Glory of battery   作:グレイスターリング

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第三十六話 キッカケ

 九月第二週目。

 藤井君の入部もあり、最低人数まで残り2人となった。話は茂野君と田代君から聞き、僕を初め他の部員達も大歓迎で2人を迎えた。

 

「だからよー、そこのボスはこうやって倒すんだよ」

「むむっ!そうだったでヤンスか!しかし藤井君がガンダーロボ好きとは良い趣味してるでヤンスね〜」

「ったりめーよ!ガンダーロボは小さい頃からずっとアニメで追いかけてきたんだからな!ゲームだっておてのものよ!」

「こらーっ!女子ばっかに料理を作らせるなー!運ぶくらいしなさい!」

「ん〜……ったくうるせぇなぁ……ムニャムニャ……」

「はは……これは僕が運ぶから大丈夫だよ」

 

 既に異変にお気付きの方もいるだろう。

 なぜなら恋恋高校野球部のメンバー全員が僕の家に遊びに来ているからだ。事の発端は割と単純で、藤井君が「俺と茂野の歓迎会でもしようぜ!」と突如練習終わりに提案、すると矢部君がすぐさま賛成し、場所は僕の家でと更に提案した途端雅ちゃんも賛成、後のメンバーは流れで賛成、と、もはや勢いだけで歓迎会が成立してしまった。

 

「でも本当に大丈夫? 急な話なのにキッチンまで使って……」

「大丈夫だよ。母さんから許可はもらってるし、家の皆は夜まで帰らないから。こちらこそご飯をご馳走してもらって嬉しいよ」

「う、うん! 頑張って作るから楽しみに待っててね」

 

 いつも以上に雅ちゃんが嬉しそうなのを見てると、なんだかこっちまで嬉しく感じるよ。

 料理は雅ちゃん・手塚君・はるかちゃんが担当し、買い出しはあおいちゃん・美保ちゃん、田代君が担当し、茂野君は完全に家に着くりソファーで爆睡し、残った矢部君と藤井君はPS4のガンダーロボを楽しんでいた。

 意外にも手塚君が料理もできるのは驚いたけど、それ以上にあおいちゃんが自分も作ると言った時は背筋が凍ったなぁ。前に手作りクッキーを食べたことがあったけど、アレはかなりヤバかったから、ね……。僕はまだ一口だから被害は少なかったけど、矢部君はほぼ全部食べたからその後にトイレに5時間篭ってたのを見たときは身の危険を感じたよ。

 結局はるかちゃんの説得もあって買い出し担当で納得してくれた時は猪狩からホームランを打った時よりも嬉しかったのかもしれない。

 

「さ、先輩方!できましたよ!」

「おおーっ!中々美味しそうじゃねーか!」

 

 テーブルにはポテトフライ、お刺身、春巻き、サラダ、コーンスープなどなど、バラエティに富んだ数の料理が並ばれる。

 

「さてと。じゃあキャプテン、挨拶をたのむぜ」

「うん。それじゃ、茂野君、藤井君。入部ありがとう。恋恋高校野球部一同、心から歓迎します」

「ああ、これからよろしくな」

「おう!こちらこそだぜ」

「では、かんぱーい!」

 

 キィンとグラスを合わせ、各々がジュースを体に入れる。

 

「どう? 濃すぎないかな?」

「ううん、全然美味しいよ。ありがとう雅ちゃん」

「ほっ、良かった……」

「特にこの春巻きは絶品だね。なんなら定期的に作ってもらいたいくらいだよ」

「え、ええっ〜!? そんなに喜んでもらえるなんて……」

「雅さん、良かったですね」

「うん。昨晩はるかちゃんにご教授してもらった甲斐があったよ。ありがとう♪」

 

 なんだろう、はるかちゃんと雅ちゃんがコソコソと内緒話をしてるな。ちょっと気になるけど、女子の会話を盗み聞きするのも味が悪いので、気にしないことにしよう。

 

「ん、中々うめぇじゃねぇか。この唐揚げは誰が作ったんだ?」

「あ、それは僕と中村先輩で作り−–−–−」

「違うでしょー!! それは私1人で作ったの!!」

「えぇ……」(殆どは僕が料理したんだけど……)

 

 こちらでは何故かがっくしと肩を落とす手塚くんと、自信満々に胸を張っている中村さん、そして2人を気にもせずに唐揚げを頬張る茂野くんと、状況が読めない雰囲気が漂っていた。

 

「はぁ〜……本当はボクも作りたかったのになぁ。最近はハンバーグとかも作れるようになったんだよ」

「はっ、はははっ、ハンバーグ……かぁ!! それはまた次の機会があったらご馳走になりたいなぁ!うんうん!!」(死んでも食いたくない死んでも食いたくない)

「そそっ、そうでヤンスねぇ〜!でも今日は材料がもう無いでヤンスから実に残念でヤンスよ!!」(死にたくない死にたくない死にたくない)

「……ねぇ、なんかボクの料理を露骨に避けてない?」

「「それはない!!(でヤンス)」」

「そう……?」

 

 うん……2人の内心が分かるのはなぜでしょうか。そしてあおいちゃんが『料理』という単語を出すだけで背筋が凍る現象も解決しないと……。今度はるかちゃんの協力をあおいで料理特訓でも開催しよう、うん、絶対させよう。

 

「しっかしよぉ、俺と茂野が入部したとは言ってもまだ2人足りないんだよな」

「そうだね。マネージャーの2人を除くと僕、あおいちゃん、雅ちゃん、矢部くん、田代くん、手塚くん、そして茂野くんの7人だから、最低でもあと2人、あわよくば3人以上いないと10月の秋季大会には間に合わないかな」

 

 全員の箸がピタッと止まり、小さなため息が溢れた。そうだ、2人が入部してくれたとはいえ、まだ人数は足りてない。こうして歓迎会を開くのが悪いわけではないけど、完全に喜ぶのにはまだ早いと、現実を知らされたのだった。

 

「思いつく限りだとやっぱあの2人しかいない、よな」

「内山さんと宮崎さん、ですね」

 

 恋恋高校の全男子生徒の中で残った帰宅部の2人だ。他の男子生徒は一年生を含め、どこかしらの部活には所属しているため、この時期に勧誘するならば、この2人しか選択肢として残ってない。ただ−–−–−

 

「第一印象は最悪でヤンスね……」

「うん……」

「……な、なんだよ!? 確かに俺も悪いけどよ、あれは相手にだって非があるだろ!!」

 

 多分だけど、内山くんと宮崎くんからすれば、野球部の印象はあまり良くないだろう。あおいちゃんの話では茂野くんと派手に喧嘩したらしいからなぁ……このままでは誰が誘っても断られるのが目に見えている。

 

「うん、そこでなんだけど……」

 

 数日前、"ある人物"の提案を受けた結果、僕は1つの答えに辿り着いた。

 

 

「−–−–−茂野君。ここはもう一度、君1人で2人を説得しに行ってほしい」

 

 

 

「……は?」

 

 

 ポカンと口を半開きにしながら頭を傾げる茂野くん。そう、内山くんたちと茂野くんとの仲が悪いのなら、仲直りをしつつ、良好な関係のまま勧誘しようという腹だ。仮に他の人が2人の勧誘に成功しても、入部後も茂野くんとギクシャクしたままなのは変わらない。それはそれで別問題が生じてしまうと結論づけて、僕は茂野君に全てを託した。

 

「ちょっと待てよ! 百歩譲って俺が行くのは構わねぇけど、1人でってのはおかしいだろ!」

 

 

「−–−–−おかしくはない。それと、後々面倒にならないうちに言っておくけど、茂野君はしばらく、野球の練習を行うことを一切禁止する」

 

 

「……は、はは……お前、何言ってんだよ…?」

 

 突然の練習禁止宣言に茂野君が困惑する。

 できるなら、歓迎会中にはあまり言いたくなかった。けど、和やかな雰囲気を壊して険悪なムードになったとしても、この処置を取らなければならないのにはある "理由" が存在していたからだ。

 

「茂野君」

 

 不穏な静寂を先に解いたのはあおいちゃんだ。持っていた箸をゆっくり置くと、茂野君の目を見てこう口を開いた。

 

「実はね、ボクが全てお願いしたんだ。茂野君を1人で勧誘に行かせること、ボクと葛西君が納得するまで一切の練習を禁止させることも」

「なっ……早川が…?」

 

 そう、これは僕でも山田先生が決めたんじゃない。

 あおいちゃんの、いや、"1人の恋恋高校野球部員" の意思が決めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓迎会は不穏な空気のまま、お開きとなった。

 片付けはとっくに終えて皆は家に帰ったけど、ボクだけはまだ葛西君の家に留まっていた。

 

「……ゴメンね」

「ん、何が?」

 

 葛西君が親切に出してくれたコーヒーを飲みながら、ボクは謝罪の言葉を口にした。

 

「ボクの身勝手な頼みを聞いてくれて。それに……山田先生や茂野君の家族にも迷惑をかけちゃったから……」

 

 ボクの頼み、それは−–−–−

 

 

 

 

「茂野君を変えたい?」

 

 それは今から数日前、藤井君入部をして間もないある練習後にまで遡る。他の皆には内密に、葛西君と山田先生と部室に呼んだのが全ての始まりだった。

 

「早川さん。詳しくお話ししてもらえますか?」

 

 ボクの頼み−–−–−それは、『茂野吾郎という人間に変化をもたらしたい』というもの。

 

「はい……茂野君がウチに編入してきた初日、彼がこんな宣言をしていたのを覚えてますか?」

「宣言? えっと……確か海堂高校を倒すって話、だよね?」

 

 その場に居合わせた葛西君が代わりに答える。

 

「うん。ボクは彼の高い志を高く評価してます。それに、今のウチの野球部事情を鑑みても彼が編入し、野球部に来てくれたのには感謝しかありません。ただ……」

 

 ふぅ、と軽く深呼吸をし、続けてこんなセリフを吐いた。

 

「このままでは、恋恋高校野球部は間違いなく勝てません」

 

 初めて彼と会った時から感じた違和感、それはこれだったんだ。

 茂野吾郎は凄い選手だ。ボクなんかよりも遥かに良いボールを投げ、打って、走って、守れて、野球に対する熱も高い。何よりよ人一倍に強大な目標も掲げて努力を怠っていない。それは同じポジションを任されるボクだからこそ、理解している。

 

 けれど−–−–−彼はまだ、自分しか見てない。

 海堂を倒すというその目標は、果たしてボク達も望んでいるのだろうか? 彼の掲げた信念は、ボク達の信念をも納得させるに値していたのだろうか? 少なくとも、ボクはまだ望んでもないし納得もできていない。実力はボクよりもある、それは間違いなく認めるよ。ただ、それだけの安っぽい理由でエースナンバーは譲れない。野球の実力も大事だけど、それ以上に、もっと恋恋高校野球部の存在を知ってほしい。ボク達が今までどんな思いをして部員を集めて、高野連に女子生徒の公式戦出場を認めさせたのか、そして……夏の、聖タチバナ戦で感じたあの悔しさを……。

 ボクは胸に内に秘めた茂野君に対する感情を、全て2人に話した。

 

「そっか、あおいちゃんはそこまで真剣に考えてくれてたんだね」

「ええ、私も野球部の顧問として鼻が高いですよ」

「そんな……ボクはただ、正直な気持ちを言っただけです。そこで、お願いがあるんですけど−–−–−」

 

 

 

 

 

「内山君と宮崎君の勧誘、そして勧誘が完遂するまでの期間、一切の練習を禁止する、かぁ。きっと茂野君からすればかなり堪えるだろうね」

 

 ボクはあの2人の勧誘を通じて、茂野君になんらかのキッカケを与えられるんじゃないかと考え、こんな無茶振り過ぎるお願いをキャプテンと先生、そして家に帰ってこっそり練習させないように、茂野君の家族にも協力をお願いした。

 野球から一度身を置き、1人1人の抱えている気持ちを自分から知ってもらいたい。1人で努力して戦うよりも、周りをもっと信頼して、頼ってほしい。そうすれば海堂にも、聖タチバナにもきっと勝てるはずだから。

 

「……ふぅ、大丈夫。茂野君にならきっと分かってくれるよ」

 

 残ったコーヒーをグイッと飲み干し、ボクは席を立ち上がった。時刻はもうじき18時を回る。そろそろ葛西君のご両親も帰ってくる時間帯だ。邪魔にならないうちにおいとましないと。

 

「葛西君、今日は本当にありがとう。歓迎会も楽しかったよ」

「うん。今度ははるかちゃんや雅ちゃん達と一緒にあおいちゃんの料理も食べてみたいな」

「ははっ、ボクのはいいよ。だって皆……ボクの料理は不味いから食べたくないでしょ?」

「うえっ!? そっ、そんなことないよ! 前のクッキーは確かに個性的な味だったけど決して不味いだなんて……」

 

 はぁ、どうして男子って女子よりも嘘をつくのが下手なんだろう。特に葛西君は正直者だから、嘘か本当かが実に分かりやすいよ。

 

「そうだね……今度は2人にお願いして特訓してもらうよ。いつの日か皆をあっと言わせてやるんだから!」

「それは楽しみだな。2人に任せれば命の危険はなさそうだから」

「ちょっと、そこまで言わなくてもいいでしょ!?」

「はははっ、冗談だよ」

 

 むー、こうなったら意地でも美味しい料理を作って全員のほっぺを嫌になるまで落とさせてやる!

 砕けた話もそこそこにして、靴を履いて帰ろうとした時だ。

 

(あっ、そうだ♪)

 

 真実かもしれないけど、あれだけボクの料理をディすったんだから、少し困らせてやろっと。

 

「そういえばさ、葛西君は気付いてるかな?」

「ん、何が?」

「雅ね、今日の歓迎会で葛西君を喜ばせる為に、前日はるかの家で料理特訓を遅くまでしてたんだよ」

「僕の……ために? それなら明日改めてお礼を言わないと……」

 

 もーう! そこじゃないでしょ!! "葛西君"って限定してる時点で気付いてよ鈍感!!

 

「そうじゃなくって! これはあくまでいち女子生徒の考察なんだけど……多分雅って、葛西君の事が好きなんだと思うよ」

「へぇー、そうなんだ。雅ちゃんが僕のことを…………ハイ?、今なんて?」

「だーかーらー、脈アリっこと! じゃあまた明日!」

 

 あまりの焦ったさに痺れを切らし、ボクはドアを強めに閉めて出てった。

 中々想いを伝えられない女子と野球一筋の鈍感男子、か。まるで涼子と一ノ瀬君みたいな2人だ。一応2人はそれぞれの想いを伝え合ったらしいけど、雅と葛西君は果たしてどうなることやら……。

 

(にしても好きな人かぁ……)

 

 まぁ、この年頃になれば好きな人の1人や2人いでおかしくはない。寧ろ健全な高校生なんだという証とも捉えられる。

 ボクにも気になる人は1人いるんだけど、それが一部員としての感情か、それとも異性として意識しているのかまでは自分でもまだ分からない。

 

 

『痛かったら俺と練習してた頃を思い出せ。 そうすりゃ少しはマシになる』

 

 

 聖タチバナ戦で彼が−–−–−田代君が放ったあの言葉は、ボクの疲れ切った心に活気を与えてくれた。結果的に試合には負けたけど、あの励ましがあったからこそ、悔いの残らないピッチングができたんだ。

 きっとその頃からかな。彼の存在が本当の意味で頼もしくて、カッコよく見えるのは。

 

「…もっともっと頑張らないと」

 

 少しでも田代君の負担を減らせられるように。敗戦で味わった悔し涙を、次は勝利による喜びの涙に変えられるように。ボクはもっともっと強くなるんだ!!

 

 

 

 

 

⭐︎

 

「親父、かあさん……どうしてもダメか?」

「「ダメだ(よ)」」

(見事なまでのシンクロ率だな……ていうかそこまでするか!? 早川の奴!!)

 

 俺が甘かった。まさか早川がここまで綿密に仕組んでいたとはな。

 歓迎会を終えて家に帰り、俺は夕食までの暇な時間を使って投げ込みでもしようと庭に設置してあるブルペンに向かおうとした瞬間だ。

 

「吾郎。あなた部員から練習を禁止されてるんでしょ?」

「ちげぇよ! アイツらが俺の許可なしに勝手に決めたんだ!俺は何も禁止されるようなことはしてねぇのによ!」

「はぁ……嘘をつくな。話は全部早川さんから聞いた。お前を禁止にさせた理由もな」

「理由……理由ってなんなんだよ!」

「それは教えられん。早川さんに口止めされてるからな」

 

 アイツ…っ…そこまでして俺からエースを取られたくないのかよ! 藤井が入部したのも俺の協力があってこそのくせに、都合が悪ければこの仕打ち……冗談じゃねぇぞ!!

 

「んなもん知ったことか! 親父達が止めてでも、俺は練習をやめねぇからな!」

「吾郎! 待ちなさい!!」

 

 かあさんがいくら俺を止めようとも、俺はこの命令だけは聞く気はねぇ。この間にも海堂の連中は俺との差をどんどん広げようとしてる。こんなくだらない悪ふざけに付き合ってられるかよ。

 

 

 

「いい加減にしろ!!!」

 

 

 

「っ……!?」

「あなた……?」

 

 っ、なんだよ親父……っ、なにもそんなに怒鳴ることはねぇだろ。親父は野球部となんら関係してねぇんだからよ。

 

「お前……早川さんの気持ちを少しでも考えてやったのか!? 」

「早川の気持ちだと……? 大方、俺からレギュラーを取られるのを恐れてこんな仕打ちをしたんだろ? 自分達が優雅に練習をしている間に、途中から参入してきた俺に勧誘を全て押し付けてよ」

「!……すまん、真吾と千春を連れて席を外してくれ。このバカに少し説教する」

「え、でもそこまではしなくていいって−–−–−」

「早く行け!!」

 

 半ば強引に母さん達を二階に行かせ、リビングには俺と親父の2人きりとなった。 へっ、説教かなんかしらねぇけど俺は何も悪い事はしてねぇ。周りが何を言おうとも考えを一切改めるつもりはねぇからな。

 しばしの沈黙が続き、ふぅ、と息を溢しながら親父が口を開いた。

 

「……泣いていた」

「んあ? 泣いてた? 誰がだよ」

「早川さんからこの頼みを電話で受けた時、彼女は泣いてたんだよ」

「!?、早川、が?」

 

 たかがこんな事を頼むだけだろ? なんで電話越しで泣くんだよ。頭での理解が追いつけないでいるが、気にせず親父は続けた。

 

「本当はお前だけ練習禁止にはさせたくなかった。けど、このままおお前を放っておいたら部の為にも、なによりも本人の為にならない。お前の掲げる打倒海堂だって絶対無理だと言われたよ」

「…………」

「いいか、お前がどんな大層な夢を持とうとそれは自由だ。しかし、自分以外に守るものの無い孤独な存在に、真の栄冠は掴めない−–−–−!」

「!!」

「これ以上は早川さん自身から口止めされているから俺からは何も言えん。けどな、吾郎……思い出せ」

 

 思い出せ……何を?

 

「打者として奇跡的な復活を遂げた本田茂治を−–−–−そして、肩を壊してまで横浜リトルに投げ勝ったお前は……決して1人じゃなかったはずだ」

 

 ……分かんねぇ。全然わかんねぇよ。

 あの頃の俺やおとさんがなんだってんだよ。俺は海堂を倒すために恋恋高校へ編入したってのに……。早川や親父は俺に何を伝えたいんだ……?

 

 

 


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