黒鳥答索   作:鬼いちゃん

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注意:これはリハビリ作です


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 クインヴェール女学園。

 この学園は他の五つの学園とは一風変わっていて、一つに女性であること。そして戦闘能力、学力の他に整った容姿が求められる。

 さらに、規模で言えば全学園中最小であり、《星武祭(フェスタ)》の結果を見てみれば最弱の学園である。

 だがそれでも、この学園は人気で言えば六学園中最高クラスの学園である。

 

 そして此処は、その学園の応接室。この部屋のソファ、テーブル、絨毯などの様々な家具が最高級のものが使われていた。普通に生きている者なら拝む機会が限られるであろうこの部屋のソファに身を沈める者が二人いた。

 一人は私服の青年、もう一人はスーツを上手く着こなし、バイザー型のサングラスで表情を隠した女性だ。

 

「あなたにお願いしたいことは、まず一つに我がクインヴェール女学園の序列第一位であるシルヴィア・リューネハイムと、今年開催される《BC(バトルセレモニア)》に参加してもらうこと。そしてその期間中の護衛です。

 とは言え、護衛と言っても目の届く範囲でかまいません。

 報酬は五百万。引き受けてもらえますか?」

 

「・・・へぇ、クインヴェール第一位の《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》の護衛を頼まれるとは、傭兵名利、いや、何でも屋名利に尽きるが。

 にしても、五百万とは大きく出たな? やはり生徒のことがそんなに可愛いか、ペトラ・キヴィレフト?」

 

 離した依頼内容に皮肉気に言葉を返す青年を意に介することもなくペトラと呼ばれた女性は口元を緩めた。

 

「ええ、私は彼女たちのことを愛していますから」

 

 その言葉に嘘はない。

 彼女、ペトラ・キヴィレフトは冷徹で計算高い人物であるが、それと同時に学園の生徒たちを愛している。そしてその乖離を他者を信頼しないことで埋め合わせている。

 ペトラはこのクインヴェールのOGであり、理事長である。そして統合企業財体の一部であるW&Wの幹部である。

 主にW&Wの幹部であることと、この学園の理事長であるが故に、このような接し方になるのは当然の帰結だろう。

 

「それで、受けてもらえるのですか?」

 

「まあ、ここまで出してくれるのなら不足はないな

 とはいえ、いいのか? 俺に護衛なんて頼むのは《悪辣の王(タイラント)》くらいのもんだ。それに俺がお前ら企業に何をしたか忘れたわけじゃないだろう?」

 

 彼自身、報酬が支払われれば仕事に手を抜くつもりもない。だが、それと信用問題は別。傭兵を生業にしている以上、仕事を選ばなければならない。

 アスタリスクでは当時アスタリスク史上最大の人質テロとされる、翡翠の黄昏と呼ばれる事件が起きた。ただし、その事件は星猟警備隊(シャーナガルム)創始者であるヘルガ・リンドヴァルが一人で解決している。

 史上最大と呼ばれるこのテロの後、またしてもテロが起こる。これを星屑の極光と呼ぶ。

 この星屑の極光はPMC(大手民間軍事会社)に属さない独立傭兵たちが起こした反乱である。

 そしてこのテロ行為は多数の犠牲払いながらも傭兵側が一人を残して全滅したため、形式上企業側の勝利という形で幕を閉じた。そしてその一人の生き残りがこの青年である。

 そのような理由で生き残りの一人である青年に破壊や暗殺はともかく、護衛を頼む者は限られていた。

 

「ええ、そのことは十分に理解しています。

 ですが、あなたはこちらが裏切らない限りは依頼を全うする。そう伺っておりますが」

 

「誰からの情報だそれは?」

 

「さて? 誰でしょうかね?」

 

「ああ、もういい。受けるよ、その依頼。

 だけど、その《BC》ってのは傭兵生制度を復活させるつもりなのか?」

 

 疑問を疑問で返してくる姿勢にペトラに青年は若干呆れながらも、依頼を受ける旨を伝えた。しかし、彼はそれと同時に疑問に思ったことを問う。

 傭兵生制度とは星武祭においてアスタリスク外部の人間を出場させるというものである。それにも様々な制限が設けられるが実戦を経験した者も多く、ある時では傭兵生が優勝しそうになり紛糾したこともある位だ。

 そのおかげで傭兵生制度は導入と廃止を繰り返している。

 

「その点については大丈夫です。

 あなたには星導館の学生となっていただきますので」

 

「……何だと?」

 

 彼は開いた口が塞がらなくなった。何せ傭兵である青年をアスタリスクの学園にいれようというのだから。

 

「ああ、心配しないでください。星導館への入学手続きは済ませてありますので」

 

 思考を停止させた青年は意識を戻すと、身を沈めていたソファから起き上がり聞き捨てならないというようにペトラに詰め寄った。

 事実青年はそんなことは聞かされていないし、それに何よりも企業財体の一つである銀河直轄の諜報機関、影星の存在するところだ。いつ自分に牙を剥いてくるかもしれない敵の巣窟になど単身で乗り込むなどイカれてる。

 彼はそう思ったのだ。

 

「いや待て

 お前は本気で言っているのか?」

 

「? そう言ってるではありませんか」

 

 ペトラは言外に、何か不都合なことでも? とでも言うような雰囲気をみせている。それを見た青年は顔をげんなりとさせた。

 事の重大性に気付いていないのかとすら思えたのだ。

 それにもう入学手続きを済ませてると来た。断られることを考えていなかったのだろうか。

 

「お前はさっき俺と話していた内容を忘れたのか?」

 

「覚えていますが?」

 

「だったらなぜ俺を星導館に?」

 

「……。」

 

 それを聞いたペトラは数瞬の間を置くと、何か合点がいったように頷いた。

 

「ああ、身分がばれてしまうことを恐れているのですか?

 ならば、あなたが危惧しているようなことは恐らく起こりませんよ。」

 

 それを聞いた青年は怪訝そうな顔をした。

 企業財体からの評価は青年自身が十分に理解している。本人にその気がなくとも未だにテロを起こすかもしれない異分子であり、一部からは排斥したほうがいいとさえ言われている筈だ。

 そしてそれはW&Wの幹部でもあるぺトラも理解している。

 

「あなたは知らないかもしれませんが、あなたが星屑の極光の唯一の生き残りであることを知っているのはごく少数ですよ?」

 

「何を言ってるんだ? 俺のことは確かに企業財体に……、あぁ……。」

 

 青年は何かに気付いたように呆けたような声を上げた。そして何故今まで気付かなかったのかと、嘆くように片手を顔に当てながらソファに身を沈めた。

 

「理解できましたか?

 あなたがあの事件の時に顔を見られたのは私と暗部の人間。それも私と着いてきたベネトナーシュの者ぐらいのものですよ

 それも我々の中でも最重要機密事項。他の企業に知れ渡ることもないでしょう」

 

 星屑の極光、その終幕において青年はその独立傭兵たちのリーダーにある依頼をされていた。

 それは、今は亡き企業の本社の破壊任務。その最終段階に入ろうとしたところで三人の傭兵からの襲撃にあい、それを辛くも退けた後にペトラと相対するに至る。

 

「さて、これであなたの危惧するようなことは起きないと証明された訳ですので、本題に入らせて頂きます

 と言っても、あなたの身の上の話ですが」

 

 それを聞くと青年も立ち直り、ソファから体を起こす。

 そしてペトラがそれを確認すると、テーブルの上に置いてあるファイルを開いた。そして青年の写真が貼られた書類を取り出すと、その内容を確認してから青年に渡す。

 

「来週から星導館学園に入るにあたって、大学部一年に所属することになります。

 そして我が校のシルヴィア・リューネハイムと《BC》で組むにあたり、六月中には星導館の《冒頭の十二人(ページ・ワン)》に入って頂きます。

 これは、あなたの実力を鑑みた上での判断です。よろしいですね?」

 

「ああ、問題ない。」

 

 そこらの人間に聞かせたら卒倒するような内容の会話を二人は繰り広げていた。普通の人間がそれを聞いたのなら馬鹿げていると言っていい。それだけの会話だった。

在名祭祀書(ネームド・カルツ)』と呼ばれる各学園での全七十二人の枠で埋まる実力者を明確にするためのランキングリストがある。そしてその中でも上位十二名はリストの一枚目に名を連ねていることから《冒頭の十二人》と呼ばれる。

 中でも《冒頭の十二人》に関しては全員が手練れだ。それにどの学園においてもそれらの生徒は様々な所から注目されるほどだ。おいそれと順位を渡すことはないだろう。

 それに対して入学してから三カ月程度で順位を奪えというのだから、正気の沙汰じゃないとしか言えない。だが、良くも悪くもこの青年は普通ではなかった。

 

「公式序列戦は毎月一回ずつ行われますから、二カ月でどうにかなるかと。

 公式序列戦での相手生徒の指名制度はお分かりですね? 」

 

「序列外はいきなり《冒頭の十二人》に挑めないんだったな?」

 

「はい。公式序列戦では原則として、一つ上の階級区分の生徒にしか挑むことは出来ません。通常の決闘であるのなら別ですが、そうそう受けてえもらえるとは思えません。」

 

 ペトラの言う通り、序列入りしている生徒は順位が上がるほど保身的になるきらいがある。だが、順位が上がればその分の特権等が与えられるのだ。それを考えれば当然と言えば当然だ。

 さらに《冒頭の十二人》にはトレーニングルームの貸出や寮の個室、大金の支給などの特典が与えられる。それをみすみす手放そうとするような者はそうそういないだろう。

 

「わかった。七月に入るまでに《冒頭の十二人》入りして名前に箔をつけろ、ということか」

 

「その解釈で構いません。流石に無名の者がいきなり世界の歌姫とタッグを組むとなるとマスコミの方々も煩くなりますので、そこのところはご了承を」

 

 こればかりは仕方がない、と青年は首を振った。

 

「これは、面倒なことになりそうだな」

 

「何か問題が?」

 

 ペトラが青年の言葉に首を少しばかり傾けた。

 

「それは、世界の歌姫とタッグを組むなんてことになったらマスコミ紛いの連中がこっちにも来るだろうが。そうなったら色々面倒だろうが。

 しかも嫉妬まで買うんだぞ。下手すれば命まで狙われかねないだろ。」

 

「その点に関しては此方も最大限努力して収束に努めます。とは言え、彼女のファンの方々にそこまで過激な方はいないかと

 それに、それを防ぐためにあなたの名に箔をつけるのですよ?」

 

「まあ、それもそうなんだがな……」

 

 アイドルなどのファンというのは少なからず過激な行動をとるものが出てくる。そしてそれは信仰の対象の存在が大きいほど、その規模は大きくなるし過激になることが多い。

 あの方こそが至高であるから、そう信じてやまないからこそ罪悪感も感じにくい。そういう存在はどの時代になっても現れるものだ。たとえ信仰されている者がそれを望んでいなくても……。

 だが、シルヴィア・リューネハイムはそれから少し外れている。

 彼女は世界一と称される歌姫だ。それでもその明るく優しい、表裏のない性格故かそんな事案を聞くことは滅多にない。

 と言うより彼女に対して批判、批評を行う人間が少ないためだ。彼女の歌は老若男女、ありとあらゆる世代に人気を誇る。

 彼女と組むにあたり、多少なりともいることは否めないだろう。

 

「では、承諾という形で構いませんね?」

 

 ペトラの最後の確認に青年は頷いて答えた。

 これ以上考えても得られるものはなく、報酬がいいことと個人的な悦楽として体験したこともない学園生活が楽しみというのもあった。

 彼自身、学校に通ったことがない。というよりも記憶がなかった。

 

「この書類にサインを」

 

 そう言ってペトラはテーブルの上に置いてあったファイルから一枚の契約書と万年筆を手渡す。どちらも最高級品だ。

 青年はそれを手に取ると、一通り目を通した後に迷わずにサインした。

 

「これで契約成立です

 契約書にもあった通り、一週間後にまたここに来てもらいます。前金はその時に。彼女との顔合わせもその時です

 これからよろしくお願いしますね、レイヴン」

 

「止めろ。もうその名で呼ばれることもない」

 

 レイヴンと呼ばれた青年は懐かしそうに口元をわずかにゆがめた。基本無表情の彼からは想像もつかない。

 それを見たペトラは青年と同じように口元を綻ばせると、訂正するようにこう言った。

 

「では改めてよろしくお願いしますよ。ユリエル・ノークス・オーエン」




レイヴン……ある傭兵たちの別称。あるものと深く繋がっていることから、他にも《リンクス》やそれをもじった《ヤマネコ》と呼ばれることもある。

レクター君ってさ、順位的にいい位置にいると思いません?

高等部一年から大学部へ修正
主人公の口調を修正
黒猫機関のくだりを修正

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