Glory of battery   作:グレイスターリング

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第十五話 二人の思い

 練習試合から早いもんで一週間。

 これまで基礎トレーニングをしてきた俺達であったが、試合をした後にそれぞれが自分の課題や欠点を明白にしてたのでまずはそれらを潰してこうと決めた。

 

「久しぶりですね監督」

「ああ。お前達もたくましく成長したな」

 

 野球部発足からほとんど休日無く練習が続き、これでは疲れも溜まって練習効率が下がってしまうと考えて土日を両方とも休みにした。

 かといって主将の俺は休日を満喫する余裕は無い。選手のコンディションや能力を考えながらメニューを作成したり、まだ手付かずだった“女性選手の公式戦出場問題”も解決しなければならないなど、やることは山積みだ。

 そんでもって問題解決へ前進しようと悩んだ結果、俺はある人の元へ相談しに行った。

 

「卒業式以来か?あかつきでの活躍はしっかり耳に入ってるぞ」

 

 そう。俺や涼子が横浜リトルにいた際お世話になった樫本監督だ。

 何年経った今でも横浜リトルの監督として全国へ導き、近年ではシニアリーグのコーチも務めているなど幅広い年齢の指導にあたっている名将。

 前々から電話で相談はしていたが、一度会ってしっかりと話をした方が良いと言われ、涼子も誘って監督の家へ訪問することになった。

 

「監督はサングラスを変えたんですか?前に掛けてた物と違う気が…」

「よく分かったな川瀬。実は二か月程前にボールがサングラスへ直撃して真っ二つに折れてしまったんだ」

「えっ!?それって危険じゃないですか!怪我とか大丈夫だったんですか?」

「なあに心配いらん。当たったと言っても入部してまだ二週間の女の子が投げた球だ。俺は過去に百二十キロ近いストレートを食らったことだってあるんだからそれに比べれば屁でもない」

 

 百二十のストレートって普通にヤバくないか?

 力の無い小学生の球だとしてもリトルのボールは固い硬球だ。サングラスでちょっとは守れるとしても危険なことに変わりない。その女の子もかなりデンジャラスな送球をしたんだろうなぁ。

 

「そろそろ本題に入るが、まずはこれの地域って示された面を見てくれ」

 

 手渡されたのは一昨日発行された県内の新聞。

 ページは角に分かりやすく折り目が付けられていたのでそこを捲ると、ある記事に目が行った。

 

 

『新設九人ながらも女性選手出場実現へ』

『一ヶ月で強豪と互角に渡り、世論の支持も多数』

『葛西春見が立ち上げた恋恋高校野球部とは?』

 

 記事はその日のスクープを飾るかのように大きく取り上げられ、 まるで読んでいる人へ訴えているかのように書かれている内容だった。

 恋恋高校っていえば確か春見がキャプテンとして活動している新設野球部だったはず。

 あかつき中では三番を張り、プレイスタイルが友沢に似ている選手でバットコントロールと守備力なら友沢をも凌ぐ実力者だと俺は思う。打率・出塁率・四球数・安打数でチーム1だったし、何より一番驚愕させられたのは全国決勝で海堂付属中のエース・眉村から四打数三安打一打点と唯一猛打賞を達成し、ピンチの場面も得意の守備で何度も猪狩や俺をフォローしてくれた事だ。試合終了後のインタビューで眉村は「器用さならこれまで戦ってきた敵の中で間違いなく一番」と強く称賛していた。

 

「凄い…帝王実業と練習試合をして九対六と大健闘。早川選手はフルイニング投げて九失点ながらも五回までを準パーフェクトのピッチングで重量打線を封じ込めた。小山選手は五打数二安打二犠打をマークし、守備でもキャプテンの葛西選手とファインプレーを連発。両者とも男子選手と比毛をとらないパフォーマンスで自分達の力をいかんなく見せつけた、か。なんかここまで書かれてると遠い存在に感じちゃうわね」

「ああ…でもこの記事はそれがメインじゃないんですよね?」

 

 小見出しの部分、“女性選手出場実現へ”が妙に引っ掛かる。

 構成だって練習試合を先に掻き立てて後半部分は出場権利についてのインタビューや補足説明しか書かれていない。しかも写真だって全国で名の知れた春見を差し置いて女の子二人のツーショットが使われている。

 一体恋恋側は何を企んでいるんだ…?

 

 

「よく分かったな一ノ瀬。実はこれ全部、新聞社の意向で掲載された記事じゃない。恋恋高校側がメディア機関を回って直接交渉し、その上で承認を得て載せたんだ」

「恋恋が直接?一体どうしてこんなことを…」

「簡単に言えば高野連へ間接的にこの置かれた状況を訴え、世間が女性選手出場実現の味方につかせる為に行ったらしい。俺も詳しいことは分からんが、少なくとも県内ニュースなら話題になってるネタらしいぞ」

「じゃあ恋恋高校の狙いって…」

「お前達と同じ、女性選手の出場を認めさせることだろうな。よく考えてみれば恋恋と聖タチバナは共通点だって似てるし、何を考えてんだが知らんが海堂や帝王の推薦を破棄してまで新設野球部を創るような馬鹿キャプテンだからな。本当にあかつき中の三四番だった奴なのか耳を疑うぞ」

「ちょっと監督!馬鹿は余計ですって!!俺は強豪の力を頼らず自分で考えて自分の力で道を切り開きたいんです!!」

 

 それは春見だって同じ気持ちのはずだ。

 今まで自分達が強くなり、プロのスカウトからも目がつけられるようになったのは『あかつき大付属中学校』と『猪狩守』の存在が大きかった。それは三年間一緒にプレーしてた俺や春見だって薄々感じてた。いつだって話題が上がると真っ先に出るのは猪狩からだった。そう、このまま強い奴等と野球をして日本一や世界一になったとして、その行き着く先に真の栄光はあるのだろうか?

 

 

 ──逆にそういう天狗を倒したい。

 

 

 いつしか俺はそう考え始めるようになった。

 何もない弱小校が下剋上に次ぐ下剋上で強豪を倒し、高校野球の歴史を変える。何だか面白くないか?

 もちろんそれが一筋縄で成功するなんてこれっぽっちも考えてないぜ。そこへ辿り着くまでには様々な困難や壁を仲間と一緒に乗り越えなければならない。だけど八木沼、友沢、みずきちゃん、聖ちゃん、今宮、笠原、岩本、生徒会の三人、そして涼子となら実現できそう── そんな予感が前回の練習試合で感じた手応えでもあった。

 

 夢を持つことは男性だろうが女性だろうが関係ない。きっと甲子園って場所はいろんな人の思いが詰まった場所なんだ。

 

 春見がここにいたらきっとそう言ってくれるはずだ!

 

 

「──だから俺は諦めないですよ。どんなことがあっても必ず涼子達を出場させます!!」

「大地君…」

「おいおいそんな悲しい顔すんなよ。心配するな。全部俺や皆で必ず何とかする。だから行こうぜ、甲子園によ」

 

 お前のそのピッチングは海堂の二軍にだって通用したんだ。百二十キロ近い速球と三球種もの変化球が投げれる女子はそう易々といないんだからもっと自信を持てよ。

 今は猪狩じゃなくてお前がバッテリーなんだ。

 大切な……かげかえのないバッテリー。

 俺は目の前にいる一人の少女に野球をさせてやりたい、ただそれだけなんだ。

 

「ぐすっ、ありがとぅ、だいちくぅん…」

 

 あーあ。女子を泣かせるなんて俺もまだダメな男だな。

 恥ずかしいけど…今日ぐらいは好きにさせてやるか。

 

 

「お取り込み中悪いが…一応ここ人んちだから甘々な青春されても困るぞ」

 

 ……監督がいたことすっかり忘れてた。

 涼子は俺の左肩で泣いちゃってるし、そんな姿見せたら俺もつい頭を撫でてたし。

 ヤバイ。何か急に頭の上が熱くなってきたぞ…。

 

「泣き止め涼子。気持ちは分かるけど俺が…」

 

 恥ずかしくて心臓バクバクしてる、とは言えねーよ!てか樫本監督の目が変わってないか!?マジマジと観察するような視線…これ絶対誤解を招いてるパターンのやつじゃん!

 

「あ、ごめんなさい……嫌だったかしら…?」

 

 嫌じゃないけどさ、そんな涙目で上目遣いされたら逆に目線を合わせにくいって!

 あーもう!!自分でも顔が真っ赤になってるのが分かるぞ!

 ピッチャーのリード時はこんなにドキドキしないのにどうしてここではするんだろうか…?

 まさか俺って涼子のことが──

 

 

「いやいやそれはないって!!!俺は俺で俺なんだからさー!」

「え…?」

「い、一ノ瀬?お前さっきから大丈夫か?」

「あえっ!?ああ、はい!俺は正気ですって!!」

「…やれやれ。お前は頭は良いのにプライベートは鈍感だな」

「何か言いました?」

「いや、別に」

 

 別にって顔じゃないんだけどそれは…。

 はぁ…なーんか以前にもこんなやり取りをどこかでした気がするぞ。

 

「とにかく恋恋高校は既に問題解決へ動き出してきている。お前達もできる範囲でやってみたらどうだ?」

(俺達ができることって…)

 

 春見がメディアを通じて高野連にガイドブックの改正を認めさせる雰囲気を作ってるなら、タチバナもそれを利用しないわけにはいかねーな。

 よし、それなら──

 

 

「俺達も高野連にアピールするしかないな」

 

 現代の主流になりつつあるこの情報社会。

 どんな手を使ったか知らないけど、それならウチも何らかのマスコミを呼び、練習試合で涼子達の存在を分からせてやるのが近道だな。

 ネットで下調べをした時に“署名運動”を通じて高野連に署名書を提出したって過去を見つけたが、結局高野連は曖昧な解答しか返さずその当時は改正に至らなかった。

 だがそれは何十年も前の話。今は一人一人から署名を集めなくても国民の大半が改正に賛成さえしてくれれば世論にも自ずと結果は出て、高野連も黙っていられない状況に陥るだろう。

 

「かなり手荒な上にマスコミが食い付くかどうかも分からない。それでも恋恋はその手段を選んでまで高校野球に三年間を賭けたんだ。俺だってこんな手段は好きじゃないけ──」

 

 

「そんなの全然良いわよ!」

 

 

「…涼子?」

「私は野球に対して嘘はつけない。たとえ正統的な手段じゃないとしても、本音はどんな手を使ってでも高校野球のマウンドに立ちたいわ」

 

 彼女の決意は本物だ。

 迷いのない真っ直ぐな瞳。涼子はとうに覚悟を決めたってことか。

 やっぱスゲーよお前は。いや、“女子”って奴はさ。

 

「──分かった。明後日皆を集めてこの事を話そう。それで全員が了承してくれたら実行しよう」

「ええ!」

「ふむ…話はついたようだな」

「…はい。これも樫本監督の知恵があってこそでした。本当にありがとうございます」

「礼はいらん。俺はあくまでキッカケを作ったまでだ。後はお前達次第だぞ」

『はい!』

 

 リビングに二人の声がハモり、思わず顔を見合わせて俺達は吹いた。

 はははははっと広がる楽しそうな笑い声。次は出場が認められた時に笑いたいぜ。

 

「それじゃあそろそろ失礼します」

「樫本監督、今日は色々とありがとうございました!」

「ああ。頑張れよ……ちょっと待て!」

「え、どうしたんですか?」

「ついでだから最後に面白い事を教えてやろう」

「面白い事、ですか?」

「茂野吾朗と佐藤寿也。この二人は海堂高校にいるらしいぞ」

「ええっ!!?でも寿也君は野球を辞めたんじゃ…」

「詳しくは本人に直接聞いたらどうだ?確か七月の最終日に実技テストをやり、合格できれば八月の第一週目ここへ戻ってこれると言ってたぞ」

「ここへってことは学校には…」

「無論いない。二人は三軍専門の練習場、別名“夢島”って名前の孤島で今頃キツい指導を受けてるだろうな」

 

 マジかよ。

 どうりで二軍メンバーの中に二人がいなかったわけだ。

 余談だが、俺は吾郎と直接話をしたことがない。ただ噂は少なからず耳に入ってはあり、とんでもないストレートを投げてたと聞いた。

 八月の第一週目ってことは甲子園の時期と若干被るかもしれないな。寿也とも最後に会ったのは約五年前だし、今度時間があったら行ってみるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 監督の家を出て時間を確認するとまだ午後の二時三十四分。

 予想外に時間が余ってしまったので、気分転換がてら町をブラブラすることにした。

 俺って行き先決めるセンス無いから涼子に任せようとしたけどアイツったら…

 

「そういうのは男子が普通リードするのよ?」

 

 と頑なに拒否されたので仕方なくある頭を名一杯巡らせて考える。

 ピッチャーのリードは得意でも、女性のリードはイマイチ下手くそなんだよなぁ。

 悩みに悩んだ結果、もうあそこしか思い浮かばなかった。

 

 

 

「ここって…」

「うん、悪い。もうここしかなかった」

 

 シャインスタジアムがあるメインストリートを抜けた裏通りに位置する人気老舗店のパワ堂だ。

 前に一度来たことがあってつまんないかもしれないけど、もうすぐおやつの時間なんだし良いよな?

 

「お気遣いありがとう。私はこうして大地君と一緒に出掛けるだけで充分嬉しいわよ。それにお腹だって減ってるから今日は沢山食べましょ!」

 

 お…喜んでもらえて安心した。

 けどウチのエースがいくら品質が良いからといっても食べ過ぎては糖分に偏って栄養バランスが崩れてしまう。そこで席に座るなり、俺はこんな提案をする。

 

「注文する品はジュース入れて一人三品までな」

「えー?!どうしてなのよ!」

「どうしてって…それはお前の体を踏まえての約束だ。俺が捕手である以上、ピッチャーの健康管理も頭に入れて決めなきゃならない。食べたい気持ちも分かるが、我慢してくれ」

「…そうね。これからは食事にも気を配ってみるわ」

「その代わり俺の奢りだから好きなの食べて良いぞ」

「本当に?!じゃあ私ジャンボパフェを──」

「パフェはやめろー!それじゃあ三品までの意味がないだろ!」

「えー…ケチ」

「ケチでも何でも良いですよーだ。俺は決めたからパフェ以外で選べよ」

 

 涼子の幼少期はずっとアメリカ育ちだったから食生活も欧米みたいにガッツリ行く感じなのかなぁ。

 食欲だって俺よりもあるし、これは俺が監視しないとカロリー摂取量を余裕で超えるぞ。

 とまぁこんな感じのデート…なのか遊びなのかは分からんが、まったりと菓子を堪能した。

 

「あ、それ一口頂戴」

「ダメだ。さっきも苺大福を一個あげたんだから諦めろ」

「むぅ…良いじゃない、一口だけなんだから」

「しょうがないな…本当にそれで最後だからな」

「うん。ありがと大地君♪」

 

 そう可愛らしくお礼を言われるとどうしても甘くなるからルールもへったくれもないんだよね。

 試合になればクールな顔で淡々とコースギリギリを突く球を放っても、女の子らしいとこはやっぱあるんだな。

 自分で縛っていると言うキュートなおさげや、それと絶妙にマッチする凛とした美しい顔立ち。男には無いその甘えた声、そして心を惹かせるそのスマイル。

 探せば探すほど、涼子の女の子としてのチャームポイントはいっばい発見できた。

 試合や練習では見せないその素顔や仕草を俺だけが見れる専売特許だと妄想してしまうと、心の底から不思議なまでの幸福感が湧いてくる。そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 一時間ほど他愛もない会話をし、パワ堂を後にした。

 涼子がスパイクを見たいと言えばミゾットスポーツ店に寄り、俺が学校に使う実用品を買いたいと言えば涼子も付いて来てくれた。

 本人がどう捉えてるか分かんないけど、これってデートと呼ぶに相応しいプランだったのだろうか?

 

「大地君とこんなに遊べたのは初めてだったから今日は楽しかったよ」

 

 遊べた──

 その単語が脳内でキャッチするとなぜか胸が痛み始めた。

 所詮俺と出掛けるのはただの遊びにしか感じなかったのか。自分でも段々イラついてきてるのが分かる。

 

「あのさ……その…」

「?」

「今度は一日使って色んな場所を回らないか?その時までにはちゃんとスポットとか把握しとくからさ…!」

 

 慌てた俺を見た涼子は手を軽く口に当てて微笑し、そっと俺の前に近寄って優しく呟く──

 

 

 

「言ったでしょ?私は“大地”と一緒ならどこへ行っても楽しいし、嬉しいわ」

「え…今呼び捨てで言わなかったか?」

「あら、お気に召さなかったかしら?」

「いや別にそうじゃないけどさ…」

 

 夕焼けに染まった帰路をゆっくりと歩き、気付けばいつの間にか別れ道へたどり着いていた。

 

「じゃあ私こっちだから」

「ああ…またな」

 

 彼女はニッコリと笑いながら手を振って反対方向へ歩いていった。

 たった四時間遊んだだけで、何なんだこの気持ちは?

 心臓の鼓動は速いし、顔も頻繁に赤く染まる。

 これってまさか──

 

 

 

 

「恋……ってやつなのかな…」

 

 分っかんねぇよ。

 今までかけがえのない大切な相棒──そんな風に接してたつもりが今日は明らかに違う。

 野球を名目に涼子の体調を心配し、普段しない高鳴りや緊張だってする。

 その感情が所謂恋心って物だとしても、涼子は俺をどの対象として接してるのだろうか。

 バッテリーか?友達か?はたまた一人の部員か?

 部に関係のない私情を持ち込むのはよろしくない事だと重々に承知してはいるが、やはり気になってしまう。

 

  ──涼子は俺をどう見解してるのか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は記念すべき日と言っても過言でなかった。

 彼がどう感じ取ったか分からない。けれど私にとって今日は大地君との初デートなのだ。

 投手として食事制限を疎かにしてた私を真剣に叱り、おねだりも渋々ながら許し、色んな場所にだって嫌な顔一つもせずに回ってくれた。

 

「思わず聖ちゃんみたいに呼び捨てで呼んじゃったけど、嫌じゃなかったかよね…?」

 

 私は一ノ瀬大地という人が好き…なのかもしれない。

 私生活はおっちょこちょいでもいざという時真っ先に頼れる存在で、私の事を第一に考えてくれる親切な心遣い。それが彼の天然な性格で、たぶん私はその優しさに惚れたんだと思う。

 それはきっと…聖ちゃんも同じはず。

 

「負けたくない。私だって大地君が好きなんだもん」

 

 うっかり自分の口から好きなんて言葉を発してしまった…。

 もしその場に大地君がいたら恥ずかしすぎて心臓が止まりそうだわ。

 それほど…私は好きなのかなぁ。

 

「切り替えなきゃ。私はエースナンバーなんだから!」

 

 仮に好きであったとしても私はエースで彼は正捕手。チームの心臓部分であり、歯車の中心部でもある。

 その二人がこんな関係を持ったらチームは良いのだろうか?

 好きだ。でも好きになれない。

 今日はその歯止めが最後にだけ効かなくなり、あの形で呼び捨てをしてしまったのだ。

 もしもバッテリーなんて重い関係じゃなかったら、私からでも告白したのに。

 嬉しいはずなのに…その葛藤が折り混ざって素直に笑うことができなかった。

 

 

 

 


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