雪ノ下家長男の青春ラブコメもまちがっている   作:拳骨揚げ

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 一作書いているのに調子によって新作書いちゃいました。
 
 陽乃と雪乃にもし弟がいたらという話です。


①雪ノ下月乃は人気者である

 桜が舞う四月。ここ総武高校でも入学式が執り行われていた。粛々とした雰囲気の中、進行は滞りなく進む。そして次のプログラム『新入生代表の挨拶』。僕の名前が呼ばれ壇上に登る。一礼をしてマイクの前にたち挨拶用に用意した文を取り出す。小さく息を吐き、ちらりと前を向くと大好きなあの人が真剣にこちらを見ていた。それだけで、僕の心は温かなものが満たされる。

 息を吸い、マイクに声を載せる。

 

「あたたかな日差しに当てられ、草花さえも私たちを祝福するかのように感じられる今日の良き日に、私たちはこの市立総武高校に入学することとなりました。

 高校入学という、人生の転換期ともいえるこの一歩は、私たちにとって期待と希望に満ちたスタートです。そして同時に大きな不安と緊張も含まれた一歩です。義務教育から解放され、自身の行動に責任を持つこととなる高校生活。ですが、私たちはその不安と緊張と戦い、人としての高見に近づいていきたい。 

 受験当日にはライバルに見えた周りの人も、今日のこの時からは三年間共に学び 遊び 助け合う仲間。

 ひとりひとり入学した理由は様々だと思いますが、本校でたくさんの貴重な輝く思い出を作りたいと思うこの気持ちは皆同じだと思います。

 私たち新入生一同、この新たな仲間とともに本校の名、自分自身に恥じぬことが無いよう、この学校で卒業を迎えるその日まで日々研鑽と精進と怠ることなく、精一杯悔いのないよう過ごすことをここに誓います。

 最後になりますが、本日は私たち新入生のためにこのような盛大な入学式を挙行していただきありがとうございました。

 校長先生はじめ諸先生方、そして先輩方、まだまだ未熟で不慣れな私たちではありますが、温かなご指導下さいますよう、お願い申し上げます。

                               新入生代表  雪ノ下月乃」

 

× × ×

 

 入学式も終わり、今は自分たちのクラスへと向かっている。この総武高校では、普通科クラスが9つと国際教養化というクラスが一つある。そのクラスは普通科より二~三、偏差値が高く、帰国子女や留学志望の人たちが多い。

 そして僕も、その国際教科一年J組に属している。

 今日は入学式だけでこの後はもう放課だ。すぐにあの人の下へ行きたいけど、初日からいきなり一人で帰るとクラスでの立場が無くなってしまう。そのため、昨日のうちに一緒に帰れないことは伝えてある。僕だって断腸の思いだったんだ。

 帰りのHRも終わると、やはりクラスでどこかへ行こうという話になる。鞄に必要なものを詰めていると三人の女の子がぼくに声をかけてきた。その声はどこか期待と緊張に包まれている。

 

「ねえ、雪ノ下君も一緒にクラスの親睦会行かない?」

 

 その問いかけに、僕は笑顔で答える。

 

「もちろん行くよ。これから三年間よろしくね」

 

 そういうと、彼女たちは一転安堵の笑みをこぼし、そして携帯を取り出した。ああ、これはいつものが始める。

 

「うん! あ、そうだ。連絡先交換しようよ」

「あたしも!」

「ちょっと私が先!」

 

 我先にと押し合いへし合い。そんなに慌てることないのに……。

 

「大丈夫だよ、ちゃんとみんなと交換するから。順番にね」

 

 と、声をかけると一番最初に僕に声をかけてきた子から連絡先を交換していく。

 それを見た他の生徒たちも僕と交換しようと長蛇の列を作っていた。わあ、凄い。いつものことだけど、ここまでしなくてもいいんじゃないかな。まだまだ高校生活は始まったばかりなんだし。

 

× × ×

 

 数十分かけてクラス全員と交換し、会場であるファミレスに向かう。もちろんサイゼだ。そこで乾杯の音頭をとることになった。これもいつものことだ。

 

「じゃあ、僕たちの出会いに、そしてこれからの青春と高校生活にかんぱ~い!」

「セリフが臭いよ」

「あれ?」

 

 そんなやり取りをすれば、クラスのみんなが笑い出す。

 サイゼでクラスのみんなと話をして、中々に仲良くなれたと思う。特にもともと国際教養化は女生徒の比率が高いため、少ない男子生徒とはみんなと友達になれた。時間がたちもうすぐ三時になるとサイゼを出てカラオケに行くらしい。ここで数人は帰るようだけど、もちろん僕はカラオケに行く。

 カラオケでさらに五時間ほど歌い。そこで解散となった。外はすでに真っ暗で、街頭が照らす家屋には明々と明かりが灯っている。みんな家族でご飯をたべているのだろう。

 あっ、そうだ。これから帰るってことを伝えとかなきゃ。スマホでメールを打ち送信。少しすると、短く「了解」の文字と「気を付けて帰ってくること」という注意書きがされていた。その文言に少しだけ笑う。

 

「じゃあ、僕こっちだから」

「あ、私もそっち。一緒に帰っていい?」

 

みんなにそう声をかけて帰ろうとすると、一人の女の子がそう言ってきた。その子は、この親睦会を提案した子で、サイゼでもカラオケでも率先して場を盛り上げていた。どうやら、この子が女子グループのリーダーなのかな。その子に続いて僕と帰り道が同じ子たちが続々と出てきた。その数は八人。……多いな~。残った生徒が十人弱だったから、過半数が同じ帰り道ってことか、本当に?

 まあ、いいや。それは聞いちゃいけないことかもしれないし。

 

「うん、それじゃ行こう」

 

 みんなに手を振って別れると、別の道の人たちはどこか悔しそうな顔をしていた。まあ、そういうことなのだろう。僕としてもどうしようもないから気にしない。

夜の街をみんなで歩く、そして当然のように横には最初に僕と帰ろうとした女の子だ。他のみんなは僕たちを取り囲むように後ろでお喋りをしている。

 

「宮城さんは留学志望なの?」

 

 その女の子、名を宮城さんにそう訊ねると彼女は照れ臭そうに笑う。

 

「うん、一応。キャビンアテンダントになりたいから、英語とか外国の言葉に少しでも慣れたくて」

「へ~、キャビンアテンダントか~。凄いな~」

 

 そして宮城さんの顔を見ると、少しだけ戸惑いを見せていた。

 

「どうしたの?」

「笑わないの?」

「どうして?」

「だって、中学の時はみんな陰で笑ってたの、知ってたから」

 

 そう、小さな声で呟く。顔は下を向いていて分からない。だから僕は上を向く。たぶん、今の彼女は顔を見られたくないだろう。まん丸の月がこちらを見ていた。

 

「夢を笑っていいのは、その夢を持つ人だけだよ」

 

 そういうと、宮城さんは弾かれたようにこちらを向く。僕は変わらず月を見たままだ。

 

「夢って言うのは笑われて当然のものかもしれない。でも、それを笑うのは決して他人じゃない。自分自身だ」

「自分自身」

「そう、笑いなよ。笑っていいなよ「私はキャビンアテンダントになるって」。笑顔は自信の表れだよ」

 

 今度は宮城さんの顔を見てニッコリ笑う。

 

「っ!」

 

 すると彼女は顔を赤く染め上げまたすぐに俯いてしまった。その様子に今度は苦笑が漏れる。

 

「ありがとう」

 

 俯いたままの口からぽそりと聞こえた。

 

「どういたしまして」

 

 僕は―――小さく笑いそう返した。

 




 次回、雪乃さんそして比企谷君登場。
 
 更新はいつになるかわかりません。

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