IF 魔法少女リリカルなのはStrikerS 短編 死神の刀 ~序章~ 作:金乃宮
このお話は、ブリーチの斬魄刀がデバイスとして存在したら、というIFのもとに作られたお話です。
そのようなことが苦手な方は、今すぐ戻ることをお勧めします。
また、設定の一部にソウル・イーターの要素を含みます。
そのようなことがry)
よろしいですか?
では、どうぞ。
●
世界は一つきりではない。
一つ次元を超えれば数えきれないほどの異世界が存在しており、また、数多くの文明も存在する。
それらの次元世界の中にはすでに滅んでしまったものもあり、その世界においてごく稀に発見される遺物は、他の世界では再現できない物が多く、危険なものはロストロギアと呼ばれ、厳重に管理される。
そして、それらの次元世界の法と秩序を守るのが、時空管理局である。
そこでは、日夜局員たちが、それぞれの世界を守るために活動していた。
その管理局に認識されている世界の事を「管理世界」と呼ぶ。
また、管理世界や管理外世界に関わらず、これらの世界の中には魔法という物が存在する所もある。
魔法とはいっても理屈を超えた物ではなく、科学理論に則った純粋な技術である。
その魔法を行使する者を支えるのが、魔道士たちが持つデバイスという物である。
これは、持ち主が魔法を使う際のアシストをするための道具であり、苦労を分かち合う相棒でもある。
この魔法には、大きく分けて二つの種類が存在することが知られている。
一つは、様々な状況に対応できる遠近取り揃えたオールラウンド系の魔法「ミットチルダ式魔法」。
もう一つは、近距離個人戦に秀でた戦いのための魔法「ベルカ式魔法」。
特徴の違う二つの魔法体型に合わせ、魔道士たちが持つデバイスにもそれぞれの使う魔法に合った設計がなされている。
……だが、実はもう一つ、公には知られていない魔法体型が存在する。
それは、とある特殊なデバイスを持つことで使うことのできる、強力な力であった。
その魔法は、そのデバイスの製作者の名前を取って「カガミ式魔法」と呼ばれていた。
だが、あまりにも強力で、あまりにも危険だと製作者自身に判断され、各地で使われていたそれらのデバイスを製作者自らが回収し、誰にも見つからないように無人の世界に移り住んで封印しまったため、今では知る者がほとんどいない魔法になってしまった。
その後、その世界でデバイスの製作者とその家族は細々と暮らしていた。
月日が流れ、その世界にはそのデバイス製作者の他にも多くの人間たちが移り住んできていた。
それらの人たちの多くが、デバイス製作者と同じように元いた世界と袂を分かつために逃げてきた者たちとその家族であり、同じような境遇の為か、彼らは互いに仲が良くなり、その世界で平和な時間を過ごしていた。
とはいえ、この世界も管理局と無関係ではいられない。 むしろ積極的にかかわっている。
なぜならば、この世界にいる者たちは、他の世界から見れば重要な人物たちばかりだからだ。
そんなしがらみから逃げてきた者たちは、管理局に自分たちの存在を知らせ、時には情報提供などもして、自分たちの住む世界を他の世界からの魔の手から守ってもらっていた。
とはいえ、彼らが提供するのは医療技術などのみであり、戦闘に関わる技術は一切渡さなかったし、管理局側もそれを了承して友好的な関係を築いていた。
そしてさらに月日が流れ、現代。
その世界、「隠遁世界・ハイディル」と管理局との交流は続いており、その中には住人、管理局という立場をこえた、私的な付き合いも存在していた。
そんな平和な「ハイディル」において、ある日大きな事件が起きた。
最初にこの世界に移り住んできたデバイス職人の子孫で、代々この世界の代表として管理局との窓口役ともなっていたカガミの家が襲われ、厳重に封印してあったカガミ式のデバイスの一種、通称「ザンパクトウシリーズ」百点あまりが盗まれたのだ。
幸いにも、その家の者たちは無事だったが、強力な武器であるそれらが犯罪者の手に渡ってしまったというのは大きな問題であり、管理局はそれに対して動かないわけにはいかなかった。
だがその当時、管理局は大きな事件の後処理が済んだばかりであり、その事件で疲弊しきった管理局にはカガミ式デバイス盗難事件にさける人的余裕がなかった。
そこで、その大事件が起こる少し前に設立され、事件が解決したと同時に存在意義の大半が失われてしまった部隊、「古代遺物管理部 機動六課」に白羽の矢が立ったのである。
●
今回の任務についての概要を説明し終え、機動六課スターズ分隊隊長・高町なのは一等空尉は会議室にいる六課の面々を見渡して、
「これまでの概要はこんなところですけど、ここまでで何か質問はありますか?」
と言った。
しばしの無言の後、椅子に座って机に広げた資料を見ながらなのはの話を聞いていた、長髪をポニーテールにした長身の女性、シグナムが手を上げて発言する。
「……つまり、今回の任務は、そのザンパクトウシリーズの確保と強盗犯の拘束、ということか?」
「概ねそれで間違いありません。ですが、それに付いての補足を……シャーリー、お願い」
「はい、なのはさん」
なのはに呼ばれて前に出てきたシャリオ・フィニーノ一等陸士は、会議室内の機動六課の面々を見渡し、言う。
「今回の任務は先ほどシグナム副隊長が言った通り、カガミ式デバイス・ザンパクトウシリーズの確保と、保持者、つまり盗んだ犯人の拘束です。……ですが、デバイスの確保が困難な場合、破壊することも任務に含まれます」
その言葉に、会議室全体に困惑が広がる。
それを感じ取りながらもシャーリーは一切気にせず、言葉を続ける。
「最後の『デバイスの破壊』に関して、皆さんに紹介したい人がいます。……チトセ、前に出てきてくれる?」
「――はい」
シャーリーの呼びかけに、涼やかな声の返事が返ってくる。
その声を発したのは、会議室の最前列の隅に座っていた女性だった。
彼女はその声にたがわぬ鋭いまなざしを前に向け立ち上がり、紙紐で簡単にくくっただけの腰まで届く真っ直ぐな黒髪を揺らしながらシャーリーの横に並び立ち、皆の方を見る。
実は彼女、この会議室に一番早く来て最前列の隅に座っていた。
後から集まってきた六課の隊員は、六課の制服を着ていない彼女がこの場所にいることを疑問に思い声をかけようとしたのだが、背筋を伸ばして目を閉じ静かにすわっている、それだけなのにまるで抜き身の剣のような鋭い雰囲気を放っている彼女に、その雰囲気を突き破って話しかけられる猛者は、六課の中にはいなかった。
そのため隊員たちは、なのはの話を聞いている最中も心の片隅では見慣れぬ彼女の事を気にかけていた。
その彼女の正体がやっとわかるということで、皆が彼女に意識を向けた。
気の弱い者ならば泣き出してしまいそうな密度の視線を一身に集めながら、それでも彼女は平然と立っている。
そんな彼女を示し、ついでに空間に映像を投影しながらシャーリーは彼女の紹介を始める。
「彼女の名前はチトセ・カガミ。今回事件のあったハイディル在住の一般市民です。姓からわかる方もいるとは思いますが、彼女は今回被害にあったカガミ家の方であり、次期当主でもあり、またカガミ式デバイスの開発者、カンジ・カガミ氏の子孫でもあります」
投影された映像にも示されるその紹介に、皆が驚く中、シャーリーの話は進んで行く。
「彼女はデバイスマイスターでもあり、その縁で私とも私的な付き合いがあります。また今回の件で、一般にはあまり知られていないカガミ式魔法、およびデバイスの情報を提供していただく、民間協力者でもあります。……チトセ、皆さんにご挨拶を」
はい、とうなずいた彼女は一歩前に出て、自分を見ている者たちに向かって一度礼をしてから、
「皆様はじめまして。管理世界「ハイディル」の代表であるカガミ家の次期当主、チトセ・カガミと申します」
彼女の涼やかながらも鋭い声は、音響魔法を用いずとも会議室全体に響き渡った。
「本日は、私の先祖が作り出したモノのせいでご迷惑をおかけすることになってしまい、大変申し訳ありません。私どもも、今回の件には大変心を痛めており、また、カガミ式デバイスが罪無き一般市民を傷つけることを何よりも恐れています。ですので、今回の件に対し、我々カガミ家は全面的に協力することと決定し、その代表として私が遣わされてここに来ました」
皆彼女の雰囲気に呑まれ、彼女から視線を逸らせないでいる。
「そして、今回の件において、我々カガミ家は三つの決定をいたしました。それは、このようなことに使用される可能性のあるものは、速やかに回収し、さらに厳重な封印を施すということ。次いで、もし回収が困難であるならば、二度と使えぬように破壊してしまうことも辞さないということ。最後に、そのためにカガミ式デバイスの事をよく知る者、つまり私をこの機動六課に協力者として派遣することです」
チトセは皆を見渡し、
「非才の身ではありますが、今回の件の迅速な解決の為、この身を粉にして努める所存であります。皆様も、なにとぞご協力をお願いいたします」
深く、一礼した。
●
チトセの挨拶の後、詳しいことや補足をなのはが皆に伝え、解散となった。
機動六課の部隊長である八神はやては、この後の細かいことを詰めるため部隊長室に戻り、それ以外のスターズ、ライトニング分隊のメンバー全員とチトセは演習場に集まっている。
それぞれの分隊の隊長・副隊長達は、前線フォワードである部下たち四人と向かい合っている。ちなみにチトセは隊長側だ。
フォワードたちは任務の説明が終わった後、訓練のためにここに来たのだが、なぜここに協力者であるチトセがいるのかと不思議がっている。
そんな部下たちの様子に苦笑しながら、なのはは話し始める。
「さてみんな、準備運動はすんだね? これから午前の訓練を始めます。今日は予定を変更して、さっき説明した任務の対策訓練とします」
『対策訓練?』と疑問を浮かべる四人にライトニング隊隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが補足する。
「今回の任務で戦うことになるカガミ式の魔法は今まで戦ってきた魔法とは種類がぜんぜん違うの。だからいきなり戦って驚かないように、どんなものかを知っておいてほしいんだ」
その言葉に四人は『ああ、なるほど』と納得した表情を浮かべる。
今回盗まれたデバイスの数は百あまり。単純に考えてもそれだけの数の犯罪者と戦わなければいけないのだから、その対策法を知っておくのは早いに越したことはない。
皆の理解が済んだところで、なのはは隣に並ぶチトセを示し、
「そんなわけで、これから事件解決までの間皆に対カガミ式の魔法戦闘法を教えてくれるチトセ・カガミさんです。一時的にとはいえ教官になる方だから、皆、挨拶して」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
威勢よく挨拶した四人に、チトセは一歩前に出る。
そうして四人の前に立ったチトセは
「よう、ガキ共。いま紹介されたが、チトセ・カガミだ。チトセって呼んでくれ。これからしばらくの間ここにやっかいになるぜ、よろしくな」
四人の顔を歪ませた。
●
何とも言えない顔を見せて固まっている四人を、チトセは不思議そうに眺めて、それから自分の友人の方に顔を向けて問い掛ける。
「おいシャーリー、何でこいつら変な顔してるんだ? ミッドじゃあこれが挨拶なのか? だったら言っといてくれよ、突然の事だからどんな顔したらいかわかんねぇよ」
『こんな感じか?』とかいいながら、チトセは出来るかぎりの変な顔をシャーリーに向ける。
それがどうみても強烈なメンチを切っているようにしか見えないのは、……まあ気にしないでおく。
今も妙な顔をしているフォワード部隊の少女、キャロ・ル・ルシエには立ち位置の関係で見えてはいないが、もし見えていたら泣き出しているであろう恐ろしい顔を向けられながら問い掛けられたシャーリーは『やっぱりこうなったか』と苦笑しながら、
「チトセ、ミッドにそんな挨拶は存在しないわ。この子達は多分、貴女の態度に驚いているのよ」
それを聞いて、チトセは一瞬眉をひそめて考えるそぶりを見せ、それからすぐに理解したのか表情を変える。
その光景はまさに百面相と言える物で、
「ああ、なるほどな。おめぇらあたしの事良い所のお嬢様だとか思ってたのか。その期待を裏切るようで悪いが、私はこういう人間だ」
『あっはっは』と豪快に笑うチトセを見て、四人は説明を求めるように彼女の友人だというシャーリーの方を見る。
その視線に彼女は『ははは……』と力なく笑い、
「チトセはね、かなりのあがり症なのよ。だから、ああいうかしこまった場で大勢の前に出ると性格が変わってあんなふうな見た目通りの言動をするようになるんだけど、本来の性格はこっちなの。……皆最初は慣れないと思うけど、よろしくしてあげてね」
『残念美人』という言葉がこの場にいるチトセ以外の全員の脳裏をよぎった。
フォワード陣の司令塔であるティアナ・ランスターは頭の中に浮かんだ失礼極まりない言葉をさっさと振り払い、質問する。
「――話を戻しますが、今日の訓練はチトセさんにカガミ式についてのお話を聞いて、その後にカガミ式に対する戦闘訓練をおこなう、ということでいいんでしょうか?」
「あはは、半分正解で半分はずれだ。残念だったねお嬢ちゃん」
にやりと笑いながら言われた言葉にムッとした表情を浮かべる親友を落ち着かせながら、スバル・ナカジマは尋ねる。
「あ、あの! 半分、というのはいったい……?」
それに答えたのは、今まで腕を組んで立っているだけだった見た目は子どものスターズ隊副隊長・ヴィータだった。
「……お前たちには、まず全く情報を与えずにカガミ式魔法相手の戦闘訓練に入ってもらう。そのための対戦相手もいるしな」
「……対戦相手……? その方はどこにいるんですか?」
この場に該当する人物が見当たらないことから赤毛の少年、エリオ・モンディアルが質問する。
「おいおい失敬な坊やだな。ここにいるだろ立派なカガミ式の使い手が!」
エリオの問いにそう答え、カガミは眉を不機嫌そうに顰め、左手の親指で自分の胸の中心を指しながら言う。
「あたしはチトセ・カガミ。今現在ミッドにおいて、唯一カガミ式デバイスを持つことが許されている人間さ!!」
●
海上に浮かぶ陸戦用空間シミュレーターの上に、フォワード四人とチトセが対峙している。
今回シミュレーターに展開されているのは、砂と岩だけしか存在しない荒野のステージだ。
そこにいる五人は全員訓練着を着ており、デバイスは誰も展開していない。
フォワード陣はティアナを中心に、後方にキャロ、前列右にスバル、左にエリオが布陣されており、それに対峙するチトセは自然体で立っているだけだ。
その様子をシミュレーターの外からモニター越しに眺めているのは隊長陣達とシャーリー。
にらみ合う二組のいる空間に、なのはの声が響く。
『それじゃあみんな、いきなり襲われたという設定で模擬戦を始めるよ! 何の情報も無い状況でカガミ式の魔術師に襲われた場合どうなるか、その魔法の恐ろしさと共にしっかり学んで来てね! ――それじゃあ、開始!!』
言葉に終了と共にブザーが鳴り響き、それと同時にティアナの首に冷たいモノがふれた。
「――――え?」
ティアナの視界は黒一色に染まっている。
例外は視界の下の方に存在する銀色の線のみであり、その線の一方は自分の首のすぐ隣に、もう一方はいつの間にか真っ黒な服を着て自分の前に立っているチトセの手元に延びていて――
「――油断大敵だよ。一回死亡だ、お嬢ちゃん」
●
驚きで動けなかったティアナと、その陰に隠れてしまっていたため状況がよくつかめていなかったキャロ以外で、最初に動いたのはスバルだった。
素早くセットアップし、両足に装備されたデバイス・マッハキャリバーのうちの左足ですぐ横にいるチトセを薙ぎ払うように蹴飛ばそうとする。
かなりの速さで行われたスバルの攻撃だったが、それをチトセはその場から飛びのき、元の場所まで戻ることで回避した。
その様子を離れたところから見ていた隊長陣の内、なのはが最初に声を上げた。
「……フェイトちゃん、今のチトセさんの動き、見えた……?」
「うん、一応。ただ、かなり早いね。リミッター付きの私のトップスピードくらいはあると思う」
なのはの問いに答えたフェイトの呟くような声も響く。
「……悪いが誰か今あったことを説明してくれ。あたしにはよく見えなかった……」
ちょうど見ていたモニターがフォワード陣の場所だったためチトセの動きを見ていなかったヴィータが悔しそうに言う。
それに答えたのはフェイトだった。
「……今彼女がしたことは、大したことじゃない。セットアップしてティアナの前に行き、デバイスである刀をティアナの首にふれさせただけ。ただ、そのスピードが異常だったけど……」
「同感だ。あれはかなり早い。……ソニックムーブと似た系統の魔法のようだが、少々違うな……」
「あれは
フェイトの答えに同意するようにつぶやいたシグナムに、シャーリーはチトセが使った技の解説を始める。
「違いとしては、一気にトップスピードを出して一気に減速するというオンオフの速さ。そして短距離専門の超加速術であるということ。それ故にきちんと気を張って見ていないと瞬間移動のように感じてしまう技法です」
彼女は常にチトセをマークする設定をしたモニターをそれぞれの前に展開しながら言う。
「……ですが、カガミ式の本領はまだまだこんなものじゃあありませんよ」
●
……なんなのよあの人……!
元いた場所に飛び退いて戻るチトセを見ながら、ティアナは混乱する思考を必死に抑え込んでいた。
先ほどまででティアナが見えていたのは、開始の合図と同時にチトセが左腕にはめられた銀色のブレスレットを掲げて何かを呟いたところまでだ。
恐れくそれがセットアップの掛け声だったのだろうが、それに反応する暇もなく先ほどの事態に陥ってしまった。
今彼女はバリアジャケットなのであろう、黒い鞘を腰に差したこれまた真っ黒な着物を着て、右手に持った抜き身の刀と共に自然体で立っている。
……いきなり襲われるっていう設定だったとはいえ、こっちのセットアップも待ってくれないなんて……!
とはいえ彼女は設定どおりに動いただけで、一切非はない。
先ほどチトセに言われた通り、これは純粋な油断の結果で、その証は今も自身の首に違和感として残っている。
思わず首筋を強くこすり、先ほどまで感じていた冷たい感触を消すと、
「皆! 急いでセットアップ! あの人、本気よ!!」
叫ぶようにそう指示を出し、自分もセットアップしてバリアジャケットを纏う。
すでにセットアップしていたスバルを含め、全員がバリアジャケットを纏っているのを確認すると、
「皆、あの人かなり強いわ。たぶんだけど隊長クラス。私が言えた事じゃないけど、甘さはすべて捨てていくわよ!」
両手に己の相棒であるクロスミラージュを構えて、
「GO!!」
打倒チトセに向けて全力で進んでいった。
●
チトセの少々手荒な挨拶によって気分を引き締められたフォワードたち四人は全力で
エリオとスバルが打撃を与え、キャロはそれをサポートし、ティアナが戦況を見て指示を出しながら見つけた隙に魔法弾を叩き込んでいく。
さすがに密度の濃い訓練を共に乗り切ってきただけのことは有り、その連携は素晴らしいの一言に尽きる。
その猛攻を受けては、さすがのチトセも最初の余裕は消え去り、防戦に回らざるを得ないようだ。
自分に向かって飛んでくる拳や蹴りをかいくぐり、叩き込まれる槍を腰から抜いた鞘で払いのけ、的確なタイミングと位置に撃ちこまれる魔法弾を切り払い、足元から生えてくる鎖を避けるために大きく跳び退く。
そんなふうに追い込んでいるフォワード陣はさらにやる気を出して攻撃の密度を上げていく。
だが、ティアナはその状況に何とも言えない違和感を覚えていた。
……今の状況は私たちにとって良い物のはずなのに、どうして……。
そんなしこりを残しながら、それでも味方の指揮と魔法弾の発射がおろそかにならないのはさすがだろう。
そして、戦況の把握のために隅々まで目を光らせていたティアナは、あるところに目を止めた。
それは、チトセの顔だった。
先ほどまでずっと苦しそうに歪んでいた彼女の顔が、あるとき別の歪み方を、口の端を上げた薄い笑いという歪み方をしたのだ。
その瞬間、ティアナは今まで自分の中にあった違和感の正体に気が付き、叫ぶ。
「スバル! エリオ! チトセさんから離れて!!」
その違和感とは、
「彼女、最初の一回以外、あの加速術を使ってない……!!」
直後、スバルとエリオがその場から離れた。
ただし、チトセに吹き飛ばされる形で。
●
瞬歩でエリオに肉薄しそのままぶつかって突き飛ばし、その反動で反転して後ろにいたスバルを鞘による逆袈裟で吹き飛ばしながら、チトセは思考する。
……様子見はこのあたりでいいか……。
これから戦い方を教える生徒たちの実力を、教師の一人として確かめておきたかった。
だから、最初に少しおどかして、そのあとは一方的な防戦を演じて見せた。
これだけやれば、攻撃の実力は測れる。
一応シャーリーたちから彼女たちの資料は受け取っているが、やはり戦闘能力はナマで見るに限る。実際に戦えればなお良い。
そんな考えの末の行動だったのだが、実際に測ってみた彼女たちの能力は、
……十分すぎるな。
さすがにエースオブエースが選び、鍛えただけのことはある。個々の才能もあるのだろうが、何より厳しい訓練についていくだけの根性もある。
……今回はこっちの情報が一切漏れてないから勝てるだろうが、二回目、三回目になるとわかんねーな……。
今回の戦闘では、彼女たちを完全に叩き潰すために全力を出すつもりだ。
そのため、こちらの手もすべて晒す。
自分の倒し方を教える気はさらさらないが、相手の戦い方から弱点と対処法を判断することぐらいはできて当たり前だ。
今回戦ってみて、それを再確認した。
……だから、一度つぶされとけ。
そうすれば、カガミ式という、言ってしまえば前時代の骨董品とも受け取られかねない技法に対する油断などは完全に消すだろう。
……そんなものが一片でも残ってたら、必ずやられる……。
五歳のころ、両親の反対を押し切り、その当時は健在だった祖父から教えられ受け継いだカガミ式は、そんな甘い考えでは勝てない。
悪用しない、という固い約束のもとで祖父から教えてもらい、九歳の時に渡されたカガミ式のデバイスを数年かけて少しは扱えるようになり、強い興味を持って祖父と同じデバイスマイスターの道を行こうと思い、研究の日々を重ねた自分だからこそ、はっきり言える。
……今からその一端を見せてやるから、きっちり学び取れ……!
突然変わった私の動きに驚いているティアナを見ながら、瞬歩でバックステップを行い距離を取る。
そして、自分の手の中にある刀を四人の方に掲げながら、
「おめえら、よーく聞け。今からあたしの相棒の名前を教えてやる」
……久しぶりに本気の戦闘だ、派手にいこうぜ……!
「――セカンドフォームに移行。――誇れ、『ツバキ』!」
●
モニター越しに戦闘を見ていたなのは達は、チトセが何かを叫んだのをきっかけに、チトセの周りに風が渦巻き、砂が舞ってその姿を覆い隠すのを見ていた。
「……シャーリー、これは……?」
困惑気味に説明を求めるフェイトに、問われたシャーリーは説明していく。
「カガミ式のデバイスの内、チトセが使っている刀、同時に、今回盗まれた『ザンパクトウシリーズ』には特殊な機能が付いているんです。まずカガミ式魔法、先ほどの瞬歩などの使用が可能になること。無論無条件で使えるわけではなく、訓練が必要になる物ですし、チトセは適性がなかったのか瞬歩以外はほとんど使えません。これはまあ、普通のデバイスと変わりませんね。使える魔法の種類が違うだけで」
戦闘を観察し、様々なデータを収集しながらシャーリーは話し続けていく。
「そして、これが他のデバイスと『ザンパクトウシリーズ』とを分ける最大の特徴なんですが、――このシリーズには形状変化機能が付いているんです」
「……形態変化機能? だったら私のレヴァンティンも含め、ここにいる全員のデバイスにも付いていると思うが……」
自分の相棒たるデバイスに触りながら疑問を投げかけるシグナムに、シャーリーは首を振りながら、
「確かにそうですけど、皆さんのデバイスについているのはあくまでさまざまな状況に適応するための機能です。ですがカガミ式の場合はそうではなく、純粋なパワーアップの為の変形なんです」
その言葉と共に、空間に資料映像を並べながら、
「『ザンパクトウシリーズ』の共通点は、形態変化機能がついていること、ファーストからサードまでフォームがあること、ファーストフォームは必ず刀の形をしているということ、それぞれに固有の名前とAIがあること……。それだけなんです」
「……? それだけって、セカンド、サードフォームはみんな違う形なのか? ……なんでそんな手間のかかる設計を……」
「……いえ、ザンパクトウシリーズは全て同じ設計で作られてます」
呆れたように言うヴィータの言葉を、シャーリーは否定する。
「? 設計がみんな同じなら、なんでそんなに違いが出るんだ?」
「……それが、『ザンパクトウシリーズ』のもっとも特徴的な機能であり、先ほどは言いませんでしたがもう一つの共通点と言えなくもない機能です。――『ザンパクトウシリーズ』は、所有者によって形も機能も変わるんです」
モニターの向こうでは、チトセの周りの風がだんだんおさまってきて、彼女の姿がうっすらと見えてくるところだった。
「ザンパクトウシリーズのデバイスにマスター認証を行った場合、まず最初にデバイス自身が所有者の身体能力や思考、リンカーコアの性質などを一気にスキャンするんです。そして次に、平均して一ヶ月の間、デバイス自身が自分の構造を組み替え、所有者に最適な形に変化するんです。その間は、ファーストフォーム以外は使えません。その最適化が済んだら、デバイス自身の判断で、マスターに自身の機能のリミッターでもある自分の名前を教えます。所有者は戦う際、その名前を呼ぶことでデバイスのリミッターを外してセカンドフォームへシフトさせるんです。その名前も、最適化後のデバイス自身の機能によって決まるため、誰かが使っていたザンパクトウシリーズのデバイスを初期化して他の人に持たせても、全く違う機能、名前のデバイスになります」
「……ねえ待って。それって、使う人によって全く戦い方が変わるってことなんでしょう? ということはつまり、ザンパクトウシリーズの所有者には、これと言って明確な対処法はないってこと?」
「そうなりますね。何せ使用者全員の能力に共通点を探すこと自体が困難でしょうから」
「……そんな……、それじゃあ、この模擬戦は無意味なんじゃ……」
シャーリーの説明に驚き、この訓練で得る教訓が何もないのではないかと心配するフェイトだったが、
「――そんなことはないよ、フェイトちゃん」
「なのは……」
「確かに、チトセさんと戦っても、わかるのはチトセさんに勝つための戦法だけかもしれない。……でも、だからこそ今回みたいな『相手の情報が何もない状態での戦闘訓練』を行ったんだから。こういう訓練をやっておけば、相手の動きや言動、周りに及ぼす影響など、いろいろな情報の断片から相手の能力や戦い方を推測するという能力が身に付く。……特に、ティアナみたいな司令塔タイプには重要な能力がね」
「そうです、だからチトセにはその旨を伝えて、そういう戦い方ができるように戦ってもらってます。今までセカンドフォームを出さずに戦ってたのも、四人の実力を測るという側面もあったのでしょうが、そういう考え故の行動でもあるんです」
そう言葉を結び、シャーリーは改めて状況を見る。
「――さあ、戦闘が再開します」
●
砂埃が晴れて、最初にティアナの目に飛び込んできたのは、先ほどまでと何ら変わりないチトセの姿だった。
……セカンドフォームって言ってたけど、大してデバイスの形は変わらないのね……。
彼女の持つ刀の形は変わっていない。強いて言うなら少しだけ刃渡りが伸び、刀身の色がうっすらと赤みがかって見えることぐらいだろうか。
そんなふうに観察しているうちに、吹き飛ばされたスバルとエリオが戻ってきた。
「(二人とも、大丈夫?)」
「(はい、僕は当て身を喰らっただけなので……)」
「(あたしも大丈夫。鞘だったし、防御フィールドの発動も間に合ったから)」
「(そう、ならよかった。キャロも平気?)」
「(は、はい。私は今まで一度も攻撃を受けてませんし……)」
「(ならこっちには実質的な被害はなし、っと。それだけ解れば十分。――っ! 来るわ! 前方に向けてシールド全力展開!!)」
念話で皆の状態を把握しながらもチトセへの注意は怠っていなかったティアナは、彼女が体を少しだけ前に倒し、前に出した足に力を込めたことを見逃さなかった。
その注意の言葉に、スバル、エリオ、ティアナは自身の前にシールドを張り、皆の後ろにいるキャロは他の三人のシールドを強化した。
前面への防御が完成すると同時に、チトセがこちらに向けて突っ込んでくる。
高速移動術は使っておらず、切っ先は前方に向けており、その向かう先は、
「(ティア! チトセさんの狙いは――)」
「(わかってる! アンタとエリオはぎりぎりまでひきつけて、彼女の攻撃を私が受け止めた瞬間に攻撃して!)」
「「(了解!)」」
念話で指示を伝え、チトセが自分に向かってくるのを確かめると、ティアナはシールドに全力で魔力を込める。
そうしてチトセの剣による突きを受け止め、配置の関係上ティアナ、スバル、エリオの三人の作る三角形の中に入り込むことになるチトセを背後から二人に攻撃させるためだ。
2人もそれを理解し、シールドへの魔力は最小限にとどめ、攻撃の準備を整える。
だが――
「良い判断だとは思うけど、今回の場合は悪手だな」
つぶやくようなチトセの言葉と共に、ティアナのシールドは簡単に貫かれた。
●
ティアナのシールドをチトセの刀が何の抵抗もなく貫き、切っ先を胸の真ん中に喰らったティアナが突き飛ばされ、背後にいたキャロに受け止められて、しかし支えきれずに倒れるのをなのはたちは見ていた。
「……シャーリー、ティアナは大丈夫?」
「はい、チトセの非殺傷設定もきちんと働いてますから、今の『ツバキ』は人体に対しては木刀のような打撃武器として作用します。……ですが、今の攻撃が本気だったらティアナは死んでますね……」
「そうだね。……まあ、これもいい経験かな?」
少し悲しそうな表情を浮かべながらつぶやくなのは。
そんな空気を変えさせようと、フェイトはシャーリーに聞く。
「……ねえシャーリー、今のチトセさんの攻撃って……? シールドを砕かないで貫くなんて普通はできないと思うんだけど……」
「あれは、チトセのデバイス、『ツバキ』のセカンドフォームの能力です。その効果は――」
●
司令塔だったティアナを文字通り突き飛ばし、訳の分からない事が起きて呆けている残りの三人に少しばかりあきれながら、チトセはフォワード陣の包囲から飛び出し、5メートルほど離れたところに降り立った。
「おいおいおめえら、いくらなんでも驚きすぎだろ。魔法が無効化されるなんざ、AMF使う機械相手にしてたんなら見慣れてるだろうが」
あたしの放った言葉に我に返ったスバルとエリオはティアナのもとに駆け寄ろうとするが、すぐに驚いた顔をして立ち止まる。そのあとすぐにすまなそうな顔になったことから、念話で『こっちに来るな』、『集中しろ』、『なんでさっき攻撃しなかった』などと言われたのだろう。
……正論なんだがな。まあ、頭でわかっていてもできないことってのはあるよなぁ。
そんなことをしみじみ思いながらも、表情には出さないようにする。
自分から差し出した情報ならまだしも、それ以外の私的なことまで見抜かれるのは嫌だったからだ。
だから、自分の顔に作った笑顔を貼り付け、『ツバキ』を掲げながら言う。
「……おめえらの大将がそのざまじゃあ少しの間は戦えねえよなあ。だったら少し紹介してやるよ。あたしの相棒、『ツバキ』だ。よろしくしてやってくれ」
『よろしくお願いしますわ、若き戦士たち』
ツバキのAIのお嬢様のようなしゃべり方は少々気に食わないが、もう長い付き合いなので慣れた。
それにまあ、自分なような乱暴なしゃべり方の女には、こういう話し方の相棒でちょうどよかったのではないかとも思えてきている。
……にしても、初見とはいえ随分簡単に喰らったな。ま、少しぐらい待ってやるか……。
こちらが油断していると見せかけて、四人に体勢を立て直す時間を与えてやる。
……こんなだまし討ちで終わらせるのは詰まらねえしな。
「……少しだけ、教えといてやる。カガミ式デバイスの『ザンパクトウシリーズ』は、三つの形態がある。一つは、さっきまで使ってたただの刀、『ファーストフォーム』。二つ目が、今使ってる『セカンドフォーム』。そして、この後にもう一つある『サードフォーム』。この内セカンドフォームからは、なんかしらの特徴が出てくる。あたしのツバキも例外じゃない。……ま、それが何かを教えたりはしないがな」
『まあ、意地の悪い。少しぐらいサービスしてあげても良いじゃないですの』
「もう十分だって。あんまり大安売りするのはいい女じゃねえぜ。女はミステリアスなのがいいのさ」
『あなたに女のなんたるかを語られるなんて、この子たちがかわいそうですわよ』
「ぁん? どういう意味だツバキィ?」
『そのままの意味ですわ。――そんなことより、もうこの子たちは大丈夫そうですわよ?』
「ん? ……ああ、そうみたいだな。やる気十分って感じだ」
『ツバキ』の言葉の通り、四人はすでに一番最初の陣形に戻り、こちらを警戒している。
……こっちが油断しているうちに攻撃してくるならまだかわいげがあるんだがな……。 真面目なのか、警戒心が強いのか……。……どっちもか?
まあ自分ならばツバキと話しながらでも戦えるが、それは置いておくことにして、
「さあて、それじゃあ引き続き、行ってみようか!!」
『ええ、久しぶりに空腹を満たせそうですわ!』
とりあえず、四人を喰らいつくそうと思う。
●
ティアナは、自分の出した合図と共にエリオとスバルがチトセに向かっていくのを見ていた。
先程の衝撃から何とか立ち上がり体勢は立て直したものの、ティアナの体にはかなりダメージが残っていた。
それでも戦えているのは、きつい訓練と数多くの戦いを潜り抜けてきたが故だ。
……その点だけは、スカリエッティにも感謝できるわね……。
そんなどうでもいいことを思いつつ、皆に指示を出し続ける。
とりあえずの課題は、チトセのデバイス、『ツバキ』の能力を見極めることだ。
だから、チトセの動きから一切目を離さず、どんな些細なことからも情報を得ようとする。
……スバルのリボルバーナックルによる打撃や、マッハキャリバーによる蹴りは普通によけたり鞘で受け止めたりしてる……。
だが、時折撃ちこむ自分の魔法弾は全て軌道上に刀身を持ってこられ、かき消されてしまっている。
……本当にAMFを積んでるの? でも、エリオの雷も打ち消してるし……。
魔力変換資質によって魔力から別の物に変えられたものはもはや魔力ではないため、本来ならばAMFによって打ち消されることはない。それに、自分のヴァリアブルシュートも無効化されてしまった。
……ということは、もっと別の能力ってことになるけど……。……駄目ね、何も思いつかない……。
こういう時は別の視点からの考えを聞いてみるのが一番だ。
なので、自分の後ろにいるキャロに意見を求めてみる。
「(キャロ、彼女のデバイス、『ツバキ』の能力って、なんだと思う?)」
「(私にもよく……。でも、AMFによる無効化とはなんとなくですけど違うと思います。なんて言っていいのかわかりませんけど、AMFの場合は魔力の結合を解かれてバラバラにされてしまう感じなんです。でも『ツバキ』の場合は、乾いた砂に水をこぼしたみたいに、すぅっと吸い込まれていく感じ、というか……)」
……確かに、そうよね……。
チトセがこちらの攻撃を無効化しているところを見ていると、自分もそんな印象を受けた。
いまいち確証のないあいまいな感覚だったため判断材料から外していたが、キャロもそう感じているのならば間違いはないのだろう。
『吸い込まれる』。
なんだかわからないが、この言葉がカギのような気がする。
……吸い込まれる、……吸う、……呑む、……呑みこむ?
言葉の連想の中で、ティアナはある可能性にたどり着く。
……もしかして……!
そういえば、と、彼女とデバイスの会話の中で妙な言葉があったのを思い出す。
――『ええ、久しぶりに空腹を満たせそうですわ!』
……空腹って、デバイスに食事なんてあるわけない。だったらこれは、彼女たちの間だけで理解できる何らかの比喩ってこと……。
――今までの現象、吸い込まれる、呑みこむ、空腹……。
これまでに見つけた情報の断片をつなぎ合わせて仮説を立て、今まで起こったことにあてはめて矛盾がないことを確かめていき――
「わかったわ!! 彼女の『ツバキ』の能力は、『エネルギーの吸収』よ!!』
●
「『エネルギーの吸収』。それがツバキの能力です」
「『エネルギーの吸収』? ……それって、じゃあ――」
「ええ、さっきのはシールドを構成する魔力を吸収したんでしょうね。だから簡単に貫けた。……というより、刀が触れた瞬間に魔力が吸われますから、貫いたというよりもないも同然、と言った方が正しいでしょうね。やられる本人からすれば、AMFをまとった武器と戦っているのと何の違いもありません」
「でも、AMFとは違う。AMFなら魔力の結合を無効化するだけだけど、『ツバキ』の場合は『エネルギー』、つまり魔力変換で出現させた雷や炎なんかも電気、熱のエネルギーとして無効化できる、ってことだよね?」
「はい。 さすがに氷なんかはエネルギーじゃないので無理らしいですけど……。――そして、『ツバキ』の能力は『吸収』。つまり――」
「奪った力を自分の物にできる、ってこと?」
「そうです。奪ったエネルギーは刀身に蓄えられるんですけど、そこから相手にたたき返したり、斬撃に付与させて飛ばすこともできます。あと、さすがに熱や電気などのエネルギーは無理ですけど、魔力ならば問題なく自身に取り込めます。変換効率はそんなに良くなくて、せいぜい50%ほどだそうですが……」
「相手が魔法を使う限りは魔力切れはない、ってことかな。本当に、『魔導師殺し』って感じの能力だよね」
そんなやり取りをしながら、彼女たちは模擬戦の様子を見続ける。
●
……ほんとすげえな、こいつ……。
多少手心を加えていたとはいえ、たったこれだけの時間と情報で、しかも戦いながら理論を組み立てて自分のデバイスの能力を見抜いたティアナに対し、チトセは素直にそう思った。
あたしも含め皆に聞こえるように叫ばれた『ツバキ』の能力の予測は大体があっている。
……しかも、念話じゃなくて実際に口に出すことであたしの動揺を誘ってるってところなんかホントタチ悪いな……。
そんな思いとは裏腹に、あたしの顔は緩み、心は躍る。
その思いを動揺ととったのか、ティアナはその隙をついてくるように前衛の2人を指揮して、魔力放出系の戦法を封じて直接攻撃を仕掛けてきている。
……良いねぇ。すごくいい……。
本来戦闘狂の類ではないあたしだが、今回ばかりは楽しいと心から思う。
……ここならあたしは最高に輝ける……!
ザンパクトウシリーズの所有者にとって、そのデバイスのAIは自分の魂の
そして、その能力は自分の魂の輝きである、とも。
科学者としては失笑物の考えであることはわかっているが、そう思えてしまうものは仕方ない。
……だから、こういう戦いの場は大歓迎だ!
最近、『ツバキ』をふるうことは鍛錬以外ではほとんどない。
せいぜいが、近くに現れた猛獣を追い払う時くらいで、それもファーストフォームで事足りる。
……そんなんじゃ、あたしは輝けない……!
『ツバキ』があたしの魂の現身であるならば、私の魂は自分を誇ることで輝きを増すということになる。
……だけど、それに気づくまでが長かったな……。
戦闘中ではあるが、少しだけ昔の自分の事を思い出した。
●
下に続きます。