「…まぁその話はまた今度でいいわ。俺そういうのめんどいから、結婚でも夜中のお戯れでも好きにしてくんな」
「「「ブーッ!?」」」
茶を口に含んでいた本音とスコールさん、そしてオータムさんが思い切り吹き出した。多分私も口に何か含んでいたら吹き出していたかもしれない。というかさらっととんでもない事言ったぞこの人は!?
「だそうだラウリー」
「嫁は嫁でそれでいいのか!?」
「ママ上が許可したんなら私はよろしい」
「よろしいのか!?」
「さぁてゲームやろうか」
「話を逸らすなぁ!」
くっ、とんでもなく嬉しい誤算ではあるが、もやっとする!
「…ところで嫁よ、その禍々しいパッケージのゲームは何だ?」
軍服を着た体格の大きい黒い人型の生物が、右手にアサルトライフルの代名詞でもあるM4を持ち、左手には人間の生首を持っている。黒い生物に毛らしきものは一切なく、耳や鼻もない。あるのは大きな単眼と縦に切れ目の入った口を覆う硬質そうなマスクのみ。
「『raison d'être』っつー我が武田財閥が発売する予定のゲーム。R-TYPEや遊星からの物体X、寄生獣からインスピレーション受けますた」
「raison d'être…フランス語で存在価値、存在理由って意味ね」
「うい。まぁ話しの内容としては、大抵のものに寄生する生物の話しなんだけどね」
「ふむ……例えば?」
「生物は勿論、大概の無機物にも寄生できちゃうスーパー寄生生物なのだー!しかも他の生物や物質を取り込む事で、更にパワーアップできちゃうものなのであーる!」
「何でもありじゃねぇかよ」
「実際そうっすね。そんでこれはその寄生されちゃった人間の姿でごぜーます」
「なるほど、パッケージのこれは寄生されてしまった人間なのか。ちなみに本体はどういう姿なのだ嫁よ」
「これだ」
巨大な単眼に人の背骨が生え、そこからゲジゲジのように大量の長い足が生えたかのような見た目をしている。うむ、気持ち悪いな!
「寄生方法としては、この背骨の先端部分を相手の頭部に突き刺して捻りこみます」
「死ぬじゃねぇか!」
「ええ死にます。そのあとに死んだ宿主の遺伝子を無理矢理組み換えて肉体と一体化し、このパッケージみたいになります」
「す、凄まじいわね」
「ちなみに遺伝子的問題で人間の女性には寄生できません」
「そうなのか?(ホッ」
「そのため問答無用でその場でぶっ殺されまふ」
「安心できなかった!」
「そんなせいで生き残ってるのはほとんど女性で、男性は寄生されてるか拉致されたかのどっちかで、ほぼいません」
「人類滅亡待ったなし!?」
「ゲーム開始時には7割しか人類いません」
「詰んでる!」
「滅茶苦茶なゲームね……」
「キャラ作成できますけど、基本的に女性か機械かサイボーグの三択です」
「まさかの機械!?」
「でも機械、サイボーグだとガッツリ寄生されます」
「ダメじゃん!」
何ともシビアな……。
「機械やサイボーグは生身の人間よりも強いぶん、敵が即死攻撃の一つである寄生をやってくるのは仕方のない事。ゲームバランスを考えてですよ。振りほどけば即死回避できますが、振りほどき中は無防備になって他の敵の攻撃受けますし、その間に体力がなくなる可能性は大きいです。ちなみに、このゲームの敵さんは本体の単眼潰さないと死なないんでご注意を」
「何だそりゃあ!?」
「寄生生物っつっても寄生しなくとも生きられる生物。いわば鎧が壊されたのと同じでごぜーます」
なんともたくましい寄生生物だ。寄生はあくまで生存率を上げるための手段にすぎないという事か。
「とりあえず、まずはラウリーやってみ」
「私か!?」
「当たり前だろ」
「当たり前なのか!?」
私は嫁からコントローラーを渡され、仕方なくやる事とした。開発に携わった様々な会社の名が画面に出て、最後に武田財閥と出る。その次の瞬間には武田財閥と書かれたボロボロの看板に変わり、カメラが引いてゆく。そこはいつも目にする街が戦場となった地獄が広がっていた。
銃撃戦が繰り広げられていた。一人の兵士がアサルトライフルを撃つのだが、寄生された人間の肌がかなり硬質化しているのか、弾丸が内部にまで到達せずに表面だけを傷付けるだけだった。寄生された人間は兵士に掴みかかると容赦なくその身体を引きちぎる。そして、硬質そうなマスクが左右に開き、唇のない牙剥き出しの口を大きく開けて咆哮する。その向こうでは寄生された戦車や戦闘ヘリ、戦闘機までが街を破壊していた。
「うっわー……」
「もうこれどうしようもないねー」
「ISはどうしたんだよISは!」
「そんなもんありません。あったとしても寄生されておじゃん!」
「そうよオータム。それに寄生された戦車の装甲を見なさい。錆びたような色合いをしてるけど、対戦車ランチャーと言われるRPG-7を何度も直撃して全くの無傷よ。正樹くん、この寄生生物は有機物だけでなく、無機物も硬質化させるのかしら?」
「オウイエァ」
「マッジで何でもありじゃねぇか!」
最後の兵士が殺害され、勝利の雄叫びを上げる寄生されたもの達。正に蹂躙劇だ。勝てる気がしないではないか。
映像はここで終わりのようで、画面が暗転したあとにタイトル画面が映し出された。
「…嫁よ。勝てる気がせんのだが」
「大丈夫!最初はチュートリアル訓練があるから!」
「ならいいのだが……」
ニューゲームを選び、早速キャラ作成に取り掛かる。まずは種族か。人間かサイボーグか機械か、どれにするか……。
嫁に視線を向けるが、嫁はお好きにどうぞと言って完全に傍観に徹するようだ。ではどうせだし、サイボーグを選んでみよう。
【サイボーグの部位を選んで下さい】
「部位?」
そして出てきた選択肢は凄まじく多く、一瞬くらっとした。まさかこうも細かいとは…!
「すっげぇな、内臓まで機械化できんのか」
「内臓系統をサイボーグ化するとスタミナ関係に影響するようね。というか、脳以外全部機械化できちゃうのね」
「だが、ほとんど機械と変わらねぇから、そのぶん寄生攻撃される確率が上がるってよ。考えてやんなきゃだな」
うむむ…難しいな。とりあえず左腕だけにしておこう。何が起こるか分からんからな。
【サイボーグ部の外見を選択して下さい】
「おお。生身そのものの見た目のやつから機械っぽいものまで」
「明らかにネタとしか思えない見た目の物もあるわね。何でドリルなのよ。何でシャベルなのよ」
「わー、ぬいぐるみだ~」
…生身そのものの外見にしておこう。
「さて、本格的に、……?」
【写真機能を使いますか?】
「何かしらこれ?」
「おーい長男、これ何だ?」
「押してみ」
「う、うむ」
【コントローラーを顔に向けて下さい】
言われた通りにコントローラーを顔に向けて押してみると、コントローラーの中心のレンズが一瞬だけ光った。すると、画面には私そのものが作成されていた。何と!?こんな事ができるのか!
「どうよ」
「無駄に高い技術力ね」
「ああ、確かに無駄に高いな。すげぇけど」
【キャラクターの音声を作成して下さい。又は録音して下さい】
「録音?あー……これでいいのか?」
【音声作成中……】
【音声タイプを選んで下さい】
「ほう。どれどれ」
『私の前から消えろ!』
「おお!」
「ちゃんとこいつの声だな」
「ほんとに無駄に凄いわねこれ」
「ねぇねぇたっきー、今度このゲームかんちゃんにもやらせてあげて~」
「あいよ」
『そこにゃ!』
「私の声で何て台詞を言う!」
「くっ、くくくっ…!」
「可愛いじゃないラウラちゃん」
「やめろ!」
『さぁ、狩りの時間だ。精々楽しませてくれたまえ』
「何だこのうざったらしい台詞は!」
「ぶっ、ふふっ、ふひゃっ、はっ…!」
「あらあら♪」
『任務了解』
「口数の少ないタイプか」
「つまんね」
「無口タイプね」
『来ないで!来ないでぇ!』
「そんな情けない声を上げるなぁぁぁ!」
「ヒィーーーーーー!」
「何だかいじめたくなるわね」
『くすっ…それじゃ、遊んであ・げ・る 』
「頼むから私の声でそんな台詞を言わないでくれ…!」
「エロ枠か」
「エロ枠ね」
何だかんだ一番最初に再生したもので決定した。他は一部を除いて酷すぎた。まさか自分の声で悶える日が来ようとは思いもしなかった。
【名前を入力して下さい】
「ラ…ウ…ラ…・…ボー…デ…ヴィ…ッ…ヒ…っと」
【チュートリアルを始めますか?】
「当然だろう」
「まぁ、やっとかねぇとな」
「いきなり実戦なんて行ったら1分しないうちにあの世逝きよ」
画面が切り替わり、人間の兵士達が集う訓練所に場面が移る。そこには私のキャラクターの姿があった。
「めっちゃキリッとしてんな」
「訓練とはいえ、真面目にやらなきゃケガするもの。当然でしょう?」
『今日からテメェらの教官となるマギア・トライアングル中佐だ。最初に言っとくが、僕ちゃんの訓練は下手すりゃかなりの大怪我を負う事になる。そもそも真面目にやってなけりゃ僕ちゃんが怪我させっけどな』
あれ?何であの人がここに?
(詳しくは37話:武田訪問その1をチェック)
「でけぇなこの女。しかも左目白濁してるぞ」
「でも見えてるみたいね」
『さぁて、そんじゃまぁ最初は面接でもやるぞ。あ、そのまま立ったままでいい。見極めるから』
そう言ってマギア中佐は一人一人を爪先から頭の天辺までじろじろと見る。そして、私のキャラクターの前で立ち止まった。
『…ほぉう。面白そうなんがいるな』
そう言って、また別の訓練兵を見て回る。
「何で私のキャラクターだけ?」
「主人公補正か?」
「そうね」
むむむ。一体この先どうなるんだ?想像がまるでつかない。とりあえず、大怪我の可能性がある時点でかなり危険な訓練なのだろう。心してかからねば。
おや?活動報告の様子が…