京勇樹の予告短編集   作:京勇樹

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FORTUNEARTERIAL 緋色の運命

「ごめんなさい……吉井くん……なるべく、早く済ませるから……」

 

彼女は、赤い目を光らせながら申し訳なさそうにそう言った。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

『次は、終点珠津島。珠津島です』

 

車内アナウンスの声を聞いて、僕は目を覚ました。

 

「珠津島か……懐かしい……」

 

僕、吉井明久は親元を離れて一人で珠津島に向かっていた。

僕の両親は橋の建設に関わっていて、姉もそれに携わっていた。その影響で、僕は物心付いた時から転校を繰り返してきた。短いと半年、長くて約9ヶ月位で日本各地を転々としては、橋を作っていた。

そして少し前に、海外から橋の建設を依頼されて、父さん達は向かうことにしたのだが、僕は一人残ることにした。

そして、住む場所として選んだのは、かつて父さん達が橋を建設した珠津島だった。

なぜ珠津島なのかと言えば、この珠津島にある学校。修智館学院は全寮制なのだ。

今までは会社側が用意した賃貸に住んできた為に、住む場所が無い僕には、全寮制というのはありがたかった。

それに珠津島には、他の場所よりも繋がりの強い知人が居た。居たというのは、ある理由で少しばかり距離が出来てしまったからだ。

しかしそれでも、他の場所よりかは良い所だ。だから、珠津島を選んだ。

そして僕は、両親が建設に携わった橋を渡り終えた電車から降りて、駅を出た。

見えたのは、明久の記憶からしても大分発展した珠津島だった。

 

「うわぁ……昔から、大分変わってる……」

 

明久が居たのは、小学校2年生位の時だったが、その時はまさしく田舎の島という感じだった。

しかし今は、少し大きな駅前と遜色無い位になっている。駅前には某有名なファーストフード店と喫茶店が建ち、商店街もかなりの賑わいだ。

昔は寂れた島という感じで、港に多少の個人経営の小さなお店が有った位だった。

 

(変わったなぁ……)

 

明久はそう思いながら、リュックから地図を取り出して

 

「えっと……あっちか……」

 

と地図を頼りに、歩き始めた

近くのバス停から目的地付近に行くバスに乗り、揺られること数分。駅から少し山に入り、大きな門の前で降りた。すると、白衣を着た白髪が特徴の男性が明久に気付き

 

「君が、転校生の吉井君だね?」

 

と明久に問い掛けてきた。

 

「あ、はい。僕が吉井明久です」

 

「ん、私は教師の青砥正則(あおとまさのり)。好きに呼んでくれ、吉井君」

 

柔らかい雰囲気の男性で、明久は親しみ易そうな先生だな、と思った。

 

「それじゃあ、今日から君が住むことになる寮に案内するから、着いてきてくれ」

 

「はい、わかりました」

 

青砥の先導に、明久は着いていった。歴史を感じる門を過ぎると、森のアーチの中を進んでいく。

 

「……空気が澄んでますね……」

 

「そうだな。私も、ここの雰囲気は好きだよ。ただまあ、ここの森はかなり広いから迷うと厄介だから、気を付けてくれな」

 

明久の言葉を聞いて、青砥はそう返した。

確かに、かなり広そうだから、迷ったら大変そうである。門から数分歩いていると、開けた場所に出て、白い大きな建物が見えた。

五階建ての大きな建物だった。

 

「ここが、修智館学院の寮。白鳳(はくほう)寮だ……1階は共通フロアで玄関になっていて、2階と3階が男子寮。4階と5階が女子寮。地下にそれぞれ、男子用と女子用の大浴場がある。これが、入口と部屋の鍵だ。無くさないでくれよ? 無くしたら、新しく作るのに千円取るからな。それと、私が男子寮の寮監だ」

 

青砥はそう言って、明久に2つの鍵が纏まったキーホルダーを差し出した。その時、青砥が

 

「お、丁度良いところに……八幡平!」

 

と寮の方を見て、声を上げた。視線を向けると、私服姿の男子が一人居た。その男子は振り向くと、少し気だるげそうな様子で

 

「なんすか?」

 

と首を傾げた。

 

「すまんが、転校生の吉井君を部屋まで案内してくれないか? 私は、少し職員室に行かないといけないから……吉井君、彼は生徒の八幡平司(はちまんだいらつかさ)。八幡平、こっちは吉井明久だ」

 

青砥が明久を紹介すると、司は

 

「よろしく」

 

「よろしくね」

 

二人が握手すると、青砥は片手を上げて

 

「それじゃあ、八幡平。後は頼んだぞ」

 

と言って、今来たのとは別の道に進んでいった。どうやら、そちらが校舎への道らしい。

青砥を見送ってから、明久は

 

「えっと、八幡平君……」

 

「司」

 

明久が驚いていると、司は

 

「司でいい。名字長いから、呼び難いだろ。代わりに、俺も明久って呼ぶぞ」

 

「うん、わかった。司。これから、よろしくね」

 

「おう、明久」

 

そうして明久と司は、再び握手した。

これが、明久の緋色の運命(フォーチュンアテリアル)の始まりだった。


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