京勇樹の予告短編集   作:京勇樹

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バカテスのクロスです


ログ・ホライズン 蒼き侍

「ふぅ……あ、インストール終わってるや」

 

お風呂から上がり、髪を拭いていた僕

 

吉井明久(よしいあきひさ)は、机の上にあるPCの画面を見て、そう言った

 

「ノウァスフィアの開墾……楽しみだなぁ」

 

ノウァスフィアの開墾

 

それは、僕がやってるMMORPG

 

エルダーテイルの12番目の拡張パックだ

 

エルダーテイルは30年の歴史を誇る、老舗のMMORPGだ

 

舞台が遥か未来の地球だっていうのも、僕としては面白かった

 

そして今日は、そのエルダーテイルの最新拡張パックが解禁となった日だった

 

僕はマウスを動かして、エルダーテイルを起動し、自分のキャラクターネームが書かれた部分をクリックした

 

この時はまだ、思いもしなかった

 

まさか、あんなことになるなんて……

 

明久sideEND

 

第三者side

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

蒼い侍鎧を身に纏い、腰に二本の刀を装備した少年

 

アキヒサは、指定された場所まで走っていた

 

別に、アキヒサが遅刻しているという訳ではない

 

ただ、アキヒサとしても走らずにはいられなかったのだ

 

その理由は……

 

「なんで……なんで僕は……アキバの街に居るんだ……っ!」

 

アキヒサが居るのが、アキヒサがプレイしているMMORPGのプレイヤータウンだからだ

 

プレイヤータウンとは言っても、街中には樹木が生い茂り、かつてのビルは倒壊したりしている

 

そんな街中では

 

「なんだよ、これ!? どうなってんだよ!」

 

「クッソ! GM出てこいよ!!」

 

「PCとキーボードはどこよ! 家に居たはずよ!」

 

といったように、至る所でプレイヤー達が絶望の声を上げている

 

その時、アキヒサの頭の中には

 

《アキヒサ! まだか!?》

 

男性の声が響いていた

 

「あと少しです!」

 

アキヒサは怒鳴るように返答すると、人波を縫って目的地に向けて走った

 

アキヒサが向かっているのは、アキバ郊外だった

 

そして、そこまでの道をアキヒサは熟知していた

 

「信じたくないけど……間違いなく、アキバの街だ……!」

 

アキヒサはそう言いながら、走り続けた

 

そして、ある曲がり角を抜けた先には、盾を持った男性とメガネを掛けた三白眼が特徴の男性が居た

 

二人はアキヒサに気づくと、それぞれ手を上げた

 

「シロエさん! 直継さん!」

 

その二人は、アキヒサにとっては昔馴染みだった

 

「よう! アキヒサ!」

 

「君も、巻き込まれてたんだね」

 

陽気な守護戦士(ガーディアン)直継(なおつぐ)と参謀役の付与術士(エンチャンター)のシロエ

 

この二人は、アキヒサの昔馴染みであり同時に、とても頼りになる人物達だった

 

「ったく……俺が居ない二年の間に、大分進化してるのな。エルダーテイル……」

 

直継はそう言うと、足下の石を拾い上げて見つめて

 

「……って、んなわけねぇわな……夢かっての……」

 

「これじゃあ、むしろVRですよ。直継さん」

 

アキヒサの言葉に、直継は頷くと

 

「で……何か知ってるなら、教えろよ。《腹黒メガネ》」

 

シロエを見ながら、シロエに与えられた(本人にとっては、大変不本意な)二つ名を呼んだ

 

「まさか……むしろ、僕が教えてほしいくらいだよ……」

 

シロエのその言葉に、直継はだよな。と言った

 

そして一拍置くと、三人は揃って川べりに座り込んで、同時に水で顔を洗った

 

「とりあえず、夢じゃあ、ない……っと」

 

「ですね……」

 

「うん……って言うか、人のマントで拭くの止めてくれる?」

 

三人がやったのは、いわゆる洗顔である

 

これが、夢なのかを確認したのである

 

だが、三人にわかったのは、今の状況が夢ではなく現実ということだった

 

三人は一回大きく深呼吸をすると、立ち上がって顔を見合わせて

 

「とりあえず、情報が欲しい。動こう」

 

「だな」

 

「はい!」

 

今現在の正確な情報が欲しかったので、立ち止まらずに動くことにした

 

(そうだ……立ち止まってたって、この状況が解決されるわけじゃない……だったら、動こう!)

 

心中でそう結論付けたアキヒサは、歩き出したシロエと直継の後を追い掛けた

 

そして、この日

 

MMORPGエルダーテイルの世界、エルデシアの日本サーバーだけで、推定三万人の冒険者(プレイヤー)達が、この世界に閉じ込められた

 

これは、このエルデシアにて、様々な困難な事件や戦いと、普段の営みをしていく冒険者達の物語

 

 


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