モデルになった留美が八幡に相談を。
コツコツと小槌の音が、心地よく響き渡る何時ものリアルの工房…
「もう簡単な手直しなら一色でも大丈夫だ、上手くなったな。」
「そんなに誉めると照れちゃいます~先輩が見ててくれるから頑張れるんですよ。」
「あ~見てなくても頑張るように。ほれ、そこ気を付けろ。」
「あっ、は~い先輩!」
あれから何事もなく毎日が過ぎていく。
先輩も何時もと変わらないし、あれから噂話はたち消えたようだ…だけど直接聞いた訳じゃないからあたしの中で不安が消えてない。聞きたいけど聞けない…何かが壊れる気がする。
先輩…あなたを信じてます。
………
「留美ちゃんって凄いですね、『あっ!』と言う間に雑誌デビューしちゃって人気出ちゃって。」
それでも暇をみてはお店に顔を出しに来てる。
「おう、俺も最初自分の目を疑ったぞ!何も聞いてなかったし言わなかったからな。少し用事でバイト休みたいって聞いただけだ。」
あれからお店に訪ねて来たスカウトさんの事務所にお世話になる事になった留美ちゃんは瞬く間に週刊ヤンジ○ン、ヤン○ガ、マガ○ンに載っちゃって人気に。中には水着のピンナップもあって本当ビックリ。
話題になってから何喰わぬ顔でバイトに来た留美が顔を赤らめ先輩に尋ねた。
「ねっ、八幡見てくれたんでしょ…雑誌。」
「あ~、…まぁ…見たぞ。その…何だ、いいんじゃないの。」
幼馴染みの着替えを偶然見てしまったラッキースケベの義兄が義妹に言い訳がましく顔を真っ赤に誤魔化してるモード炸裂ね先輩…。
「あ…ありがと…」
留美ちゃんも恥ずかしいらしく伏し目がちにチラチラと先輩を見ながら顔真っ赤にしてる。
「その…どの辺がよかった?八幡…」
「俺にそんな事聞くなよ。」
「だって八幡がモデルの留美を見てみたいって言うから。それに気になるじゃん!どの辺がよかったか言ってよ!」
「まぁ…よかったよな留美の載ってる雑誌、一色?」
何でそこをあたしにフルの先輩!
「そうですよね~♪先輩~留美ちゃんの載ってる雑誌、全部買ってあたしにも見せくれましたもんねぇ~」
思いっきり二の腕をツネってやった。
「てぇ~!一色、何でツネるんだ?」
「さぁ~?」
「ねぇ、八幡…一色さんに聞いてないし八幡に聞いてんだけど!」
「あ…あ~まぁ~その…お尻とか?ほら…オッパイとか?」
先輩…それ、女の子に最低な一言だから絶対キモい… 加えて不気味な薄ら笑いやめて下さい!
「八幡のバカ・・・」
流石の留美ちゃんだって怒るよ。
「先輩って何処までボケんですかそこは『水着が可愛いかったよぉ~』とか『眩しくてとっても可愛かった』って言うところじゃないですか?バカなんですか?誉めてもらいたいのに留美ちゃんじゃなくても怒りがこみ上げてきますよぉ~ホントにぃ~!もっと女心を考えて下さいね!」
「何で一色に怒られなならんの?まぁ、一色が言ってた通りだから、よかったからな、留美ホント。」
「まあ、八幡がよかったって言ってくれるんなら許すよ。」
留美ちゃんに背中を突っつかれてる。
あたしもダイエットしよかな…ウエスト留美ちゃんに完全負けてるし、てか他も色々負けてるけど、いいでしょ?別に。」
「ねぇ、八幡…あたし○カリのモデルに決まるかも…決まったらバイト来れなくなると思う…」
寂しそうに留美ちゃんがポツリと言い出した。
「クライアントのOK出たってマネージャーさんが言ってた。この前、何カットか撮影して、いいって言われてて・・・・」
えっ!?『○カリ』って…CMの?留美ちゃん凄い…
「留美、こんな所で油なんか売ってる暇なんか無いんじゃあないか?」
俯いた留美ちゃんが消え入るような小さな声で一言言った。
「あたし八幡が嫌だったら辞めるから。モデルなんかどうでもいい。」
「…そっか残念だな。」
「ねぇ…『嫌だ』と 言って。」
飲みかけの冷めた珈琲をゆっくりと飲み干し、先輩が留美ちゃんに尋ねた。
「…留美、モデルやってみて面白ろかったか?これからもやってみたいと思ったか?」
「そりゃ…少しは…憧れもあったし面白くないって言ったら嘘になるよ、でも八幡が辞めろって言うなら辞めてもいいし…」
「じゃ…留美は俺が言うことなら何でも聞けるし何だって出来るんだな?」
「……うん…。」
ちょっと先輩!ホントに言うの?
「…バッカ留美、何でも聞ける訳ないじゃあないか、留美は俺の奴隷かよ?今時そんなの無いぞ!それに留美はモデルの仕事を面白く感じている。俺には留美が面白いと思っている事を辞めろなんて言える事は出来ないし言う資格もない。」
「そんな事はないし、八幡が言うならあたしは…」
「留美、他人や俺のせいにするな。自分のやりたい事をやれ。」
「・・・・八幡・・」
戸惑い気味に言葉を詰まらせ話す留美ちゃん。
「面白かったんだろ?もっとやってみたいんだろ留美?」
やがて決心したかのように静かに頷いた。
「…うん。」
「ならチャレンジだな、留美にはモデルの素質があるんだしやりたい奴はゴマン居るのにその中で選ばれたんだ。みんなの分まで頑張らなきゃあな。」
「別にみんなの分はどうでもいいけど面白いのは分かる。今までやりたい事なんか無かったし・・・やってみるよ八幡。」
「あぁ、お店のバイトは来れる時でいいし何時でも遊びに来ていいから安心しろ。」
「ホントに?あたしが来れなくなって売れなくなっても大丈夫?それに一色さんが八幡にチョッカイかけそうで?」
「アホか、そんな事ある訳ないだろ!」
むぅ~なんかその言い方ムカつくんですけど。
「ちょっと~留美ちゃん?どう言う意味かな?あたしじゃ~ダメって事なの?」
「だってあたしがいる時といない時じゃあ、売り上げ段ちでしょ?」
クスリと悪戯っ子ぽく笑いながら留美ちゃんが言う。
ぐぐっ!事実、留美ちゃん来たときの売り上げは・・・・
「あたしだってそれなりに化粧したりコスプレしたらまだまだなんだもん!会社だって
若手のホープだし!」
「おい、一色?キャラが由比ヶ浜だぞ・・・」
「あははっ、ですよね~兎に角留美ちゃんいなくても売り上げなんか先輩の造る作品が
いいから大丈夫ですよね~先輩?」
「まぁ、それは言えるよ八幡のアクセならあたしもいいと思う・・」
「バッカ買被り過ぎだっつう~の。」
先輩が笑って誤魔化した。
「まぁ、その・・・頑張れよ、留美・・」
照れ臭そうに頬をポリっとひと掻きして先輩がポツリと、
そして留美ちゃんの頭にそっと手を置き励ました。
「・・・うん。」
穏やかに優しく…留美ちゃんの目に光るものが浮かんでいた。
優しそうな先輩の顔が少し胸をキュンとさせる・・・
あたしにはした事のない表情だ・・・
満足そうに頭ポンをされてる留美ちゃんと先輩を横目で見ながら羨ましくて仕方が無い!
いいもん、あたしもまた先輩にしてもらうんだから!
今回は特別に留美ちゃんに譲るんだ・・いつかあたしにも、そんな顔をして下さいね先輩・・
「よし、今日は留美の門出と言う事でお祝いしなくちゃあな!みんなで飯でも食いに行こうか?」
「何ですか?急にあたしがいくら誘っても行かないくせにぃ~!」
「あ~、そうだな・・兎に角だお祝いをだな、」
「分かりました、折角の門出にケチを付ける訳にもいけません。みんなでご馳走を食べましょうよ!」
「え~八幡だけじゃないの~?一色さんもくるんですかぁ~?」
「ふふっ、留美ちゃん?」
留美ちゃんと睨めっこに・・・お互い「ニィ~」と笑い合う。
「うっ!あはっ!一色さんの顔何それ?」
「よく言うね留美ちゃんも、もっと愛想良くしたら?モデルさんなんだし。」
「お前ら、頼むから仲良くしてだな。」
もうダメ・・・
「「あはははっ!」」
その後、3人でお祝いに居酒屋さんに出向き大騒ぎをしながら留美ちゃんの
お祝いをして最後はタクシーで留美ちゃんを家に送り届けたのであった。
手直し、手直しと。ご指摘感謝します。