目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした   作:勇(気無い)者

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今回、残酷な描写に当たるんじゃないかなぁ?という表現が含まれますので、残酷な描写の警告タグを追加しました。閲覧する際はご注意下さい。一応。


セツナの悪夢3。

 それから数日が経過し、ギルドマネージャーのお姉さんがようやく帰ってきた。集会所の職員達(主に女性)は大いに喜んだ。これで漸くあのクソ野郎が本部へ帰ってくれる、と。

 そして、集会所で宴が開かれる事になった。表向きにはクソ野郎の送別会という名目だが、皆はギルドマネージャーのお姉さんが帰ってきた事を祝ってると思う。少なくとも私はそう。

 宴には色々な人が参加している。ギルドの職員や訓練所の教官、村の一般人など。それぞれ思い思いに料理を食べ、酒をかっくらっている。みんな楽しそうだ。

 因みに、私は隅の方に座って酒をチビチビ飲んでる。大勢で騒ぐのは性に合わない。みんなだって、私なんかと一緒に飲みたいなんて思わないだろうし。

 

「セツナちゃん、隣いいかしら?」

 

 ふと、ギルドマネージャーのお姉さんが声を掛けてきた。手には発泡酒の入ったジョッキを持っている。

 とりあえずコクンと頷くと、お姉さんは隣に座った。

 

「何だか、大変だったみたいね」

「ん?何が?」

「あの人の事。みんなから色々聞いたのよ〜。ごめんなさいね」

 

 ああ、あの無能のクズ野郎の事か。確かに大変だった。殴らない様に必死で堪えるのが。

 

「別にお姉さんが謝る事じゃないでしょ。ギルド本部が無能な人員を送ってきたのが悪いのよ」

「まぁ、そうなんだけど〜」

 

 ギルドの悪口を言った事について言及しないお姉さん。それでいいのか。ギルドマネージャーとして。

 お姉さんは続けて、

 

「セツナちゃん、私との約束守ってあの人に乱暴しなかったんでしょ〜? いつものセツナちゃんなら、ぶん殴ってると思うしぃ〜」

 

 ……見透かされてる。まぁ、当たり前か。それなりに付き合い長いし。

 そして、突然お姉さんが私の身体を抱き寄せ、

 

「ありがとうね、セツナちゃん」

「……、……べ、べべ、別に大した事じゃないわよ…」

「うふふ、よしよし」

「………」

 

 私はそっと、お姉さんに抱きついた。頭を撫でてくれるお姉さんの手が温かくて、心地良くて……ずっとずっと、こうしていたい…。

 何だか眠たくなってきたので、そのままお姉さんに身体を預けて目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

「……んっ…」

 

 次に目を覚ました時、私は見知らぬ地下室に居た。石のブロックを敷き詰めた様な床と壁。どこかジメジメしている。

 ……ここは、どこ…?

 

 ━━━ガシャリ。

 

「……ッ!!」

 

 起き上がろうとして、両腕が上に伸びた状態で拘束されている事に気付いた。手首辺りを鉄の腕輪でガッチリと固定され、鎖に繋がれている。足も同様だった。身動きが全くとれない状態で、ベッドに転がされている。

 更に、服装もキリンS一式ではなく、インナー姿に変わっていた。

 何…これ…。何なの、訳わかんない!!何で…何で私こんな事に…!?

 

「やぁ、目が覚めてしまったのかい」

「…ッ!?」

 

 左の方に視線を移すと、長方形のテーブルの前に人が立っていた。

 声と体格から男だと解る。顔と頭は黒いマスクで覆われており、服装は科学者が着るような白衣姿。

 何…こいつ…誰…!?声は聞いた覚えがあるような…。

 

「結構な量の睡眠薬を君のお酒に混入させておいたんだけどなぁ」

「…睡眠薬…!?」

 

 ……そういえば、集会所でお姉さんにもたれ掛かった後の記憶が無い…。睡眠薬を仕込んだって事は、私はそのまま寝ちゃったって事…!?

 

 でも……何でこんな事に…!?

 いや、そんな事より、

 

「私をどうするつもりよ!?」

「………」

 

 男は無言で此方に寄ってきた。手には黄色い液体が入った注射器を持っている。

 何あれ…どうする気よ…。

 男が徐に口を開く。

 

「ハンターとは、実に興味深い生き物だ。リオレウスやティガレックスといった飛竜種、クシャルダオラやオオナズチといった古龍種、アカムトルムやウカムルバスといった超大型種。これらの強い力を持ったモンスターをたったの数人で仕留めてしまう。興味深い。実に興味深い。そこで私は思ったのだ。もしもハンターがリオレウスやティガレックスなどといったモンスターの力を手に入れたら、どうなるのだろうか、とね」

「……何が言いたいのよ!?」

「…この注射器には、ティガレックスの遺伝因子が含まれている。これを打ち込まれた者の皮膚は硬質化し、爪や牙が伸びるだろう」

 

 …何、言ってんの…こいつ…。

 

「これを今から、君に打ち込む」

「………っ!?」

「殆どのハンターは拒否反応を起こして死んでしまったけれど、君ならきっと大丈夫。何たって、アカムトルムやウカムルバスをたった一人で下す程の強さを持った個体なんだから」

「…く…くるな…!」

「さぁ、これを今から君の首筋に打ち込む。そうする事によって、この遺伝因子は身体の隅々まで行き渡り、君を究極の生物へと変貌させるだろう!」

「来るな!!来るな!!来るな!!来るな来るな来るな来るな━━━ぐぅっ!」

 

 男が私の首を絞める。

 

「暴れるんじゃあないよ。手元が狂ってしまうだろう?」

 

 いやっ…誰か…助けて…助けて!助けてッ!!助けてッ!!!誰かッ!!!!!助けてッ!!!!!

 

「セツナちゃん!!」

 

 バンッ、と開かれたドアからギルドマネージャーのお姉さんが入ってきた。そのまま白衣の男に体当たりをかまし、男は壁に叩きつけられ手に持っていた注射器もすっ飛んでいった。

 

「お姉さん…!!

「今、助けてあげるからね!」

 

 そう言いながら私の手枷を外そうとして、

 

「僕のサンプルに触るな!!」

「きゃっ!」

 

 男がお姉さんを突き飛ばした。そのまま二人は取っ組み合いに(もつ)れ込む。

 お姉さんは竜人族だけど、特別力が強い訳では無い。性別的に考えてお姉さんが不利なのは明白だ。どうにかしなくちゃいけない。兎に角滅茶苦茶に暴れる。

 

「このっ!!この!!千切れろ!!千切れろッ!!」

 

 ━━━バキン。

 思い切り引っ張っていたら、手の拘束が解けた。お姉さんが枷を外そうとした時に緩んだのかもしれない。

 次に足の枷を外して、テーブルの上にあったナイフを手に取る。透かさず男の背後からナイフを首辺りに突き立てた。

 

「がふ…っ…ぁ…」

 

 鮮血が飛び散り、口からも血反吐を吐き出す。それでも私は手を止めなかった。男の首周辺を何度も突き刺し、留めと言わんばかりに背中へとナイフを突き立てた。男の身体はゆっくりと倒れ、そのまま動かなくなった。

 

「お姉さん、大丈夫!?」

「……っ!」

 

 手を差し伸べたが━━━お姉さんは私の手をとろうとはしなかった。まるで、恐ろしいものを見たかの様な目で私を見て、怯えた様な表情を浮かべている。

 ……それが何を意味しているかを理解した私は、差し伸べた手をそっと引っ込めた…。

 

 

 

 

 

 

 それから更に数日。

 白衣の男は、ギルド本部から派遣されて村へやってきたチースカと同一人物である事が解った。そして、お姉さんが今回の件を包み隠さずギルド本部へ報告したのだけど、その対応は酷いものだった。

 まず、ギルドは今回の件を()()()()事にした。権力に物を言わせて揉み消したのだ。

 そして、事件に関わった者達全員に箝口令(かんこうれい)をしき、私を『ギルドの職員を殺した犯罪者』に仕立て上げた。

 こうなってしまっては、もうお手上げ状態だ。お姉さんは箝口令の所為で今回の件を誰にも話す事が出来ないし、人殺しである私の話になど誰が耳を傾けるというのか。

 それ以前に、私も事件の事を誰かに話す訳にはいかない。そんな事をすれば話は(たちま)ち村中に広がり、お姉さんが話したのでは、という嫌疑が掛かる可能性が高い。

 それに、事件を知った人間に何かしらの()()をギルドが行う可能性もある。迂闊な行動は避けるべきだ。

 

 だから、村に新しいハンターがやって来た時に、私は所持していた装備品の殆どをソイツに押し付けて、村を出た。

 お姉さんは私を引き留めてくれたけど、村人達の私への反応を考えれば、村に残るという選択肢は有り得ない。

 それに、お姉さんだって私と話す時の反応が前と少し違う。どこか余所余所しい。傍目には余り変わらない様に見えるけど、付き合いの長い私にはわかる。明らかに無理をしてる。

 

 だから私は一人で村を出た。

 どこか遠くへ行こう。

 ここではない、どこか遠くへ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。

 

「……………ああ……そっか…」

 

 徐々に意識が覚醒し、何があったのかを思い出す。

 ドスファンゴの討伐を終えて集会所に戻ったけど、余りの疲労に意識を持っていかれそうだった。それでも気合いで帰ろうとしていたら、エクシアが家に泊まらないかと誘ってきたので、彼女の家に泊まる事にしたんだ。

 

「……嫌な夢…」

 

 ぽつりと呟き、左隣に視線を移す。エクシアが安らかな寝息をたてていた。防具は外しており、インナー姿。私も同様。

 

「………」

 

 ユクモ村始まって以来の最強のハンターと言われるだけあって、彼女の腕は私に匹敵するレベルだった。あれだけ強ければ、確かにアカムトルムやウカムルバスを討伐するのは容易いだろう。

 でも、逆に彼女と肩を並べられるハンターはそうそう居ない。仲間なんて居ても、足を引っ張られるだけだ。

 矢張り、彼女も私と同じように一人で闘っているのか。それとも、仲間と共に闘っているのか。例えば、この間一緒に居たジンオウ装備の娘とナルガ装備の娘とか。

 ………。

 私だったら……私だったら、彼女と一緒に……。

 ………くだらない事を考えるのはやめよう。人を殺した私が、今更仲間なんて……。

 

「………にしても、よく眠ってるわね…」

 

 顔を近付け、頬を指で軽く突ついてみる。プニプニとした柔らかい感触。起きる気配は無い。

 唇に軽く触れてみる。とても柔らかい。それでも起きる気配は無い。

 鼻先を指で撫でる。と、彼女が「ううん…」と唸って、此方に寝返りをうち━━━

 

「━━━ッ!?!?」

 

 ━━━私の唇と、彼女の唇が触れ合った。

 ……そっと、顔を離す。

 

 …。

 ……。

 ………。

 いいっ、いっいい今い今、キッ、キキキ、キキ、キス……ッ!!?

 

 心臓は早鐘を鳴らす様に高鳴り、どこか寝ぼけていた思考は完全に覚醒する。

 

 な、なな何で唇と唇が触れただけでこんなに動揺するのよ…!?

 そ、そうよ、ただ唇が触れ合っただけじゃないの!!

 そんなので動揺する必要はないのよ!!

 落ち着け私。落ち着け。

 ………。

 だ、だめ!!全然落ち着かない!!心臓が破裂しそう!!なな、何でこんなにも落ち着かないの…!?

 

 エクシアの顔に視線を戻すと、彼女は相変わらず幸せそうな寝顔を浮かべている。

 ……人がこんなにも動揺してるってのに、この女は……!!

 イラッときた私は、彼女の鼻を摘まんでやるのだった。

 


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