目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした 作:勇(気無い)者
セツナがポッケ村へやって来たばかりの頃は、彼女自身の性格が災いして村人達と上手く付き合う事が出来ないでいた。
加工屋のお兄さんはセツナの事がかなり苦手の様で、彼女に会う度にビクビクとしていたし、道具屋のおばさんとは顔を合わせる度に口喧嘩していた。
それでも彼女がハンターを続けていられたのは、村長やギルドマネージャーがセツナを庇ってくれたからというのが大きかった。それに、セツナの前にポッケ村のハンターを務めていたオッサンや、訓練所の教官も彼女の腕を高く評価していた。セツナの才能を見抜いていたのだ。やがて凄腕のハンターとして大成するであろう、と。
彼等の判断に間違いは無く、セツナは村長からのクエストや、ギルドからのクエストを次々とこなしていった。その過程で、村人達は徐々にセツナの事を理解し、彼女に心を開いていったのだ。
また、村の子供が外へ行ってしまい、半日ばかり行方知れずとなった事もあったが、これをセツナが無事に救出した。彼女の評価は鰻登りとなり、村人達はセツナを村の一員として暖かく迎え入れる様になった。
━━━ああ、この娘はツンデレなんだな。
これは村人達の共通認識である。
それからもセツナはクエストをこなし続けた。
砦に現れたシェンガオレンやラオシャンロン等をたった一人で退け、村を脅かしかねない存在であったアカムトルムやウカムルバスが現れた時にも、彼女はたった一人でこれを駆逐した。
その活躍ぶりから、いつしかセツナは『双刃剣姫』と呼ばれる様になり、村の英雄として皆に親しまれていた。
それから一年が過ぎた頃の事。
相変わらずクエストを完璧にこなしていた彼女に、転機が訪れる。
★
今日もクエストをこなそうと、集会所へやってきた。この頃の私の装備は、キリンS一式。無駄にキリンの素材が沢山あったのと、見た目が可愛かったという理由から作った。あと、動き易くて良い。双剣は小回りが利く防具が楽だ。雪山へ行った時は寒くてたまらないけど。
まぁそんな事はどうでもよくて、どの依頼をこなそうかとクエストボードを見詰めていた私の元へ、ギルドマネージャーのお姉さんがやってきた。
「セツナちゃん、ちょっといいかしら〜?」
私の事を『ちゃん』付けで呼ぶのは彼女と道具屋のおばさんだけである。でも、私はそれが不思議と嫌ではなかった。他の奴が気安く同じ呼び方してきたら、即顔面パンチをくれてやるけど。
「何?何か用?」
口を突いて出るのは、素っ気ない言葉。それでもギルドマネージャーは嫌な顔一つせず、笑顔で対応してくれる。私はこの人の事が好きだった。
あ、人としてって意味ね。他意は無い。
彼女は「う〜んとね〜」と、のんびりとした口調で話し始める。
「実は私ね、ちょっとギルドのお仕事でひと月程ドンドルマまで行かなきゃいけない事になったの〜」
「そうなんだ。でもひと月したら帰ってくるんでしょ?」
「勿論よ〜。ただね〜、その間はギルドから派遣されるお偉いさんが村にやって来るらしいのよ〜」
「あー、つまり粗相のないようにしろって事ね」
「その通りよ〜。うふふ、セツナちゃんは賢いわね〜」
そう言いながら私の頭を撫でてくる。子供扱いされてる様で癪な筈なんだけど、払いのける気にはならなかった。だって、こんなにも暖かくて心地いいのだもの。
「じゃあ、私は明日からいないからよろしくねぇ〜」
「ええ解ったわ」
話し終えると、ギルドマネージャーはカウンターの奥へと消えていった。
再びクエストボードへ向き直った私は、適当な依頼書を剥がしてカウンターへ持って行き、受付嬢に見せる。
「『アメザリ釣り大会!』、このクエストは黄金魚の納品ですね。確かに受託しました」
うわぁ面倒くさいのを持ってきちゃった。でも、今更キャンセルするなんて選択肢は無い。そんなのは私のプライドが許さない。
「それでは、お1人での出発となります。クエストの達成をお祈りしています」
「ええ」
受付嬢のマニュアル言葉を背に受けながら、私はクエスト出発口へと足を運んだ。
★
「つ…疲れた…」
クエストを終えて帰還し、集会所へ戻ってきて一人呟く。
何で黄金魚を8匹も納品しなきゃならないのよ…。しかも、砂漠だっていうからクーラードリンクを持って行ったのに洞窟内は滅茶苦茶寒いし、何かガノトトスがいきなり襲い掛かってくるし、そのガノトトスは一向に水から上がってこないまま口から水吐いてばっかりだし…。
結局、クエストを達成するのに2日も掛かってしまった…。釣りは苦手なのだ。というか、ジッと待っているのが苦手だ。もう、早く家に帰って眠りたい…。
「貴女がハンターのセツナさんですね」
ふと、背後からの声。振り返れば、そこには20歳ぐらいの男が立っていた。
茶髪のショートカットで、趣味の悪いサングラスをかけている。服装は白のスーツ姿。総合的に見て、色々と『残念』な男だった。
何こいつ、誰? 人の事をジロジロ見て気色悪いったらない。
「誰?」
「これは失礼、貴女の美しさに見とれて、つい名乗り遅れてしまいました。わたくしは、ギルドマネージャーが不在の間、ここを預かる事になったチースカと申します。以後、お見知り置きを」
名前も残念だった。何て事を思っていたら、チースカとかいう男が私の右手を取って、手の甲に口付けをした。
「━━━。」
全身にゾワッと気色の悪い感覚が走る。多分、顔が引き攣っているだろう。鳥肌も立っている。吐き気がする。頭痛もだ。いや、頭痛は流石に気のせいだわ。
兎に角、気色が悪い事この上ない。思い切り手を引いて振りほどいた。
「では、わたくしは少々仕事がありますので、名残惜しいですがこれにて失礼致します」
去り際に投げキッスを放ってきたので、横にズレて躱した。
「………」
その場に呆然と立ち尽くす。
何、あの男……。
何なのアイツ意味不明なんだけど!!ギルドマネージャーのお姉さんの代わりがあのクソミソカスッタレの変態意味不明ボケキザバカ生物な訳!?有り得ないんだけど!?意味不明なんだけど!?何でよりにもよってあんなのが来る訳!?マジで最悪なんだけど気色悪い気色悪い気色悪いったら気色悪い!!もうちょっとマシな奴を送って来なさいってのよ!!っていうかそもそもギルドマネージャーのお姉さんをわざわざ呼ぶんじゃないわよ!!ドンドルマとか滅茶苦茶遠いじゃないの!!他の奴にやらせればいいじゃないのよ!!バカバカバカバカバカギルド本部のアホアホアホアホアホ!!
「……はぁーーー…」
内心で怒りを大きく爆発させるも、外には出さない。お姉さんにも粗相はするなと言われているからだ。私って偉い。
深い、不快な溜め息を吐き出した後、カウンターへと向かった。
深い、不快な溜め息……ぷぷっ。
「お帰りなさい、セツナさん。……どうしたんです?」
「なっ、何がよ!?」
「いえ、何かニヤついていらしたので……」
やば。顔に出ちゃった。偶々出てきた渾身のギャグが面白くてつい。
「なな、何でもないわよ!!それより報酬金!!」
「あっ、はい。では、此方になります」
えーっと……確かに3000z丁度あるわね。前に一度だけ、報酬金が違った時があったからね。しっかり確認しておかないと。
「ん、ありがと」
「またお願いしますねー」
受付嬢の言葉を背に受けて集会所を後にした私はすぐに家へと帰宅し、そのままベッドに転がって眠りについたのだった。
教官「玉置・ミラアンセス・輝美だ」
モンハン小話はストライキ編と加工屋編1・2が特に好きです。