真・恋姫†無双〜李岳伝〜   作:ぽー

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第六十話 再会と亀裂

 李岳は騎馬隊を統合しつつ先頭を追っていた。

 十面埋伏の計は見事に袁紹軍を(あぎと)にくわえ込んだ。ぱっくりと口を開けた虎口に飛び込んだのだ、各将の働きも凄まじく戦果は岳の予想を上回った。討ち取った数は一万を超えるはずだ。捕虜も相当数いるはず。負傷者とてかなりのものである。

(『十面埋伏の計』の凄まじさ、恐れ入る)

 演義に記述がある。曹操と袁紹が華北の覇権を賭けて激突した最後の会戦である『倉亭の戦い』で用いられた兵法である。献策は程昱。曹操は夜襲を仕掛けあえて撤退。その退路に潜ませた十軍による挟撃で袁紹を完膚なきまでに討ち滅ぼした。

 演義は創作だが、李岳は今回その策を用い大勝を得た。十分に勝算があると見込んだが、策の威力と自軍の精強さをわずかに見誤っていた。予想を上回る戦果に唖然とするほどだった。

 戦と呼べるものは雁門以来なかった、白波谷も騎馬隊の出番はほとんどなかった。それでも虎の子として張遼を筆頭に鍛えに鍛えた李岳軍の『主砲』であるが……

「とんでもないな」

「何をおっしゃる。貴方が組織した軍団ですよ」

 合流した赫昭が答えた。

「そうなんだけどね、沙羅」

 袁紹軍を中心に編成されているであろう連合の追撃軍およそ八万、それを散々に蹴散らし逆に追い討っている。十面埋伏の陣が決まったからだが、それでも見事の一語。討ち取った兵の数は万を超えるだろう、負傷者とてかなりだ。袁紹軍は一から編成を見直さなくてはならなくなる。

「一万、か」

「はっ、なんでしょうか」

 岳のひとり言を赫昭は律儀に拾ったが、首を振って返答はしなかった。道すがら無残な死体が山ほどに打ち捨てられている。死の谷である。李岳が計略によって生み出した有り様である。胸が動悸し、李岳は酩酊と吐き気の中間をさまよった。

 死者の数に呆然とするのはまだ早い。絵図面を描いたのは俺だ、と李岳は沸き起ころうとする自らの罪悪感を押し殺そうとした。対等な条件だった、数をたのんで押し寄せた相手を罠にかけた。誇るべきことだろう。喧伝しよう、とも思った。これによって飛将軍の勇名は一層馳せ、それ自体が抑止力になる。良いことだ。とても良いことだった。

 ふと、道中に包囲された袁紹兵数百がいた。逃げ遅れたのだろう、郭祀に囲まれている。

「こりゃ、将軍」

「郭祀。何してる」

「無論、血祭りに」

 郭祀は包帯の奥で舌なめずりをしたが、李岳は馬鹿が、と怒りを覚えた。

「却下。捕虜にとる」

 郭祀は意外なことに口答えをしなかった。

「らしいど。命拾いしただな?」

 郭祀がほくそ笑んだ先には、偉丈夫と言っていい男がいた。袁紹軍の将であろう。太すぎず細すぎず、だが鍛えぬかれた体であることはひと目でわかる。もみ上げから伸びる顎ひげが印象深い。渋みのある美男子といえた。

「舐めるな! 我ら袁紹軍の誇りを弄ぶつもりか」

「貴殿は?」

「先に名乗ってみよ!」

「李岳です」

 貴様が、と男はうめき声を上げた。李岳の若年に驚いているのか、敵の大将が前線をうろうろしていることに驚いているのか。だが礼儀を失さぬ程度に居住まいを正すと真っ直ぐ述べた。

張恰(チョウコウ)と申す」※

「……袁紹軍麾下、ですね」

「左様」

 

 ――姓は張、名は恰。字は儁乂(シュンガイ)

 袁紹、曹操と時の有力者の元を渡り歩いた武人である。特に曹操からは、的確な戦略眼と用兵により最大限の信頼を得た。河北、荊州、涼州、対異民族、対呉、対蜀と、常に最前線を転戦し続け、魏の宿将として比類なき武功を叩きだした。諸葛亮が催した蜀漢による北伐を『街亭の戦い』にて阻止した名将として名高い。

 

(張恰……本物だろうな。この時期、既に袁紹に仕えているのか。冀州の生まれかな。だから袁紹の影響力の傘下にいるんだろう……さて、どうするか)

 李岳は馬を下り、投降を呼びかけた。

「我らは殺戮が目的ではない。趨勢は決した。貴殿らを捕虜として遇する用意が当方にはある。矛を収められよ」

「信用できぬ」

「我が父母と、我が先祖李陵、李広の名において誓おう」

 だが張恰は胸を張って李岳を睨みつけた。

「逆臣の誓いなど、何の根拠になろうか!」

 赫昭が武器を握って前に出た。張恰の言葉にいきり立っているのだろう、郭祀もまた嫌な笑みを浮かべた。張恰自身、ここで討ち死にするために挑発をしているのだろうと思えた。

 赫昭と郭祀を抑え、李岳は言った。

「将軍、今ここで死ぬのもよいでしょう。ですが今この場は足掻く局面というわけでもありますまい。そして、気にはしていませんが、人は戯言でやすやすと家族を誓いの代償になどしませんよ」

 黙りこむ張恰に、李岳は舌打ちを我慢した。譲歩はここまでだ。これ以上下手に出ることも立場上出来ない。

 命を助けてやろうというのになぜこうももたもた出来る? 捕虜にしたとて、解放することになるだろう。そうなればこの猛将は仕返しが恩返しとばかりにまた奮戦するに違いない。赫昭や徐晃が(たま)さか味方になってくれたといって、全員が全員そうなるとも毛頭信じてはいない。敵対やむなしならば生かしたところでこちらが危機に陥るだけ。殺すか? それが最も手間がないだろう――李岳が欲望にとらわれかけた時、張恰は兜を脱いでいた。

「……負傷している部下がいる」

「傷の度合いによるので保証はしませんが、治療も約束しましょう」

「助かる。先ほどの発言は撤回する。無礼をした。すまなかった」

 剣を放り投げ、張恰は神妙に手を組み合わせた。敵ながら見上げた迫力だ、と李岳は思った。堂に入っている。さすが名将である。同時に、死なずに済んで良かったな、と冷徹に思った。

「礼はいりませんよ。戦争ですから」

 再び深く頭を下げた張恰から目を離し、岳は赫昭を呼んだ。

「沙羅、君が責任者として捕虜の確保に当たってくれ。怪我人の手当もね」

「はっ」

「もう抵抗している敵兵は少ないはずだ、武器を奪って関に収容してくれ」

「捕虜、ですね」

「ああ、捕虜だ。いいか、李岳軍は規律を重んじる。武装解除に応じて縛についた者の安全を保証し、治療もする。虐待に及んだ者は処罰する。それを徹底させてくれ」

「……処罰とは具体的には」

「追放。誰であろうとこの命令の撤回はない」

 赫昭は緊張した面持ちで頷き、号令をかけて捕虜と負傷者の収容を指揮し始める。間違いなくこなすだろう。守備陣をまず組み始めたあたり周到だった。

「聞いたか郭祀。命令がある以上勝手は許さない」

「イッヒヒヒ」

「何を笑ってる」

「いんや。李岳将軍、ご自分がまずお気をつけあそばせ、だべ。お気づきでないようだで、お一つご忠告させていただきますだ。将軍、血にお酔いあそばせだな? 押し殺してらっしゃるが、鬼の顔じゃ!」

 郭祀は楽しそうに踊った。

「悪ぃごとでね、悪ぃごとでね! 楽しかろう、楽しかろう! 自分から酔っちまった方が何事も素直に楽しめるもんだべ。まんず、気を楽にもつことだべしゃ」

 郭祀もよく働いた、彼女もまた体を張ったのだ――そう思い込まねば李岳は彼女を張り飛ばしてしまいそうだった。血に酔っている? 楽しむ? 李岳は怒りを放り投げしまうために黒狐を急かし先を急いだ。だが、怒りはあまり長時間持続することはなかった。意外なまでにすぐ平静に戻ってしまい、物足りないという妙な気分になった。

 自らのかすかな変容に、李岳はまだ無自覚である。

 赫昭の代わりに徐晃が隣についている。ほとんど初めて戦に出たようなものだろうが、早駆けに息を荒らげているが気丈である。紫頭巾の小柄な少女は背に大斧を負ったまま岳の隣についている。

「大丈夫かい」

「え……あ、は、はい! すみません!」

「謝らなくていい。よく戦ってくれた、ありがとう」

 ブンブンブン、と首を振る徐晃に微笑んで李岳は進んだ。大勢殺した。これからも殺すだろう。だが死んだ味方もいるが生きた仲間もいる。その成果を今は喜ぼう――今日一日の決着をこれからつけてから。そして、これは断じて酔いなどではない。

 しばらく進むと、前方に追撃中の騎馬隊が押しとどめられているのが見えた。先頭だな、と岳は当たりをつけた。流石に強固な抵抗にあっているのか、袁紹軍とて無論弱兵ではない、陣地を形成して組織だった抵抗を行えば容易くは打ち破れないだろう。

 剣戟の音が聞こえた。李岳は喫驚した。張遼が戦っている。一騎打ちで、しかもまさか実力伯仲なのだ。その隣では華雄が長柄の武器を握った少女と力比べを行っていた。華雄の怪力に一歩も退かず、むしろ押し返してさえいる少女がいる。

 李岳は躊躇うことなく決闘に割って入り、声を上げた。その声に怒りが含まれていたことに気づいたのは何人いるだろうか。

「そこまで」

「そこまでです!」

 声は対面からも放たれた。

 李岳と同じように、戦いを止めようと進んできた人がいた。劉の旗。特に理由もなく、進み出でた少女の名を李岳は見ぬくことが出来た。

 

 ――劉玄徳。

 

 筵織りの貧しい家の生まれでありながら乱世において義侠によりて立ち、関羽、張飛の豪傑と義兄弟の契りを経て公孫賛、曹操、袁紹、呂布、陶謙、劉表といった群雄と時に結託し、時に離脱しながら乱世を生き延びた。

 諸葛亮という稀代の名軍師を得ればとうとう南荊を切り取り諸侯として天下の一角を支配した。続いて益州、漢中を制し、やがて蜀漢皇帝として登極することになった男――

(……いや、女、か)

 桃色の髪の少女である。面立ちは可愛らしく見目も鮮やかで、しかし凛とこちらを見据える瞳の強さは確かに英雄の気質を思わせる。たなびく劉の旗。李岳は彼女が名乗る前から彼女の正体を疑いさえしなかった。

(ということは)

 張遼と華雄に当たっていた武将は関羽と張飛に間違いないだろう。あわや、といったところか。

「なんで止めたんや、冬至!」

「李岳……これは武人の戦いだぞ!」

 張遼と華雄が岳を正面から睨み据えた。李岳は二人の申し立てを鼻で笑った。

「理由が必要かい?」

 岳は二人の目さえ見なかった。張遼の脳裏に撤退命令は絶対だ、という出陣前の李岳の言葉が蘇る。しかし武人として尋常ではない勝負に臨んでいるという自覚がある以上、簡単には(がえ)んじられなかった。

「こんな勝負、生涯に何度あるか……わかるやろ? やらせてくれ!」

「わからないな、死にたがりの気持ちなんて」

「うちは、うちは勝つ!」

「勝ち負けと生き死には関係ないよ……」

 うっ、と言葉につまって張遼はたじろいだ。李岳は、一人で戦い一人で死んでいった彼の母のことを思い出しながら話している。

「……ちゃう、すまん。冬至、そんなつもりとちゃうねん……ちゃうんや」

「引け。部隊を統率しろ」

 ぐっ、とうなだれた張遼は引き下がった。まだ食い下がろうとする華雄の腕を掴み後退する。左腕から血が流れ続けている。その傷は深くはないだろうが、この先の勝負はおそらくその程度の怪我に留まるはずもなく、凄惨なものになったはずだ。

 死合の相手を務めていた乙女に、李岳は真っ直ぐ相対した。徐晃他護衛たちがピタリと付いて離れない。

「関羽将軍ですね。お隣は張飛将軍」

「……我らの名前」

「どうしてわかったのだ!?」

「さて、なぜでしょう」

 微笑み、次に李岳は二人から劉備に目を移した。

「劉玄徳殿ですね」

「はい。貴女が李信達さん?」

 李岳は頷いた。何を話せばいいのかよくわからない、というのが本音だった。この時代に勇躍する主役の一人だ、会いたくなかったと言えば嘘になるが、しかし現状敵味方である。

 李岳に向け、劉備は突如ぺこりと頭を下げた。周囲がざわつく、敵に頭を下げる将など見たことないと。

「兵を引いてください」

 李岳軍から怒りの声が上がった。敗残し逃げ惑う軍の側が敵軍に撤退を願い出るなど、馬鹿にしているのか、ふざけているのか! しかし李岳は至極冷静に目を細めた。

「なぜ勝ち戦を行っているのに撤退せねばならないのです?」

「勝ち戦のまま、終わった方がよいのではありませんか?」

「我々が負けるとでも?」

「連合軍の本隊がそろそろ到着しますけど……」

 その言葉で、李岳の目が敵意に染まった。

「……なるほど、中々痛いところを突かれる。ところで一つ。その考えは、劉備殿、貴女の着想ですか?」

「いえ、我が軍師です」

「……ご芳名をお伺いしても?」

「朱里ちゃんと雛里ちゃん……っと、じゃなくて、えっと、諸葛亮、そして鳳統」

 こめかみが(ひず)み、李岳は苦みばしった表情で天を仰いだ。

(馬鹿な、ってやつだな)

 諸葛亮と鳳統……この時点で劉備軍につくなど、予想だにしていなかった。二人とも歳はいくつだ? 岳は推定してみたがどう考えても未成年としか思えなかった。同時に自分の浅はかさを呪った。人材の招集は時間も手間もかかる。だから反董卓連合との戦いが決着してから本格的に取り掛かろうと思ったのだがそれがまさかの事態を呼んでいる。

 龍鳳、共に当然登用に動くつもりだった。荊州閥に所属する二人だ、時間もある。劉備に付くということはそもそも漢室に義があると考えている二人だ、登用は難しくなかったろう。それが不可能だとしても他勢力に赴かないよう工作は可能のはずだった。

 嫌な感じがする。『天下を三分』させるわけにはいかない。だが、歴史の抵抗力というような、粘質な手応えを岳は感じた。歴史を変えてしまおうという李岳の動きに反発して、他の全てが結託しているかのような不気味さを……

 

 

 

 

 

 

 諸葛亮曰く。

 

 ――埋伏の計。それは乾坤一擲の策……全てを(なげう)っての賭けです。それを出し尽くした時、すなわち逆撃の危機でもあるんです。袁紹さん率いる追撃隊に打ち勝ったといっても本隊は残っている……その本隊がさらに袁紹さんの後から続いて進軍しているかどうかは李岳さんからは知りようもないことです。勝ち戦だとて無尽蔵の追撃などありえませんから、李岳さんだって引き際を見誤れば即敗着します。寡兵には変わりないんですから。

 劉備軍という支援部隊が到着したということは追撃している本隊を予見するには十分です。大きな脅威なんです。私たちはたかが数千ですが、その背後には未だ十余万の大軍がいます。

 まず、愛紗さんと鈴々ちゃんのお二人の武威で一撃を加えてください。先頭を進んでいるであろう張遼、華雄の二将軍と一騎討ちになるやもしれません。ですが、お二人ならきっと……そしてなるべく自信満々に、なるべく堂々と対峙してください。自分たちの有利を信じて疑わない態度こそが相手を不安に陥れます。

 李岳さんは引き際を天秤にかけるでしょう。たかが数千の劉備軍に対峙して、みすみす李岳さん本人が自らを命の危険にさらすでしょうか。(すもも)が桃の木の代わりに(たお)れる……世に「李代桃僵(りだいとうきょう)の計」あり、その応用です。

 ……って、あっ、あわわ! あの、その、別に李岳さんの李と桃香さんの桃をかけたわけじゃないです……!

 

 以上が、諸葛亮が劉備に明かした推察と策であった。連合軍の増援をほのめかし李岳軍撤退を促す。それにより袁紹の命を助ける。敗北したとはいえ盟主を救うことにより連合内部で名を知らしめ、ただの兵力としてすり潰されないように地を固める。

 数えるほどの時間の中で諸葛亮が見出した現状把握と打開、そして機転と妙理は尋常の域を超えていた。伏龍の名に恥じぬ叡智であったろう。

 劉備に考え付くことではない。初めに考えた通り、罠があることを知ってても自分たちに出来ることはないと諦め、命可愛さに袁紹軍の壊滅を指を咥えてみているだけだったに違いない。

 自分に出来ることをしよう、と劉備はくっと唇を引き結んだ。

 お話しましょう、と劉備は叫んでいた。

「この戦い、なくすことは出来ないんですか」

 李岳は面白そうに含み笑いを見せた。

「劉備殿、いきなり何をおっしゃるのです」

「貴方は……武力に頼りすぎます。宦官の人を殺し、今回の戦いも望むところだって、そんな感じで誘発した……」

「ええ」

「なぜですか……なぜそんなにも人を殺せるんですか! 例え、私たちもまた戦場でしか戦えない者達だとしても、です」

 李岳の返答は早かった。

「貴方たちもまた、戦争に参加しているではありませんか。その手にしている武器で私と私の仲間たちを殺そうとここまで赴いたのですよね」

「……できれば戦いたくない、こんなもの使いたくない! でも、戦わないと、立ち上がらないと守れないものもあるから……」

 その葛藤はまだ劉備の中で処理されていない。人から矛盾だと指摘されれば苦悩に陥る他ない。それでも全てを見過ごし何もしないでいることは劉備にはできなかった。関羽にも張飛にも、諸葛亮にも鳳統にもできなかった。

 そして、李岳もまたそうなのだと劉備は思い知る。

「同感です、劉備殿」

 李岳の目によぎった暗い光に劉備は息を呑んだ。『魔王董卓の手下』がこんな顔をするなんて……

 手にしている剣を眺めながら李岳は苦笑いをこぼす。

「こんなもの、無い方がいい。でも戦わず、手をこまねいていれば全ては失われてしまう。だから、戦う。守るもの、そして取り返すものがあるから」

「何を守り、何を取り返すんですか?」

 束の間考え、李岳は馬を寄せた。劉備が怯えたように関羽に助けを求めれば、青龍偃月刀が両者の間を分かった。真っ青な顔をして、震えながら徐晃が付き従う。

「滅びゆこうとしているこの国。そこで自分が出来る限りの全てを行い、守る。そのために私は誘拐された陳留王殿下を取り返します」

「誘拐? 陳留王殿下は自分から逃げてきたって檄文には……」

「あんなもの、嘘に決まってるでしょう」

 声を低くして李岳は伝えた。

「殿下はさらわれたのです。混乱を誘発するために洛陽を支配していた劉岱と劉遙の兄弟、朝廷を左右していた宦官たちは二人の言いなりだった。この国を腐らせてきた官僚と宗室。その元凶を取り除くための戦いだったのですよ。そこで私は勝った。二龍は陳留王殿下を洛陽からさらい、逆転を狙っている……だからわざわざ攻めてきてもらうようにお膳立てしたのです。隙を見せ、いかにもこちらが悪いように思わせたのです。そうでなければ陳留王殿下を目に見えぬ所で擁立し、力を蓄えたかも知れません。殿下を取り戻すにはこれしか思い浮かびませんでした」

 私は間違ってますか? と李岳は劉備に問うた。劉備は答えられなかった。ただ無性に喉が渇き、粘膜がひりつき出もしない唾を何度も飲み込もうとした。

 李岳は大いに饒舌であった。

「連合を組んでくるところまでは読めた。後の問題はその連合に乗っかって一旗揚げようという野心家たちですが、この機に乗じようとする諸侯など、どうせいつか反乱するに決まってる。一網打尽が妥当だと考えました」

「そんな! 平和を願っている人もいます!」

「そこまでは否定しません。ですがこの乱世で槍を握って洛陽を落とそうとしている……口車に乗せられたとはいえ、逆撃に遭っても言い訳はできないでしょう。その程度の覚悟は当然お持ちのはずです。手加減する理由にはなりません」

「誤解を解き、協力を仰げば手伝ってくれる人もいたんじゃないんですか! 白蓮ちゃんだって!」

 公孫賛の名を出したが、劉備は己が己の弁護をしているということに気づいていた。李岳は別段自分ばかりを糾弾しているわけではないというのに、なぜだか後ろめたくて仕方なかった……

「公孫賛殿のことは、信用しています」

「なら」

「ですが、頼ることは出来ない。私が公孫賛殿を頼ったことが露見すれば、彼女はたちまち滅ぼされるでしょう。そのような愚策は取ることが出来ません。彼女は彼女の責任において決める。私は、そういう意味でも、彼女を信頼しています」

 劉備は、李岳の答えに反論を重ねることが出来なかった。

 謀略で戦争を誘発し、政治的な目的のために関係のない諸侯の野心まで煽った人間だということは変わらない。けど目の前の人物が諸悪の根源、元凶であり、打倒すれば全てが解決する、ということに関しての連合の言い分が間違っているのだということははっきり理解できた。この男もまた苦しんでいた、そして同時に苦しみを肯定してここに立っている。

 しかし、次の瞬間に李岳が見せた表情は、劉備に彼の暗い一面を垣間見せた。

「二龍は陰謀家としては一流ですが、実戦指揮官としての実力はどうでしょうね……私は天下と民と陛下のために殿下を取り戻し、彼奴らを排除する。表舞台にあいつらを引きずり出せた。逃げも隠れもさせない。勝負はここからです。あの二人には個人的な恨みもある。その恨みを晴らすために、最高の舞台を用意したつもりです」

 咳が出た。喉が渇いて仕方なかったから。李岳が遠く、北を見た。その瞳の遠さが、劉備の胸までも乾かせた。

「恨み、って……舞台って……」

 李岳は笑みを浮かべた。冷たい笑みだった。

「父と母と山羊と、大事な友達だった人とがいるだけの貧しい暮らし……私の人生から奪われた大切な大切な空気だった。それを奪われ、私は窒息した。もはや取り戻すことは出来ないでしょう。だが、その(あがな)いを諦めることだけはできませんね」

 ピーヒョロロ、とあまりにのんきな調子で鳶が鳴いた。その響きが劉備を渇きから救った。何も言えない。李岳の恨みは深い。その恨みを忘れて生きろ、と言うのは容易いが、そんなことは他人が口をはさむべきものでもない。

 二龍。劉備はあの二人の真意をしっかりと見極めなければならない、と痛烈に思った。李岳の正体を確かめるというものとは別に、連合参加の目的が一つ増えた。

 そのとき馬蹄が響いた。なんとか再編した袁紹軍と張貘軍さえ伴って現れたのは曹孟徳。旗の下、曹操は劉備に肩を並べた。李岳の目が細まる。数千の軍勢が李岳軍に合わさり瞬時に連携して横陣を敷いた。この場だけを見ればほぼ同数の対峙となった。

「劉備!」

 息を弾ませながら曹操はやってきた。危険を感じ取り、徐晃が声を上げると李岳の周りを瞬時に騎兵が囲んで距離を取る。

「曹操さん」

 絶妙な時機だった。本隊が駆けつけてくる前の先触れとしてやってきた、らしい時間だ。

 諸葛亮が考え劉備がついた嘘に曹操軍も連携して事に当たっている。敗走中の袁紹軍、追撃中の張貘軍をも再編すれば李岳も撤退しやすくなるだろう、と。先ほど急遽打ち合わせた話だが、李岳の面白くなさそうな表情を見るに正しい判断だったように思える。

 曹操もまたここで総力戦を行うつもりはなかった。妥協の産物が如き嘘の付き合いではあるけれど、いもしない大軍に怯えて撤退する敵勢を見送るのは痛快であろう。

「持ちこたえたのね」

 曹操は劉備に頷くと李岳に向き直った。連合本隊の到着と見せかけるには相当の説得力がある。

「悩むことなどないわ、李岳。一戦交える度胸を披露してみせればよいのよ」

 曹操は意気軒昂であった。劉備は内心の安堵を押し隠すので精一杯である。

「困ったな。曹操殿は戦上手であるから」

 李岳が困ったように眉根を寄せた。

 多分、両軍撤退となる。場の空気がそれとなく劉備にも伝わった。途端、五臓六腑に熱い疲労の空気が練り歩いたのを感じた。重責ある仕事をやり抜いた時の身体の吐息である。諸葛亮の献策通り被害を最小限に抑えることが出来た。袁紹も救えた。身の丈を超えた仕事をやり遂げたような気になった。生きて帰ることが出来そうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撤退を信じて疑わない劉備と曹操を前にして、李岳は自らが直面している状況に一つの判断を下そうとしていた。

 曹操と劉備が丸裸でここにいる。

 李岳は眩暈を覚えた。動揺と興奮を押し隠そうと懸命に堪えたが、手だけはワナワナと震えた。

 この二人を殺せば!

 袁紹の命など後でどうにでもなる。いずれ台頭するであろうこの二人を始末できるのなら、取り逃がしたところで何一つ勿体無くなどない。

 劉備の話した条件は至極妥当だった。それを提案したのが劉備と、彼女に仕える諸葛亮と鳳統でなければ、そしてここに曹操がいなければ、李岳は案を呑み撤退していただろう。

 しかしたとえこの場で率いる兵の大半が犠牲になろうとも、この二人を仕留めるためであるのなら天秤は逆に倒れる。確かに厳しい戦いになるだろう。夜を徹して移動し、寡兵で本陣に仕掛け、撤退し、挟撃の後は追撃をずっと続けてきた。勝利を得て生きて帰れる、と思った後で再び死力を尽くして戦わなければならないとなれば、兵の力がどれほど十全に発揮できるだろうか。

 だがそれでも、殺せる。李岳の口元に獰猛な笑みがこぼれる。何も出来ずに死ね。これから作る新たな歴史に波風一つ立てることが出来ないままに! 李岳は天狼剣の柄を強く握りしめた。簡単な話だ。追撃を取りやめず、続ける。それだけの話である。

 鼓動が高鳴りし、手に汗がにじんだ。そのまま、かかれ、と声を上げようとした――しかしその時、李岳の目は縫い付けられたように一点に止まり、振り上げようとした腕は静止した。

 

 ――黒馬にまたがる官軍の大将。董卓の腹心。逆臣。袁紹軍を包囲殲滅し、あわや大将首さえ上げかねなかった稀代の戦術家。あるいは匈奴の手先、あるいは李広の子孫の飛将軍。またあるときは宦官を虐殺した冷血校尉――既に誰もが彼をそのどれかで見た。そこに敵味方の区別はなく、誰もが彼にある種の役割を負わせ、何者かとして見た。

 

 だが一人だけ、この戦場で一人だけ彼をただの少年として見つめる目があった。

 人の忠告など決して聞きやしない乙女。真っ直ぐな、誰の機嫌も取らない孤高の人。彼女は言った。確かめる、と。確かめに行く、と。そう宣言した彼女が、ここにいないはずがないのである。

 赤い髪、燃えるような紅い瞳の少女がそこにいた。殺戮に酔いしれかけた李岳の顔には獣じみた笑顔が浮かんでいたが、獣は首を括られたかのようにその笑顔を凍りつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋ちゃん!?」 

 いつからそこにいたのか、気づいた時には呂布は劉備のすぐ隣にいた。息が荒い。汗ひとつかいたところさえ見たことのない彼女が全身濡れそぼり肩から湯気を上げている。どれほど急いでこの場に来たというのだろう。わけもわからず劉備は胸が締め付けられた。

 ふと、彼女の口から何か決定的な言葉が放たれようとしているのがわかった。呂布が離れて行ってしまうという確信にも似た強い予感。それを押しとどめる事など出来やしないと重々承知はしているけれど、泣きたくなる程の寂寥もまた抗い難く浮き出た。

 劉備は呂布の上衣を掴んでしまった、行かないでとばかりに。だが……何という頼りない手応えなんだろう! 呂布は劉備を一瞥さえしない。呂布も李岳も一歩も進まないというのに、二人の距離が急速に縮まっていくのがわかる。不可思議な、運命的な瞬間が訪れようとしていた。

 劉備は呂布の上衣から手を離した。より正確に言うのなら、かすかな静電気のようなものに弾かれ劉備の手は排除された。劉備だけではない。お呼びでない者は皆、その場に立ち入ることさえ許されない。

 連合も、官軍も、もはやこの場においてはただの木偶(でく)と化す。呂布は誰一人動かない不可思議な空間で、方天画戟を構えた。赤兎馬と謳われる汗血馬はその身体を躍動させ呂布の力を唸らせる。

 呂布は一言も発しない。李岳もまた何も言わなかった。しかし沈黙の中でも、二人の間では無数の言葉が飛び交っていただろう。李岳は腹を殴られでもしたかのように苦悶の表情を浮かべている。呂布は唇を噛んでいた。キリキリと胃が痛むような時間が過ぎた。場違いなのは戦の中で黙って向かいあっている二人なのか、それとも二人が出会っているというのに戦に興じている他の全員なのか、もはや誰にもわからなかった。

 

 ――二人の邂逅は劉備にも曹操にも押しとどめられない、何かであったように思う。だからこそ、突如響いたその音もまた避けがたい運命だったのだろう。

 

 音は不吉な笛の音のようだった。

 あるいは雄々しき鷹の断末魔。

 風切音は戦場をスッと通り、そして至った。矢は劉備の後方から飛来し、李岳の肩に吸い込まれて行ったのである。

「あっ!」

 李岳は体をフラリと揺らすと、まるで町辻で行われる劇のような緩慢な有様で倒れ伏した。動かなかった。彼がまたがる黒馬だけが慌てふためき鼻をすり寄せた。

「李岳、討ち取った!」

 場違いな声だった。

 張の旗を掲げた一軍が、背後より現れ李岳軍に打ちかかったのである。一瞬何が起きているのか劉備にはわからなかった。曹操の、悪鬼のように怒り狂った表情が垣間見えた。

「貴様ら、何をしている! 敵の総大将が目前なのだぞ! 腑抜けたか! かかれ! 皆殺しにしろ!」

 矢を放ち、命令を下知したのは張貘の弟である張超だった。功を焦ったか、という関羽の呟きが耳に届いたけれど劉備には意味がよくわからない。ただ

「貴様……張超! 何をしている!」

「何をだと? 馬鹿な! あいつは敵の総大将だ! それを討たないでどうするんだ、あいつを殺せばこの戦は勝ちだ! 大将首だ、かかれ!」

「張超!」

「うるさい! 姉上のために武勇を上げるのだ! かかれ、かかれ! 張貘軍こそ最強だと知らしめよ!」

 歓声を上げて突っ込んでいく張超を押しとどめるのを曹操は諦めたようだ、こめかみに青筋を立てたまま大きく深呼吸をすると下知を始めた。

「……やむを得ん。春蘭、秋蘭。やるわよ。劉備! 右翼に付きなさい! 連携しないと、死ぬわよ……劉備?」

 劉備は曹操の言葉にすぐに返答することができなかった。状況は逼迫している。不意打ちで主を射抜かれた李岳軍の怒り――張遼、華雄、徐晃の旗がゆらめき迫ってきた。戦意は全てを飲み込み破砕せん程に高い。

 けれど、それらが全く目に入らない程の、紅い、炎のようの怒りが劉備をがんじがらめにしていた。

 身を震わせるような絶叫が劉備の心臓を鷲掴みにしていた……それは悲鳴であった。

 その声は耳から届いたものではなかった。けれど確かに劉備の体中に響いた。声さえない絶叫がなぜ聞こえたのか劉備にはわからなかったけれど、確かに呂布の凄まじい声が伝わり、それは劉備の胸の中に響き渡り、それが現実の暴力として顕現するにさしたる間は置かなかった。

「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん! 止めて……恋ちゃんを止めて!」

 最早静止は届かなかった。乙女の怒りが地を染める。

 呂布は踊った、自らが描いた火線の上を。溜め込んでいた想いの全ては届かず、ここで潰えて奪われた。奪われたものの巨大さだけ、怒りは深かった。

 場は混乱の坩堝に至り、敵意と殺意に彩られた狂乱へと堕していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰陣した。

 あれからさらに二千の死者を出した。無意味な犠牲であった、と曹操は思い出すだけで頭の中に火が灯るような気がした。総大将が騙し討ちされた、そのことが李岳軍の怒りに火をつけ怒濤の攻めを催させた。

 死に物狂いの突撃はほとんど李岳の弔い合戦のような迫力だった。曹操も劉備もほとんど何もできずに撤退する他なかった。一刻ばかり耐え忍んだ後に、李岳軍が引いたのはおそらく李岳自身が撤退の指示を出したからだろうと思われる。それ以外に軍が引く理由はない。あの男は生きている……

「ホッとしているの? 私は」

 馬鹿な、付け足して曹操は具足を脱いだ。だが李岳を討つのは自分だ、という思いもあった。

 張貘が訪ねて来たのは夕方前だった。隣で弟の張超が目を真っ赤にはらせて唇を噛んでいる。

 幕舎に入るや否や、張貘はその場で両膝をついた。

「曹孟徳殿、この度の我が弟の失態をお詫び申し上げる」

 長く美しい黒髪が地にまで垂れた。

 張貘軍が李岳軍に打ちかかったのは全て張超の指示であった。張貘自身は傷つき撤退している袁紹と合流しその護衛についていた。張超による独断専行が、手打ちの済んでいた戦闘を無為に長引かせ被害を増加させた。敵と手打ちに及ぶなど表立っては言えないので軍議で評定することはないが、見のある者なら誰もが張貘軍の失態を見抜くだろう。

「姉上、おやめください! 我が張家は袁家でさえ寄せ付けぬ、真の名家名族であります! 曹家ごとき宦官の末裔なぞに」

「――黎明、膝をつきなさい」

 勢い込んで叫んでいた張超だが、姉の張貘の顔を見るやビクリと後ずさりをした。張貘の顔に表情はない、怒気が滲んでどす黒くさえある。

「あ、姉上……」

「謝罪なさい」

「し、しかし……」

「謝罪せよ」

 張超は今にも泣き出すのではないかという程に目を真っ赤に腫らした後、ぐぐぐ、と唇を噛み締めながら膝をつき、頭を下げた。

「……曹孟徳殿。ご迷惑をおかけしました……お詫びします」

 張貘と目が合う。その瞳には真摯な詫びの色があった。曹操は大きくため息を吐くと、我ながら見上げたものだと褒めたくなるような忍耐を発揮した。

「我が友、京香に免じて謝罪を受けいれましょう……張超、覚えておきなさい。目先の手柄に目が眩むなどという幼稚な真似で恥をかくのは、貴方だけではなくてよ? そして、真に誇りある者であれば決してだまし討ちなどしない、ということを」

 張超の顔色が変わったが、曹操はさらに続けた。

「劉備のところにも謝罪にいくべきね。あの娘が止めなければ、貴方今頃、(むくろ)として地を這っていた。礼を尽くしなさい」

 張超はついに顔を真っ赤に染めて逃げ出すようにその場を後にした。途端、はぁ、と大きなため息が聞こえた。いつも涼しげな表情を崩さない張貘らしからぬ仕草であった。

「ごめんなさい、華琳」

「貴女も苦労するわね、京香」

 曹操は張貘の手を取り立ち上がらせた。衣服についた埃を曹操手ずから払い胡床を用意した。

「ありがとう……けど、みっともない所をお見せしたわ。お詫びに何かお返しできればいいのだけれど」

「貴女らしくない、色々な表情を見れて役得といったところね」

「それで済ませてくれるのなら安いものだけど」

「貸しにしとくわ」

「意地悪ね」

 曹操が拒否したところで張貘は何かしらの返済を必ずや行うだろう。その律儀さが彼女の美徳でもある。だがその律儀さは、同時にあの弟を見捨てることが出来ないという過保護にも繋がっている。

 張超を捨てなさい――その言葉を曹操はすんでのところで飲み込んだ。そこまでのお節介は張貘自身の誇りをも傷つけるだろう。

「化け物っているのね」

 呂布という娘のことだろう、と曹操は思った。

 戦場で激発し、張超に向かって突進をした。連合軍所属でありながら味方殺しを行おうとしたのであるが、不要な戦を仕掛けた張超を押しとどめようとしたのだという理解で不問に付せられている。劉備軍将官の制止により被害も出なかったからであるが、関羽と張飛、そして趙雲が動かなければ張超の首は胴から離れていただろう。そして劉備の制止である。

 三対一。だというのに呂布は圧倒し、獣じみた形相で張超に迫った。

 曹操さえも身震いした。それほどの迫力であった。

「ほしいわね」

「悪い癖」

 張貘にたしなめられたが、あれほどの人材を欲しいと思わない人間がいるだろうか? 思い起こし、曹操は口元の笑みを抑えきれなかった。

 人馬一体の躍動は大地を震わし、真っ赤に漏洩する殺意はそれだけで戦場を支配した。張遼、華雄という豪傑にさえ一歩も引かなかった猛将達が、二人がかりで立ちふさがったがあわや一蹴しかけた。呂奉先の名は一躍連合軍に知れ渡ることになるだろう。

「人はいるのね」

 その全てを倒し、あるいは屈服させ、頂点に立つ。敵が強ければ強いほど、曹操の覇気は強風に煽られた炎のように燃え上がる。

 呆れて見つめる張貘の瞳が、愛しさに潤ったが、曹操にはそれは見えなかった。




【恰】は正しくは【合】に【おおざと】ですが、機種依存文字のため当て字を用います。ご了承ください。


 ちなみに、気絶ぶっこいて爆睡してる文醜ちゃんはスタッフがしっかり回収いたしました。

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