グランドオーダー無課金日記   作:YASUT

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自己顕示欲が変な方向に暴走したらしい。


種火集め

「これより世界は一変する」

「――はい?」

 

 “突然何を言い出すのだろう、この人は”

 そう言わんばかりにマシュは疑問符を浮かべた。

 確かに、その気持ちは分からんでもない。マイルームに用意されたこたつで主従仲良くお茶を啜っていたら、いきなり真顔で意味不明なことを宣言されたのだから。

 だが言わねばならぬ。たとえその、奇異なものを見る視線が痛くても!

 

「先輩……先輩?」

「……ん。何?」

「先輩、どうかしましたか? 急に変なことを言い出したかと思えば、ボーっとして」

「いや、なんでもな――……くはないか。

 マシュ。話の前に、一つ質問がある」

「はい、なんでしょうか」

「マシュはさ……コラボって知ってるか?」

「――――え?」

「そう、コラボだ。グランドオーダーの初コラボが決まったぞ。相手は“空の境界”というらしい」

「……えっ。え、え?」

 

 マシュは、何を言っているのか分からない、という体で混乱している……かのように見える。

 だが実際は違う。彼女の混乱の元は決してそこではない。

 

 ――唐突なメタ発言に困惑しているのだ。

 そういうことを言ってしまっていいのか、触れてしまっていいのか。世界観を壊してしまうのではないか、と。

 結論から言うと、全く問題ない。ここは既に()()()()世界だ。

 

「先輩!」

「案ずるなマシュ後輩。世界は既に一変した」

「過去形!? 何があったんですか!? この短い時間に一体何が!?」

「む、文章だから分かりづらいのか。では簡潔に告げよう。この世界は一度滅び、再生した」

「ほろっ……!? では、特異点は! 人理はどうなったんですか!?」

「さて次の質問だ」

「その前に私の質問に答えてください!」

「マシュ。お前は“タイころ時空”なるものを知っているか?」

「――……なるほど。理解しました」

「それは何より。そう気構えるな。気楽に、緩くいこう」

 

 

 ◆

 

 

「とりあえず、まずは自己紹介からしておこう。もう知ってると思うけど、念のためね。

 自分の名前は“ぐだお”。偶然マスター適正を持っていた暫定一般人だ。魔術の知識も技術も一切ないけど……マシュ。一応は君のマスターだ」

「……質問、よろしいでしょうか」

「どうぞ」

「はい。先輩、貴方の名前は■■■■です。断じて“ぐだお”などという名前では――え?」

 

 マシュは自身が発した声に驚き、口を押さえた。

 口の次は喉を。噛み締めるように自分(ワタシ)の名前を呟く。

 しかし、それらは音にならない。どうも、名前を呼ぼうとした瞬間ノイズが走り、決して聞き取れないよう妨害されてしまっているらしい。

 

「――名前を失ったのだな。君も」

 

 そうため息を漏らしつつマイルームに入ってきたのは、紅い外套を纏った白髪の男。

 クラスはアーチャー。真名はエミヤ。

 Fate界の古株であり、ギャグ・シリアス共にこなせるオールラウンダー。あちこちのストーリーで引っ張り凧な人気者である。

 

「地の文のつもりだろうが、聞こえているぞマスター」

「でも事実じゃないか。“ぐだぐだ本能寺”に“ほぼ週間サンタオルタさん”、“セイバーウォーズ”に先日のバレンタイン。Fate界の顔がセイバーなら、アーチャーは裏方だ。

 ――断言しよう。お前は、Fate界一都合のいい男だと」

「その言い方はあらぬ誤解を生むのでやめてほしいのだが」

「おっとこれは失礼。いやいや、アーチャー殿には実に感謝しているよ。配布以外の星4サーヴァントで宝具レベルが3なのはお前だけだ。うむ、いつも三枚のARTSで支えてくれてアリガトウ」

「感謝しているようには聞こえないのだが?」

「ただの私怨だ、気にするな」

 

 無論、感謝していないわけではない。このカルデアで最も早く最終再臨させたのは、他でもないアーチャー(エミヤ)なのだ。

 初めての再臨は嬉しかったし、そのこと自体に悔いはない。悔いはないのだが――宝具レベルは3だ。つまりはダブったのだ。いや、宝具レベルが上がれば相応に恩恵もあるのだが……個人的には、新規サーヴァントが欲しかった。

 

「……それで、エミヤ先輩。先ほどの“名前を失った”とはどういう意味でしょう?」

「ああ。主人公――つまりはそこで項垂れているマスターのことだが、彼の名前はプレイヤーによって違うだろう? EXTRAの主人公と違って、彼にはデフォルトネームがない。そのための配慮が先ほどのノイズだ。この世界にいる限り、彼の本当の名前を呼ぶことはできない。我々サーヴァントは彼のことを“マスター”か“ぐだお”と呼ぶ他ないわけだ」

「……そう、ですか」

「何、そう悲観することはない。無銘の私からすれば、名前など大した問題ではないさ。君たち二人は確かにここにあり、こうして今を共に生きている。それで十分だとも」

「……はい」

 

 

 ◆

 

 

 時は来た。こたつに突っ伏していた上半身を勢いよく起き上げ、虚ろな自分の目を覚ます。

 

「――さーてと! APも回復したことだし、種火を集めに行くか」

「カルデアゲートですね。林檎は必要ですか?」

「いや、いい。今は貯蓄の時だ」

「貯蓄、ですか……」

 

 マシュは手元の端末で林檎の残数を確認する。

 “黄金の林檎”……自身のAPを全回復させるアイテムのことだ。外見は名前通り金ピカな林檎。これをアーチャー・アタランテとの徒競走で使えば勝利確定だろう。まあ、そもそも召喚できていないので徒競走も何もないのだが。

 さてそれはともかく、我がカルデアの林檎の残数はざっと四十。適当なクエストをマラソンするだけで一日潰せる量だ。正直、どうしてこんなに余っているのか不思議でならない。いくらなんでも貰いすぎな気がする。

 

「先輩、林檎は十分余っていますよ? 貯蓄はもう必要ないのでは? 使う勇気がないのでしたら、ネロさんを呼んできましょうか?」

「駄目。赤セイバー……ネロを呼ぶと全部使ってしまいかねない。コラボイベントも控えているし、今は我慢の時だ」

「四十個ありますけど?」

「我慢の時だ」

 

 念を押すようにマシュを言い負かす。

 確かに彼女の言うことにも一理ある。四十個もあるのだから、調子に乗って一つや二つ無駄にしても全く問題ない。

 しかしそれはそれで悔しい。迷ったらとりあえずチャージ。それが無課金マスターのポリシーである。

 

「……先輩がそこまで言うのなら、止めませんけど」

「ありがとう。じゃあ行ってくる」

 

 マシュに留守を任せ、マイルームを後にした。

 彼女は盾のサーヴァントだ。その特性上、種火の周回・クエストのマラソンに向いていない。だから、基本的にはこうしてパーティーから外し、マイルームを留守番させている。

 このカルデアには曲者サーヴァントが勢揃いなのだ。目を離した隙に愛しのマイルームが魔改造されていてもおかしくない。些細なトラブルから味方同士でサーヴァント戦闘が始まることだってあるのだ。

 

「……さて、と」

 

 種火の周回とは、言うなれば殲滅戦だ。格下の敵を一方的に蹴散らす、ただそれだけ。

 だが、何事にも向き不向きがある。今回の場合は、防御を得意とする最上級(SSR)サーヴァントより、敵全体を攻撃できる上級(SR)サーヴァントの方が優先される。

 

「ということは、私の出番かな?」

「うん? んー……」

 

 背後から自信満々に名乗り上げたのはやはりアーチャー。すなわちエミヤさんだった。どうやらついてきていたらしい。

 彼はアーチャークラスでも破格で、自前のARTSを三枚持っている。単体では決して強いと言えないが、パーティー全体のNP稼ぎ要因として優秀だ。

 加えて宝具の“無限の剣製”は、BUSTER属性の全体攻撃。こちらは記念礼装“アニバーサリー・ブロンド”と噛み合い、敵の殲滅に適している。

 けど、もっと適している方がいるんだな、これが。

 

「そうだなあ……アーチャーは今回ベンチで頼む」

「……納得のいく説明を頼む」

「分かった。今呼ぶから」

「呼ぶ?」

 

 一呼吸置いたあと、片手をメガホンにしてその名を叫ぶ。

 ここはカルデア内の廊下。それでも彼女なら、きっと届く。

 

「サンタさーん!」

「待たせたなトナカイ! 寒空の夜を駆ける悪のサンタクロース、サンタオルタが参上した!」

 

 タイムラグゼロ。実はずっと後ろにいた、などと言われてもうっかり信じる速さだ。

 現れたのは背丈150前後の少女。彼女こそ我がカルデアにおける第二のアルトリア。黒いミニスカ衣装を纏い、巨大なプレゼント袋と聖剣を手に、子供達にコレジャナイ系プレゼントを配るヒーローである。

 クラスはライダー。騎乗する物は当然ソリ、そしてトナカイだ。なにせサンタなのだから。

 とはいっても、ライダーらしくソリで相手をひき殺す、なんてことはない。普通に聖剣で斬りかかり、普通にプレゼント袋で殴る。

 そんな彼女の宝具は“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”。なんの捻りもない宝具ではあるが、彼女自身の“魔力放出”スキルと相まって、その破壊力は恐ろしいの一言に尽きる。

 時たま“たかが配布サーヴァントがここまで強くていいのだろうか?”などとボヤきたくなる。いや、とてもありがたいのだけども。

 

「長い説明ご苦労。して要件はなんだ。今夜も種火狩りか?」

「うん。悪いけど、よろしく頼む」

「気にするな、私はサンタだからな。たが、少しばかり分け前をもらうぞ。来年のクリスマスに備えて、今のうちにプレゼントを補充しておかねば」

 

 二つ返事でOKを出すライダーことサンタオルタさん。

 来年のクリスマスイベントに彼女の出番があるのか、そもそもイベント自体あるのか疑問だが、そこはそれ。彼女には感謝してもしきれない。

 

「マスター、質問があるのだが」

 

 アーチャーはライダーに聞こえないよう、自分に耳打ちする。

 

「先ほど彼女は“今夜も”と言ったな。あれはどういう意味だ? いつも彼女と一緒に種火を集めているのか?」

「相手がアサシンの時以外はね。不満なのか?」

「いや、彼女なら納得だ。しかし、そうなると他は誰になる? 彼女の聖剣を十全に活かすのならば、やはりARTS三枚の私が適任ではないかね? 宝具もお互いBUSTER属性。彼女のスキル“聖者の贈り物”は、私の“千里眼”とも噛み合っている。メインになれないのは納得したが、ベンチに下がるほどではないはずだ」

「あ……そうか。そういえばそうだったなぁ」

 

 考えてみればこの二人、相性はそれなりにいいのだ。スキルにカード構成、宝具の属性等等。勿論趣味パーティーの域を出てないし、有無を言わさず仲良くドラゴンに吹っ飛ばされる時もあるのだが、そこはご愛嬌だ。

 

「まあいいか。ならアーチャーは今回もスタメンで。

 ……となると、残り一騎は誰にするか」

「無難にバーサーカークラスか、相性を考えてエリザベートか。ああ、エリザベートと言ってもハロウィンの方だが」

「バーサーカー……ああ、そうだ。アーチャー、ついてきてくれ。紹介したいサーヴァントがいる」

 

 

 ◆

 

 

 狐耳とメイド服。両手両足に装着された手袋。キャラがブレブレなことにブレない、とは本人の弁だ。

 

「ご主人! 狩りの時間か、そうなのだな!?」

「そうだぞー。カルデアゲートに集合だー」

「相分かった。先に待っているぞご主人!」

 

 ぴょーん、とバーサーカーは一足先にゲートへ向かった。

 

「……それで、彼女は?」

「新顔のタマモキャットだ。

 タマモキャット、アルトリア、エミヤ。今回はこの三人で行こうと思う。

 アーチャー、感想を聞かせてくれ。懐かしい顔勢揃いだぞ」

「中身は別人――でも、ないのか。顔が広いのも考えものだな。

 ……そういえばマスター、オリジナルの方は見当たらないが」

「無課金マスター風情が星5サーヴァントをホイホイ引ける訳無いだろう」

「……それもそうか。しかし、彼女はいつからここに?」

「先日、バレンタインのキャンペーンガチャがあったろ? その時に召喚した」

 

 バレンタインのキャンペーンガチャ。新しく実装された星5サーヴァント“ネロ・ブライド”を主役とし、日替わりでピックアップが変わるガチャだ。

 無料で配布される聖晶石を溜め続け、このガチャであらかた消費した。その結果の一人が彼女、バーサーカー・タマモキャットである。

 

「どれ……ほう、レベルは既に80、最終再臨済みか。何故メイド服なのだ?」

「個人の趣味。実のところ、裸エプロンはあまり好きじゃない。

 ……まあ、その、なんだ。見えすぎると、逆にな?」

「なるほど。君はそういう嗜好か」

 

 

 ◆

 

 

「というわけでドクター。ゲートの準備お願いします」

「はいはい、任せてー。

 でも、サーヴァントの育成も随分楽になったよねぇ。林檎食べて育成クエスト回ればいいんだから」

「そうですね。初期の頃は……あれ、どうでしたっけ?」

「……あれ、どうだったっけ。苦しかったのは礼装だっけ……いや、今でも苦しいけど」

「いえ、礼装は15くらいまでならなんとか。フレンドポイント燃やせばいいだけですから。面倒ですけど」

「まだかトナカイ。既に準備はできている。いつでもいけるぞ」

「おっと、ごめん」

 

 ライダーの催促を受けハッとする。こちらから頼んでおいて待たせるのはマズイ。

 

「では、お願いします」

「了解。それじゃあ頑張って」

 

 ゲートを起動した瞬間、レイシフトが開始される。

 視界が暗転し、上下左右の感覚が消え、ここではない何処かに吸い寄せられる。

 何度も経験したレイシフトの感覚――

 

 ――気が付くと、見慣れた草原が目の前に広がっていた。

 同時にエネミー複数発生。腕だけの魔物が群れを成し、ジリジリと詰め寄ってくる。

 

「むっふっふー。今宵の爪は血に飢えている。狩らせてもらうぞ、貴様等の魂を!」

「邪魔だ猫。聖剣で焼かれたくなければ引っ込め。ここは永遠に私の独壇場だ。今後どれほど強力なサーヴァントが実装されようと、無課金トナカイでは引けないだろうからな。

 トナカイが足となり、サンタが道を切り開く。その道を、後から星5サーヴァント達が続いていく。

 ふっ、我ながら理想的な主従関係だ。最強ではないが、最優なのは間違いない。サーヴァント界真の当たりクラスは騎兵(ライダー)と知れ」

「クラスなぞ狂戦士以外飾りに過ぎぬ。キャットの宝具は全体攻撃、殲滅能力は負けていない。加えてクラスはバーサーカーときた。通常攻撃の威力はこちらが上なのだな。そういうわけで、この狩場は今日からアタシが頂く――!」

「なにを――! させるか!」

 

 サーヴァント二騎はその身を弾丸に変え、魔物の群れに突撃する。

 剣をひと振り、あるいは爪をひと振りする度に魔物は一掃され、草原の緑が露わになっていく。

 

「……まあ、そういうわけで、アーチャーはフォローよろしく」

「はぁ……やれやれ」

 

 ――蹂躙が、始まる。

 

 




ソシャゲにインフレは付き物。今は愛用しているこの三騎も、いずれは指さされてハズレ扱いされるんだろうな。
いや、もしかしたら現在進行形でされてるかもしれない。

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