい)」

 

アンがいる厨房は、大臣との協定で独立している。オネスト大臣に頼んでも通るかどうかは分からない。

それこそ、オネスト大臣からすれば他人を道具以下だと思っている節がある、アンが始末される可能性もある。

 

だがどうしても、また飲みたい。ずっと傍に置いて、好きな時に飲みたい

 

「・・・・・・帝国が今のままで続けば、手に入らぬか」

 

その考えに至った彼女は、研究所で休むのを止めて踵を返した。

 

 

・・・・・・護国機神シコウテイザーの元に

 

 


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