目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした 作:勇(気無い)者
「エクシア、大丈夫!?」
「あ、ああ……助かったよ、ありがとう」
マジで助かった……頭蓋骨が砕け散るかと思った。セツナ愛してる!
でも、エリア9番へ向かっている筈の彼女が何でここに?
「閃光玉の光がチラッと見えたからね。何かあったのかと思ってコッチに来たのよ」
成る程。セツナ愛してる!
「にしても、早速見つけるとは流石ねエクシア」
「ん? 何がだ?」
セツナの横に並び立ちながら聞き返す。
「強化人間よ!!強化人間!!私たちの目の前に立ってるでしょ!!」
えっ!? この痴女さんが件の強化人間なん……!?
そ、そう言えばセツナの言ってた特徴と一致するな……いきなり素っ裸の女の人が現れたからそういうの全部頭から飛んでた……。
それに、何だか思ってたのと違う……俺はてっきり、ジョジョ7部の
って事は、防具だと思ってた腕と脚のアレって……。
痴女さんの手の部分を見やる。指や腕は人間と同じぐらい細く、二の腕辺りの継ぎ目の部分━━━つまり、ジンオウガの甲殻のような部分と人間の肌の部分の中間は、まるで一体化しているかの如くに青色と肌色が入り混じっていた。
いや、まるで、ではない。あれはジンオウガの甲殻が腕と一体化しているのだ。
足も同様で、太ももの辺りが同じように一体化して混じり合っている。
これが、強化人間。
「……普通の人間とあんまり変わりないよな」
「そうね、私もそう思うわ」
セツナも同じ印象を受けたらしい。
しかし、彼女が素っ裸な事については何とも思わないのだろうか。ピュアなセツナは俺以上に慌てふためくかと思ったのだが……。
対する強化人間であるらしい痴女さんはというと、忌々しそうな表情を浮かべながら俺たちを睨んでいる。俺を最初に見た時、彼女は俺を殺す宣言していた。消さなきゃいけない標的が増えたのでイラついている、といったところか。
「意思疎通は出来るの?」
「言葉は通じるよ」
変な語尾付きだけど。
セツナは小さく「そう」と呟くと、背中のホーリーセーバーを抜き放ち━━━川に放り捨てた。
「っ!?」
この行動には、流石の俺も驚きを隠せなかった。痴女さんも同様らしい。
まさか、それで戦意は無いって意思表示のつもりなのか。いや、充分意味は伝わるだろうが、それを相手が聞き入れるかどうかはまた別の話で、
「……私たちに争う意思はないわ。話を聞いて頂戴」
「それを素直に信じろと言うのカナ。出会い頭に飛び蹴りかましてきた君が」
「そ、それは私の仲間があなたにやられそうになってたからで……!!」
セツナは飛び蹴りで俺を救出してくれたらしい。ヘッドロックで視界が遮られていたので知らなかった。
「と、兎に角よ!私たちはあなたを助けに来たの!お願いだから話を聞いて!」
「………」
痴女さんがじっとセツナを見詰めている。その様はまるで、セツナの言葉が本当かどうかを見極めるようとしているみたいだった。
……何となくだが、彼女が何故こんなにも警戒心を露わにしているのか解ってきた気がする。
恐らくだが、彼女は研究所的なところから逃げ出してきたのではなかろうか。それ故、誰にも見つからないようこの渓流でひっそりと隠れ住んでいたのだ。
……その割にバッタリ出会したが。
兎も角、彼女の存在が人にバレて噂が広まってしまえば、それが研究所とかに伝わってしまう。だからこそ、出会い頭に目撃者である俺を消しに来た、という訳か。個人的な推察に過ぎないけど。
……ふむ。ならばまず、信用されなければ話を聞いてもらう事も出来ない。
俺は軽く溜め息を吐きながら背中の『無双刃ユクモ【祀舞】』を手に取り、両方とも痴女さんの足元近くに投げた。そして、彼女とセツナの中間辺りに移動する。
痴女さんが明らかに警戒の色を示す。
「何のつもりカナ?」
「うん、私たちは君に話を聞いてもらいたいと思っているが、君からすれば私たちは素性の知れない者だ。だから、君が安心して私たちの話を聞く事の出来る措置を取ろうと思ってね」
「……それは、どういう事カナ?」
「もしも君が私たちの話を聞いて信用出来ないと思った時は、その剣で私を斬ってくれて構わない」
「んな……っ!?何言ってんのよエクシア!?」
セツナの言葉に、俺は「全く」だと思った。自分でも何言ってんだと本当に思う。
でも、痴女さんの境遇を考えると━━あくまで個人的な推察に過ぎないが━━助けてあげたいと思うし、セツナが彼女を陥れるような事をするとは思えない。
そう、これはセツナを信じているからこそだ。
以前、レベッカに「信頼とは作るものではなく、生まれるもの」だと言った事がある。だが、今の状況下ではその時間が無い。
ならばどうするか。
答えは単純、信頼してもらえるように此方が誠意を見せればいい。勿論、信用してもらえるという保証は何処にもない。もしかしたら彼女は俺たちの話など聞かぬまま、剣で俺を斬りつけるかもしれない。
それでも、俺たちの方が歩み寄らなければ話は進まないのだ。だから俺はセツナと、目の前の彼女を信じる。
……もしかしたら剣で斬られてもダメージを受けないかもしれない、という打算も……いや、前に剥ぎ取りナイフで指を切った時に痛みが走った事を考えると、期待は出来ないか。
彼女はじっと俺を見詰めている。怖いけど、目を逸らしてはいけない。彼女の信用を勝ち取る為にも。
そうして、体感時間で何分にも何十分にも感じられる沈黙の中、暫くして彼女が動いた。足元の『無双刃ユクモ【祀舞】』を2本とも拾い上げ、俺の元まで近付いてくる。
手を伸ばせば届く距離まで歩み寄ると、彼女は俺を見詰めたまま再び動かなくなった。
……怖い。今にも彼女が俺を斬りつけてくるかもしれないという恐怖。命を懸けるという行為が、これ程までに怖い事だとは思わなかった。いや、命を懸けているのだから当たり前なのだけども。勢いに任せて発言するもんじゃないな……。
額に脂汗が滲み、心臓の鼓動が早鐘を打つように早くなる。
怖い。
今、俺の命は彼女が握っていると言っても過言ではない。彼女の意思一つで俺は死ぬかもしれない。
やがて、彼女は徐に腕を上げ━━━『無双刃ユクモ【祀舞】』の持ち手を、俺の手に握らせてきた。
ど、どういう事だ……? これはどういう意味だ……?
極度の緊張の所為で思考が定まらない。混乱している俺をよそに彼女が、
「……君たちの事を信じてみたくなったカナ。ワタシも、いつまでも今のような生活が続く事を望んでいる訳ではないしネ。剣は仕舞って構わないヨ」
「……! ……ありがとう」
俺とセツナは武器を背中に戻した。とりあえず、彼女の信用を勝ち取る事が出来たという事実を実感する。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私はエクシア。彼女はセツナだ」
「ウム、ワタシはフェルト。よろしくネ」
俺たちはフェルトと握手を交わし合った。