「はあ……」
短く切られた赤い髪が活発な印象を周囲に与える美少女、
その理由が、最近胸の内にポッカリと空いた空虚感。その原因が分かっていれば、まだ解決の方法はあっただろう。しかし、その理由が分からない。
「何か、大切なことを忘れてる……それは確かなのよ……」
カレンはそう言いながら、ある建物に入った。
そこは、彼女が所属している武装組織、黒の騎士団の研究セクション。
そこでは、日夜新兵器や新武装の研究が行われている。
その研究セクションの、とある一角。そこには、様々な機体が置かれてある。
もちろんそこには、自分の愛機だった紅蓮弐式の原型機もだ。
その紅蓮弐式の隣には、蒼く塗装された一機のKMF
月下先行試作型が置かれてあった。
その機体は、気づけば紅蓮弐式と共に格納庫にあった。
一度はカレンの機体の予備部品用にと、分解された。
しかし、開発者であるラクシャータの気紛れか、いつの間にか元の姿に戻されていた。
そのラクシャータ曰く、その月下先行試作型はかなりピーキーな仕様になっていて、カレンですらマトモに動かすことが出来なかった。
だが、その機体には凄まじいデータが有った。
そのデータが、研究セクションの研究者達に大いに刺激を与え、様々な機体が作られた。
今の黒の騎士団の主力機として配備されている暁と、その隊長仕様機の暁直参仕様。
そして、ある人物専用機として作られた斬月。
それらは、その月下先行試作型の運用データから作られた後継機にして、簡易仕様と呼べる。
勿論、後継機なのだから性能は暁や暁直参仕様、斬月のほうが上だ。
しかし、シミュレーションデータではだが、その月下先行試作型は負け無しだった。
それを可能としたのは、秒間15回という驚異的な早さで入力されるコマンドで、それにより、攻撃がまるですり抜けるように当たらず、一般兵では秒殺。
隊長格でも撃破され、斬月のパイロットも勝てなかった。
カレンも紅蓮弐式のデータで挑んだが、勝てなかった。
まるで、自分の動きが読まれているようだった。
それにより、一般兵からは蒼き亡霊と呼ばれ、一部隊長格からも蒼き風と呼ばれた。
「……誰だったんだろう……会いたいな……」
とカレンが呟いた、その直後
「会いたいか?」
と懐かしい声が聞こえた。
弾かれるように振り向けば、入り口付近に長い緑色の髪が特徴の魔女が居た。
かつて、黒の騎士団の総帥であったゼロ
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの共犯者にして、不老不死の魔女
「C・C!? あんた、帰ってきてたの!?」
C・Cは最終決戦後、行方を眩ませていた。
そのC・Cがいつの間にか、日本に帰ってきていた。
そのことに、カレンは驚いていた。
「会いたいか……その機体のパイロットに……」
「……知ってるの?」
C・Cの言葉を聞いて、カレンはそう問い掛けた。
するとC・Cは、ニヤリと笑みを浮かべて
「ああ……あいつとお前は、黒の騎士団の双璧と呼ばれていたぞ……ゼロの親衛隊長のカレン。その補佐を担い、戦闘隊長として、参謀役も勤めていた」
と告げた。
その直後、カレンは激しい頭痛に襲われた。それと同時に脳裏に銀色の髪が見えた。
それに耐えたカレンは、C・Cを見つめて
「……何処に行けばいいの?」
と問い掛けた。するとC・Cは
「着いてこい」
と言って、歩き始めた。
どうせ、気になって学校に行く気すら起きない。ならば、着いていこう。
カレンはそう思い、C・Cを追った。
VTOLを借りて、日本本土から離れて、ある島へ向かった。
「ここは……」
「こっちだ……」
その島の名前は、神根島。
そこでカレンは、ゼロがルルーシュだと知った。
C・Cに促されて、カレンはC・Cに続いた。そして、巨大な洞窟の入り口にもう一人居た。
「あんた、ジェレミア!?」
「お久し振りにございます」
ジェレミア・ゴッドバルト、一時は共に肩を並べて戦った、忠義の騎士だ。
「さて、カレン……今から、お前に掛けられたギアスを解く」
「私に掛けられたギアス……ルルーシュの?」
C・Cの言葉に、カレンは首を傾げた。しかし、C・Cは首を振り
「いや……もう一人のギアスだ……」
C・Cがそう言った直後、ジェレミアの左目を覆うマスクのシャッターが動き、ジェレミアの左目のギアスキャンセラーが作動した。
その直後、カレンの脳裏に一気にある光景が蘇った。
一緒に記憶を探すために歩き、共に戦い、恋した少年のことを。
「……思い出した……ライ……!」
その少年、ライを思い出したカレンは、その両目から涙を流した。
何故忘れていたのか、その理由はギアス。
今なら分かる。世界の常識を外れた埒外の力。
ルルーシュも、その使い手だったのだから。
「会いたいか?」
「当たり前よ……」
カレンの答えを聞いたC・Cは、頷いてから最奥の半壊していた巨大な石扉に触れた。
その瞬間、洞窟奥にあった遺跡全体が光った。
そうして、足下のまるで鳥を彷彿させるマークが光り、遺跡が揺れら中央部分が開いた。
すると眩い光りが溢れたと思えば、その光りが徐々に人の形になっていく。
そして光りが収まると、カレンとしては見慣れた学校の制服を身に纏った一人の少年が、そこに立っていた。
カレン最愛の少年、蒼月ライが。
「……ん……」
「ライ!」
ライの姿を見たカレンは、ライに飛び付いた。
ライは一瞬倒れそうになるが、一二歩後退すると、即座に態勢を整えていた。
「カ……レン……?」
「ライ……ライ……!」
こうして、止まっていた歯車は動き出す。