偶然、オーナーが先輩にキスしようとした所を見てしまったいろは。
先輩の疑惑は解消されるのか?
「お姉ちゃん、もう起きないと会社遅刻しちゃうよ?」
「いいの…今日は休むから。」
「大丈夫?昨日から元気なかったし何かあったの?」
「ほのかは気にしなくてもいいから…」
「気になるよ、昨日まであんなに楽しそうににアクセスクールに通って昔の先輩とも
会えたって話してくれたじゃない。もしかして先輩と喧嘩したの?
「………」
「……元気出して、いつでも相談乗るから言ってね。」
「ありがと…」
会社も休んじゃった。
夕べの事が頭の中に余儀って眠れなかった…
先輩とオーナーがまさか…いや先輩に限って絶対そんな事がはない!って思いたいけど…
気持ち整理が出来ないよ…信じたいのに…あんなの見たら。でも先輩は嫌がってたし
オーナーがイタズラしたのかも。だけど普通あんな事やる?
パジャマに自室で丸1日籠城を決め込んで布団の中、塞ぎ込んでいたら
スマホに着信音が。
結衣先輩からだ。
「今日はスクールも来なかったしどうしたの?お休みの連絡 も無かったし
ヒッキーも心配してたよ。具合でもわるいの?」
「心配をかけてすみません、大丈夫ですから気にしないで下さい。」
結衣先輩らしいや心配してメールをくれたんだ。
「ヒッキーと何かあったんだ?」
「べっ、別にそんな事はないですよ。」
先輩は鋭すぎる…
「図星でしょ?」
返信に困ってると。
「ねっ、明日夕方、お茶でもしない?」
「でも…」
「少し話すと楽になるかも。」
「結衣先輩に甘えていいですか?」
「うん、任しといて!」
「はい!ありがとうございます、明日よろしくお願いします。」
・・・・・
「ごめんなさい、結衣先輩…忙しいのに」
「ううん、大丈夫だよ、いろはちゃん。それより悩み事?」
夕方、何時もの喫茶店で二人、珈琲を飲みながら遠慮がちに話してみた。
「あの…」
「ん?」
「あたし見ちゃったんです…」
「なっ、何をみっ、見たの?いっ…いろはちゃん?」
「昨日、お店のオーナーが売上の報告と店舗視察があるから先輩に早目に
帰るよう促されたんです…」
「うん…」
「それですぐ帰ったんですが、うっかりポーチを忘れたのを思い出し、
まだ間に合うと思って直ぐに戻ったんです。そこどのお店で先輩とお店のオーナーが…」
結衣先輩は緊張感丸出しでテーブルから少し乗り出しあたしの次の言葉を待った。
「で、何があったのいろはちゃん!」
「オーナーが先輩の頬にキスしようとしたんです…」
結衣先輩の喉が『ゴクリ』となった。
「そしたら…」
「そしたらって…え~!ちょっと、いろはちゃん!」
「落ち着いて、結衣先輩。そしたら、される直前に先輩が避けたんです。」
「……そっ、そう。でも何でオーナーがって、あれ?ヒッキーのお店のオーナーって、
確か…ユキノンのお姉さん、陽乃さんじゃあ…え~!どうして?」
「結衣先輩、お店のオーナーって誰かを知ってたんですか?」
「あ~ヒッキーから聞いてたしお店で2回程偶然会った事があるだけで最近は会ってないよ。
何でもヒッキーがこの仕事に就く時世話をしたのかな、『頭が上がらないって言ってた。」
「先輩に避けられたら甘えるような仕草で拗ねてるんです…」
話を聞いてるうちに落ち着いて来たのか結衣先輩はやや真面目な顔で話始めた。
「あはっ、大丈夫だよ、いろはちゃん。ヒッキーを信じてあげてよ。流石にそれは陽乃さんの
イタズラが過ぎるけどね。」
「えっと、あたしもビックリしてそこまでしか見てないけど…でも先輩が変な事すると
思いたくありません。」
「うん!ヒッキーはいつも通りだったし昨日も『今日は一色の奴来なかったな、
由比ヶ浜のとこに連絡なかったか?』って心配してた位なんだから!」
「えっ?先輩があたしの事心配してたんですか?」
「あはっ、いろはちゃん、嘘だと思うなら自分で確かめてね!大丈夫だよ」
「えぇ、まぁ…」
「ちゃんとヒッキーに聞いた方がスッキリするし、いろはちゃんらしいよ。」
「はい!ありがとうございます!」
「うん!」
・・・・・
昨日、結衣先輩に『頑張れ~』って応援してもらって元気出たし夕べ、ほのかにも
『元気になったね』って言われちゃった。行き難いけど、先輩に聞かなきゃあいけないよね。
「こんばんは…」
ちりぃ~んと何時ものチャイムがなってドアを明けてお店に入った。
「いらっしゃい…おう、一色か。昨日は用事だったか。」
何時もの、無愛想な顔だけど先輩が今心配してくれたのかな?
「あたしがお休みしたから心配してくれたのですか?」
「そりゃ…まぁ、なんだ…いつも顔出してる奴が来なかったらな…多少はな。」
「あたし…あたし、おととい、見ちゃったんです。」
「あっ?何を見たんだ?お化けか?」
「先輩がオーナーとイチャついてるの…」
「お前、帰ったんじゃなかったのか。」
「ポーチの忘れ物を取りに直ぐ戻ったんですがオーナーが既に来てて…それで、
オーナーが先輩にキスしようとして先輩が嫌がって逃げてるの。オーナーは拗ねて
先輩に甘えるような感じでした。」
「………だから早く帰れと言ったんだ。嫌な物を見せちまう。」
「先輩は…先輩はオーナーの事が好きなんですか?付き合ってるんですか?!」
「……一色、アホな事言ってないで、さっさと支度しろよ昨日のスクールでやった所見てやるから。」
「はぐらかさないで下さい!ちゃんと言って下さい先輩!」
「お前、見てんだろお化けを…。」
「えっ?」
「だから悪魔が来るから帰れって。あの人はな、ああやって人をおちょくったり
チョッカイ掛けたりが大好きな人なんだよ。だから会わせたくなかったんだよ。」
「でも…キスしようとしてたし先輩の事好きなんじゃ…」
「あの人が俺の事をどう思ってるかは知らないが…昔からオモチャくらいにしか
思ってないと思うぞ。」
「人をオモチャにしたりとか…面白がってキス出来るなんてどうかしてます!
先輩は許せるんですか!」
「あの人は不真面目な時はあんなだが経営者としては優秀だ…生粋の実力主義者だし妥協を
しない、俺だって何時まで雇ってもらえるか分からん。そんな奴に惚れると思うか?
昨日も再三の警告だ…造形の工夫、要するに手を抜きながら品質を落とすな大量生産して
高く売れとな。最近じゃあ、悪魔じゃなくて守銭奴だなあれは。」
「じゃあ何でそんな守銭奴さんの所で奴隷みたいに働いてるんですか?」
「昔ながら世話になったしな…まっ、今の仕事に拾ってくれた恩があるからな、それだけだ…」
「今後、オーナーが視察に来るときは同席しますから。」
「何言ってんの一色?」
「オーナーが先輩にイタズラされない様に監視です。」
「何でそうなんのよ!何にもないから絶対に!」
「本当ですか?絶対ですか?」
「あのオーナーだぞ…考えただけでも恐ろしくて眠れなくなるぞ、震えが止まらない。」
「本当かなぁ~?オーナー、メチャ美人だし…」
「バッカ、お前あんなんに手を出してみろ雪ノ下や由比ヶ浜に殺される。」
「あと、もう二人にも確実に殺されますよ先輩♪」
「あっ、あのな一色?もうそろそろ…講習のところやらないか?」
「上手く誤魔化そうとしてますね?せ~んぱい!でも、サービスで乗ってあげます!」
「何のサービスだよ、全く。」
「さあ、時間無くなっちゃいますしご飯も作りますから急ぎますよ~」
エプロンを着けて先輩に教えてもらうのが楽しくてついつい時間を忘れてしまう位だった。
信じて良かった〜先輩が無事で…お腹が空いて先輩よりこの日はご飯を食べて
笑われてしまった。
どうやら疑惑は晴れたみたい。流石は八幡、鋼鉄の意思の持ち主だ。