グランドオーダー無課金日記   作:YASUT

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アポクリファ知ってる方は、一回くらいは似たようなこと考えたことあるんじゃなかろーか……?


ジークフリート

 ――サーヴァントとマスターの能力は比例する。

 これは現存する全てのサーヴァントに言えることだ。マスターの能力が高ければ高いほど、サーヴァントは生前備わっていた能力を発揮できるようになる。

 ……そして、魔術回路を偶然持っていただけ、できることといえば礼装を起動することくらい。それらしい研鑽も修行も一切したことがない一般人のマスター性能が高いはずもなく。カルデアにいるサーヴァントは、その殆どが生前よりスペックダウンしている。

 その代表例が、彼である。

 

「すまない。ジークフリート。俺が未熟なばっかりに――まさか、宝具が一つ使えないなんて……」

 

 ステータスが数ランク下がった程度ならまだいい。英霊の象徴たる宝具、その内の一つが自分のせいで使えなくなっているのだ。本当に彼には頭が上がらない。

 

「どうか頭を上げてくれ、マスター。

 ……むしろ、謝るのはこちらの方だ。元々、俺はそう強力な英霊ではない。できることといえば竜を殺すこと。それが俺の唯一の長所であり見せ場だ。

 ……だというのに、今はそれができない。竜を殺せない竜殺し。それが今の俺の姿だ。……本当にすまない、マスター」

「いや、謝るべきはこっちだ。竜殺しくらいしかできない、なんて言ったけど、それは違う。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)、ジークフリート。御身は紛れもなくA級サーヴァント。たとえマスターが未熟であっても、それなりの力を持っているはずなんだ。

 その最たるものがその鎧。なのに……まるで機能していないなんて、あんまりじゃないか。それだけじゃない、剣の出力だってかなり落ちてるし、連射もできない。全部、全部マスターたる俺の責任なんだ!」

「それは違うぞマスター!

 貴方はよくやっている。オケアノスでの彼女……マシュの活躍を忘れたのか?

 確かに互角とは言えなかっただろう。それでも、始めはサーヴァント戦闘すらままならなかった彼女が、かの大英雄ヘラクレスと剣を交えたのだ。これはマシュ、そして貴方自身の成長を物語っている。

 ……だと言うのに、俺は、いつまでたっても――」

「違う、シークフリート! お前の真の力はこんなものじゃない!」

「それは貴方の買い被りだ! 中途半端に高く設定された体力、バランス調整のために引かれた攻撃力! そのくせ、スキルが優れているわけでもない。

 ……これが俺の現実だ。目を背けないでくれ、マスター」

「目を背けているのはお前だ! だってお前は……お前は、さぁ――……」

 

 なぜだろう、目頭が熱くなってきた。なんでだろう。なんでこんなに……ジークフリート君は恵まれないのだろう。こんな世の中間違ってる!

 

「あの。これ、いつまで続くんでしょうか」

 

 自分とジークフリートが懺悔大会で白熱する中、マシュは扉の前で呆れ返っていた。何か自分に用事があるのかもしれない。

 しかしそれは後回し。ここだけは絶対に引けない。それだけの理由がジークフリートにあるのだから。

 

「そういうことだ、マスター。いい加減俺の能力を理解してくれ。

 確かに俺は竜殺しの英霊かもしれない。だが……他のサーヴァントに比べれば、悪竜一匹葬る程度、大したことではなかったのだ」

「だから、それは――」

「ストップです、先輩」

 

 反論しようとしたところでマシュに止められた。

 甚だ遺憾である。何故ストップをかけられるのは自分なのか。どう考えてもこちらが正しいだろうに……!

 

「どうどう。落ち着いてください、先輩。

 このまま言い合っていても埓が明きません。順番に行きましょう、順番に」

「ああ。確かに、このままでは平行線だろう。こういう時、我々のマスターは頑なに引かないからな」

「当たり前だろう。強い英霊と弱い英霊がいるのは認める。でもジークフリート、貴方は間違いなく前者のはずだ」

「それが貴方の悪い癖だ。俺達のようなサーヴァントを活かそうとするあまり、ありもしない長所を捏造する。結果、目的と手段が逆転してしまい、ありえないはずの苦戦を強いられる。その証拠が、今の貴方の右手だ」

「それは……」

 

 右手の甲を確認する。ここには本来三画の令呪があるはずなのだが、今は一画もない。

 先日、とあるクエストでうっかりサーヴァントを全滅させてしまい、その時に全て使ったのだ。三画消費すれば、全てのサーヴァントを瀕死から復活させ、かつ魔力も充填させることができる。令呪は自分のサーヴァントを対象とした強制命令権だが、こうして強力なブーストをかけることもできるのだ。

 ……そう、言うなれば切り札。決して乱発していい代物ではない。令呪は恐ろしく貴重で、カルデアの設備を総動員しても、一画作るのに一日かかってしまう。

 

「……俺が命呪を使ったのは、判断を見誤ったからだ。全部マスターである俺のミスで、サーヴァントに罪はない」

「ここまで言ってまだ分からないか。

 いいだろう。ならば、ジークフリートという英霊の強さを証明してみせろ。その悉くを、俺は論破してみせる」

 

 何故か自信満々にジークフリートは言い放った。

 この貫禄、正しく英霊そのもの。竜殺しに相応しい度胸である。えらく後ろ向きではあるが。

 というかなんだこれ。マスターである自分がジークフリートの強さを証明し、ジークフリート自身は自分の弱さを証明しようとしている。普通逆じゃなかろうか?

 随分とおかしなノリになってきたが、ここで引き下がってやれるほど自分は寛容じゃないし、器用でもない。ジークフリートという英霊の強さを、ほかならぬ本人に認めさせてやる……!

 

「はい、というわけで先輩の先行です。ジークフリートさんの強さを証明してください」

「ああ、もちろん」

 

 英霊の長所なんて数え切れないほどある。それはスキルであったりステータスであったりと多種多様だ。けれどやはり、一番分かりやすいのは宝具だろう。特に、ジークフリートの場合は。

 

「ジークフリートの強み。それは宝具にある!」

「“幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)”のことか」

「それもだけど、もう一つあっただろう?

 ――“悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)”。つまりは、ジークフリートの肉体そのものだ」

 

 “悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)”は、悪竜の血を浴びた逸話を具現化した宝具である。

 Bランク相当のあらゆる攻撃を無効化し、Aランク以上の攻撃はBランク分の数値を差し引いたダメージとなる。

 つまりは、並大抵の斬撃・打撃・刺突は彼にとって痛くも痒くもない。相手がAランク以上の攻撃手段を持っていなければ、小細工なしの真っ向勝負でほぼ確実に勝てるのだ。

 単純にして強力。それがジークフリートである。

 

「いいでしょうか、先輩」

「うん? 何、マシュ」

「ジークフリートさんの鎧は確かに凄いのですけど、弱点もあります」

「弱点?」

「背中です。彼の鎧はどちらかというと呪いの類です。いかに強力な防御でも、彼は背中を隠すことはできず、常に外に晒さなければなりません」

「ああ、うん。確かに、時代が時代なら日常生活は難しいだろうね」

 

 住む地域・時代・文化にもよるけど、背中だけ丸出しになってしまうのはやはり痛い。違和感なく背中を晒せる服なんて、自分には全く心当たりがない。隠密行動の評価は下の下だろう。

 

「いえ、確かにそうかもしれませんけど、そういうことではなく。

 ジークフリートさんの鎧は唯一、背中だけが守れないのです。それに治癒も困難。奇襲を受けて、背中に傷を負ってしまったら大変です」

「なんだ、そういう意味か。大丈夫だよマシュ。弱点には間違いないけど、ある意味では弱点じゃないから」

「? 弱点じゃない、とは?」

「うーん……そうだね、例えばだけど――……あ、マシュの背中に黒髭が――」

「っ――!」

 

 電光石火だった。敏捷Dが詐欺に思えるほどに。

 “くろ”のあたりでマシュは瞬時に翻し、その場から離脱。巨大な盾を出現させて戦闘態勢に入ったのだった。

 マシュは部屋全体を見回し、危険(黒ひげ)がないことを確認する。その後、熱い抗議の視線を向けてきた。

 

「…………先輩。そういうのはよくないと思います」

「悪かった。でも、これで分かっただろ? 誰にとっても背中は弱点なんだ。大体、剣士(セイバー)であるジークフリートの背後をとるなんて、正攻法ではまず不可能。“悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)”の弱点は、弱点として機能してないんだよ」

「よくわかりました。でも、こういうのはこれっきりにしてください」

「あはは、悪かったって」

 

 どうやらマシュは本気で嫌がっているようだ。正直な話、いたずらごころがくすぐられる。

 とはいえ、嫌われてしまっては本末転倒。これからは自重することにしよう。

 

「と、まあそういうわけだ、ジークフリート。もう一つの宝具、“幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)”に関しては言うまでもないかな。魔剣や聖剣の類は、それだけでも十分強力だからね。具体的な性能や優劣はともかく、強いことだけは間違いない」

「そうか。しかし残念だがマスター、肝心の鎧は今発動していない。具体的には実装されていない。よって、その証明は無効だ」

「――――…………。

 ……すまない、ジークフリート。俺が未熟なばっかりに。まさか、宝具が一つ使えないなんて」

「いや、そんなことはない。貴方はよくやっている。どうか頭を上げてくれ」

 

 ガクリと膝を折り、手をつく自分。

 肩に手を置き、慰めるジークフリート。

 

「なるほど。こうして冒頭に戻るわけですね。

 ……あ、本借りていきますね」

「あ、はい。どうぞ」

 

 そして、呆れつつも退出していくマシュマロ後輩。

 ああ――今日も、カルデアは平和です。

 

 

 ◆

 

 

「いやいや、誤魔化されないぞ! ジークフリートは強い! 俺のサーヴァントは最強なんだ!」

 

 右手でガッツポーズを作り、堂々と宣言する。

 そう、ジークフリートは強い。強いはずなのだ! 設定では!

 

「ではマスター。貴方は普段、俺をどう使っている? どのような礼装を装備させている?」

「ジークフリートは耐久型のステータスだから、どうしても攻撃力は不足気味なんだ。だから、開き直って“鋼の鍛錬”で防御に特化させたり、“ハロウィン・プチデビル”で宝具の回転力を上げたり、“リミテッド・ゼロオーバー”で足りない攻撃力を補強したり。まあ、色々かな」

「なるほど。しかし、それは他のサーヴァントに装備させたほうがいいのではないか?」

「他の?」

「カルデアにはシュヴァリエのサーヴァントがいただろう?」

「デオンのことか?」

「そうだ。彼……いや、彼女? む、どう呼べばいいのか。ともかく、そのシュヴァリエに“鋼の鍛錬”をつけてみたらどうか」

 

 礼装“鋼の鍛錬”は、装備したサーヴァントの防御力を15%上昇させる。これにデオンのスキルが組み合わされば――

 

「……素晴らしい壁役(タンク)になりますね」

「では次だ。赤いセイバーがいただろう? 女性の方だ」

「……ネロか」

「そう。彼女もまた耐久型のセイバーだ。特に三つ目のスキル――“三度洛陽を迎えても”は恐るべき粘り強さだ。彼女に殿を任せるマスターも多いと聞く。

 そして、宝具はARTS属性。発動後に攻撃を繋げれば、次に備えてNPを稼ぐことも出来る。そんな彼女に、この“ハロウィン・プチデビル”を装備させると?」

 

 礼装“ハロウィン・プチデビル”。戦闘開始時点でNPが半分チャージされ、NPの上昇率も上げる礼装――

 

「……ますます宝具の回転力が上がるね」

「ああ。BUSTER属性の俺ではとても真似できない。

 そして、これが最後だ。黒く染まった騎士王がいただろう? 彼女に“リミテッド・ゼロオーバー”を装備させると?」

「……超火力のセイバーが誕生するね」

「その通りだ。彼女自身の“魔力放出”スキル、さらにマスターが礼装で補助すれば、聖剣は更なる破壊力を得るだろう。これほどのシナジー、流石と言う他ない。まあ、彼女達の相性が悪いはずもなかったか」

「……そう、だったね」

 

 感じる。心が折れていく。

 甘い幻想は打ち砕かれ、苦い現実が迫ってくる。

 

「さて、マスター。最後に言うべきことはあるか?」

「っ――!」

 

 それでも。それでも、認めたくはなかった。

 何かあるはずなのだ。彼を活かす方法が。彼にしか持ち得ない特性が。

 確かに、ジークフリートという英霊は最強ではない。最強でない以上、パーティーでメインを張れることはない。最上級(星5)の霊器を貰えなかった時点で、この事実はとうの昔に確定している。

 それでも。それでも、それでも――!

 

 ――ふと、脳裏に蘇った。

 オガワハイム。あれは、何号室での出来事だったか。

 トカゲの尾。正気を失った瞳。絶望しか感じなかった、悲痛の叫びを。

 

 ジークフリートは竜殺しの剣士(セイバー)。ならば、彼にできることは――やはり、竜を殺すことなのだ。

 

「……ジークフリート。見つけたぞ、お前の役割(ロール)を。

 自分は竜殺し。できることといえば、竜を殺すくらい……前に、お前はそう言ったな?」

「ああ。しかし、それは――」

「なら、竜が作ったものだって殺せるよね?」

「? すまない、マスター。意味がよくわからない」

「ダ・ヴィンチちゃんから極秘で依頼が来てるんだ。ゴーレムクッキー、一緒に食べようZE?」

「――――」

 

 ピタリ、とジークフリートは無言で硬直した。

 ……やはり知っていたのか、ゴーレムクッキー。曰く、ゴーレムを団子状にコネコネしてクッキーにしてみた、とかなんとか。

 それにきっと、ブツはクッキーだけじゃないだろう。モナリザが溶けたとか言ってたし。

 

「さあ逝こうジーク君!」

「待て、待つんだマスター! 正気なのか!? 貴方は自ら地獄の門を潜ろうとしている……!」

「サーヴァントだけに業を背負わせるわけにはいかないからネ!

 というかむしろ助けてくれ! ダ・ヴィンチちゃんが逝っちゃったら、次のターゲットは間違いなく俺なんだ! マスターだから!」

「くっ――!

 ……マスター、食べないという選択肢は?」

「ないネ! とゆーか無理だネ、くそう!」

「くっ……了解した」

「おお、流石はジークフリート! 頼まれたら断れない系サーヴァント! 本当にありがとうございます!」

「これもマスターのためだからな。今この瞬間だけ、俺は貴方だけの“まるごしジークくん”となろう……!」

 

 ◆

 

 数時間後、ダ・ヴィンチルームに残されていたのは力尽きた一組の主従とダ・ヴィンチちゃん。

 そして、それらを一身に介抱するデミサーヴァントだけだった。

 




ハロウィンエリザ、ノッブ、サンタオルタ、セイバーリリィ、そして両儀式。これにフレンドを加えると……配布サーヴァントパーティーの完成だぜ! 
キャスター、アーチャー、ライダー、セイバー、アサシンと来たから、あとはランサーとバーサーカーだな!(現実逃避)

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