個人的にこう思ってるだけで他意はないです。
――サーヴァントを召喚する。
狙いはかのサーヴァントただ一騎。星5サーヴァントなぞ必要ない。
何故なら、カルデアには既に育成済みの星4サーヴァントが何体もいるからだ。戦力には全く困っていない。専用の高難度クエストを除き、全てのクエストを踏破できる自信がある。
「――よし。行くぞ、マシュ」
「あのう、先輩。一応訊きますが、考え直す気は?」
「ないな全く」
即答アンド切り捨て。今の自分は誰が相手でも止められない。今ならきっと女神の
「本当によろしいのですか? 絶対後悔しますよ?」
「後悔はしない。だって引くから」
「……はぁ」
重いため息をつくマシュ。言っても聞かない自分に呆れているのだろう。
だが今回ばかりは違う! 絶対にあのサーヴァントを引ける! 根拠は全くないけども!
「行くぞ、十連召喚!」
無償で配布された石を使い、ガチャを回す。
十連召喚は星4以上の霊器を一つ以上確定で出現させ、星3サーヴァントを一騎確定で召喚できる。ここまでお膳立てされて外すワケがない――!
「さあ来い! ライダーのサーヴァント、“アストルフォ”――――!!!」
◆
「――――まあ、あれっぽっちの石で引けるわけないんだけどね。……はぁ」
「結局、こうなるんですね」
マイルームの炬燵で二人仲良くため息をついた。
実は十連召喚を行った後、毎週毎週一枚ずつ貯めた呼符も全てガチャに投入したのだが、結果は見事に惨敗だった。
星5サーヴァントは勿論、ピックアップサーヴァントすら出なかった。というかサーヴァントが出なかった。大体が星3、あるいは星4の礼装だったのだ。
「星5が欲しいわけじゃなかったのになぁ……」
「そういえば先輩、ガチャを引く前に何か言ってましたね。アストルフォ、と聞こえましたが」
「ああ。星4サーヴァントのアストルフォ、クラスはライダーだ」
アストルフォの姿はクリスマスイベントでも確認している。
白いマントを羽織っていて、獲物は剣。そして何より印象的なのは桃色の髪。事前知識がない者が見れば、活発な性格の少女剣士に見えることだろう。
だが男だ。
――つまりどういうことか。
女にないものがあり、あるものがないということだ。
――そう、アストルフォは男なのだ。桃色なのに。
だが、自分はそれでも……否、だからこそ。そんな彼が欲しかったのだ――。
「そ、そこまでですか」
「ああそこまでだ。星5サーヴァントよりもずっとだ」
「ですが、アストルフォさんの星は4です。ライダーなら既にオルタさんがいますし、仮に召喚できたとしても大きな戦力にはならないのでは?」
「マシュ。世の中にはこんな言葉がある。
“つよい サーヴァント よわい サーヴァント そんなの ひとのかって。
ほんとうにつよいマスターなら、すきなサーヴァントでかてるようがんばるべき”
……強さなんて二の次でいいんだ。どうせ人理を救うのなら、好きなサーヴァントと一緒に救いたいじゃないか」
確かにアストルフォは強くない。むしろ弱い。
“
“
“
そして、“
彼が持つ宝具は総じて四つ。
だが弱い。
……彼のステータスからもそれはよく分かる。シャルルマーニュの騎士としてしっかり歴史に名を残したサーヴァントなのに、基本スペックは冬木のご当地英霊と同格なのだ。
おまけにとある聖杯戦争では、モードレッド相手に一方的に伸された経歴がある。剣戟にすらならずほぼ一撃、かつ一瞬でだ。
――だが些細なことだ。そんなものどうにでもなる。だって星4だから。
「ですが、星4ならハードルも低いと思います。少し課金すればきっと当たりますよ」
「却下。課金はしません」
そう、断じて否。ここだけはなんとしても譲れない。
「おお……流石は先輩、即答ですか。
……前々から思っていたのですが、どうして先輩は課金しないのでしょうか?
課金ユーザーの中にも様々なタイプがいて、それぞれ微課金マスター、重課金マスターに分けられます。重課金になれ、とは言いませんが、微課金までなら許されるのではないでしょうか?」
今回欲しいサーヴァントの星は4。確かに星5サーヴァントよりも引ける可能性は高い。もしかしたらこれを機に、無課金の檻を飛び出すマスターもいるかもしれない……。
――だが、しかし!
「答えはノゥ! ワタシは断じて課金などしない!」
「す、凄い気迫……ですが、だからこそ疑問です。なぜそこまで無課金であることにこだわるのですか?」
「正月ガチャを引かなかったらだよ」
「……そういえばそうでしたね」
正月ガチャとは、年明けに開催された限定イベントのことである。
聖晶石には“無課金石(仮)”と“課金石(仮)”が存在する。正月ガチャキャンペーンは、課金石を使えば確実に星5サーヴァントを一騎召喚できるというものだ。
「星5サーヴァント確定のキャンペーンに敢えて引かなかった。その事実が先輩を縛っているのですね」
「ああ。もし今課金すれば、いつか必ず後悔する。
――どうしてあの時、沖田総司を召喚しなかったのか、と」
「え? ……あの、どうして沖田さん?」
「ピックアップされてたから。もしあの時課金していれば、このカルデアにはきっと彼女がいた――」
「他のサーヴァントを引く可能性を考慮しない辺り、流石ですね」
「まあね。で、そういう背景があるから、今更課金する気にはなれないんだよ」
「……なるほど。先輩が無課金にこだわる理由は分かりました。
では、何故正月ガチャで課金しなかったのですか? その時は何も枷はなかったと思います」
……確かに、マシュの疑問はもっともだ。
財の貯蔵がないわけではない。重課金はマネー以上に勇気がないので絶対無理だが、微課金は十分に可能である。
その上で課金しない理由は二つだ。
一つ目は正月ガチャ。
そして二つ目は――なんてことはない、ちっぽけな理由。
「価値観の違い、かな」
「価値観?」
「ああ。そうだな、例えば……」
炬燵の上に用意された蜜柑を片手に取り、マシュに見せる。
もう片方の手には――礼装“月下の四匹”。先ほどのガチャにて当てた星4礼装だ。本当は星5サーヴァントを出したかったのだが、今はこれで代用しよう。
「問題です。ここに5000円分の蜜柑と星5サーヴァントがあります。貴方はどちらを選びますか?」
「5000円の……蜜柑ですか」
「別になんでもいいけどな。お茶でもジュースでも酒でも。ちなみに正解はない。どっちを選んでもいいぞ」
「そうですか……む」
「…………」
「――――」
どちらでもいいと前置きしたはずなのだが、マシュは真剣に検討し始めた。
熱い視線が蜜柑へ、礼装へと交互に送られる。
やがてマシュは意を決し、恐る恐る自分の意見を述べた。
「――蜜柑、です」
「ほう、それはそれは。で、理由は?」
「え……! そ、それは……その。
……サーヴァントと答えると、先輩は課金してしまう気がしたので」
「してしまう?」
「はい。課金すればきっと、先輩は星4、あるいは星5のサーヴァントを沢山手に入れてしまいます。そうなってしまえば、私の出番はますます減ってしまう気がして」
「…………」
実は既にあまり出番がないことは黙って……いや、知っているか。自分が使われているかどうかは本人が一番知っている。
盾の英霊故の特性。“やられる前にやれ”が基本スタイルのグランドオーダーでは、“シールダー”は不遇クラスと言えなくもない。
そして、“一番最初に
……これが一番のネックだ。パートナーに課せられた宿命。弱いことはあっても、強いことだけは絶対にありえない。
「はぁ……もしここがステイナイト時空やエクストラ時空でしたら、“先輩と共に成長していく後輩”として出番があったはずなのに」
「そ、そうか」
意外と打算的だった。
……それはさておき、マシュの気持ちは分からなくもない。
“パートナーなのにパーティーに入らない”……うむ、割とよくある。なのでここはひとつ、可能性の話をしよう。
「マシュは……後々、リメイクされるかもしれないぞ」
「え……? リメイク?」
「最近の例でいうとネロが一番近いかな。イラスト性能共に一新、そしてパワーアップだ」
「な――! それは本当ですか!?」
ガバッと身を乗り出すマシュマロ後輩。セイバーウォーズの時もそうだったし、やっぱり悩んでるんだなあ。
「流石は先輩です。もうそのような情報をキャッチしていたとは! これで私も一軍復帰ですね!」
「いやいや、可能性の話だよ。個人的にそう思っているだけで、そうなると決まったわけじゃない」
「あ……そう、ですか。でも、どうしてそう思ったのですか?」
「そういう
「ある程度進めると……ということは、今すぐではないのですね。
いえ、それでも希望が持てました。ありがとうございます、先輩」
「それはよかった。
――で。話を戻すけど、マシュは蜜柑を選んだのか」
「はい。
……ちなみに、先輩だったらどちらを選びますか?
5000円で星5サーヴァントが当たるなら、普通は迷わずサーヴァントでしょうけど……」
「普通はそうかもね。でも、俺の場合は蜜柑だよ。
“星5サーヴァントに5000円以上の価値を見出せない”。
結局のところ、俺が未だに無課金である理由はこれに尽きるんだ」
もっとも、課金しなければ人理を救えない……具体的にはストーリーが進めない……なんて仕様になってしまったら、間違いなく課金するけどネ。想像したくないけど。
「では、アストルフォさんも?」
「まあね。しかもアストルフォは後々ストーリークリアで追加されるみたいだし、今後のイベントか何かでまたピックアップされる可能性もある。なら、その時に備えてのんびり石を集めるだけだ。“果報は寝て待て”って言うしね」
結局ピックアップやイベントなんてのは、集めた石を消費するためのきっかけに過ぎない。望んだサーヴァントを召喚できなかったとしても、新しい仲間であれば誰であれ歓迎できるのだ。
……だからこそ、今回は失敗だったと言える。
「はぁ……やっぱり石、使うんじゃなかった」
「だから止めたじゃないですか。結果を受け止めてください。そして反省してください。
先輩は負けたのです。“確率”という名の怪物に」
「――――はぁ」
重いため息を吐きつつ蜜柑を剥く。
……分かっているさ。今更マシュに言われるまでもない。ただ、熱に浮かされて忘れてただけ。
ガチャって、こういうものだったなあ。
個人的にこう思ってるだけで他意はないです。(二回目)