八幡のお店に毎日顔を出すいろは、仕方なく少しアクセの講習を
してもらえる事に。
「ねぇ、先輩?これなんかあたしに似合うと思います?こっちもいいし…」
「一色、いくらうちがお値打ちなプライスだからと言って今週3つも買ってるし買い過ぎだ。」
「もう~売上に貢献してるし、それにボーナスでたばかりだし先輩のアクセ、顔に似ず素敵なんだもん ♪」
「はいはい、ありがとうございます。でもね、お前あれから毎日来てるじゃん、てか来すぎだから。」
「いいじゃないですか、教室まで後、何日かあるんだし少し位依ったって。それにレモンティー出してくれるし。」
「まあ、買ってくれるし一応お客さんだからな。」
「買わなくても出してくれますよね、来る度に出してくれたら毎日でもいいかな。」
「相変わらずだな、こんな所で道草しないでお前なら他に幾らでも行くことあるだろ?」
「何ですか?予定の確認をそれとなく聞いてデートに誘う気ですか?安易過ぎて気に入らないので
もう一度練り直して出直して下さい、ごめんなさい。」
「全く何だよそれ?何年ぶりかでにお前に振られたな通算で何回目だ?100回は軽く越えてんじゃね?」
「ところでお休みとか何やってるんですか先輩?」
「あっ?逆に聞くの?」
「あんま変わんねぇな、工房に篭って新しい作品作ったりしてる。」
「相変わらず引き込もってボッチやってんですね。」
「性にあってるし時々、小町が差し入れしてくれるからこれで満足だ。」
「小町ちゃん?懐かしいなぁ~高校時代よく手伝ってもらったりしたなぁ~ ね、
先輩?小町ちゃん元気してます?」
「あぁ、教室に通えばその内、会えるんじゃないか。」
「楽しみが増えるますね先輩!」
「俺は面倒が増えるだけだよ。」
「もぉー、そう言えば先輩の工房を見て見たいのですが少しいいですか?」
「え?見たいの?」
また露骨に嫌そうな顔して。
「駄目なんですか?」
「何にもないぞ、こんなとこ見たかったら覗いてこいよ。」
「はい、では失礼して…」
小さな工房の中は作業机と椅子が2つ並べられ専門工具や小さな溶接機が整理されて
仕事がしやすいよう工夫がしてあるようだ。
「プロの仕事場みたいですね。」
「駆け出しだか機材だけは揃えてあるよ一応プロだからな。」
ここからあんな素敵なアクセを先輩が次々と作り出すなんてちょっと不思議な気がする。
「ところで一色、お前って暇なの?」
「何ですか?急にさっきも。」
「今日はそんなに忙しくないから、まっ偶にはな。こっちの工房に入れよ、
一色。」
「え?いいんですか?だって・・・」
「何遠慮してんの?さっきも入ってんじゃん。」
「だって・・、暇そうにしてたらデートしてくれるとか下心見え見えの行動では
納得出来ないのでもう少しお洒落で格好良く誘って下さい、ごめんなさい。」
「違うから…、暇なら少しやってみるか?」
胸が「ドキ 」とした何、何を?あたしがアタフタとしてると先輩が赤くなりながら
「勘違いしてんじゃねぇ~よ、ほら…アクセ作りたいんだろ?スクールの日じゃないけど
少しやってくかって事だよ。」
「わぁ~~いいんですかぁ~!昔から先輩は頼りになって
素敵です~、尊敬します~ありがとうございます!是非教えて下さい!
「・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「各道具と機械の名前とかは分かったな?使い方はこれから順番に教えるから慌てんな。」
「はい、大体分かりました、何でも順番ですよね。」
「そうそう」
「まず最初はシンプルなリングから」
「え~もっとデザインのカッコいい奴とかがいいです。」
「ダーメ!基本を覚えないと進めても直ぐにボロがでんのよ何でも。」
「ちぇ、分かりました・・」
「平面の細い板を加工するとこから行くぞ。」
「あん、待って下さい。」
「この丸棒に板を乗せながらハンマーでコツコツと少しづつ叩いてく、こうだ。」
先輩が手馴れた感じで細いシルバーの板をコツコツと叩いて形を作っていく
流石に上手い。
「どうだ、分かるか?一色。」
「はい、え~と、こうですね?」
「うん、そうだ飲み込みいいなお前。」
「へへっ、褒められちゃった。」
「あ~気を付けて!」「あっ!やっちゃった?」
「大丈夫だ、傷が付いてないからそのままで・・・」
やだ・・・・先輩が直ぐ横に、高校時代にちょっと意識した時があるけど
葉山先輩が本命で追っかけてたし毎日会っても全然そんな気にもしなかったのに。
それに凄く頼もしく見えるし・・・・
「そう、あとは溶接してと。」「はい!」
どうしてだろ?随分と前からこんなに楽しいと思った事がないや。
ぶっきら棒に教えていく先輩は高校の時と同じだけど優しい感じがする。
「溶接は俺がするから取り合えず見てて、火を使うけど大丈夫だ。」
それから磨きの仕上げを手伝って貰って初めて自分で作ったリングを指にはめてみた。
久々にジーンときちゃった。
「どうだ、自分で作ったリングのはめ心地は?」
「先輩、これ気に入っちゃいました!可愛いいし!」
「シンプルな物程、飽きがこないしな。」
「普段使いにいいし大事にしますありがとう先輩!」
出来上がったばかりのリングを右の薬指指にはめ何時までも眺めていたい気分になった。
「遅くまで居てすみませんでした先輩。」
「先輩も帰る時間じゃないですか?」
「俺?俺はこのお店の上で寝てるから帰らないよ。」
「えっ?上ってスクールじゃないですか、教室の中で寝てるの?」
「違うし、その上からワンルームマンションになってんだよ。」
「はっ、もしかして誘ってませんか?リング一個で釣れる安くて軽い女じゃないですよ~だ!
もう少しゆっくり時間を掛けて下さいね、ごめんなさい。」
「はぁ~はいはい、時間だからお店しめるから。」
「ありがとう先輩!また来ますね。さよなら。」
「おう、気を付けてなって?また来るってまさか…」
駅まで小走り駆けで弾んだ心を押さえ帰り道を急いだ。
懐かしかった・・・そう高校時代に毎日、先輩の部室に遊びに行って先輩と話すのが日課だった。先輩が卒業して奉仕部も無くなってあたし1人になっちゃって暫く元気無くて寂しかった。
でもあの時のままの先輩がいてくれた。
遊びに行っちゃいますね、先輩と会えて嬉しいです。
可愛い後輩が来てくれたら嬉しいはず、
はたして八幡は?