side:
「さぁて、アサシンクリードアクションの本領発揮だ」
俺さんは塀から塀へ跳び移り、民家の屋根へと上る。そこからダッシュしつつ、走っている車に跳び乗って別の車に跳び移り、更にマンションのベランダをどんどん上る。ひたすら派手に逃げている俺さんである。
いやー、アサシンクリードの動きはパルクールの上級者の動きだったから大変だったが、習得さえすれば朝飯前だ。結果的に、追手の車をどんどん引き離すことに成功している。
「さて、兄弟達は何処かな?」
高層ビルから眺めると、どちらも問題なく逃げているようだった。兄弟セカンドが危うい所があるが、あの程度ならば問題はないだろう。んじゃま、追手が屋上に来る前に、
「I can fly!!!」
俺さんは高層ビルから飛び下りた。普通はミンチになってしまうが、それは普通の人間だからだ。俺さんは武田家の人間、普通じゃない。良い意味でも悪い意味でもね。
「よっこら政務活動!」
ズドォォォンッ!
凄まじい音がし、地面にヒビが入る。よし、着地成功だな。
『お、おい!人が降って来たぞ!』
『親方!空からノッポが!』
『あいつ人間じゃねぇ!』
失敬な。
「あー皆さん、これ映画の撮影だからねー」
『『『何だ映画の撮影か』』』
よし誤魔化せた。
***
side:影竜
「ちょいと厄介だねぇ」
車の数が多く、回り込まれる回数が増えてきた。このままじゃ捕まっちまうな。
「…!」
また回り込まれた。厄介だな本当に。ならばこの手だ。
「ほいっと」
そのまま車を踏み台にしてジャンプし、走行中のトラックに張り付いた。
「ア・デュー」
このままちょっとばかし送って貰おう。しっかし、そこまで兄弟ファーストが欲しいか政府め。どうせ解剖のことしか脳にないんだろファッキュー。悪いが、簡単に兄弟ファーストはやらんぞ?だから
「追い付いてみな、政府のワンちゃん」
中指を立てて挑発してやった。
***
side:正樹
兄弟セカンドと兄弟サードに感謝しなきゃな。お陰で逃げるのがかなり楽になった。あとはこのまま適当に追手を撒いて、自作の地下シェルターに入ってほとぼりが冷めるまで引きこもっていればいい。赤ジャージ装備でな!
『と、止まって下さーい!』
ん?空から女の子の声が。顔を上に向ければ、そこにはISをまとった御方がいらっしゃった。緑の髪にキョヌーですか。…いや何だあのキョヌー!?人類にはあのようなキョヌーの持ち主が存在していたというのか!?立ち止まって拝みたいが、そんなことしたら捕まるのが目に見えている!っというか、ついにIS動かしやがったか。こいつぁマズイな。
「悪ぃですが、私ゃ解剖なんかされたかないんでトンズラさせて頂きまーす!はぐれメタルのように!」
たけだまさき は にげだした !
しかしながら真っ向勝負のおいかけっこで、流石にISに勝てる自信はない。だからこういう時はね?
「地下鉄に逃げるのよぉぉぉい!」
『ああっ!待って下さいよぉ!』
すまんなキョヌーちゃん!私は生きるために逃げるのだから!
地下鉄へ突入した瞬間、世界が回った。いや、誰かに投げられた。だ、ダニィッ!?しかし、背中を叩き付けられる前に足で衝撃を和らげ、そのまま投げようとしてくれちゃった奴を投げた。
そいつは空中で態勢を立て直すと、華麗に着地してこちらを見る。何で微笑なんか浮かべてんですかねぇ?
「ほう、今のを返すか。やるじゃないか武田正樹」
「そりゃ恐悦至極。んで、追手のどちら様で?」
「織斑千冬だ」
……リアリー!?
「何でい、あんたも私を捕まえてぇのか(解剖のために)」
「ああ。捕まえたいな(お前の身の安全のためにもIS学園に)」
「…………」
「…………」
野次馬多いなー。
「ぶるぁぁあああああ!」
「シッ!」
ガキィッ!
私の蹴りと千冬さんの蹴りがぶつかり合う。これ人が出せる音じゃなかーよ。
「メェェェェェツ!!!」
「はぁっ!」
ゴガッ!
今度は拳と拳である。
「うーむ、野次馬に視線向けて不意打ちかましたのに、まさか防がれるとは。やっぱ最強の女は伊達じゃあないね」
「私も驚いているぞ。まだ二度だけしか交えていないが、お前がかなりの強者だというのが良く分かる」
「恐悦至極!」
膝蹴りを入れようとするが、片手で防がれてしまった。そして千冬さんの鋭い回し蹴りが私の顔面へと迫る。悪いが、対抗策はあるのですよ。
「むんっ!」
ベキャッ…!
「つっ…!?」
額で受け止める。ただそれだけだが、これが結構痛いのよ相手は。こっちも痛いけども。
「どっせい!」
そのまま体当たりをかますが、あらら合気道で投げられた。しかしダメージはほぼない。やれます!
「わざと額に当てるか…今のは痛かったぞ…!」
「我が一家は相手が女子であろうと、容赦なく股蹴り上げる特殊な訓練を受けております故」
「確かに特殊だな……」
千冬さんは軽くジャンプし、足の調子を確認した。多少違和感を感じたのか、少し顔をしかめた。ふふふ、当たり前だぜ千冬さん。私の額はダイヤをも砕くんだから。
「どうやら、手加減してては捕まえられそうにないな」
「おんや?そりゃちっとばかし心外ですなぁ。普通の人間よりも強いという自信はあるんでっから」
「ああ、悪かった。だからここからは本気だ」
上着を脱いだ千冬さん。本当にマジでやってくれるようだ。
「だからお前も本気で来い」
「合点承知ノ助」
メガネ(こいつはデコイだ。本体はマイホームにある)を外し、それを野次馬の方へと投げる。慌ててキャッチしてくれた少年、ありがとう。
「こっからはただの『武田家流CQC』ではなく、『武田家流極悪CQC』でお相手いたす」
「恐悦至極、だな」
「……くくく、さいですか」
互いに構えを取る。そういえば、何で警備員来ないんだ?今更ながら謎だな。って、野次馬の中に警備員いたよ。野次馬の一員か警備員。それでいいのか警備員。でもまぁ、今は……。
「ぞぉぉるぁぁああああああああ!!!」
「はあああああああああああああ!!!」
ドゴォンッ!
こっちの御方と決着つけんとな。
***
side:千冬
ここまで楽しい闘いはいつぶりだろうか。一瞬でも気を抜けばやられるかもしれないのに、自然に笑みが浮かぶ。
懐に潜り込み、みぞおちに拳を入れてもびくともしない。それどころか懐に入ると外から覆い被さり、そのまま掴みかかって来る。異常なまでのタフネフさを持ち、更に一撃一撃が常に必殺の威力。
私だから何とかさばけるものの、一般人ではこいつに敵う人間はいないだろう。いや、まずいない。長身故に、懐に潜り込まれやすい短所。それすらも長所に変えるこの男は、正に好敵手と呼ぶに相応しかった。
「ヘアー!」
ふざけた声を出しながら、武田はローリングソバットを繰り出す。それをしゃがんで避け、拳を強く握り締めた。
「ふんっ!」
勢いを乗せたアッパーを正樹の顎に打ち込んだ。クリーンヒットしたが、拳を振り抜けなかった。
ビキッ…!
「…ッ!」
殴った時の衝撃が全て自分の拳に返ってくる。痛みに動きが止まりそうになるが、続け様に顎を蹴り上げた。
「ぅふお?」
武田は間抜けな声を出して数歩下がるが、あまり応えていないようだった。こっちは攻撃してもダメージを受けるというのに、あっちはへでもない、か。
…面白い!面白いぞ武田正樹!ここまで血が昂るのは本当に久し振りだ!
「ふんぬらばぁぁぁ!」
ドスンッ!
「っが…!?」
腹部に肘打ちを貰ってしまった。肺の空気が全て押し出され、呼吸ができずに視界がブラックアウトし、意識が飛びそうになる。膝が笑い、今にも倒れてしまいそうだ。
たったの一撃でこれだ。偶然耐えられたものの、次はもうない。奴のみぞおちに蹴りを入れて距離を取り、何とか呼吸を行う。
何度か吸って吐いてを繰り返し、ようやくまともな呼吸ができるようになった。
「…ふーっ」
腹部へのダメージは回復しづらいが、意識まで飛ばすことは実際の所かなり難しい。まともに呼吸ができずに意識を失うことはあるが、さっきのように一瞬で意識を刈り取るとなると、力だけでなく技術も相当なものだ。
「…………」
足の感覚がほとんどない。相当、応えたようだな……。
「ふっふっふーん。千冬さんや、私はまだ痛いだけで余裕がありますぜ?」
「…そうか。痛いだけか」
奴を無力化すること事態、少々絶望的に思えてきた。それに、こいつならIS学園になど通わずとも、自分の身くらい自分で守ってしまいそうだ。だが……。
「続けるぞ」
「おんや?まだやる気で?」
「ああ。どうせなら最後までやろうじゃないか」
それに
「それに、こんな楽しい闘いを途中放棄などしたくはない」
「…………。千冬さん、ちゃっかりアンタ戦闘狂やねぇ」
武田は笑い、自然体になる。隙だらけのように見えて一切の隙がない。自然体だからこそ、いつ、どこから来られても対処できるのだろう。
「千冬さん、こっからの攻撃はもっと痛いんで、覚悟なさいな」
「ふん、お前も覚悟しておけ武田。ここからは私もお前を殺すつもりでやる」
「おーおー、おっかないですなぁ。んじゃま、こっちも死なないように頑張りますか」
私と武田は再び肉薄した。拳と蹴り、全てが相手の急所めがけて飛び交う。
「へぶっ、ぶほっ、あべしっ、ひでぶっ」
ふざけているように聞こえているが、それはまだまだ余裕があるということ。武田、今すぐにその余裕をなくしてやるからな…!