目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした 作:勇(気無い)者
イビルジョーが更にもう一頭出現した。
……マジでどうなってんだよクソが……ッ!! イビルジョーが二頭も居たら広い様で狭い孤島の生態系なんぞあっという間に全滅すんだろうがよ……!!
そんな事はどうでもよくて、退路を絶たれた形になってしまった。どうする……!? どうすればいい……!?
頭の中が真っ白になり、思考が止まる。
その隙を突かれてしまった。
「ぐぅッ!!」
背中に強い衝撃を受け、リリー達よりも前の方、つまりエリア9番方面へ続く入り口付近まで吹き飛ばされてしまった。ジンオウガかリオレイアか解らないが、攻撃を受けたらしい。
一発一発の攻撃自体は大した事が無いものの、蓄積されるとそれなりに痛みが強くなってくる。かなりの激痛が身体を走り、その分だけ立ち上がるのが遅くなる。
何とか立ち上がろうと膝を地面に突いた時、新しく現れたイビルジョーは既に俺のすぐそばまで来ており、足を僅かに曲げて体勢を低くしていた。
あの予備動作はまさか……捕食攻撃か!?
やばい、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ!! モンスターから攻撃を何発かくらったが、一度も回復をしていない!! 今そんなものくらったら確実に御陀仏しちまう━━━
「ぐっ……!?」
またも身体に衝撃が走る。今度は誰かに突き飛ばされた様な軽いものだ。
いや。『様な』ではなく、いつの間にかすぐ近くまで移動してきたセツナに突き飛ばされたのだ。グルグルと回る視線の中、それだけが確認出来た。
そして、地面の上を2、3回転ほどしてから漸く止まり、ガバッと身体を起こした頃には、セツナの身体は身動きが出来ない様、イビルジョーに踏まれており━━━頭からかじられていた。
せ……セツナァァァッ!!?
ヤ、ヤバイ! セツナが死んでしまう!!
こ、こんな時は……そうだ! こやし玉だ!
急いでアイテムポーチに触れ、アイコンを展開。
えーと、こやし玉、こやし玉は……これだ!
右手に何かを掴んだ感覚。それを思い切りイビルジョーへと叩きつける。
ボフッと茶色い煙が吹き出し、イビルジョーは怯んでセツナを解放した。
「セツナッ!!」
急いで駆け寄……うっ、く、臭ぇ……。い、いや、そんな事を言ってる場合じゃない。ぐったりと倒れている彼女の身体を抱き起こす。表情は苦痛に歪んでいた。
……無理も無い、イビルジョーにガジガジかじられてダメージを受け続けていたのだ。派手に血を吹き出していた割には外傷が無いけれど、身体に走る痛みは相当なものだろう。
しかし、どうする。この様子だと、セツナは暫く身動きが取れない。此方へ突っ込んで来ていたリオレイアとジンオウガにこやし玉を投げつけ怯ませたが、それでも猶予は数秒程度。それでセツナが動ける様になるとは考えにくい。それだけダメージが大きいのだ。
8番方面から現れたイビルジョーだって此方に向かって来ている。それにクルペッコやロアルドロス……は、いつの間にか姿が見えない。死体も見当たらないので、多分逃げたのだろう。次見かけたら絶対殺す。
だが、今は兎に角この状況から何とか逃げ出さなければ次もクソもあったものでは無い。
「どうするんだ、ご主人!?」
「どうするの、ご主人さん!?」
魔理沙と霊夢が叫ぶ。近くに寄ってきたリリーやサニー、レベッカも不安そうな表情で指示を仰ぐ様にジッと俺を見詰めている。
……どうすれば……どうすれば全員無事に逃げ延びる事が出来る……!?
そこで問題だ!
この絶体絶命の状況をどうやって切り抜けるか!?
3択━━━ひとつだけ選びなさい。
①可愛いエクシアは突如素晴らしい逃走のアイデアがひらめく。
②誰かが助けに来てくれる
③どうしようもない。現実は非情である。
④玉砕覚悟で闘りあう。
3択の筈なのに、いつの間にか4択になっている件について。
とりあえず③と④は論外だ。諦めたらそこで試合終了だし、闘ったとしても確実に全滅する。
答え②だが、120%有り得ない。まず他に知り合いなんて居ないし、そもそも俺やセツナがどうしようもない状況なのに、他のハンターが数人現れた程度でどうにかなるとは思えない。
やはり答えは……①しかねえ様だ!
にしてもどうするか……いっそ海に飛び込んで逃げるか!? 流石に海の中までは追ってこないだろう。
「だ、駄目です……私、泳げないのです……!」
とレベッカ。
……マジか。ならどうする。考えろ、何かここから逃げる方法を……。
そうこうしてる間に、モンスター達は態勢を立て直した。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! 何か! 何でもいい! 何か逃げる方法を!
アイテムポーチに使えそうなアイテムが入っていないかを見て、
「ッ! これだ!」
本来は一人用だが、一かバチカン!
「みんな、私にもっと近寄って!」
「えっ、あ、はい!」
セツナを抱きかかえながら皆を抱き寄せる。イビルジョーやリオレイアがもうすぐ近くまで寄ってきている! 急げ!
目の前に展開されるアイコンの一つをタッチし、右手に掴んだそれを地面へ勢い良く叩きつけた。
途端、ボフッと緑色の煙が吹き出し、視界の全てを覆い尽くす。何も見えないし、何も聞こえない。でも、確かに皆が俺の身体くっついたままなのが解る。リリー、サニー、レベッカ、セツナ、4人共離れず一緒に居る。モンスターの攻撃が飛んでくる様子も無い。
徐々に煙が晴れてゆき、視界が鮮明になる。
目の前には少しばかり急勾配な短く細い斜面。その先には人1人が通れそうな程度の小さな穴蔵。すぐ真横には僅かに口を開いた青い箱。
……ベースキャンプだ。リリーとサニー、レベッカとセツナも一緒に居る。モンスターは居ない。
「はぁー……」
その場の全員が同時に安堵の溜め息を吐いた。何とか助かったみたいだな……。
俺が使ったのは当然『モドリ玉』である。本来は一人用であるモドリ玉だが、固まっていれば複数人でも同時に運んでくれる様だ。
本当に一か八かだったが、最悪の結果にならなくて良かった。俺だけここに転移されてしまうとか、移動する直前にモンスターの攻撃を受けて失敗してしまうとか、モンスターも一緒に転移してしまうとか。考え出すと色々出てくるが、兎も角俺たちは助かったのだ。
「え、エクシアさん、怖かったのですぅ〜…!」
レベッカが泣きついてきた。あんなトラウマモンスターがいきなり現れたのだから無理もない。よしよし。
リリーとサニーも互いに抱き合って少し泣いている。俺も実際に奴の姿を見た時はチビるかと思った。
っと、そんな事よりセツナに回復薬を飲ませなければ。あそこで彼女が俺を庇ってくれなかったら、今頃は全滅してたやもしれん。
アイテムポーチに触れ、目の前に並ぶアイコンの中から回復薬グレートをタッチしながら枠の外側へフリック。すると、俺の右手に緑色の液体が入ったビンが現れた。
そのままタッチすると自分で勝手に飲んだ上に訳のわからんガッツポーズをとってしまうが、フリックして外側に弾くと使わずにポーチから出す事が出来るのだ。少し前に色々実験して知ったテクニックである。
「セツナ、飲めるか?」
彼女の口元までビンを運ぶと、少しずつ飲み始めた。苦しそうだった表情が徐々に和らいでゆく。
「……っぷは!!……あー、ありがとエクシア……生き返った心地だわ……」
「そいつは良かった。もう一本飲むか?」
「ん、大丈夫。自分のを飲むから」
言って、セツナは俺と同じようにアイテムポーチから回復薬を取り出し飲み始めた。
……他人がポーチからアイテム取り出したのは初めて見たが、俺と同じように取り出すんだな……。いやまぁ、セツナだから、という可能性もあるけど。リリー達はどうなんだろうか。
とりあえず俺も回復薬を飲んでおこう。アイテムポーチから取り出した回復薬グレートをグイッと飲み干す。身体の節々にあった痛みが消えてゆく。外傷が無い代わりに痛みが蓄積されていくからな。瀕死のダメージとかくらったら動けなくなってしまうのだ。先程のセツナの様に。
「リリー達は大丈夫? 怪我は無い?」
「あ……はい、大丈夫です。私達は攻撃を受けてないので……」
あの乱戦の中、攻撃を受けなかったのかよ!? すげぇなおい!?
彼女たち曰く、魔理沙と霊夢が上手く立ち回ってくれたかららしい。流石は俺の自慢のアイルーだ。
…………。
あれ?
「そういえば、魔理沙と霊夢は!?」
辺りに姿が見えない。まさか、エリア10番に置き去りに……!?
顔からサーッと血の気が引いていくのを感じる。
ヤバイ。いくらあの2匹がアホみたいに強いとは言え、あんな乱戦の状況下で生き残れるとは思えない。
どうしよう……迎えに行った方が良いのか……!? でも、モドリ玉は使ってしまったから、もしもの時の手段が無い。いや、こやし玉で追い払いながら進めば何とか……しかし、今から行って間に合うのか……!?
頭の中で思考がグルグルと巡り、悩んでいた時だった。
突然、背後から土が掘り起こされた様な音が耳に届いた。振り返れば、そこには土の中から魔理沙と霊夢が這い出てきたところであった。
……そこは普通にアイルーなんだな……。
いや、ともあれ2匹が無事で良かった!
「うー……ご主人、土を払ってくれ……」
身体をブルブルと震わせながら魔理沙と霊夢が寄ってきた。服(ニャン天)の上からガシガシ撫でて土を落としてやる。うんうん、よしよし。活躍は見てないけど、2匹ともよく頑張ってくれた。
「でも、これからどうするんです……?」
と、リリー。尤もな疑問である。これに答えたのはセツナ。
「勿論、奴らを蹴散らすわ。私とエクシアだけなら何とかなるだろうし、何より個人的には借りを返さないと気が済まない……ッ!!」
うわぁ、ご立腹……。ガジガジかじられてたもんね。傍目にヤバイ光景だった。
っつぅか、あの乱戦だと流石に俺も足手まといにしかならないと思う。
「落ち着け、セツナ。私は反対だ」
「何よエクシア臆病風にでも吹かれたの?」
「そうじゃないが、きちんと装備を整えてからじゃないと危険だ。それに、私たちの目的はモンスターの討伐じゃないだろ?」
「それはそうだけど……でもアイツら片付けなきゃさっきの二の舞になるわよ」
セツナの言うとおりだが、釣りポイント以外でも魚が釣れると解っているのだから無理に危険を冒す必要は無い。水のある所でなら釣りは出来るのだ。
例えばそう、このベースキャンプでも……ん……?
「あれは……?」
ふと、見下ろした崖下に魚が跳ねているのが見えた。一カ所に沢山集まっているらしく、今もバチャバチャ魚たちが跳ね続けている。
「あ、あれ黄金魚じゃないですか?」
隣で崖下を覗きながらリリーが言う。
って、なんですと? 今、黄金魚と言ったのか?
……確かに、よく見ると金色に光っている様な気がする。黄金魚っぽい。
顔を上げ、それぞれ互いの顔を見合わせる。
それから俺たちは崖下に降りて釣りを始め、ものの数分で残る10匹の黄金魚を釣り上げた。
そして納品を行い、リリー達とは別々で帰路につき、無事にクエストをクリアしたのであった。
その後。
「エクシア、あいつぶっ狩りに行くから手伝って」
「まぁ餅つけ。あと数日したらイビルジョーが他のモンスターを全めt……捕食するだろうからそれまで待て」
「他のモンスターなんて関係ないわよアンタやっぱり臆病風に吹かれてんじゃないの?」
当たり前だボケ。イビルジョー2匹だけでもアッガイなのに他のモンスターがもれなくついてくるお得なセットなんぞ御免被る。
「借りを返すなら一対一の方が良かろ? それとも、また頭からガジガジかじられたいのか?」
「……、……仕方ないわね。エクシアがそこまで言うなら待ってあげるわよ」
かじられた時の事を思い出したのか、セツナの顔色が少しだけ青くなった様に見えた。