今回は姉妹と主人公との出会いの話となります
一話の話を多少変えました。これからも原作の動き次第で書き換えることもあるかもしれないのでご了承ください
イレーネは何かを守るためには力が必要であリ、何かを手に入れるにはさらに力が必要であることを知っている。力がなければ失うだけであり、それをまた取り戻すにはそれより強い力が必要だ。
そしてイレーネはそれらを為す力を持つ者を知っている。その者と出会った時のことは今でも彼女は覚えていた。
当時、国家の反乱は鎮圧され、統合企業財体の勢力争いは激化していた時代だ。
イレーネの居た国もまた統合企業財体に反抗しようとした国家であり、そして他の国と同じく完膚なきまでに叩き潰された国の一つだ。
国家反乱の時代、国の命運は二つしかなかった。統合企業財体に取り込まれて傀儡国家となり従い寄生するか、傀儡国家になると見せかけて裏で反抗の時を伺うかの二択だった。
情勢が不安定であるが故に貧富の差が極端であり、反抗して叩き潰された国など見るまでもなく貧相な国となる。統合企業財体は反抗しようなどと考えさせない為に、国家は財源を搾取され絞りとられた。それこそ干物になるほどには。
そんな少なくない国家に生まれたのがイレーネとプリシラだった。だが二人は《星脈世代》であり、プリシラに至っては再生能力者だ。
彼女らの家族からしてみれば金のなる木に見えたことだろう。大都市から離れれば離れる程《星脈世代》への差別は顕著となる。即ち希少であるプリシラを売り払うことにより、両親は大金を得ることにしたのだ。
それにはイレーネも激怒した。《星脈世代》として生まれた自分たちを愛していない両親に親愛を向けることなどなかったが、それでも生きるためにはその両親にしがみつかなくてはならない。そんな状況で彼らと生きていたからか家を出ることにも躊躇いはなかった。
だが子供二人で生きていける程この世界は甘くない。何しろ彼らが逃避行を決行した時には《星屑の極光》により世界が今まで以上に戦乱に呑まれていた。
ならず者共が地を這いずり回り、闘う力を持たない者が外に出ようものなら彼らの餌食になりかねない。そんな時期だったのだ。
そんな中で外に出れば必然的にならず者共に会いまみえることになる。
小屋に身を隠そうがそこは彼らの狩場であり、イレーネとプリシラは彼らにとって殊勝な羊に過ぎない。
ならず者共の中には傭兵や、国の軍として働いていたものもいた。だがそんな彼らに尊厳も何もなく、ただ金や食物を殺し奪ってやろうという感情しか見えない。ただ己の欲を満たすためだけに動いていたのだ。
イレーネはそれに反抗したが、中には自分より体格の上な《星脈世代》も居て子供ではどうしようもない。容赦なく蹴り飛ばされ、呻き声を上げながら軽い体は宙に浮く。
イレーネもプリシラも髪を掴み上げられ、服を破られる。
涙を目に溜めながらお互いに手を伸ばすが、同時に男たちの足に踏みにじられる。ならず者のボロボロの靴に血がにじんだ。さらに次の瞬間にはイレーネが最も危惧していたことが起きてしまった。
「おい見ろよ再生能力者だぜ、こりゃぁいい」
プリシラの能力の露見だ。
男が血の付いたボロボロの靴を上げると、綺麗な傷一つない肌が露わになっていた。それには周りの男たちも下卑た笑みを深める。何たる僥倖か。世界中探しても三桁に届かないであろう再生能力者だ。彼らは天運に恵まれていると言っても過言ではないと確信する。
だがその前に彼女たちの体を堪能するつもりなのか、晒された肢体に手を伸ばす。
抗おうにもならず者は何十人と居るのだ。軍や傭兵として生きていた者も居るなかで、子供の抵抗など簡単に押さえ付けられる。
プリシラは既に乳房に手を掛けられていて、その嫌悪感に涙を流すも男たちをそそらせるスパイスにしかならなかった。イレーネもまたそれに続いて股間部分を触れられた。
万事休すかと思われたその時に、突如として風を裂く音がここにいる全員に届く。それもだんだんと近付いている音に誰もが訝しむ。
ならず者共が音の響く空に目を向けた時、何かが超高速で進んでいるのが目に入った。それもぐんぐんと此方に近づいている。
「何だ、ありゃぁ……」
誰かが怪訝な声を出した時には、それは既に自分たちの上空に存在した。
長い筒のような大型のブースターを取り付けた人型の何かだった。身長は三メートルを超え、傍目から見ても重厚な装甲に覆われている。だがバイザーらしきもので顔は覆われているのが見て取れたので、中には人間がいるのだろうことは分かった。
だがそれも《星脈世代》の動体視力があってこそ見えたものだ。普通の人間には霞んで見えている。
そしてイレーネたちの頭上に存在した何かに取り付けられていたブースターが一瞬でバラバラに分解された。飛来した何かに比べれば細かい破片ではあるが、人からすれば大きく、そして超高速で飛んできたそれは確かな殺傷力があった。
「ガッ!?」
「ゲェッ!?」
前述したとおりそれらは常人が避けるには速すぎた。
次々と降りかかる破片はならず者共に突き刺さる。四肢を持っていかれた者もいれば、腹や胸に風穴を開けられたものもいた。
《星脈世代》の人間は煌式武装を展開し、剣で巧く切り払ったり銃で撃ち落としてるが他人を庇う余裕がないのか、それともさらさら庇う気がないのか自分の身を守ることに専念している。
イレーネとプリシラは破片を恐れて頭を抱えるきりだ。
長いように思えた出来事は一瞬で収束したが、周りは酷い有様であった。首を持っていかれた奴は一瞬で逝けたのだから運がいいとしか言えない。腹が裂けて贓物がはみ出し、それを抱え込むようにして苦しむ者や、喉を潰され避けた喉から空気を漏れさせ喘ぐ者もいた。
この場所はまさに死屍累々という言葉が最も適した土地となった。
イレーネとプリシラは廃ビルに潰された、己の、妹の能力が発覚した時の惨状を思い出して胃の中にあるものをすべて吐き出した。
だがならず者共はそれに見向きもせずに、千五百メートルほど離れた地点に着地した何かを見た。腐っても兵士であった者たちだ。直ぐにそれに対して構えをとった。
だがその中で身体能力の高い《星脈世代》であった者たちは、その視力をもってそれの為したことを見て嫌な汗を流した。
「に、逃げるぞ!」
《星脈世代》が見たのはソレが武器を展開したところだ。それだけでならず者は撤退を選んだ。
ソレは虚空から武器を顕現させた。煌式武装の起動体も手にした様子もなく、万能素がソレの手元に集約すると武器が顕れたのだ。《魔術師》や《魔女》かとも思ったが、そんなことは問題ではなかった。
顕現した武器。それが彼らに恐怖を抱かせるには十分すぎた。兵器としては規格を大きく外れすぎていたのだ。
五連装のガトリングに超巨大なキャノン砲。それを四メートル近くある鉄の巨人が両の手に持ち、こちらに接近しようとしていたのだ。
馬鹿げている。それを見た《星脈世代》や伝えられたものはそう思うことしか出来ない。兵器として行き過ぎている。
まだ動いてはいないが、それでも前傾姿勢で武器を展開しているという状況に、ならず者たちは焦燥に駆られた。
「ターゲット確認、排除開始」
漆黒の
千五百メートル離れた巨人がいつの間にか目の前にいた事実に誰もが驚きを隠せなかった。だがそれすらもその存在にとって隙となる。
五連装のガトリングの狙いがならず者たちに定まり、回転して一斉に火を噴いた。大気を劈くような音と共に厚い弾幕が一瞬で形成される。それはまるでまるで弾丸の壁だった。
無数の弾丸は慈悲もなくならず者共を貫く。普通のガトリングよりも巨大で、それから放たれる弾丸もまた規格外に大きい。人に対して扱うには過剰すぎる力だ。
普通の人間は星辰力もないために弾け飛ぶ。《星脈世代》の人間もまた星辰力を守りに回すことで耐え忍ぼうとするが、如何せん火力と弾数が桁違いで星辰力も尽きて消し炭にされていく。だがガトリングの精度が劣悪なのか弾丸は集中することなくばらけて飛んでいき、事なきを得た人間もいた。
その中で銃型の煌式武装を持つものが前に出る。何とか弾丸の雨を掻い潜ることの出来た《星脈世代》の男だ。それに続いて他のならず者たちも前に出て抗戦の意志を見せる。
だがそれはその存在にとってあまりに無謀だ。弾丸は着弾する前に宙で霧散し、斬撃が届居たと思いきやそれは既に残像となっていた。
「化け物がッ!?」
ならず者の一人が思わず叫ぶ。
その言葉すら意に介さず、巨人はキャノン砲の砲身でならず者共を薙ぎ払う。上半身は抉れて残ったのは彼らの下半身のみ。骨盤すら見えるそれは血で乾いた土壌を濡らしていった。余りにも背徳的な光景。劇場ででも見たのなら吐き気すら催すだろうそれも、実際に目にしたイレーネとプリシラはただ呆然とするだけだ。脳が、理解が目の前の光景に追いついていない。
銃身が血で赤く染まるが、銃口に万能素が集まり銃身が熱を持つと共に蒸発して消えていく。
銃口を残ったならず者共に向ける。五十人は居たならず者も既に半分を切っている。
「じょ、冗談じゃ……」
ならず者の切羽詰まった言葉など届かない。声が届く前にソレは引き金を引いた。
跡には抉られた大地だけが残る。先程までのガトリングの弾幕とは違い単発の光線だ。それでもその威力は、範囲はガトリングとは比にならない。その一発は確かにならず者共を消し、そのままイレーネたちの住んでいた集落に着弾。巨大な爆風と共にビルや住居を巻き込んで吹き飛ばした。
無慈悲で無感情。その証拠にバイザーに覆われていない結ばれた口元は一切動いていない。
ならず者の中にも巧く避けた者がいたようだが、巨人の目前にはイレーネとプリシラの周りにいた三人しか残っていない。巨人はこの惨状をものの一分足らずで創り出していたのだ。
「クソッ! どうせテメェはこのガキが目当てんだろうが! 」
彼らの目に着いたのはプリシラだ。彼女が攻撃を一切受けていないのは分かっていた。というよりその近くにいたからこそ彼ら三人は被害を受けずに済んだのだろう。
だからこそ彼、もしくは彼女の狙いがプリシラであり、彼女の身さえ譲れば己は助かると打算したのだ。だがその考えは浅はかに過ぎるというもの。それならあの速度をもって彼女を連れていくだけでよかったのだ。
「……勘違いするな」
ここで巨人が口を初めて動かした。
重々しく開かれた口からは、背筋が凍てつくほどに無感情な言葉が響いてきたのだ。別に特に低くもない、かといって高すぎず声変わりし始めたかのような少年の声だ。紛れもなく人間であることが確認できたはずだが、その声には何も感じさせない、虚無というのが最も当てはまる機械的なものだった。
その声で、その声だけでならず者たちは自分たち以上にイカレた存在であると気づく。だがそれももう遅い。
「飽くまで俺の任務はお前らの殲滅。他に用はない」
そう巨人が言った瞬間にその姿が掻き消える。そして背後に回り砲身で再び彼らを薙ぎ払おうとするも、その瞬間にその砲身が真っ二つに切断された。
その背後にはならず者共の頭領と思われる男が肥大化した刃をもった煌式武装を振り切った姿で息を吐いていた。
恐らく流星闘技を使ったのだろう。肥大化した刃も次第に元の大きさに戻っていく。
両断された砲身が宙から地面に落ちる音がすると同時に男は振り返り、巨人を睨みつける。
「クソが! ただの見掛け倒しだろうが! おめぇらもシャキッとしねぇか!!」
頭領の怒声が響き、逆転の兆しにならず者は士気を取り戻す。だが巨人はそれに見向きもしなかった。
「?」
悪態を吐いた男を尻目に、巨人は赤熱した銃身に目を向け疑問の声を上げた。それは流星闘技が扱えるほどの存在が居たことに対する疑問の声だった。
流星戦技は綿密な調整が必要となるし、それには設備が欠かせない。そこまで考えて巨人はその思考を放棄した。この状況にその考えは必要ないと切り捨てたのだ。
「おい聞いてんの―――か?」
一閃。
並んでいた彼らは上半身と下半身を別たれた。
何時から変わっていたのか、キャノン砲を装備していた巨人の腕には大型のブレードが取り付けられ、振り切った腕には紫色の巨大な刀身が残像を引いて止まっていた。
血しぶきは上がらない。唯両断された体は焼けつくような臭いを上げて転がり落ちる。
「圧倒的、すぎる……」
プリシラを抱き寄せ、額に汗をにじませイレーネは思わずそう口に出していた。そして慌てて両手で口をふさぐ。自分も殺されるという確信が彼女の中にはあったのだ。
だがそれも遅い。
「ひぃっ……」
既に彼は彼女たちを視界に捉えていた。
先程まで何の感情も見せなかった巨人があり得ないほどの鬼気と怒り、圧倒的な力を纏って彼女たちを見下していたのだった。