「という訳で、歌うぞオラアアアァァァァァァ!!!」
「「「「「イェェェェェェェ!!!」」」」」
さぁ、とうとう海へ行く日がやって来た。臨海学校です。そして今バスの中ではカラオケ大会が開催されている。
「武田、知らんと思うがあえて聞くぞ」
「なんざんしょう織斑先生」
「…何故、ここに、今、このバスに、あいつが、乗っている…!?」
一句一句、ドスを込めて私に言った織斑先生。あいつとは、十中八九あの人だろう。
「今回ばかりは身の潔白を主張しますぜ織斑先生。何で“束”さんがバスに乗っているのかは不明ですしおすし。しかも一緒には行かないって言っていたし」
「席が開いてたから来ましたー!そしてちーちゃん、歌わないか?」
「歌わん。というか降りろ」
「落ち着いてちーちゃん。束さんを外に投げようとしないで」
おーおー、映画のワンシーンみたいな事になってるぞ。
「嫁よ、歌うという事はこのバスにはカラオケが設置されているのか?」
「されてる。乗った時に確認したから。つー訳で誰歌うぅ!?」
「束さんが歌ぁぁぁぁう!マイクチェックの時間だオラァァァァ!!!」
あの攻防を一瞬で脱出した束さんは私の手の中からマイクを奪った。ほむ、どんなもんを歌うのやら。
『GET TO THE TOP!』
え!?それ!?驚愕する私をよそに、直ぐ様リズミカルな音楽が流れる。
「ふっふっふっ、この束さんの歌声に酔いしれるがいい!ほんじゃまぁ行くよぉ!GET TO THE TOP!」
【「愛想笑い」
「ドタキャン!土下座!」
「行き交う日常、繰り返しですとぉ!?」
「とってつけたような」
「言い訳じゃ」
「そもそも言い訳してる暇あったら世界ひっくり返すとかしたらどうなの!?バカじゃないの!?何も変わらんでしょうがぁ!」
「残業!徹夜!規制!犠牲!」
「束さん達の自由取り潰し、うわぁぁぁん!」
「夢に見てるのが年金…だと…!?」
「夢ならもっとでかいの持てよ!つまんないでしょがべらぼうめぇい!」
「岩石頭の誰かが」
「決めたルール」
「んなものぶっ壊ぁぁぁす!」】
あれ!?何かバスの中の筈なのに、Mステみたいな所にいるぞ!?しかも束さんのバックダンサーがフリーパスの券を滅茶苦茶にしてくれちゃったISじゃねぇのあの腕長野郎!
【「今日から」
「トルァイアゲェン!」
「別れ告げよっ!」
「いつもの虎・馬へ」
「ラメラメした」
「明日へ」
「フライアウェェイ!」
「目の前には!」
「輝く」
「シャアァイニィィィング!」
「夢のゴールへ!」
「走り出そうかぁ!」
「あの時より」
「高度な!」
「フィールドへ!」
「ゲットゥーザトォォプ!」】
「「「「「「…………」」」」」」
(((((いや、この人歌う気あるの?)))))
しかし、私達はこのあと信じられないものを見ることとなる。それがこちら。
《点数:100点満点》
「「「「「なにいいいいいい!!!?」」」」」
「ふっ、束さんに不可能などない」
ほんとに不可能なんかないかのように思えてきたよちくせう。何で音程なんか無視して歌えてんだよ。納得行かねぇよ。
「カラオケはもうやめようか。何か私自信なくしたわ」
「「「「「…うん」」」」」
「あれー!?何かムードがだだ下がりー!?」
そりゃふざけて歌った奴が100点なんざ取りゃテンションも下がるわ。
***
最悪ムードのままやって来た旅館。女将さんとの挨拶をすませ、山田先生との相部屋になったことでテンションうなぎ登りとなったからいいか。