目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした   作:勇(気無い)者

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ドスファンゴ狩り祭りの名は本当に伊達ではなかった。

 ドスファンゴの突進を紙一重で躱しながら、王牙双刃【土雷】でその身体を斬り裂く。すると、ドスファンゴは糸が切れた人形の様に崩れ落ち、ゴロゴロと数度転がった後に倒れて動かなくなった。

 

「よし、これで20頭目だ」

 

 そう、これで俺が狩ったドスファンゴは20頭にも上る。俺一人で20頭だ。セツナや勇儀、妖夢の狩った分を含めれば、更にプラス30頭は狩っただろう。

 合計にして50を超える。ゲーム時代の事を考えれば、明らかに異常な数である。異常発生にも程があるだろ。

 それでいながらドスファンゴはまだまだやって来る。どんどんやって来る。どこからそんなに現れるというのか。

 何にしても、死体が邪魔だ。エリア5番がいくら広いとはいえ、50もの死骸があれば流石に邪魔になってくる。ゲーム時代と違って死体をすり抜ける訳ではないので、何度も足を引っかけては転んでいる。そのくせドスファンゴの突進に全く揺らぎはない。厄介にも程がある。

 

「セツナ、場所を変えよう! 死体が邪魔になってきた!」

「そうね!!何なら二手に別れましょう!!その方が効率的よ!!」

「解った! 私は西へ回ってドスファンゴを討伐しながら北のエリアを目指す!」

「じゃあ私は東からね!!どっちが多く討伐出来るか勝負よ!!」

 

 それだけ言い残し、セツナはエリア4番へと駆けて行った。元気なやっちゃな。

 

「よし、勇儀! 妖夢! ついて来い!」

「了解、大将!」

「承知しました!」

 

 勇儀と妖夢を引き連れ、エリア6番の浅い川が流れる地帯へと向かう。4頭のドスファンゴも後をついて来る。奴らの方が足は速いので気を抜けない。

 幸いにも、エリア5番とエリア6番の道程は短いので助かった。すぐにエリア6番へと辿り着く。

 さて、浅いとは言え川があるのは動き辛い。この世界はゲームと違って現実なのだ。水の影響は受けてしまう。

 とはいえ、ドスファンゴの動きが間抜けにもゲーム時代と全く一緒なので、例え川が流れていようが大丈夫だ、問題ない。

 ドスファンゴは4頭居る。いや、今脇の林から新しいのが出てきて5頭になった。

 早速突進してきたドスファンゴに一太刀浴びせながら横へ飛び、攻撃を回避する。うん、余裕だわ。所詮はドスファンゴだな。これなら一人でも何とかなるだろう。

 

「勇儀、妖夢! お前たちはそこの滝の中の洞窟から飛竜の巣を経由して西へ向かってくれ! それから北の大きな川が流れるエリアで落ち合おう! 道中でドスファンゴを見つけたら可能な限り駆逐する事! ただし無茶はするな! いいな!」

「あいよ、任せな大将!」

「承知致しました」

 

 2匹の姿はすぐに滝の裏側にある洞窟の中へと消えていった。正直、あの2匹のコースが一番遠回りではあるが、流石にエリア8の飛竜の巣にドスファンゴは居ないだろう。

 ……、……雌火竜も居ない、よな…? 多分居ない筈。居ない事を願う。

 まぁ俺の狙いは、その先にあるエリア9番に居るであろうドスファンゴの駆除だ。勇儀はハンター専用である筈のハンマーを勝手に装備して振り回す程の豪傑だ。ベリオロスも狩ったらしいし、ドスファンゴ程度は苦にならないだろう。

 だが、数が異常に多い。流石に1匹だけでは心配なので、妖夢をお供に付けた。2匹居れば大丈夫だろう。

 さて、そんな事よりもこいつらの相手をしなきゃだな。幾らドスファンゴの体力が低いとはいえ、5頭も居れば回避の手間が増えて攻撃の機会が減る。地味に時間が掛かるんだよなぁ…。

 ……あっ。画期的な事を思いついた。出来るか解らんが、やってみよう。

 突進してきたドスファンゴを躱し、その個体が立ち止まったのを見計らって身体の上に飛び乗り、跨がった。そこから真田幸村よろしく『烈火』の如くに突きを繰り出しまくる。刺す度に青い雷が走り、鮮血が飛び散る。

 明らかに致死量の筈なのに死なない。傷にしても、血が盛大に飛び散る割には1秒もしない内に塞がる。この世界のモンスターは究極生命体か何かか。

 10秒程して、ドスファンゴは息絶えた。ゲームと同じ様にいきなりゴロッと倒れるので、俺の身体は投げ出される。ぶへぇ、川の水が鼻に入った…!

 

「……危ねっ!」

 

 慌てて前転移動。俺の元居た場所をドスファンゴが通過していった。あ、危なかった…。

 にしても、さっきの方法は使えるぜ。他のドスファンゴの突進が当たらない上に、一方的に攻撃する事が出来る。画期的な戦闘方法だ。俺は遂に、このリアルモンスターハンター攻略の第一歩を踏み出した!

 とまぁ、それは良いんだけど。突きのラッシュを行ったというのに、ドスファンゴが生き絶えるまでに10秒も掛かってしまった。もしかしたら……いや、もしかしなくても切れ味レベルが下がっているんだ。20頭も討伐してんだから当たり前か。ゲージとかがある訳じゃないから、切れ味が下がっても全く気付かない。

 砥石で……、……この状況でどうやって研ぐんだ…? ドスファンゴ1頭ならどうとでもなる。だが、今この場には4頭のドスファンゴが居るのだ。4頭も、である。

 ……無理だろ。どないせえっちゅうねん。くっそ、こんな事なら弓にすれば良かったか…! 弓が欲しい! 弓でやりたい!

 ……無い物ねだりをしても仕方がない。ゲームなら『砥石使用高速化』のスキルでも無ければどう考えても無理だが、これは現実である。やり様は幾らでもある筈さァー!

 

 プラン1、ドスファンゴに跨がって研ぐ。

 ……無理だな。滅茶苦茶暴れるから、研ぐのはかなり難しい。却下。

 プラン2、逃げ回ってドスファンゴを撒く。

 ……これも多分無理だな。こいつら執拗に追い掛けてくるから撒くのは難しいし、逃げた先で別の個体と遭遇、なんて事もあり得る。却下。

 プラン3、どうしようもない。現実は非情である。

 馬鹿か。諦めてどうするよポルナレフ。その内、切れ味が赤になって討伐が面倒になるだろうがよ。諦めんなよ! もっと熱くなれよ!

 …こうなったら、タイミングを見てダメージ覚悟で使うしかない! 研げればそれで良かろうなのだァー!

 ふと、絶好のチャンス到来。4頭同時に突進攻撃を繰り出してきた。それを難なく躱し、透かさずアイテムポーチに触れて目の前に並ぶアイコンから砥石を選択。すると、右手に何かを掴んだ感覚。目の前まで持ってくると、それは黒い長方形の石だった。まごうごとなき砥石だ。

 ………。

 ……いや、使ってくれないのかよ!? 回復薬とか選択したら、身体が勝手に動いて飲んでたじゃん!? 何で砥石は使ってくれないんだよ!? 自分で使えってかクソッタレー!

 何て考えてる間に、ドスファンゴが再び突進してきた。くっそ、折角のチャンスが……!

 ええい、こうなったら走りながら研いでやる! 双剣の一本を口に加え、もう一本を砥石で研ぐ。

 や、やりづれぇ……。ガタガタ揺れるからやり辛いよ…。面倒くさいよ…。

 それでも頑張って武器を研ぐ。ってか武器の形状的にも面倒くさい。ジンオウガの甲殻みたいにギザギザしてるんだもんよ…。

 先端から根元まで、細かく丁寧に研いでいく。そうして1分ぐらい経っただろうか。砥石がいきなりボロッと崩れて消滅した。

 

「……ッ!?」

 

 な、何で…!? 何が起こった!? まだ片方しか研いでないんだけど!?

 ……何か頭の中で『砥石が!』みたいなメッセージウィンドウを思い浮かべてしまった。モンスターの卵を落とした時の『卵が!』みたいな。若しくはブーメラン投げてどっかに飛んでった時の『ブーメランが!』みたいな。

 よく解らんが仕方ない。もう一個砥石を取り出し、剣を入れ変えて走りながら研ぐ。同じ様に暫く研いでいたら、またしても崩れ落ちて消滅した。恐いわ。

 だが、これで切れ味は最大まで回復した筈だ! 準備万端だ!

 さぁ来━━━

 

「ぐふっ!」

 

 背後からの不意打ち。数メートル程吹き飛ばされる。

 くそ、また新手かよ。5頭に戻っちまった!

 ……いや、もう1頭新しい奴が来てる! 6頭になっちまった!

 マジで何頭居るんだよ!? どんだけ繁殖してんだ!

 

「……上等だぜ…!」

 

 何頭居ようが関係ねぇ! 全部纏めて相手してやらぁ!

 かかってこいやオラァァァァァッ!

 

 俺はドスファンゴの群れに向かって駆け出すのであった。

 


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